69.弓と槍
「それで、私達にどういった武器を?」
「朔夜の爺さんよりいいのがいいっす!」
玄羅は、ミスリルの刀を上に掲げてニンマリしていた。
「じゃあ、まずは朔夜からだな。朔夜には、これかな?」
俺は、アイテムボックスから弓を取り出して朔夜に手渡す。
「これは、弓??でも、弦がないし、それに矢もないですよ!」
「それは、それでいいんだよ。その弓は弦もないし矢もないだよ!」
「はい?」
「まぁ、物は試しだから矢を射てみてくれるか!」
「???わかりました!」
朔夜は弓矢を構え、弓を引く動作をすると、光る矢が出現する。
「あの、これは、どうしたらいいんですか?」
玄羅が試し斬りした岩とは逆方向に同じような岩があったので、
「朔夜、あれに向かって矢を射ってみろよ。」
「わかりました!」
ビュンッと音をならして矢は一直線に飛んでいき岩に直撃し、岩に深く刺さっている。
「凄い!」
「矢を射つにはMPが必要みたいだからMP切れには気を付けろよ!」
「頑張ります!」
さて、これで、朔夜は終わったな。次は、遙かな。
「最後は、私っすね!」
「ああ、遙には、これかな!」
俺はアイテムボックスからトライデントを取り出し、遙に手渡す。
「師匠、これは?」
「こいつの名はトライデント。聞いたことないか?」
「一応聞いたことはあるっすけど、もしかしてあの?」
「多分な。ギリシャ神話に出てくる海神ポセイドンの三ツ又の槍だと思うぞ!」
「何でそんな物を私に渡すっすか?」
「一昨日、遙が、魔法を選んだ時に水魔法選んだだろ!あれが決め手になったかな。その前から遙は前衛向きかなとは思ってたんだよな。」
「そうっすか!わかったっす!」
遙も納得してくれたので早速探索に出向こうと思うがその前にもう2つやることがある。
「まず、爺さん。いい加減その暑苦し鎧を脱いだらどうだ?」
「何を言う?敵に攻撃されたときに防げる防御力も高い立派な鎧だぞ!」
「そんなのなくても攻撃を受けることはないから今日のところは脱いどけって!」
「そこまで言うなら仕方がない。」
渋々では、あるが鎧を脱いでいく。玄羅が鎧を脱ぐとそこには着物を着込んでいたようてある。
「あんたは侍か?」
と、思わず突っ込んでしまった。取りあえず、鎧は俺がアイテムボックスに回収していく。
「ふぅー、さっぱりしたわい。」
「そうか。それは、良かったな。」
「ところで今から出発するのか?」
「もう少しだけ待っててくれるか?」
「わかった。」
俺は、指輪からグラム達を呼び出す。
「やっと出られたの!」
「やっぱり外が気持ちいいぞ!」
「なのです!」
3人は背を伸ばしながらそんなことを言っている。
「じゃあ、今日はどうする?」
「うーん!手加減して戦うのは面倒だから別々がいいの!」
「俺もだぞ!」
「ウルもなのです!」
「そうか。じゃあ、夕方位にボスの前で会おうな!」
「わかったの!」
「了解だぞ!」
「行ってくるのです!」
「それと、グラム!ちょっと頼みがあるんだけどいいか?」
「何なの?」
「今日は昨日より1人多いから、グラムの分体を置いていって欲しいんだよ。」
「そんなこと、お安いご用なの!」
グラムは分体を作ってくれて本体はスノウの上に飛び乗る。ついでにウルもスノウの上に乗り、スノウはダンジョンを駆けていく。
「じゃあ、グラムの分体よろしくな。」
「任せろなの!」
「ワン!」
「哮天犬、お前もな!」
哮天犬は、自分も居るぞとアピールしてくる。
「おいっ、神月。あれは一体なんだ?」
「あれは師匠の従魔達よ。スライムがグラムさんで、白い獣型の魔物がスノウさん、そして、クマがウルさんよ。」
「3人とも滅茶苦茶強いっす!」
「そっ、そうなのか!相変わらず規格外だな。」
「まぁ、そんなことはいいじゃん。これで、用事も終わったし、探索に行こうか?」
「はい!」
「わかったす!」
「おおっ、漸くか!」
そう言うわけで探索を開始する。前を俺と哮天犬が歩き、俺達の後ろを朔夜、遙、玄羅が横一列で歩いている。グラムは何処にいったのかと言うと、答えは俺の頭の上にいる。
さて、少し進むと近くにモンスターの気配があり俺達に襲いかかってくる。まぁ、近づかれる前に俺が魔法を使い感電させて麻痺の状態にする。
「じゃあ、爺さん。止め差してきてくれるか?」
「儂でいいのか?」
「いいんじゃないっすか?この中では一番レベルが低いわけっすから!」
「お爺様!早くしてくださいね!」
「分かったが、何か孫が儂に冷たい気がする!」
「気のせいだろ!」
「気のせいです!」
「気のせいっす!」
玄羅は、モンスターに近づき斬撃を加える。流石にまだ、レベルは1なのでミスリルの刀をもってしても倒すことは出来ていないが切り傷をつける程度は出来ている。
「爺さん。もういいから下がってな。あとは、俺がやるから!」
「神月よ。ここまで来たなら最後までやるぞ!」
「まだ、レベル1だから無理だって!それに、もうすぐ麻痺も回復するから爺さんにはちょっとキツイと思うから、今はちょっと引いてくれないか?」
「ふんっ、仕方ない。但し、レベルが上がったら1人で相手させて貰うぞ!」
「わかったよ。」
そう言うわけで、俺は止めを差す。そういえば、出てきたモンスターはサンドリザードマンだった。
「次にモンスターが現れたら朔夜が弓で攻撃して、敵が怯んだところを遙が攻撃を仕掛けてみるなんてどうだ?」
「私はいいけど………。」
「やってみたいっす!」
「じゃあ、やってみよう。」
それから歩くと前からサンドリザードマンが3匹接近してくるのがわかる。
「朔夜、遙、前から来るぞ!」
「わかりました!」
「了解っす!」
前方からサンドリザードマンが接近してくるのが見えると朔夜が弓を構えて射るが相手も動いているのでなかなか上手く当たらない。俺達のところにサンドリザードマンが辿り着く前に1匹にしか当たらなかった。
「よし、朔夜は後退。そして、遙は、弓が当たった奴を倒してこい。あとは、グラム頼むな!」
「了解っす!」
「わかったの!」
そう言い2人が飛び出していく。
「おい、朔夜。あのスライムは本当に強いのか?」
「お爺様、疑っているんですか?」
「イヤ、そう言うわけではなくてだな。儂にはあんなのが強いだなんて到底信じられなくてな。」
「まぁ、見ていればわかりますよ!」
朔夜から攻撃を受けたサンドリザードマンは、他の2匹のサンドリザードマンよりも遅れているので、俺達に近いのは無傷のサンドリザードマンだったが、グラムの強酸弾であっという間に倒してしまう。それを見た玄羅は目を丸くしていた。そして、遙は、手負いのサンドリザードマンと対峙する。案の定、サンドリザードマンの動きは鈍っていた。遙は、サンドリザードマンに突っ込んでいきトライデントで突きを出す。サンドリザードマンの武器は、剣である。リーチがあるのは勿論、遙が持っているトライデントである。だが、まだ、遙の腕が全然であり、スキルもまだ習得していない状態である。なので、サンドリザードマンは、遙の突きを横に回避するが、負傷しているサンドリザードマンは体勢を崩し、その隙を狙って遙が再びトライデントで突きを放つ。今度は見事に遙の突きはサンドリザードマンを捉える事が出来て、無事にサンドリザードマンを倒すことが出来ている。
「師匠、やってやったっす!」
「見事だったぞ!朔夜も初めてならまぁいい方かな!」
「そんなことないですよ!もっと練習して当てられるようにならないと!」
「まぁ、無事な勝利だったぞ!グラムもお疲れ!」
「あのくらい余裕なの!」
「そうか。」
俺はグラムを撫でてやる。さて、先に進もうかな。その後は、モンスターが襲ってくる度に、玄羅には俺が魔法で麻痺をさせてからダメージを与えてもらっている。昼休憩直前には玄羅でもサンドリザードマンに致命傷を与えられるようになっている。
「のう、神月よ。儂もそろそろ1人で闘ってみたいんじゃがのー!」
「はぁ~、そろそろ言い出すと思ってましたよ。仕方ないですね。いいですよ。但し、いきなり3匹相手にするのはキツイでしょうから一体ずつですよ。」
「うむ、了解だ!」
「じゃあ、その前にそろそろ昼なので昼飯にしましょうか?」
「うん?儂は昼飯など持ってきてないぞ。」
「その辺は、俺が準備するので大丈夫ですよ。」
「そうか。世話になるぞ!」
俺はアイテムボックスから魔法のテントを取り出す。
「さぁ、中に入りましょうか?」
「おいっ、こんな小さいテントに4人なんて入るわけないだろ?」
「まぁまぁ、お爺様。騙されたと思って入ってくださいよ。」
「そうっすよ。入るっす。」
2人に促されながらテントに入っていく。俺とグラム、哮天犬も続いてテントの中に入る。まぁ、そこには呆然と立ち尽くす玄羅の姿があった。そして、その横で、朔夜と遙が「クスクス。」と笑いを堪えている。
「お爺様。そろそろ正気に戻って!」
「おっ、おう。ところでこれは、どう言うことだ?」
「師匠が言うには魔法のテントってことみたいですよ。テントの大きさのよりも中の方が広くなっているらしいですよ。」
「そんな物があるのか?」
「ダンジョンが出現してスキルとか魔法とかがある世の中っすよ。何があってもおかしくないっす!」
「確かに。そう言われればそうだが………。」
「じゃあ、今から昼飯作りますんでソファーにでも座って待っててください!」
「さぁ、お爺様、行きますよ!」
「今日の昼御飯も楽しみっす!」
俺は、台所に立ち、今日のメニューを考える。今日は、ミートソーススパゲティにしようと思う。理由としては何故か無性に食べたくなったからである。まず、アイテムボックスから大きめの鍋を取り出して水を入れ、コンロにかけてお湯を沸かす。それから、再びアイテムボックスからフードプロセッサーを取り出して玉ねぎ、人参をかけ、その後、ダンジョン産のトマトもかける。フードプロセッサーは、予め買ってアイテムボックスに仕舞っていた。そして、フライパンに油を引きミンチ肉を入れ、フードプロセッサーにかけた玉ねぎと人参を一緒に炒める。火が通ったら小麦粉を入れ混ぜ合わせてからトマトとケチャップ、ソース、砂糖を入れてあとは焦げないように5分位煮込むだけである。その間に、沸騰した湯の中に塩を入れ、スパゲティを茹でる。暫くして、スパゲティを一本取り出して食べてみる。すると、いい感じに歯ごたえのある見事なアルデンテに仕上がっていた。俺は、スパゲティを湯切りをして、皿に盛り付けていく。スパゲティが湯で上がった頃には、ミートソースの方も完成しており、盛り付けたスパゲティの上にかけていく。そして、最後に市販のパルメザンチーズを振りかけて完成である。俺は、5人分運ぶのは無理だったので朔夜と遙に頼んで配膳を手伝ってもらう。各自の前に昼飯が置かれたが、
「師匠、1人分多いっすよ!」
「えっ?きちんと5人分作ったけど………!」
「何言ってるっすか?ここには、私達4人しか居ないっすよ!」
「そうですよ!」
「若いのにボケたのか?」
「イヤイヤ、ボケてないから!5人目はグラムだから!!」
「「「えっ!?」」」
「やったー!お昼ごはんなの!ご主人、食べてもいいの?」
「ああっ、いいぞ!」
「わーいなの!いただくの!………………ご主人、美味しいの!!」
「おっ、ありがとな!!」
それからグラムは夢中でミートソースを食べている。
「スライムが飯食ってるぞ!」
「食ってるっすね!」
「まさか、ご飯を食べるなんて予想外でした!」
「家は、グラムもスノウもウルもみんな同じものを食べるぞ!そんなことより、早く食べないと冷めちゃうぞ!」
俺はそう言いながらスパゲティを食べ始める。我ながらいい出来である。これは、トマトが美味しいからここまでの味が出たのかなと思う。朔夜達も各々食べ始め、「滅茶苦茶美味しいっす!」「美味しいです!」「ほう、これは中々美味いな!」と好評であった。このあと、片付けを行って、トータルで1時間半位の時間休憩し、昼からの探索を開始するのである。