127.模擬戦
「…………はぁ~、仕方ないですね。わかりました。それで、具体的にはどうしたらいいんですかね?」
俺が承諾すると待ってましたとばかりに三枝さんが割り込んでくる。
「実はね、少し自衛隊員の中に、うーん、悪い意味で調子に乗っている連中がいるのよ。ダンジョン出現当初からダンジョンの調査をしている自衛官達の一部が、少し強引な訓練と称する嫌がらせを行っていたの。でも、最近ではどんどんエスカレートしていって
問題になっていたの。そして、今回のランキング制度の導入よ。その連中は、自分達が世界の順位で1000以内に入っていることを自覚してしまってから夜通し大騒ぎだったらしいわ。でもね、その連中に上には上がいると言うことを、頂きはまだ遥かに高いんだって言うことを教え込んで欲しいの。」
「三枝大臣。頂きってね。そこの者がどの程度、強いのか知らんが、あくまでも現在のランキングだ。例え、1位だからと言って自衛隊員の相手をさせるのは些か無謀じゃないのかね?」
そう言うのは、法務大臣の糀谷新である。
「そんなことはありません。彼のいえ、自衛隊員の実力は遥かに上です。」
三枝さんはそう言いきる。何せ俺の戦い方を見たことがあるし、自衛隊員の訓練の視察にも何度か訪れている。両者とも全力ではないが、その間には途轍もない開きがあるのは理解していた。
「そんなことはどうでもいいですけど、俺は相手をしませんよ。」
「なんだと?」
俺が相手をしない宣言をすると、糀谷は一段と鋭い視線を俺に向けてくる。
「あなた達は、俺達の実力を知りたいんですよね?だったら、最初から俺が戦うのは無いんじゃないですか?」
「傲るな!」
「いえいえ、傲ってませんよ。客観的な立場から言わせてもらってます。じゃあ、その自衛隊員の相手をすればいいわけですね?」
「そうね。ざっと30人。行けるかしら?」
「まっ、有象無象が何人いても変わらないでしょ?」
「言うわね。」
っと、ここで終わりかと思いきや、物言いが入る。
「いやいや、たかが1000位を上位者の従魔でよってたかって攻撃するのはどうかと思うぞ。」
っと、糀谷さんは言うが、
「えっ~と、何か勘違いされてるようですけど、戦う従魔は1人だけですよ。」
「それこそ傲りではないか?」
っと、糀谷さんは怒っているが、パンパンと総理が手を叩く。
「その自信が傲りなのかどうなのかは実際に見てみれば分かることだ。では、場所を移動しよう。」
「どこに移動するんですか?」
「ここでは、暴れられないだろ?だから、自衛隊の駐屯地に行く予定だよ。」
っと、御堂さんが教えてくれる。
「じゃあ、俺の知り合いを呼んでもいいですか?」
「何です?急に?」
「いえいえ、そう言った傲った奴等の姿を見せときたいと思いましてね。」
「誰にです?」
「それは秘密で!」
「わかりました。総理には私の方から進言しときます。ですが、くれぐれも早く到着するようにしてくださいね。皆さんお忙しい方達なので!」
「了解です。」
俺は速攻で連絡し、自衛隊の駐屯地に来るように言う。
そして、俺達が目的の自衛隊の駐屯地に着いたと同時に玉兎、進、あかりの3人が息を切らせながら到着する。初め、大臣達のSPさん達に止められそうになっていたけど、俺が大丈夫だと言うと総理が指示を出してくれた。
「それで、神月さんは俺達を何でこんなところに呼んだんですか?」
「見てもらいたい物があるからですよ。まっ、それはお楽しみで!」
「わかりました。」
そして、俺達は一際大きな倉庫に連れていかれる。そこには気だるそうにしている30人ほどの自衛隊員がいた。
「あれがそうですか?」
俺は三枝さんに質問する。
「そうです。元々、国の為に働きたいと言っていたらしいのですが、今ではそれもどこに行ってしまったのか。」
っと、落胆する。
「まっ、これからじゃないですか?」
「そうですかね。」
「じゃあ、そろそろ始めましょうか?」
「わかりました。」
そして、三枝さんが前に出て行く。ここは、三枝さんの管轄しているところなので至極当然の流れなのだろう。
「諸君、君たちにいい話を持ってきた。」
「大臣か?それに後ろからもゾロゾロとしかも総理までいるとはどういった風の吹き回しで?」
「言っただろ?いい話を持ってきたと。」
「聞きましょう。」
「本日、そこにいる神月という探索者の従魔と戦ってもらう。もし、従魔に勝つことが出来れば、諸君が望む報酬を何でも用意する。これは総理が確約されている。」
すると、自衛隊員からは、
「「「「「「オオオオオォォォ!!!」」」」」」
っと、驚愕の声が聞こえる。それに、その話は俺も聞いていない。すると、1人の自衛官が質問する。
「大臣。その前に質問がある。もし、俺達が負けた場合はどうなる?」
「特にペナルティーはない。」
「…………話が上手すぎないか?」
「私も君と同じ立場ならそう思うが真実だ。強いて言うなら、そこにいる神月の従魔が君達よりも強いっと言うことになる。」
「ちっ、ならやってやる!なぁ?」
「勿論だ。」「ぶっ潰してやる。」等々聞こえてくる。ここで、俺は火に油を注ぐ事にする。
「あっ、勿論、ダンジョン攻略に行く完全武装でお願いしますね。負けた時の言い訳にされるのは面倒なので!」
その発言は、自衛隊員だけでなく、大臣達も「コイツは何を言っているんだ?」っと言う雰囲気である。まぁ、若干名はそんな人達を見てあわれんでいる。
そして、10分後、完全武装した自衛隊員が現れる。そして、自衛隊のリーダーが、
「手加減はしないからな。」
「わかりました。」
俺はそう答えると、三枝さんが前に出る。
「では、審判は私が努めさせてもらうわ。異議は?」
「「ない!」」
「それでは、始めます。従魔を呼んでもらえる?」
俺はその言葉に、従魔を呼ぶ。そいつは、キジ三毛と呼ばれる猫であり、こいつは、俺がテイムする前の野生の時から野生とは思えないほど俺に懐いてきた猫である。
『ご主人、にゃーは、頑張るにゃ!』
「頑張らなくていいぞ。お前が本気を出すと死人が出ることになりかねないからな。」
『わかったにゃ!』
「ただし、スピードだけは本気出してもいいぞ。その代わり、攻撃は肉球で軽くパンチしてやれ。それで、十分だ!」
『わかったにゃ!』
俺がキジ三毛を呼び出すとイロイロな感情がそこら辺を漂っていた。まず1つ目は、馬鹿にしたものである。これは、主に自衛隊達からである。2つ目は、何考えてるんだ。ふざけてるのか。っと言う感情である。これは、主だった大臣、そして、それに連なるSPの反応である。3つ目は、ふざけているように見えるが、俺の事だから冗談ではないと思っている総理と三枝さん、御堂さんである。そして、最後は、ああっ、コイツらヤバイものに手を出して、死んだな。御愁傷様。っと思っている玉兎達3人である。
そんな中、三枝さんが、
「本当に従魔はその子でいいですね?」
「いいですよ。なっ?」
「にゃ~(いいにゃ!)」
「わかりました。では、模擬戦を始めます。」
すると、リーダー格の男が「ちょっと待て!」っと、言ってくる。三枝が、
「勝敗はどうやって決めるんだ?」
「そっちが勝手に決めていいですよ。」
「ヒヒヒ、いいのか?」
何か面倒な手を考えていそうだが、まぁ、いいか。
「いいですよ。」
「言ったな。じゃあ、こっちの勝利条件はその猫の気絶、もしくは死亡した場合。そして、そっちの勝利条件は俺全員が降参と言うまでだ。」
「そんなことでいいんなら全然いいですよ。」
「ぜっ、全員が降参を宣言しないとお前達の勝ちにならないんだぞ?」
「だから、させればいいだけでしょ?なぁ?」
「にゃー(そうにゃ!)」
「じゃあ、三枝さん。ちゃっちゃと始めちゃってください。」
「わっ、わかりました。では、両者構えて。はじめうっ!」
三枝さんの始めの合図がかかると自衛隊員達は吹き飛ばされていた。ここで、勝敗が決まったと思った三枝さんが俺の勝利を宣言しようとしたので、俺は手を前に出し、
「三枝さん。まだですよ。彼等はまだ降参を宣言してませんから。」
「えっ?でも?」
「彼等が決めたルールですからね。やっちゃっていいぞ。どんな方法でもいいから全員から降参と言わせてこい。」
「にゃ~(了解にゃ!)」
これで、ほぼ勝ち勝確である。俺は大臣達に向き直る。そこには、信じられない物を見たような表情をしたお歴々の顔である。
「それで、どうでした?」
俺の後ろではキジ三毛が、降参と言わせるための拷問染みた事が行われている。っというよりも、人が宙を舞っている。
「ああっ、あっという間に終わってしまって何がなにやら分からなかったぞ。」
総理が口にする。
「そうですね。圧倒的過ぎて話にならなかった。あれで、どのくらいの力なんだ?」
厚生労働大臣の仙道が口を開く。
「そうですね。スピードは全開に近いですね。ですが、攻撃に関しては全然本気だしてないですよ。もし、本気だったら彼等の頭と胴体は永遠にお別れしていたことでしょうね。それに、スキルも殆んど使ってないですし。」
それを言うと全員が黙ってしまう。
「それと、玉兎達に言っておくけど、玉兎達が道を踏み外したらこうなるよって言う警告だから。所謂見せしめってやつかな。それと、1つだけ言っとくけど、今回は従魔に任せたけど、玉兎達の案件は俺やグラム達が直接出向くから今日のように生易しく無いからね。」
それを、聞いた3人は真面目な顔をして首を縦に大きく振っている。これで、一安心かな。でも、俺は元々玉兎の事は信じているから今回の事は必要なかったのかも知れないけどね。
「さて、疲れたから帰るとするか?」
っと、独り言を言うと、玉兎が
「それなら是非家にいらしてください。」
「ちょっと待て!」
そこに「待った」が入った。これは、総理である。
「何ですか?」
「幾つか質問がある。」
「いいですよ。」
「まず1つ、この猫を何匹従魔にしている?」
「そうですね。猫だけだと20かいかない位じゃないですか?あっ、でも何匹か子供を作ってたからもっと多いのかも?」
「おい、猫だけじゃないのか?それに子供だと?」
「そうですね。他に多いのは犬ですね!後は、少数ですけど狸に狐に蛇なんてのもいますね。」
すると、総理は頭を抱える。
「そうか。……それと、2つ目だが、この国を征服しようとは考えてないよな?」
総理がとんでもないことを言い始めたが、まぁ、分からないでもない。これだけの過剰戦力を1人に持たせるには危険が過ぎるからである。
「全く無いです。むしろ、何故そんな面倒なの事しなきゃならないんですか!むしろ、こっちから願い下げです。俺は、今の暮らしが送れれば何の問題もないです。」
「そうか。それを聞いて一安心だ。」
総理は胸を撫で下ろす。そして、他の大臣達も同じような反応をしている。
「では、国に雇われる気はないか?破格の条件を出すと約束するぞ。」
「すみません。今は興味が無いんですよ。もし、何かある時は依頼をしてもらえればやりますよ。ただし、やりたくないことはハッキリと断らさせて頂きます。」
「……うむ。わかった。では、後日何かあればよろしく頼む。」
「他にあります?」
「いやっ、今のところは何もない。」
「じゃあ、もう帰っても良いですかね?」
「手間を取らせた。帰りも言ってくれ。それと、来たとき程の待遇は難しいが金銭面はこちらが全てお引き受けする。」