121.天上院玉兎
俺の名前は天上院玉兎。世界で有数の日本企業の長男である。天上院グループは様々な分野に進出している。そんな俺は今はとある県に来ている。その理由は、強くなるためである。ある日、父さんとその人が2人の女性を家に連れ帰ってきた。1人は幼児であり、5歳位の女の子である。そして、もう1人はその子の姉か母親であろう。兎に角、よく似ているので家族であるだろうと思う。俺は、その人に一目惚れをしてしまった。
だが、気になることは、どうしてここにいるのかと言うことである。事情を聞くと正直腸が煮え繰り返る思いであった。まず、2人が姉妹であると言うことが判明した。そして、年齢も俺よりも年下であることがわかる。ここまでは良かった。それから、今日起こった事を聞く。姉は、キャバクラで働いているようであり妹を1人残して働きに出ていた。そんな姉の元に行きたかった妹は家を飛び出し、姉の元に行こうとした。だが、妹は目に障害を持っておりろくに見えない状態であったらしい。そんな女の子を保護したのが父さんの連れである。父さんとその人は姉の働いている店に行こうとした時に保護し、そのまま姉の働いている店に連れていったらしい。本来、未成年は入れないのでこの場に姉を呼んでもらうことにしたが、それも初めは拒否されたが、事情を話し、何とか納得してもらうことが出来たらしい。その前に、そもそもその高級クラブは高級店であるため、普通はドレスコードが必要なのである。なので、父さんの連れはその時点で入店を拒否されていた。父さんは、その界隈では超有名人であるため、ドレスコードの必要性はない。そんな父さんと一緒に入れば問題は無かったのであろうが、生憎と、父さんは1人で先に入ってしまってたらしい。そして、父さんの連れが待っていると暴力団の若頭が来て、姉を指名したのだ。そして、その暴力団の男が女の人に強引に迫っているのを見ていたが、妹が「お姉ちゃんの声。」と言うので助け、つまり指名をして席を移らせたのである。だが、そんな効果も空しく、暴力団の男は、父さん達の席に乱入してきたのである。そして、妹の目の治療費の引き換えに自分の女になれと言ったらしい。渋々、席を立とうとした姉を父さんの連れが止め、妹の治療費を無償で全額負担すると宣言したのである。これには吃驚である。それな対し、狼狽える暴力団の男であり、部下を呼んで暴力に訴えようとするが部下は来ず、尻尾を巻いて逃げ帰ったと言う。そうそう、姉な絡んでいた暴力団の男の部下達は、父さんの連れは入店時に暴力団の男に絡まれた時に、その部下達を簡単に倒してしまったらしい。そして、奴等が襲ってきてはいけないと言うことで家に来たのが初めての出会いである。
出会った時の顔面は紅潮し胸の鼓動が速くなったのを覚えている。あれを一目惚れをと言うんだと初めて実感した。そして、何をするのかと思っていたら何と父さんの連れは目の見えない女の子の目を見えるようにしてしまったのである。姉は妹が見えるようになったのを見て涙を流しながら喜んでいる。弱冠頬が赤いのは気のせいかもしれない。そんなこんなで、今日は家に泊まることになった。勿論、ラッキースケベな展開はない。
次の日は、爺さんに連れられて父さんの連れは出掛けていった。その時に、爺さんに姉妹をしっかりと送ってやれと言われたので、姉妹を家まで送る。爺さんに言われなくてもやるつもりではあった。だが、ここで、事件が発生した。昨日聞いていた男達が待ち構えており、姉妹をまんまと拐われたのである。直ぐに爺さんに連絡を取ると、2人はすっ飛んで来てくれた。事情を話すと、父さんの連れは直ぐに行動を開始した。俺にはどうしていいのか分からなかった。俺は、どうするのか聞くと、
「分からなければ知っている奴から聞けばいい!」
っと、言われる。確かにそうであるが、誰が知っているのだろうと思っていると。奴等は、暴力団の端くれだ。だったら、その大本の暴力団に乗り込めば知っている奴が居るだろ。その言葉を聞いた瞬間、この人は正気かと思ったが爺さんは何も言わない。そして、本当に暴力団の事務所に突入する。案の定、団員が結構な数いた。勿論、こちらを威嚇してくる。トップを出せと言うと余計にヒートアップしてしまい、ついには拳銃を持ち出す始末である。それなのに爺さんも父さんの連れも顔色1つ変えてない。むしろ、俺に、銃刀法違反の証拠だから写真を撮っておけと言う。俺は言う通りにする。それが更にヒートアップする原因となってしまうのだが、2人はお構いなしである。すると、奥から貫禄のある人が出てくる。何と組長である。そんな人を前に一切引かずに交渉を進める。っと言っても、そんな長くかからず直ぐに必要な情報を入手することが出来た。
俺達は、言われた場所に行くと、姉妹と誘拐犯達を発見する。到着し、直ぐに現場に踏み込む。すると、姉が横たわっており、血が流れている。そして、男が妹に刃物を突き立てようとしている場面であった。俺はもうダメかと思ったが、妹に迫っていた刃が不可視の壁に阻まれてしまったようである。どうやら、父さんの連れの従魔の能力である。そして、2人で犯人をあっという間に制圧してしまう。だが、問題は姉の方である。未だに血が傷口から溢れ出ている。もしかしたら、ダメかもしれないと思い、恐怖した。俺が初めて好きになった女の人がこんなに簡単に死んでしまうのかと。まだ、何もしていないと言う思いで一杯であったが、父さんの連れが俺に救急車と警察を呼ぶように指示を出す。警察は分かるが救急車を呼んでも姉は助からないと思って俺であったが、昨日の妹の一件を思出していると、父さんの連れが手を添えているとあっという間に傷口は塞がっていた。そして、さっきまで顔色の悪かった姉の顔に血色が戻ってきたようである。俺は、とても嬉しかったが、先に言われたことを実行する。それからは、警察の取り調べとか色々大変だったが、考えるいい時間となった。
結果として、俺は何も出来なかった。特に、姉妹が連れ去られる現場に居たにも関わらずだ。そして、姉が重傷を負ったことだ。姉妹が拐われる時に、俺に2人を守れるだけの力があったなら。っと、悔やんでも悔やみきれない。ここで、思い出すのが、爺さんが冷静だったことだ。あの爺さんは相当な修羅場を潜り抜けて来ていると聞いたことがあるが、拳銃を突き付けられても表情を一切変えないのは違和感ありまくりだ。そもそもは、1番下の妹の朔夜が連れてきた男で、今では妹の友達と一緒に「師匠」と呼びそれに爺さんも一緒にダンジョンに行っているらしい。それに、父さんの連れも異常だ。病気や怪我を治せたり、簡単に暴力団員を倒していた。恐らく、探索者としてのレベルが高いのであろう。男としては強さには憧れてしまう。それに、何より姉妹を守れなかった事が1番悔しい。こうなっては俺も弟子入りして強くしてもらおうと思う。
そして、俺は玄関の前で正座をして2人が帰ってくるのを待つ。そして、俺は鍛えて欲しいと懇願するとあっさりと了承してくれた。但し、5月に行われる探索者の試験に合格することである。俺はその日から身を鍛える。まず、走り込みを行い、ジムに通う。毎日のように行っており、正直大学に通うのも忘れるくらい熱中していた。俺が、大学に殆んど行かなくなったのを心配した友人カップルが来てくれた。男の方は藤堂進と新妻あかりと言う。進の方は、藤堂建設と言う日本で1番大きい建設会社の次男である。対して、あかりの方は新妻ホールディングスと言う会社の長女である。長女と言っても兄が2人いる。新妻ホールディングスは、日本でも有数の企業である。そして、俺達は小さい頃から一緒にいる所謂幼馴染みってやつである。そして、2人は付き合っているのである。
「玉兎。お前、大学来なくて何してるんだ?」
「そうだよ。私達寂しいよ。」
「すまないな。ちょっとやりたいことがあってな。」
「やりたいことって何だよ。」
「いやっ、それは………。」
「何だよ。水臭いぞ。俺達の仲じゃないか?もし、玉兎が変なこと言っても絶対に笑わないからさ。」
「そうだよ。私達は玉兎を応援するよ!」
「実は探索者になりたいと思ってるんだよ。」
「「探索者っ??」」
進とあかりは声を揃えて驚いたように言う。
「どうして玉兎が探索者何だよ?」
「そうだよ。私達ならともかく何で玉兎がそんなこと言い出すかな?」
「それは、……ある人に影響を受けたことが大きい。」
「ほぉ~。そいつはそいつはどういう奴なんだ?天下の天上院グループの跡取りにそんなこと吹き込んだ不届き者は?」
進とあかりは憤慨している。それを見た玉兎は慌てて、
「そっ、そういうわけではないんだ。落ち着けって。」
「まぁ、今のは冗談だ。気にするな。」
「そうだよ。冗談!」
「相変わらず仲がいいな。」
「そんなに誉めなくてもいいよ!」
あかりが嬉しそうに言う。
「それで、何でまた探索者になろうとしたんだ。」
進が聞いてくる。
「そうだな。憧れる人が出来たのと、気になる女の子を振り向かせるためかな。」
「「えっ?」」
進と、あかりが驚愕する。
「なっ、何だよ?」
「いやっ、どんな女にも振り向かなかった玉兎が一目惚れしたなんて吃驚して感動してるんだ。」
「そうだね。こうなったら玉兎に協力しなきゃね!」
「あかり。協力ってなにするんだ?」
玉兎が尋ねる。
「そりゃ決まってるじゃない!私と進も探索者になるんだよ!」
「おっ、あかり。それいい考えだな。」
「おいおい。そんなに簡単に決めてもいいのか?」
「いいんだよ。俺達も興味があったしな。」
「うん!そうだね。じゃあ、早速今から申し込みすれば玉兎と一緒に受けれるかな?」
「大丈夫だと思うぞ。でも、本当にいいのか?」
「いいんだよ。それに、ダンジョンに行くにもソロじゃ厳しいだろ?やっぱりパーティーが必要だろ?」
「確かにそうだな。」
「じゃあ、決定な!」
そう言うことで、幼馴染みの藤堂進と新妻あかりとパーティーを組むことになった。
そして、合格発表日に自宅に郵便が届くことになっている。俺は家で今か今かと待ち構えてえる。すると、メイドが手紙を持ってきた。俺は、それを受け取ると封を破り中身の確認をする。結果は合格である。俺はガッツポーズをすると直ぐに2人に連絡を取る。すると、2人とも合格したようであり、3人揃って直ぐに手続きに向かう。合格はしたが正式に探索者になるには役所で申請を行う必要がある。申請にはそれほど時間がかからず、書類を提出して1時間位で探索者証を手にすることが出来た。
「よしっ、これで俺達も立派な探索者だな。」
進が自信満々に言う。
「そうだね。じゃあ、これからダンジョンに行っちゃう?」
っと、軽いノリであかりが言う。
「その前に2人には話しておきたいことがあるんだ。」
「何でも聞くぞ!」
「私も!」
「実は、ダンジョンに行く前にある人に会わないといけないんだ。それで、2人には俺に付いてきて欲しいと思ってる。」
「よく分からんが、俺はいいぞ!」
「私も付いていくよ!それで、どこに行けばいいのかな?」
「そうだな。とりあえず、爺さんの住んでるところだな。」
「それで、玉兎のお爺さんはどこに住んでるのかな?」
「山口県だ!」
「「山口???」」
「勿論、旅費は俺が出す。出来れば、今日中には向こうに着きたいと思う。」
「仕方ないな。今は、昼の2時だから今から帰って準備する!それで、何泊する予定だ?」
進が、玉兎に問いかける。
「そうだな。とりあえずは1週間分と思ってくれたらいい。向こうには爺さんのデカイ家もあるし洗濯とかもしてもらえるからな。」
「了解!じゃあ、4時に東京駅でいいかな?」
あかりが待ち合わせ場所の確認を行う。
「「わかった!」」
俺と進は頷きそれぞれ家に戻り準備を行う。そして、それと同時に爺さんに連絡を入れる。だが、爺さんはダンジョンに行っているようで居ないとのことだったが、駅までの迎えを頼む。
そして、2時間後東京駅で進とあかりと合流して爺さんの家に向かうのである。