115.同窓会7
俺達の戦いを見ているのは何も同級生達だけではない。そう、ダンジョン庁長官の御堂と防衛長官の三枝さんである。
「あの~、三枝さん。あのモンスターは弱いんですかね?」
「そんなわけあるわけないじゃない。簡単に倒しているように見えるからそう見えているだけよ。ゴブリンの時でさえ自衛隊は敵わなかったのよ。オークはゴブリンよりも強いモンスターでしょ。だとしたら、オークは、自衛隊というか、神月さん達以外では相手が出来ないということよ。今現在はね!」
「それだけ、神月さん達の実力が凄いと言うことなんですね。」
「ええ、それに、さっき、神月さんの同級生が言っていたようにあの武器もそれなりのものだと思うわ。」
御堂と三枝の2人がそう話していると、
「そうですよ。」
っと、四宮が話しに入ってくる。
「貴方は何か知っているのね?」
「はい。……以前、神月さんはある刀を鑑定して欲しいと持ってきた事がありました。その刀を鑑定すると、刀の名前は雷神の刀と出ました。どうやら、雷神の力を有しているらいです。」
「雷神ね!そんなもの本当にいるの?」
「恐らくはいると思いますよ。更に鑑定を進めると刀自身が持ち主を選ぶみたいで、持ち主は既に神月さんになっていました。それに、その刀はどうやら認められてない人が持つと意識を乗っ取られ、力の限り暴走をするみたいですよ。」
「そんなことが本当にあるの?」
「それはわかりませんが、鑑定結果に出ている限り信じる他ありません。それに、いつも神月さんが使っている刀の形をした木刀や、さっき神月さんの同級生が話しをしていた金鞭なんてものは1度も拝見したことはありませんね。」
「そうか。これからも、神月の事よろしくおねがいするわ。」
「わかりました。」
一礼して四宮が去っていく。そして、御堂と一緒に俺達の戦闘を見るのである。
わら
ブラックオークが出現しはじめて約1時間が経過すわる。俺やグラム達はまだまだ余裕である。玄羅は、マジックポーションを飲んではいるがまだまだ余裕がありそうである。対して、朔夜と遙は肩で息をしておりそろそろ体力の限界が近いようである。だが、ブラックオークもダンジョンから出現は最初の頃に比べれば段々と少なくなってきたように思う。そして、10分もすればモンスターは出現しなくなった。
「やっと終わったっす!」
「疲れました!」
朔夜と遙は、その場に座りこんでしまう。
「ふむ。なかなかの相手じゃったな。……だが、もう少し足らんな。」
と、以外と元気そうな玄羅である。
「よしっ、最後は誰がやる?立候補は受け付けるぞ!」
「グラムはやりたいの。」
「やりたいぞ!」
「ウルも参加なのです!」
「わん!」
「じゃあ、参加者は、グラム、スノウ、ウル、哮天犬の4人でいいかな?」
「ご主人は参加しないの?」
「俺か?俺は今回はパスかな。スーツだと動きにくくて仕方ないからな。」
そう、今回の最初から最後まで着替えれる場所もなくずっとスーツを来てモンスターと戦っていたのである。特に邪魔だった上着は速攻で脱いだが、ワイシャツやスボン等は脱ぐわけにもいかずっと動きにくいのを我慢してここまでやってきたのである。なので、最後くらいは何もしたくないので今回は観戦をさせて貰おうと思う。
「神月が参加しないのであれば儂が代わりに参加しよう。」
玄羅が、立候補してきた。
「じいさん、やめとくっす。今からの奴はさっきのモンスターよりも明らかに格上で強さもハンパないっす。無駄に死ぬだけっすよ。」
「そうです。やめてくださいお爺様。」
「儂はな、今、人生の中で一番生きていることを実感しておる。そして、今が一番楽しい瞬間でもある。いくら可愛い孫娘の為とは言えここだけは譲れん。」
玄羅の意思は固いようでこれ以上は誰にも何も言えない。
「まぁ、じいさんが参加するからってじいさんに当たるとは限らないからな。じゃあ、朔夜はいつもの頼む。」
ここで、盛大にフラグと立ててしまっていた。朔夜が、いつもの通りアミダくじを作成し、グラム、スノウ、ウル、哮天犬、そして俺の代わりに玄羅がアミダくじの場所を選ぶ。面倒なので、当たりから逆算して行く。結果は、玄羅が見事当たりのクジを引き当ててしまった。残念がる4人に対し、玄羅は目立たないようにガッツポーズをする。
「なぁ?もう終わりじゃないのか?」
高森が俺に質問してくる。
「いやっ、もうすぐ今回のスタンピードの原因でもあるボスが出てくるよ。きちんと気配もしてるしね。」
「気配?」
「まぁ、あと、2、3分もすればわかるよ。」
ボスが到着する前に玄羅以外の全員が下がり、観戦する体制を整える。玄羅は一人ダンジョンの入り口を見つめ、仁王立ちをしている状態である。俺が、言った2、3分すると一体のモンスターの足音が聞こえてくる。徐々に足音が大きくなりダンジョンの入り口からそのモンスターは姿を表す。大きさは、5メートル位あり、全身は真っ黒。体型は太っているオークそのもの。手にはマチェット言われる武器を装備していた。
種族 ブラックオークキング
レベル 32
HP 7000
MP 4000
スキル 剣術8 絶倫9 頑強7 威圧4
そんなブラックオークキングの前に玄羅は立つ。それを見たブラックオークキングは口許をニヤリとしている。こんなに小さい奴に本気を出すまでもないと笑っているようである。そして、玄羅も薄笑いを浮かべている。玄羅の方は、相手を舐めているとかではなく、自分にとってこれ以上ない相手で、心の底から戦いを楽しめる。まぁ、所謂、戦闘狂である。
まず、先手はブラックオークキングである。マチェットを振り下ろす。玄羅は、その動きを見ながら前進しながら半身を捻って回避する。所謂、紙一重である。そして、そのまま前進し、ブラックオークキングの足に向かってミスリルの刀で斬りつける。たが、ブラックオークキングの足は斬れずに逆にキィーーーンと言って刀を弾き飛ばしていた。そこで、一旦距離をとり、玄羅は武器の確認を行う。
「よし、刃こぼれはなした。だが、早めにケリを付けないと刀が持たんな。」
一太刀めは、様子観察も兼ねて刀自身の切れ味のみで斬り付けたのだが、それだけではブラックオークキングに傷を付けることすら敵わなかった。なので、今度は、ミスリルの刀に魔力を込めて攻撃を開始する。ブラックオークキングの攻撃は、単調であり、動きが大きすぎてとても読みやすい。なので、玄羅は一撃も喰らうことなく相手の間合いに入ることが出来ている。玄羅の攻撃は、弾き帰されることはなくなっているが、そこまで深い傷を負わせることが出来ておらず、精々軽い切り傷を付けるのが精一杯である。それを見ていた遙は、
「じいさんを助けないんすか?」
遙は俺に聞いてくる。
「やりたいって言ったのはじいさん本人だしな。それに、じいさんからは一言も助けてくれと言ってはいないぞ。それに、じいさんはとても嬉しそうな顔をしていると思うのは俺だけか?」
「そう言われればそうっすね!」
「だろ?万が一の時はどうにかするから大丈夫だ。」
「わかったっす!」
遙が納得し、朔夜も頷く。
当の本人の心は踊っていた。強敵との戦い。
生と死の駆け引き。そんな戦いを誰にも邪魔にされたくなかったのである。俺達が、そんな会話をしていたとは露知らず戦闘に集中していたのである。
玄羅は数々の攻撃を当てているが致命傷になる傷は1つもない。っと言うよりも、大きな傷を負わす事が出来ないでいた。だが、玄羅は冷静であった。反対に、ブラックオークキングは、イラついていた。理由としては簡単である。ブラックオークキングは、自分の攻撃は全く当たらなく、それに対し相手の攻撃は自分を傷つける。しかも、傷は浅いものだらけである。この事について、ブラックオークキングの中で鬱憤が溜まっていた。
そして、ここで玄羅が動く。玄羅は今まで数多くの傷をブラックオークキングに付けてきた。これは、確かにこれ以上傷を付けられないのは間違いない。だが、これ以上ダメージを与える方法を玄羅は考えていた。それは、傷つけた箇所に寸分違わず同じところを斬る。そうすることで、徐々に傷が深くなっていく。だが、これには技術が必要である。
ブラックオークキングは、増えてくる自身の傷、そして、その傷が深くなっていく事に苛立ちを覚えると共に何故こうなっているなか分析をする。すると、敵は自分の攻撃を上手く回避し、そのまま自分に攻撃をしてける。相手は、自分の攻撃を見切っているということだ。ならば、見切られないようにすればいい。今まで大振りだった攻撃をコンパクトに振るうようにする。すると、相手は驚いている。
玄羅は、ブラックオークキングの攻撃が変化したのを実感する。今までは、攻撃の動作が大きく読みやすい攻撃であったが、マチェットの振りが小さくなっており今までよりは攻撃が読みにくくなっている。玄羅は、何とか回避しているが、振りが大きかった時と比べると所々に切り傷が増えてきている。それに、お互いの武器での衝突も多数見られるようになっている。だが、これは、圧倒的にブラックオークキングの方が有利である。それは、言わずとわかると思うが体格差である。だが、玄羅の方が一枚上手であり、お互いの武器同士が衝突する際にわざと力を抜き自分の間合いに誘い込んでいるようにも見える。ブラックオークキングの剣が剛の剣と言うなら、玄羅の剣は柔の剣と言える。柔よく剛を制す、剛よく柔を断つと言う言葉があるが、今回は前者であると言える。
そろそろお互い限界を向かえようとしている。まず、玄羅は、体力と精神力の限界である。体力は連戦であるので当然であると言えるが、ブラックオークキングの攻撃を見切るのに精神力、そして、一撃を貰ってしまうと致命傷になりかねない攻撃を回避するのにいつも以上に体が緊張しているため、余計に体力の消費が激しいのである。そして、一番限界を向かえているのは玄羅の刀である。俺がミスリルで作った刀であるが、流石のミスリルでもブラックオークキングを何度も斬り付けることで悲鳴を上げていた。俺の鍛冶スキルがもっと高ければ業物以上の物ができていたのかもしれないが、そこまで業物と言うほどのものではない。もってあと2、3振りであろう。
対して、ブラックオークキングは、玄羅にキスは小さいが何度も斬り付けられた事による出血多量である。モンスターも生き物である。自身の血液がなくなると当然体の活動生は低下してくるよ。もし、増血なんてスキルがあれば失った血を作り出すことが出来たかもしれないが、そんなスキルはブラックオークキングは所有していない。だが、ブラックオークキングは玄羅とは違い満身創痍ではあるがまだまだ動くことは可能であるため、どちらかと言えば玄羅の方が不利な状態である。
玄羅とブラックオークキングが対峙しており、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。何かの切っ掛けを探している感じである。そんな中、緊張感にのまれた誰かが紙コップを落とす。その合図と共に玄羅とブラックオークキングは攻撃を開始する。まず、玄羅は相手の攻撃を回避し、何度も斬り裂いた部分を攻撃し、その痛みに気を取られている間に急所への一撃をと考えていた。対して、ブラックオークキングの攻撃は、上段からの振り下ろである。だが、何度か見てきた中で一番スピードは遅かった。多量の出血の影響で攻撃に力が入らなかったのかと思ったが、玄羅が回避をした瞬間、ブラックオークキングは、微笑んだ。罠である。玄羅もブラックオークキングが微笑んだのを確かに見ていた。その瞬間、背筋が氷るようだった。まっすぐ上から下に振り下ろされたマチェットは、途中で玄羅の方に方向転換したのである。それに気が付いた玄羅は急所への攻撃を諦め、迎撃を行う。力はブラックオークキングの方が有利、っであるならばありったけの魔力をミスリルの刀に流し、切れ味を向上させ技を持って相手の武器破壊を狙うしか方法はない。迫りくるマチェットに対し玄羅は思い切り刀を振り抜く。
カランカランと音がなり、マチェットが真っ二つに切断されている。
「よっしゃ~!あとは、じいさんが止めを刺すだけっす!」
遙が興奮した様子で叫ぶ。だが、俺はキチンと見えていた。
「いやっ、どちらかと言えばじいさんの方が不利だ!じいさんの手元をよく見てみろ!」
「「えっ?」」
どうやらマチェットを斬ったせいでミスリルの刀の耐久値を越えたのであろう。こちらも真っ二つに折れていた。