22.その頃の首相官邸
俺達がホットケーキを食べている頃、ここは日本の首相官邸である。そこの執務室に総理大臣である本堂昴の姿はあった。
「それで、ダンジョンの方はどうなっている?」
「はい。現在、ダンジョンは全国にて発見の報告があり、土地を国が順次買い取り作業を行っています。ダンジョンが家の中にあった場合は家屋などの場合はその周辺の土地も買い取り家屋を覆うように建物を急ピッチで建設しています。駅等に出現した場合は周辺を改装して事務所を作っています。」
「そうか。全国でどのくらいダンジョンがあるんだ?」
「全国で300位ですかね。各県で4つから5つですね。人口が多い所は他よりも多めになっていますが原因は分かっておりません。それと、ダンジョンまでの道程が険しい所もありますがそこは急遽道路を作りアクセスしやすいように手配をしています。ですが、道路と平行して建物を建てることが難しいため臨時的な建物を作成してその後、ダンジョン事務所を作る予定です。因みに、ダンジョン事務所を皆がギルドと読んでいるのでその呼び名を採用しようと思うのですがいかがでしょうか?」
「いいんじゃないか。呼びやすい方がいいだろう。では、ギルドの建設やそこに至る道を早めにやるように。特に道路は早めにやるように指示を出しておけ。建物はこの際あとでも構わん。」
「分かりました。」
「それと、試験の方はどうなっている?」
「試験の方は特に問題なく順調です。会場は押さえてありますし試験問題も既に出来上がっています。」
「そうか。」
「それと、ご報告があります。」
「何だ?」
「まず、ダンジョンに入った自衛官からの報告ですが、レベルが上がる度に身体能力の上昇、魔法の発現、宝箱からのアイテム。主にポーションやダンジョン産の武器や防具ですね。」
「まぁ、それらは予め予想が出来たことだな。」
「そうですね。恐らく各国はダンジョンを軍事利用する可能性が高いでしょうね。」
「ああ。我が国はそんなことをするつもりは到底無いが、もし、他国がダンジョンでレベルを上げた者を戦争に参加させるとなると到底かなわなくなるからな。」
「はい。それと、もう1つ問題があります。」
「何だ?」
「ダンジョン5階層までは極一般のダンジョンだったらしいのですが6階層からは草原と森が広がったダンジョンらしいです。」
「はぁ~?」
「はい。そういう反応だと思います。問題はここからなんですが、実は………」
「ええーい。勿体ぶらずに早く言わんか!!」
「実は、6階層からモンスターが少し変わり牛や豚、猪等のモンスターが出てきたそうです。」
「ほーう。それで?」
「それらのモンスターを倒すと肉がドロップしたそうです。」
「にっ肉だと?」
「はい。肉です。しかもその肉がとてつもなく美味しいそうです。」
「そんなにか?」
「はい。よろしければ食べてみますか?勿論、安全は保証されています。」
「あるのか?是非、食べてみたいぞ。」
「分かりました。少々お待ちください。」
そう言い秘書は執務室を出ていく。本堂は執務室の椅子に深く座る。しばらくすると秘書が戻ってくる。手にはクローシュを持っている。それを本堂総理の目の前に置き、クローシュをのけると見た感じ牛のステーキがあった。
「どうぞ!」
秘書に促されるままステーキにナイフを入れフォークで肉を刺して口に運ぶ。口に含むと肉汁が口の中に広がっていきとても美味である。
「美味いな!!」
こんな美味い肉は食べたことがない。
「これがダンジョンでとれるのか?」
「はい。しかも、この肉を食べ続けることで見た目が若くなるみたいですよ。所謂、アンチエイジング効果が半端無いみたいですよ。」
「そうなのか。これはいいな。」
「思いもよらない効果がありましたね。」
「では、このまますすめてくれ。」
「あと、職員の方はどうしましょうか?」
「各ダンジョンで国の方から責任者を出してやるしかないだろ。あとは、その地の市役所の職員を派遣する。足らなければ新たに雇用を設ければいい。あと、警備も必要だろうから警察からも人員を出させるようにする。」
「わかりました。」
「それと、魔石ですが有効活用の方法が見つかったとの事です。これにより、魔石をエネルギーに変換できる目処が足ったみたいですよ。」
「それは、朗報だな。じゃあ、そのまま続けさせろ!」
「わかりました。」
「他に何かあるか?」
「あとは、法整備ですかね。」
「そちらの方は手を打っているから心配はいらん。」
「それでしたら、あとは、海外がどう反応するかですね。」
「そうだな。各国がどういった感じで来るかわからないが取りあえずは我が国の周辺国、中国と韓国、北朝鮮、あとはアメリカだな。」
「そうですね。」
「まぁ、中国と北朝鮮に関してはネット等の情報規制があるからダンジョン物の本を知っている可能性はあまり高くないだろう。あとは、韓国はまぁ放っておけばいいだろう。問題はアメリカだ。」
「アメリカですか。確かに。ダンジョンが出現した初日に電話がかかってきましたからね。」
「まぁ、アメリカとは情報交換をしながら上手くやるしか無いだろうな。」
「まぁ、そうでしょうね。」
「取りあえずは、4月からダンジョンに入れるように準備をしていかなくてはいけないな。」
「わかりました。」
総理はやっとダンジョン関係に目処が立ったことに安心し「ふうっー!」っと再び椅子にもたれかかった。っが、突然、電話が鳴り響いた。驚いた本堂は、何か嫌な予感はしたが恐る恐る電話をとる。
「ハーイ!スバル。元気にしているかい?」
相手はまさかのアメリカ大統領であった。
「あなたはまた唐突に電話を掛けてきますね。」
「そうかい?そうでもないと思うんだけど……」
「それで、今日はどういった御用件で?」
「言わなくてもわかってるくせに!もちろんダンジョン関係の話だよ!」
「はあー。やっぱりそうですか。それで?」
「つれないなー!スバルもわかってるだろ?ダンジョンが軍事に利用できるってこと!!」
本堂は一瞬目尻がピクッと反応するが素知らぬ顔で
「そうなんですか!」
「隠さなくてもいいよ。ここは腹を割って話をしよう。」
「仕方ないですね。わかりました。勿論、我々はダンジョンが軍事目的に使用出来ることは認識しております。ただ、1つ言わせてもらいたいのは私たちは平和を望んでいます。例え、それで、強大な力が手に入ろうと我が国は他国との戦争は一切望まない事を先にお話させていただきます。」
本堂は、強い口調でアメリカ大統領に日本の意思を伝える。
「その言葉が聞けて良かったよ。」
「では、私から質問ですが、アメリカはどうなさるおつもりですか?」
「私たちも争いは望まない。ただし、ダンジョンの有用性に気づいた国がそれを利用し戦争を仕掛けてくる可能性は十分にある。もし、そうなった場合に、何もしていなかったら最悪、国が滅びることになる。そうならないための準備は必要と考えているよ。」
「私も、同意件です。我が国の自衛隊にはダンジョンに入ってレベルを上げて貰いますが、もし、自衛隊だけでは守りきれなかった場合は、国民一人一人にせめて自分の身や大切な人、目の前の困っている人を助けられるように一般市民にもダンジョンを開放しようと思っています。まぁ、そんなことにならない方が1番いいんですがね。」
「私もそう思うよ。そうだ、今度の国連会議でダンジョンを使っての軍事力強化の禁止を訴えるってのはどうだい?」
「それは、いいですが………」
「どうしたんだい?あまり乗り気じゃないみたいだけど。」
「他国にダンジョンが軍事利用出来ることをこちらからわざわざ教える必要は無いのかと思いまして……各国の様子を見て軍事に利用できることを知るまでは放っておけば良いのかと!」
「ふむ。それも1つの手だね………よしっ、検討してみるよ。」
「わかりました。」
「じゃあね!ああっ、今度はスバルから電話がかかってくるのを待ってるよ!」
「わかりました。失礼します。」
ガチャ!!と、電話が切れる。
「はぁ~、一息いれようと思ったらあの人から連絡がある。ひょっとして見られてるんじゃないかと思うよ。」
ここは、日本の総理大臣官邸であるため盗聴機など仕掛けられてはいないはずなのにあの人はいいタイミングで連絡を入れてくるのでついつい疑ってしまうがここにはそんなものは無いことは証明されている。しかも、こちらが少しでも情報を隠そうとすると本音を言うように催促してくる。まぁ、唯一の救いはあの人が過激派ではなく穏健派で平和主義者であることと我が国と方針が同じであることである。