82.暴走1
今日は4月14日。別にやりたいこともないので家でゴロゴロしている。すると、猫達がじっと俺を見ているので相手をしてやることにする。腹を上に向けて撫でて欲しいと言っているので撫でてやり顎の下も撫でてやるとゴロゴロと喉を鳴らす。暫く、猫のモフモフを味わっていると後ろからじっと見つめている影がある。それは、犬達である。仕方ないので相手をしてやることにする。っと言っても皆を外に連れ出す事はちょっと難しいのでダンジョンの草原に移動して用意していたゴムボール投げてやる。すると、犬達は一斉に駆け出していきボールを持ってきた奴を思いっきりモフモフしてやる。ボールを持ってきた奴から抜けていき全員が終わるともう一巡し満足したようなので家に戻り、他の狸や狐、蛇等と戯れて過ごしていた。
所変わってここは東京 学校であり、朔夜と遙が通っている学校である。所謂、超が付く程のお嬢様とお坊っちゃまの学校である。そして、学校の授業も終わり下校時間になる。
「朔夜。今日、東京駅の中に美味しいって評判のドルチェって言う名前のスイーツ店がオープンしたんすけど行ってみないっすか?」
「そうですね。今日は特に用事はないのですけど、最近、少し太り気味なんでダイエットをしようかと思ってるんです。」
「そんなの美味しスイーツを食べた後でやればいいっす!」
遙は朔夜の机を両手で叩き顔を朔夜の目の前にのぞきこませる。
「フゥー。遙、一理あるとは思うけど、それは痩せられない人が言う台詞よ。」
「ギクッ!そっ、そんなことはどうでもいいっす。とりあえず行くっす。」
「仕方ないわね。付き合ってあげるわ。」
「よっしゃーっす!」
「じゃあ、行きましょうか!」
「了解っす!」
「ねぇ、朔夜ちゃん、遙ちゃん。何処か行くの?」
「そうなのか?」
2人の女生徒が朔夜と遙に話しかけてくる。最初に話しかけてきたのは一条愛理で、もう1人が美堂霞である。
「今から、東京駅に出来たって言うドルチェっていう店に行こうと思うっす!」
「私達も一緒に行ってもいいかな?」
「勿論、良いっすよ!」
「そうですね。一緒に行きましょうか!」
「やったー!」
と、一条愛理は大喜びする。
「じゃあ、僕達も一緒に行ってあげるよ!」
ドルチェに行く話を聞いていた3人の男子が話に割り込んでくる。その人物は、大物政治家の息子の藤原陽介と、残りの2人は、そこそこの企業の息子で須賀原啓太、土岐田涼太である。藤原陽介は、イケメンでクラスの中心人物である。クラスカーストの上位に居る人物で、須賀原と土岐田は所謂、藤原の舎弟って感じの奴等である。しかも、この藤原は、朔夜に惚れている。
「男子はお呼びじゃないっす!」
「おいおい、連れないこと言うなよ。俺達、東京駅には詳しいんだよ。」
「そうですよ。」
「それに、俺達も藤原さんと一緒に行く予定なんで丁度いいしな。」
「えっ?貴方達は何故、東京駅に行くんですか?」
「それはね。これだよ!」
朔夜達の前に3人は探索者カードを掲げる。
「藤原くん達、探索者になったんだ。スゴいね!」
「大したことないさ!」
「俺達にかかれば余裕だよ。」
「たいしたことないさ。」
3人は、自分達が探索者になったことを自慢したいみたいである。
「こんなアホ共は放って置いて早く行くっす!」
「私も遙に賛成だな。」
霞は、遙の意見に賛成のようである。だが、この3人は一歩も引かず結局同じ方向に行くということで一緒に行くことになった。
「なんか不愉快っす!」
「前から思ってるんだけど、藤原くんの朔夜ちゃんへのアプローチって露骨すぎるよね。」
「でも、そんな藤原のアプローチに対して何も感じていない朔夜もスゴいと思うがな。」
「それは言えるっす!」
遙が不満を口にする。それもそのはず、学校から東京駅に着くまでの間、男子3人は朔夜の方に行っており、遙と愛理、霞は男子から放置されているからである。そう、藤原は女の子を振ったことはあっても女の子から振られた経験が1度もない。だから、朔夜にもアプローチをしているのである。だが、朔夜には全く興味がないというよりもアプローチをされている事にすら気がついていない。まぁ、藤原が少し可哀想であるが、それは仕方ない。そんなこんなで、店に到着することが出来た。店までは、遙達は知らないが藤原達は店の場所を知っていたので案内をして貰った。恐らく、ダンジョンに探索に来たときに他の仲間から聞いたのか、改装中に前を通り掛かって場所を知ったのだろう。
ドルチェに着いた一行だが、案の定、列が出来ていたが30分並んで漸く入店することが出来た。朔夜は、男子達の真ん中に座らせられそうになったが、遙と霞が救出して何とか女子の輪の中に呼び戻すことが出来ており、ドルチェの看板メニューであるパンケーキを頼み、舌鼓を打っていた。
ちょうどその頃。東京駅にあるダンジョン支部である。ここは、数日前から妙な報告が上がってきていた。それは、モンスター達の目が真っ赤に染まっているということだ。支部の上層部も上の方に報告し、ダンジョンが出現当初から調査している自衛隊にも確認を取ったが有益な情報は得られなかった。その為、本日は、自衛隊の調査のために探索者にはダンジョンに入ることを禁止することにした。探索を禁止にしたことにより不満が出ており、今、受付は苦情の嵐である。自衛隊の隊員は、今にも調査に乗り出そうとスタンバイしている状態である。
そして、それは、唐突に訪れた。ダンジョンの入り口からゴブリンが姿を現したのである。ある探索者がそれを発見し、
「おいっ、ゴブリンが出てきているぞ!」
と、大声を出す。皆が一斉にダンジョンの入り口に目をやると確かにそこにはゴブリンが居た。但し、後ろにも続々と引き連れて。
「「「「「うわぁぁぁぁーーー!」」」」」
「「「「「きゃーーーーー!」」」」」
等、大声が聞こえるが、
「狼狽えるな!!!!」
と、一喝する。
「第1、第2隊は出てくるモンスターの殲滅。第3隊は、射ち漏らしたモンスターを撃破。外に出ないようにしろ。第4隊は後方支援。第5隊は駅に居る人達の避難誘導をしろ。そして、氷室は、本部に連絡して追加の現状の報告と部隊、それと武器弾薬等の補給物資の連絡を頼む。私は、ここの支部長と話を付けてくる。」
「わかりました。」
まず、一喝した人物は、鳳天翔と言い大佐の地位にある。そして、氷室と呼ばれた男は、氷室直也といい、少佐で鳳の副官をやっている。自衛隊の面々は初めはモンスターが出現したことに面食らっていたようだが、鳳の一喝にて落ち着きを取り戻し命令通りに行動を開始する。一方、探索者の方は殆どが鳳の気迫に固まっている。そんな鳳が受付まで近づいてくると、探索者が自然と道を開いている。
「すまないが、ここの1番偉い人と話が出来るか?」
鳳が受付嬢に確認を取るが、
「私だ!」
と、受付嬢の後ろから声が聞こえる。そこには、モデル並みの美人が立っていた。
「失礼。自分は陸上自衛隊大佐の鳳といいます。」
「私は、東京駅ダンジョン支部の支部長をしております二階堂ありさと言います。それで、用件は?」
「用件の前に、現状は?」
「一部始終見ておりましたから把握しています。」
「それは、話が早くて済む。我々、自衛隊は、ダンジョンから出てくるモンスターに対処しますが、どのくらいの数が出てくるか分かりません。そこで、応援を要請しました。ですが、それでも手が足りなくなるかもしれない。それで、今回の件にダンジョン関係の事案なので探索者の方達にも協力を得られないかと思いまして相談に参りました。」
「それで、私達にはどうしたらよろしいのですか?」
「腕が立つ方には射ち漏らした又は残弾が無くなったときにモンスターの殲滅の協力を、その以外の方には一般人の避難誘導を後は負傷者が出たときの搬送等をして貰えれば。」
「分かりました。では、今から緊急クエストを発令します。このクエストは任意なので受けたい方のみとなります。出来れば全員に受けていただきたいですが無理強いは出来ません。また、このクエストを受けなかったからと言って罰則などはございません。但し、受けて頂いた方には報酬をお支払します。そして、著しい戦果を挙げた方にもそれに上乗せで報酬をお約束します。あと、モンスターのドロップ品については倒した人の物でお願いします。また、クエストを受けていない方が受けたと言って報酬を受け取ろうとした場合には厳しい罰則を課します。以上です。クエストを受ける方のみこちらに用意した装置に探索者カードをかざして下さい。そうすると、自動的にクエストを受注した形になります。クエストを受けられない方は早々に退去してください。そして、最後にクエストを受けられる方はくれぐれも無茶をしないように。以上です。」
支部長の二階堂が説明をすると支部に居た半数の探索者が我先にと支部を後にする。残った半分はクエストを受けるようである。
「だが、いいのか?勝手に報酬なんて約束しても!」
「こう言う事が起こるかもしれないと想定はしていましたから上にはもう許可を取ってあるんですよ。ふふふふふ。」
「そっ、そうですか。」
「それと、支部にある回復薬を出しますので好きに使ってください。」
「それは、有難いですけど、いいんですか?」
「いいんですよ!使った分は上の方に請求を出しますから!」
「そうですか!わかりました。」
こうしてスタンピードの殲滅作戦が開始される。
殲滅作戦が開始された頃、朔夜達は呑気にパンケーキに舌鼓を打っていた。そして、談笑をしていると何だか外が騒がしくなって来ている。
「ねぇ、何だか外が騒がしくない?」
「そう言えばそうっすね。」
「どうせどっかの芸能人でも来てるんじゃないか?土岐田ちょっと見てきてくれるか?」
「ああっ、わかった。」
藤原が土岐田に頼むと土岐田は店を出て外の確認をしに行った。5分もすると土岐田は血相を変えて帰ってきた。
「たっ、大変だ!!!」
土岐田は慌てて戻って来たので朔夜達のテーブルの前で躓く。
「おい!大丈夫か?まずは、これを飲め!」
土岐田は霞に渡された水を一気に飲み干す。
「それで、何があった?」
藤原が改めて土岐田に質問をする。
「大変だ。今、そこで、探索者の先輩に会ったんだが、どうやらここのダンジョンのモンスターが地上に出てきたらしいんだよ。しかも、大量に!」
「「マジか?」」
「マジっすか?」
「本当なの?」
「あっ、あっ、あっ!!」
愛理の顔は恐怖に染まり過呼吸気味になっている。
「大丈夫。私が居るから!」
そう言い霞が愛理の手を握ると少し落ち着きを取り戻す。
「何か少し前からモンスターの状態がおかしかったらしく今日、自衛隊が調査に入る寸前に起こったらしい。今は自衛隊が対応に当たっているみたいだ。それと、支部から緊急クエストが出てるらしい!」
「「「「「緊急クエスト???」」」」」
「何でも任意で、モンスターの撃退や避難誘導、負傷者の手当て等をやって貰うそうだ。任意でな。」
「それで、探索者の貴方達はどうするんですか?」
「勿論、関わらないに決まっている。」
朔夜の問いに藤原は、即関わらないと名言を出す。
「土岐田君と須賀原君はどうするんですか?」
「「勿論、逃げる!」」
朔夜と遙、霞は、「「「コイツら腰抜けだな!」」」と同時に心の中で思っていた。
「そうっすか。………それで、朔夜。今の状況どう思うっすか?」
「確実な事は言えないけど、これが、異世界の小説とかで出てくるスタンピードだったらちょっとヤバイかも知れないですね。」
「「「「「スタンピード??」」」」」
「確か、大挙して逃げ出すとか押し寄せるって意味がある言葉よね。」
「霞、正解よ。後者だと少し気が楽になるんですけどね。」
「それは、どういう意味だよ?」
藤原が質問する。
「モンスターが逃げ出した場合、問題は何から逃げ出したかになると思いませんか?恐らくは、強力なモンスターですね。」
「ちょっと待つっす!押し寄せた場合は、その強力なモンスターはいないっすか?」
「居ないかもしれないと言うだけで、必ずしもいないとは言い切れないでしょうね。それと、自衛隊だけで倒せるかどうかもね!」
「「「「「えっ?」」」」」
「じゃあ、朔夜はどうするのがいいと思うっすか?」
「あれしか無いでしょうね!」
「あれっすか!わかったっす。連絡してみるっす!」
「朔夜。何か秘策でもあるのか?」
「まぁ、ちっとしたね!」
「そんなことはどうでもいい。朔夜、早く逃げるぞ!」
「えっ?私と遙は逃げないですよ!」
「何訳の分からない事を言っているんだ?いいから逃げるぞ!」
藤原は、朔夜の手を取るが朔夜はその手を払いのけて、
「私達も探索者の端くれなのよ!」
と、朔夜と遙は電話をかけながら探索者カードを藤原達に見せつける。