116.同窓会8
ブラックオークキングは斬られたマチェットは早々に放り投げて、両手の拳を握りしめている。対する玄羅は折れたミスリルの刀を持ち正眼に構える。玄羅はブラックオークキングがマチェットを持っているときと同じように突っ込んでいく。そして、ブラックオークキングは、その玄羅に向けて拳を繰り出すが、玄羅はこれを簡単に回避し、さらに踏み込む。超近接戦闘にならなけらば、今のミスリルの刀に長さが、半分以下であるため、余計に踏み込まなければならなくなっている。そして、玄羅が折れた刀を使い斬ろうとすると、もう片方の拳が飛んできたのである。これは、玄羅にとって予想外の事である。なので、対応を取るのが少し遅れるが、何とか後ろに飛び攻撃を受け流そうとした。だが、ブラックオークキングのパワーがかなりのものである。なので、全てを受け流すことが出来ないので、それなりにダメージを受けてしまっている。玄羅は膝をついている。それを見て、ブラックオークキングは追撃をしようとする。
「グラム、あいつを結界で閉じ込めろ!」
「了解なの。」
グラムは、俺の言ったとおりにブラックオークキングを結界に閉じ込める。それを見た玄羅は怒りの表情で俺を睨み付ける。
「何をする?」
「今の放置してたら確実に致命傷だっただろ?」
「それでもだ。これは、奴と儂の真剣勝負だ。水を差すのはやめて貰おう。」
「それが、例えじいさんが死んだとしてもか?」
「そうだ!」
「フッ!」
つい笑いが出てしまった。
「何が可笑しい?」
「じいさん。あんたはまだまだ強くなれる。ここが限界って訳じゃない。確かに真剣勝負も大事だと思う。だがな、死んだらもとの子もないと思うぞ。それに、大切な孫娘の前で死ぬのはどうかと思うぞ!」
「そうですよ。私、一生恨み続けますからね!」
「…………それは、怖いの!……じゃが、神月よ!あやつは儂の獲物だ。横取りは許さんぞ!」
「誰も横取りするなんて一言も言ってないだろ?今だってグラムが仕留めようと思えば出きるが、わざわざ結界を張ってなにもしてないのが証拠だ!」
「ほ~う!では、何じゃ?」
「いやっ、じいさん得物がなくなって大変だろうから今回に限り貸し出そうかと思ってさ。」
「なんじゃ、そう言うことなら早く出せ!」
「変わり身の早いじいさんだな。ほらっ!」
俺はアイテムボックスから雷神の刀を取り出し玄羅に投げる。
「こいつは!……儂が抜くと暴走するんじゃないのか?」
「そうだな。だが、……おい、雷神今回だけじいさんに手を貸してやってくれ!」
すると、雷神の刀から誰にも聞こえるように声が聞こえてくる。
『ほっほっほっほっ、嫌じゃ!』
「何でだよ!」
『主は最近、儂を使っておらんじゃろ?』
「何だ?そんなことか!じゃあ、次こういう機会があった場合は全力で使ってやるよ!」
『何っ?本当か?』
「嘘はつないよ!」
『交渉成立じゃ!今回に限りこのじじいに使われてやろう!』
「じゃあ、頼むな!」
俺はそう言うと玄羅のそばから離れる。そして、玄羅と雷神の話が始まる。
「じじいって、儂よりもお主の方が年取っておるように見えるけどな!」
『では、名前を教えて貰おうか?儂の名は雷神じゃ!』
「儂は、天上院玄羅だ!」
『そうか、では、玄羅。一撃で仕留めるぞ!』
「一撃だと?」
『ああ、そうしなければ玄羅の体が持たん!』
「そうか!わかった!」
玄羅と雷神の話し合いは終わったようである。
「じゃあ、そろそろ結界を解くぞ!」
「わかった。やってくれ!」
俺は、グラムに結界を解除するように声かけをし、結界を解除する。
ブラックオークキングは、結界に閉じ込められていたので鬱憤が溜まっていたのであろう。
「ぶもぉぉぉぉぉぉ!」
と、咆哮を上げる。
『玄羅、いくぞ!』
「わかった!」
玄羅は雷神の刀を正眼に構える。玄羅の体がバチバチと雷に包まれる。そして、目にも止まらぬ速さでブラックオークキングに迫り、首を切断する。ブラックオークキングは力なく前のめりに倒れる。ブラックオークキングは、斬られたのが分からないようである。他の面々も玄羅がどう動いたのか分かっていない。かく言う玄羅はと言うと、踞っている。
「お爺様!」
朔夜が駆け寄ろうとするが、その前にハイポーションを持たせ玄羅に使うように言う。玄羅の体は雷神の力に一撃しか持たない。筋繊維がズタズタになっているからである。朔夜がハイポーションを使うことで動けるようになった。
「ふうっ、面白い体験であった!」
「はい?どう言うことですか?」
朔夜が疑問を問いかける。
「まだまだ、高みがあると言うことを実感させられた。」
「はぁ~、そうですか。それはよかったかですね。」
半ば諦めが入っている。
そんなことをしていると、ブラックオークキングは消えてドロップ品と宝箱が出現した。ブラックオークキングのドロップ品は、100キロはあろうかと言う肉の塊と魔石、皮が残った。そして、お楽しみの宝箱を開ける時間である。だが、玄羅は宝箱に興味がないかのごとくレジャーシートに腰を下ろす。
「じいさんは宝箱の中身見ないのか?」
「儂は、遠慮しておく。」
「そうか!」
俺、朔夜、遙、グラム、スノウ、ウルのメンバーで宝箱を開ける。宝箱を開けると、そこには刀の柄が出ていた。それを引き抜くと、見事な黒い鞘に収まっており、見事な装飾が施されている。鑑定は後回しとして、中にはポーチが2つと金のインゴットが大量に入っていた。今回はそれだけである。まだ、鑑定の能力を持っていることは内緒なので四宮さんに渡す前に鑑定をしてしまう。
倶利伽羅
スキル 不壊 炎神 炎纒 進化
炎神
炎神の意志か宿っている。炎神の力を自由に扱うことが出来る。但し、炎神に支配されるとMPがなくなるまで暴れまわる。
炎纒
武器に炎を纒い攻撃力を向上させる。
四宮さんに刀を渡す。
「四宮さん。鑑定よろしくね!」
四宮さんは俺から刀を受け取り、
「わかった。鑑定しよう。」
四宮さんは鑑定をする。すると、四宮さんは固まり、天井を見つめてしまう。
「どうしました?」
「…………コイツはまたとんでもないものだぞ!」
「へぇ~、そうなんですか?」
「お前な!……はぁ~、今さらか!この刀の名前は倶利伽羅と言うらしいぞ。スキルも炎神、炎纒、破壊不可、しかも、進化だそうだ。」
「「「倶利伽羅!!!」」」
同級生から声が出る。
「何だ?お前ら知ってるのか?」
「不動明王が持つ剣だな。ただ、刀だけどな。その剣には、竜が燃え盛る炎となって巻き付くという剣だな。」
っと、安川が答える。
俺は、四宮さんから倶利伽羅を受け取ると、それを玄羅に投げる。
「何だ?神月。」
「じいさんが使った方がいいと思ってな。」
「いいのか?」
「いいんじゃないか?今回のボスを倒したのはじいさんだし、他に刀使う奴いないしな。それに、じいさんの得物がないだろう?」
「それはそうだが、神月の雷神の刀と同様に刀に認められなければならないんだろう。儂が認められるとは思えんがな。」
「多分、大丈夫じゃないか?まぁ、とりあえず抜いてみたらどうだ?」
「ふむ!何かあれば頼むな!」
「了解!」
玄羅は、唾を飲み込み倶利伽羅を鞘から抜く。刀身は赤く熱風が駆け抜けたようである。すると、玄羅の頭の中に妖艶な女性の声が聞こえる。
『ほう、そなたが我の新たな所有者か?』
「やはり、儂では不服か?」
『どうしてそう思う。』
「さっき、雷神を使ったが一撃しか持たなかった。恐らく、お主は雷神と同格の存在であろう。ならば、無理であろう。」
『そうだな。そなたは、まだまだ弱い。わらわを扱うには強さが全く足らぬ。だが、そなたには強くなろうという向上心がある。どうだ?わらわを使ってみぬか?』
「いいのか?儂は丁度、愛用していた刀が折れてどうしようかと困っていたところだ。儂にとっては渡りに船だ。よろしく頼む!」
『わかった。だが、わらわを全力で使うとそなたの体が持たん。なので、そなたが強くなれば成る程、わらわも徐々に力を解放していこう。』
「それで、構わん。儂が強くなれば済むことだ。」
『では、よろしく頼む。……それと、1つ言い忘れたが刀の切れ味は変わらぬ。超一級品だ。』
「そうか。わかった。」
『ではな!』
炎神は、そう言うと刀に戻ってしまったようである。周囲が玄羅の様子を見ているため、俺が質問をする。
「じいさん。刀と話したんだろ?どうだった?」
「ああ、何とか認めて貰えることになったぞ。ただし、このままじゃ儂は弱すぎるらしい。じゃから、これからは今以上に鍛えるぞ!」
っと、意気込んでいると、
「これ以上っすか?年甲斐もないことするもんじゃないっす!」
遙が本音を口にする。それを聞いて玄羅は、
「ほう、この口か?儂の悪口をいう口は~?」
と、遙の頬をつねる。
「なっ、なにふるっふか?」
「まぁ、遙の自業自得だな。……それよりも、じいさんは、刀に認められて良かったな。」
「これからもっと強くなって見せる!」
「楽しみだ。」
玄羅は更なる強さを求める決意をする。
「じゃあ、今回の報酬はどう分配する?」
「儂は何も要らん!何よりも今回一番価値のある物を貰ったかの!」
玄羅は報酬の受け取りを拒否する。
「私は、自分が討伐したモンスターのドロップ品を売却した分で十分です。」
「あっ、私もっす!」
朔夜と遙の2人も自分の分のみで受け取りを拒否する。
「はぁ~、仕方ない。俺も今回は自分達の討伐したモンスターで我慢するかな。」
「それはどういうことっすか?」
遙が質問してくる。
「今回は、被害者が多すぎる。そんな中、1人だけ大金を稼ぐと今の世の中どんな悪評が流れるか分かったものじゃないだろ?だから、金のインゴットは今回の復興の為に国に寄付する。ポーチは恐らくアイテムボックス的な物だから俺が預かっておくよ。ちょっと、渡したい人もいるしね。」
「そうっすね。それがいいと思うっす!」
「そうですね。金のインゴットだけでも、一本10キロはありそうですし、それがざっと見積もっても50本位ありそうですからね。」
「朔夜。今のレートだとどのくらいになるんすか?」
「えっーと、確か……。」
「その質問には私が答えよう。」
声がするほうを見ると、四宮さんが立っていた。
「頼むっす!」
「現在、金はグラムで約1万だな。だから、ざっと見積もって、50億位か!」
「「「50億!!」」」
俺、遙、朔夜の声がハモる。確かに、そのくらいするとは思ってたけど、実際に言われると改めて凄い金額に圧倒される。こうなったらついでにあれも寄付さてしまおうと思う。
「御堂さん。ちょっと、お話がるんですがいいですか?」
「どうしたんですか?神月さん。いいですけど、何か怖いですね……。」
「実はですね。今回、頂く予定だった国からの報酬はなしでお願いします。」
「えっ?いいんですか?」
「良くはないですが、苦渋の決断です。」
「別に受け取っても良いとは思うんですけどね。」
「後が怖いので、今回はなし、っと言うか、今回の復興の支援の寄付でお願いします。」
年々いろんな所から情報が漏れて面倒なことになっている人が大勢いる。なので、そうならないために先手を打っておきたい。だが、お金は欲しい。
「分かりました。では、そう言う手続きをしておきます。」
「その変わりと言っては何なんですけど、今回のドロップ品の買い取りは、2倍でお願いしたいんですけどいいですか?」
「わかりました。多大な寄付をしてもらえるのですからそのくらいの条件は飲みます。」
御堂長官が、了承してくれたので、俺は「よしっ!」と心の声が出てしまうが、それは朔夜と遙の2人も同じ気持ちのようである。ただ、1人だけ玄羅は、倶利伽羅を抜いたり鞘に戻したりと随分と楽しそうである。