74.勝負
俺がスタートコールをしている時、
「ちょ、アレなんすか?」
「巨大化したスライム??」
とうやら、スタートコールの「よーい」の時点で俺とスノウ、ウル、哮天犬は皆同じくスタートダッシュのために地面を強く踏み出すために力を入れていたが、約1名は全く別の事をやっていた。それは、グラムである。グラムは、自身の巨大化出来るスキルを使い限界まで大きくなっていた。そして、俺の「スタート」と言うコールと共に俺達4人は一斉に駆け出す。が、グラムは巨大化したまま突っ込むのかと思えば、一気に無数に分裂を行ってからそれぞれが突っ込んでいく。例え、無数に分裂をしたとは言えその辺にいる奴は楽に倒せるだけの戦闘力があることは分かっている。それに、グラムは意外に素早いのだ。それは、分裂体にも言える。そして、俺達は、ウルが少しモンスターに会敵するのがほんの少し遅かったがあとはほぼ同時であった。あとは、各自の殲滅力の高さであるが、言わなくても分かると思うが、こうなった場合に殲滅力が一番あるのはグラムである。グラムはあっという間に宝箱までの道を切り開く。気がつくと宝箱の上でポヨンポヨンと跳ねている。
「やったの!グラムが一番なの!!」
俺達もモンスターを倒し終え、宝箱の元に行く。順番的には、スノウ、哮天犬、俺、そしてウルの順番だ。
「あれはズルいのです!」
あれとはグラムのスキルの事を言っているのである。
「それは仕方ないぞ。あれも、グラムの強さの1つだぞ!」
「でも、悔しいのです!」
「くーん!」
どうやら、哮天犬も悔しいらしい。
「まぁ、そう思うんならもっと強くならないとな。」
「頑張るのです!」
「それにしても、グラムは凄かったぞ!」
「ご主人、ありがとうなの!」
グラムは俺の胸に飛び込んで来たので撫でてやる。グラムも体をプルプルさせて気持ち良さそうである。
そんな、俺達の勝負を見ていた玄羅と朔夜、遙はと言えば呆然としていた。
「何かあっという間に終わったっす!」
「凄かったですね!」
「あれはヤバイっす。5人とも全員やばかったっすけど、1番ヤバかったのはグラムさんっす!」
「まさか、あんなに大きくなんのんて、そして、まさか無数に分裂をしてモンスターを倒すなんて想像してなかったです。」
「そうっすね!それに、スライムってあんなに速く動けるもんなんすね。」
朔夜と遙の雑談の隣でプルプルとグラムのように震えている人が約1名いた。そう、玄羅である。
「悔しいが鍛えれば彼処まで、いやもっと先まで到達出来るという事を見せてもらった。」
と、とても満足そうな顔をしている。
俺達はもう、宝箱に到着しているが、朔夜達はクレーターの入り口に突っ立っていた。なので、朔夜達に向けて、
「おーい!そろそろ宝箱開けるけど見に来るかー?」
「勿論です!」
「行くっす。」
「興味あるな。」
と、言うことで3人も合流する。
「さて、今回はグラムが勝者だから開けていいぞ!」
「いいの?ヤッターなの!」
グラムは体を器用に使い宝箱を開ける。宝箱の中身は、スキルの書が6個入っていた。それぞれ、火魔法、千里眼、分身、思考、計算が2つであった。内容は、
千里眼
遠くを見ることが出来る。
分身
分身を作り出すことが出来る。
思考
思考が速くなる。
計算
計算が速くなる。
だった。
「師匠、凄いっす。スキルの書が6個も入ってるなんて。」
「凄いですね。」
「確かにな。」
「じゃあ、勝負も終わったし、皆と合流出来たからこのままボスの所まで行こうか。」
「わかったの。」
「いいぞ!」
「了解なのです!」
玄羅達も同意したので今からは皆で行動する。っと言ってもモンスターを倒すのは玄羅達でありグラム達は手を出さず暇な時間を過ごしたのだ。そんな時間が1時間もするとボスのところに到着することが出来た。今回のボスは、蜥蜴である。しかも全長8メートル位有ろうかという大きさである。
種族 ビッグサンドリザード
レベル 22
HP 2300
MP 1500
スキル 再生3 跳躍5 突進5
となっていた。
「さて、誰がやる?」
「当然クジなの!」
「だぞ!」
「公平なのです!」
「わん!」
「やっぱりそうなるよな。じゃあ、朔夜。作ってくれるか?」
「わかりました。」
俺が朔夜にクジを依頼すると遙と一緒にクジを作り出した。2、3分もするとクジは出来上がった。俺達の目の前には4つに折られた紙が5つ差し出される。それにしても、ビッグサンドって名前何か美味しそうだと思うのは俺だけなのかな。
「今回は5つの中にから選んでもらいます。選んでもらった紙を開いてもらって、そこに◯が書いてあれば当たりで何も書いてなければハズレです。それじゃあ、選んで下さい。」
俺達は紙を覗きこみそれぞれが目で牽制し合う。俺は最後のクジを引こうと思っているので一旦後ろに下がる。そして、グラム、スノウ、ウル、哮天犬がそれぞれクジを引いたあと俺は余った物を手に取る。俺が手に取ったのを朔夜が確認して、
「それでは、各々、開封してください。」
グラムは自分の体を上手く使い紙を開いている。ウルもまあ上手に開いている。俺が懸念したのは、スノウと哮天犬である。2人とも4足の獣型なにので細かい作業は苦手かと思っていたが普通に紙を開いていた。器用だなコイツらは。
そして、結果は、どうやら哮天犬である。
「わん!」
「くやしいの!」
「残念だぞ!」
「ハズレなのです!」
「まぁ、仕方ないな。じゃあ、哮天犬頑張ってな。出来れば朔夜達が一撃与えられるように隙を作ってくれよ。」
「わんわん!」
「っと、言うわけで、哮天犬が隙を作ってくれるから、その隙に攻撃を仕掛けろよ!」
「わかりました。」
「了解っす!」
「ふむ。」
「どうしたんだ爺さん。やっぱり気に入らないか?」
「何だ。分かってしまったか?」
「ああっ、不満だってオーラが漂ってるぞ!」
「そうか。それはいかんな。」
そう言い玄羅は顔をパンパンと叩く。
「まぁ、分からんでもないけど、今は強くなるためのステップと思って割り切ったらいいんじゃないか?………でも、どうしても嫌っだっていうなら参加しなくてもいいぞ!」
「いや、参加させてもらう。………………これも強くなるための修行と我慢すればいいんじゃ。」
「イヤイヤ、そんな大袈裟に考えなくてもいいと思うぞ。………まぁ、いいか。哮天犬、頼んだぞ!」
「わんわん!」
哮天犬に頼むと、哮天犬は嬉しそうにボスモンスターに向かって走っていく。それに気がついたビッグサンドリザードは舌を伸ばして突きの様な攻撃をしてきたが、哮天犬はその攻撃を直角に曲がって回避し、自分の周りに1個50センチ位の雷球を5個作り出して一気に放つ。すると、ビッグサンドリザードはビリビリと麻痺をしている。
「わん!」
どうやら今のうちにやれと言っているのだろう。
「3人とも今のうちに攻撃を!」
「わかりました!」
「了解っす!」
「わかった!」
朔夜は、弓で攻撃し、遙と玄羅はそれぞれ一撃を入れ戻ってくる。相手は麻痺状態で無防備であったが、流石にまだ3人ではそれほど大きなダメージを与えることが出来なかったようだ。
「わんわん?」
終わった?と哮天犬が言っているようなので、
「あとは、好きにやっていいぞ!」
「わーん!」
嬉しそうに吠えてビッグサンドリザードに再び向かっていく。ビッグサンドリザードは、体を回転させて尻尾での攻撃を試みるが、哮天犬はその攻撃を余裕で回避する。そして、その尻尾に噛みつくがビッグサンドリザードは尻尾を切り捨てる。尻尾を切り捨てたビッグサンドリザードだが、直ぐに再生を始め元通りになる。
「おーい。蜥蜴って尻尾を切り捨てて逃げる習性があるから尻尾を攻撃してもあんまり意味ないぞ。」
「わん!」
どうやら、哮天犬は、蜥蜴が尻尾を切って逃げるという習性を知らなかったようである。ただ、ビッグサンドリザードの再生のスキルがどこまで作用するのかは分からないが、手足を切り捨てて逃げることはないだろうと思う。
さて、哮天犬はというと、素早さを生かして敵を翻弄し爪や牙での攻撃を行っている。勿論ビッグサンドリザードは哮天犬の速さには付いていけてない。そして、哮天犬は、ビッグサンドリザードの背中に飛び乗ってそこから更に真上へと飛び上がり、10メートルはあるであろう炎球を作り出してビッグサンドリザードに向けて放つ。ビッグサンドリザードは、炎の球に飲み込まれジタバタしていたが次第に動きが止まる。そして、死体となったビッグサンドリザードの体は消えていった。ついでに、哮天犬が放った炎もきれいさっぱり消え去っていた。
「わぉーーーーーん!!」
哮天犬はと言うと、勝利の雄叫びをあげている。それが終わると俺の所に飛んできたので思いっきりモフモフしてやる。そして、アイテムがドロップする。ドロップしたのは魔石と皮であった。
ビッグサンドリザードの皮
ビッグサンドリザードからドロップした皮。加工に向いている。
ドロップ品の回収が終わると宝箱が出現する。
「宝箱が出現したっす!」
俺達は宝箱を開けるが中身はハイポーションが10個とハイマジックポーションが10個入っていた。
「何か拍子抜けっす!」
「そうですね。」
「まぁ、これが普通だと思うぞ。」
「普通でも多いと思うぞ!」
「じゃあ、先に行こうか!」
俺達は10階層に向かう階段を下りている時、
「今日もおわりっすね!」
「そうね。」
「もう少し楽しめると良かったんだがな。」
俺はそんな3人の話を黙って聞きながら階段を下りている。10階層に到達すると、
「あれっ?前の階層と全く違うっす!」
10階層は荒野のフィールドではなく、石造りの真っ直ぐの道であった。
「そうね。………これってもしかして!」
「どうした。朔夜、知っているのか?」
「お爺様。多分ですけど、10階層というキリがいい数字、そして、10階層のこの作り、恐らくボスモンスターがいます。」
「ボスモンスターならさっきあの犬が倒しではないか?」
「わふ?」
「ええ、そうですね。さっきのは所謂、小ボスって所ですね。そして、今回のはある一定階層毎に出るモンスターで要は、中ボスってやつですね。」
「そんなのがあるのか?」
「恐らくですけど!」
「まぁ、取りあえず進んでみようか!」
「はい。」
「了解っす!」
俺達は、真っ直ぐな道を進んでいく。進んでいくと案の定大きな扉の前に着いた。
「やっぱりね!思った通りだわ!」
「朔夜。凄いっす!」
「それで、神月よ、どうするのだ?」
「どうすると言われても1つしかないでしょ?」
「では行くのだな!」
「それしかないでしょ?それに、皆、ヤル気満々たし。なぁ?」
「当たり前なの!」
「どんな奴が出てくるか楽しみだぞ!」
「どんな奴が出てきてもやっつけるのです!」
「わんわん!」
「そうかわかった。」
「よしっ、それじゃあ誰がやるか決めようか!」
「賛成なの!」
「今度は当てるぞ!」
「よしっやるのです!」
「わんわん!」
「ちょ、ちょっと待つっす!」
「何だ?」
「これから戦う敵はさっきの奴より強いんすよ。皆でやらないと不味いんじゃないっすか?」
「まぁ、それは相手が強かっ時に考えるよ!さて、誰がやるのか決めようか!朔夜、また頼めるか?」
「わかりました。」
朔夜はさっきと同じ様にクジを作ってくれた。それを俺達5人はさっきと同様にクジを引く。今回も俺は1番最後にクジを引いた。結果として俺はハズレを引いてしまった。
「やったのです!」
「残念なの!」
「悔しいぞ!」
「くーん!」
どうやらクジの当たりを引いたのはウルのようである。
「敵が強かったらグラムが代わってあげるの。」
「それなら俺が代わるぞ!」
「わんわん!」
「まぁ、お前達の気持ちは分かるけどここはウルに任せてみようか!」
「ご主人、ありがとうなのです!頑張るのです!」
取りあえずはウルに任せることにする。どうしても苦戦するようなら手助けをしようと思う。そういうことで俺達は大きな扉を開けて中に入って行く。
「本当に大丈夫なんすかね?」
「師匠達の事を信じるしかないですね。」
「まぁ、大丈夫じゃろう。」