79.茶番
どうやら俺に面倒な客が来ているようである。
「ここに通していいか?」
「俺は、別に構いませんけど………誰なんですか?」
「会えばわかる。」
「そうですか。」
四ノ宮さんが通す様に指示を出す。すると、2人の男が入ってきたが俺にはどうも見覚えがない。
「どうも、私は県警の安東といいます。」
「同じく、内村といいます。神月さんは?」
「はい。俺ですけど………。」
「そうですか。少しあなたにお話を聞きたいので署までご同行して貰えませんか?」
「まぁ、いいでしょう。では、お伺いしたいことがあるんですが、この間発生したダンジョン内での事件なんですが、捜査したところ女性達は何もされておらず、貴方が一方的に暴力を奮ったと証言しているんですよ。勿論、連行された少年達も同じ様な供述をしているんですよ。」
俺は、それを聞いた瞬間、コイツらの何言っていんの?と思い、朔夜と遙を見るが、2人とも首を横に振る。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
俺は刑事2人に質問を投げかける。
「いいですよ。何ですか?」
「失礼かもしれませんが、キチンと捜査しました?」
俺がそう言うと、2人はプライドを傷つけられたのか顔を真っ赤にしている。
「私達の捜査にケチを着けるんですか?」
「いや、そう言うわけではないんですが………。なぁ?」
「そうです。私と遙は一度もその刑事さん達に取り調べを受けた記憶はありません。」
「そうっすね。記憶にないっす!」
「関係ない人は黙っていてください。」
安東と言う刑事がそう言いきると、壁を思い切りドンと叩く音が聞こえる。その正体は蒼井さんであった。
「おい、お前らふざけてるのか?こっちは、被害にあった女性の報告と証拠をキチンと警察な方に提出したんだかな?どういうつもりだ?」
何時もの喋り方ではなく明らかにキレているようである。すると、四ノ宮さんが、
「あいつは、キレると人格が変わって言葉遣いも悪くなるんだよ。」
と、教えてくれた。
「あっ、いえっ、被害にあわれた女性が実際には被害にあってないと証言をしたもので………。」
「そうなのか?」
葵さんは、再度確認するが、
「そんなことはしてません。」
「してないっす!」
「と、言っているだがな?」
「あの娘達は関係ないじゃないですか!」
「関係ないだと?被害にあったのはあの2人だ。それは、俺が証人だ。それで、今回のこの茶番は一体何のつもりだ?」
「そっ、それは、その………。」
「どうせ、県会議員の河原田が圧力でもかけたんだろう。アイツのバックには国会議員が居るって話を聞くし、河原田本人も色々と黒い噂の絶えない奴だからな。この事はウチの上に報告させて貰う。ウチの報告書を蔑ろにしたことも許せんしな。勿論、ウチの上からそっちの上にもクレームがいくことになると思うから覚悟しておけよ。」
四ノ宮さんもどうやら怒っているようである。刑事の2人は逃げるように帰っていった。
「ったく、アイツ等ふざけやがって!!」
葵さんはまだ、憤慨しているようである。
「本当だ。まともな捜査をせずに権力に屈するなんて警察官の恥だ。」
「それには、儂も同意見だ。儂の孫を事件に巻き込んでおいてキチンと捜査をしておらんとは、ましてや、警察官ともあろうものが政治家の圧力なんぞに屈しよって、儂もあやつに一言文句を言ってやる!」
「お爺様。あやつとは?」
「ああっ、警視総監をしておるはずじゃ。」
「ええっ、マジっすか?」
「凄いですね。お爺様。」
「まぁの!」
「取りあえずはこれで様子を見るのが無難だな。神月、何かあったら私に言いにくるんだぞ。」
「勿論、儂の所にもな。」
「色々と迷惑かけるけどよろしくお願いします。」
「サイガさん。その時は自分の所にも言ってきてくださいね。今回の件は流石に頭に来ましたから。」
「葵さんもありがとうございます。でも、葵さんって、キレるとせいかくかわるんですね!」
「ははははは!お恥ずかしい所を見られてしまいました。」
「じゃあ、神月。少し邪魔者が入ったが退散するとしようかの!」
「そうだな。じゃあ、俺達は帰りますね。」
「ああっ、気を付けてな。」
「「お疲れ様でした。」」
四ノ宮さんと葵さん神崎さんが、見送ってくれる。
そして、今日はグラムがゲットした賞品を体験できる日である。その為、朔夜の家に行く必要があるのたが、俺が朔夜達の車に乗り込めば、全部が終わった後に、またここまで運んで貰うには忍びない。なので、俺は朔夜達の乗った車の後に自分の車に乗って追従することにした。そして、朔夜の家に到着する。俺は、車で付いてきただけなので何処に車を止めていいのか分からずとうとう玄関まで付いてきてしまった。そして、執事の藤川さんが俺の所にやって来る。
「あっ、ヤバい怒られる!」
と、ついつい独り言を言ってしまう。藤川さんが、俺の車の横に来たので、俺は運転席側の窓を開ける。
「これはこれは神月様。ようこそおいでくださいました。」
「ご丁寧にどうも。それで、藤川さん。車を何処に止めたらいいか教えてもらってもいいですか?」
「神月様はお客様ですのでキーを貸していただければ後はこちらで行わさせていただきます。」
「いいんですか?」
「はい。よろしいですよ。」
「では、よろしくお願いします。」
俺は、藤川さんに自分の車の鍵を手渡して、玄羅の後に付いていく。すると、俺達は広い和室に通された。そこには、玄羅の奥さんの天上院飛鳥が食事の準備をしていた。
「あら、お帰りなさい。それに、神月さん、いらっしゃい!」
「あっ、お邪魔してます。」
「いえいえ、だから、あの人を呼んだんですね。」
「「「あの人???」」」
「それは、後で紹介しよう。」
「じゃあ、グラム達を出してもいいか?」
「ああっ、いいぞ!」
「飛鳥さん。今から俺の従魔達を出しますけど、安全なんで大丈夫ですから。」
「わかりました。」
俺は、飛鳥さんにグラム達の説明をし、許可を取るとグラム達を出してやる。
「あらあら、本当に指輪から出てくるのね。それに、皆、可愛らしいわ。」
「ほら、皆、自己紹介しろよ。」
「グラムなの。よろしくなの!」
「スノウだぞ。よろしくだぞ!」
「ウルなのです!よろしくお願いするのです!」
「ご丁寧にどうも。申し遅れましたが私はそこに居る天上院玄羅の妻の飛鳥といいます。主人共々よろしくお願いいたします。」
挨拶が終わったところで本題に入る。
「ご主人。今日は美味しいものが食べれるの?」
「そうだな。この前の勝負でグラムが勝った賞品みたいなものだからな。」
「グラムだけ食べるの?」
「まぁ、そうなるんじゃないか!」
「じゃあ、ご主人達はどうするの?」
「俺達か?俺達は、ここの台所を借りて何か作ろうと思うけど………。」
「じゃあ、ご主人達も一緒に食べるの!」
「いやっ、でも、準備してなだろうしな。」
「はっはっはっ。御主ならそう言うと思っておってな人数分用意させておる。」
「マジ?」
「マジだ!」
玄羅は、グラムが同じものを一緒に食べると言うと思っており、予め料理を用意してくれていたようである。
「マジっすか!」
「楽しみです!」
遙と朔夜も嬉しそうである。食事は、懐石料理形式で出てきて今まで食べたことがないくらい美味しかった。やはり、俺が作るよりもプロが作る料理は一味も二味も違った。
「美味かったっす!」
「こんなに美味しいものが食べられるなんて思わなかったです。」
「美味しかったの!」
「美味かったぞ!」
「最高なのです!」
「確かに美味かったな。儂もまさかここまでとは思わなかったぞ。」
玄羅もまさかここまで美味くなるとは思ってなかったのであろう。
「確かに美味しかったですね。………そう言えば、あなた。紹介したい人物がいるのではないかしら?」
「おおっ、そうであった。ちょっと待っておれ。」
そう言い、玄羅は席を立つと部屋を出ていった。少しすると、1人の男を連れて部屋に戻ってくる。
「待たせたな。今日の料理を作ってくれた者を連れてきたぞ。」
「お初にお目にかかる。儂は、高柳小次郎という。よろしく頼む。」
「あっ、どうもよろしくお願いします。俺は、」
と、自己紹介をしようとすると、高柳さんに手を上げて制される。
「大丈夫だ。その辺は把握している。………それよりも、あの食材は何だ?」
「しょ、食材???」
俺と高柳さんの距離は5、6メートル離れていたが、食材の話になると俺の前に一気に近づいて来て、鬼気迫っている。
「そうだ。あの食材だ。あんな食材は今まで見たことがない。」
と、俺の両肩を掴み前後に振る。
「ちょ、ちょっと待ってください。」
「いや、待てんの。」
パンパンと玄羅が手をたたく。
「何だ?玄羅?」
「少しは落ち着け小次郎。」
「これが、落ち着いて居られるか!俺が、今まで見たこともないくらい食材だったんだぞ!」
「分かっておる。神月、どうなんだ?」
「まぁ、出所は企業秘密で、ですが、必要があれば連絡してもらえればどうにかしますよ。」
そう言い俺は自分の携帯電話の番号を用意する。
「本当かっ?それは、有難い。」
「小次郎、良かったな。」
「ああ。あの食材を今日だけしか料理出来ないなんて死んでも死にきれん。」
「そこまでの物だったか。良かったな、小次郎。」
「そうだな。」
「実はな、この小次郎は、儂の古い知り合いでな。少し前までは超がつく有名店で板前をしていてな。儂も結構贔屓にしていた店であったんだが、あるひ、そこのオーナーと言うか主人が代替わってな、利益優先になってしまい、素材の品質を下げた。そうすると、勿論、味の方も落ちてしまってな。儂の足も段々と遠のいてしまった。そいて、そこに居る小次郎は、結局、店の主人と仲違いをして辞めてしまってな。あれは、4、5年前か?」
「そうだな。あれからは、仕事をやる気にはならなかったな。本当なら、今日、玄羅に頼まれて渋々といった感じでやる気にはならなかったんだが、食材を見せてもらった瞬間、昔の、いや、かつてない程、血が騒いでしまったんだよ。だから、さっきは年甲斐もなく興奮してしまってすまんかったな。では、連絡するからな、食材の方は頼むぞ!」
「わかりました。」
俺が、返答をすると高柳さんは意気揚々と部屋を出ていった。
「神月。実は、儂もちょっと相談かあってな。」
「お爺様が相談ですか?」
「そうだ。その相談には神月も多少なりと関わっているんだよ。」
「俺が?」
「ああ。実はなボディーガードの事についてだ。」
「「「ボディーガード???」」」
俺と朔夜、遙は一斉に声を上げる。
「ボディーガードだ。この前、奴ら哮天犬に圧倒されてしまって、皆が自信喪失してしまってな。少し、稽古をつけてやろうと思って儂が相手をしてやったんだが、全く儂の相手にならなくて余計に凹んでの。」
「それは、お爺様がダンジョンに入ってレベルアップしたからボディーガードの方々が敵わないのは自明の理ではないのですか?」
「そっ、そう言われればそうであった!」
と、ガックリしているようである。
「爺さん、あんたな。」
俺も呆れてしまう。自分のレベルか上がれば普通の人よりも強くなってしまうのは当然の事である。
「はぁ~。あなた、そんなこと、神月さんに相談しなくても簡単じゃないですか?」
「「「「えっ?」」」」
今まで黙って聞いていた飛鳥さんが口を開く。
「ボディーガードの方々は、自分達が弱いと思ってらっしゃるのでしょう?そこに居るワンちゃんに軽くあしらわれた上怪我をしないようにまでされたのですから当然と言えば当然なんですけど、ねぇ!」
最後のは哮天犬に同意を求めているようで、哮天犬も、
「わん!」
と、肯定的な返答のしかたをする。
「あっ、飛鳥。そこまで言わなくても!」
「それに、下手をすれば今後は護る対象から逆に護られてしまうなんて馬鹿げた事が起こるかもしれません。」
「それは、そうかもしれんが………。」
「もう1つ懸念はあります。国は、一応犯罪歴がある人や反社会的勢力にある人の探索者にはなれないことになっていますが、全ての人が善良であるわけではないということです。そんな、ダンジョンでレベルアップした人達が襲いかかって来たりしたらボディーガードなんて只の的でしかないでしょうね。」
「だから、神月に相談しようと思ってたんだ。」
「はぁ~。だから、そんなに難しい話ではないでしょうに。相手がダンジョンでレベルアップするのなら、こちらもダンジョンで鍛えればいいのです。」
「そうか。それが一番言い考えだな。後で奴らにも話をしておこう。」
その後、他愛のない話をして玄羅の家を後にする。




