112.同窓会4
最後尾を歩く俺はとても暇である。そんな俺に話をしたそうにしている同級生達がいた。火蓋を切ったのは高森である。
「おいっ、新月。あの娘達ってもしかして女子高生か?それと、あのモンスターは何だよ?」
高森が質問してくる。他の同級生が聞きたいことも概ねそんな感じらしい。後は、どうしてこんなに強いのかと言うことだろう。
「まず、あの娘達は一応高校2年生だって言ってたかな。」
「お前っ、それ犯罪じゃないかよ!」
と、高森が騒ぎだす。
「羨ましすぎるぞ!」「このっ、犯罪者!」「不潔!」「神月、最低だね!」「親が悲しむぞ!」
等々、批判が相次ぐ。酷い批判である。皆の妄想は甚だしいものである。
「言っておくけど、お前らが考えていることは一切ないぞ。」
「「「「「………………。」」」」」
全員が疑いの目線を送ってくる。
「何もしてないって、そんな疑いの目で見るなよ。」
だけど、俺の言うことは信じていないようである。
「師匠とは、変な関係じゃあないっす。本当に鍛えて貰う関係っす。それ以上でもないっす。ねぇ、朔夜。」
「そうですね。」
その話を聞いて殆んどの奴の疑いは晴れたが、何人かは未だに疑いというか嫉妬や羨望の眼差しが見受けられる。そんな中で俺達は順調に進んでいた。オークの数は結構な数になっているがグラム、ウル、朔夜、遙の4人が難なく倒している。まぁ、メインとなっているのはグラムとウルなのだけど。そんな事を思っていると正規のルートで辿り着くことが出来た。正規のルートとは、そもそもダンジョンは駅と併設されているショッピングモールの地下に出来たようである。なので、駅を通ってショッピングモールの地下に入っていく。ショッピングモールにもオークは多数いる。勿論、4人によって駆逐されてる。何人か負傷者が居たのでポーションを使って回復させた。そして、漸くダンジョン支部に来ることが出来た。支部の扉は破壊されていた。そう言えば、途中の壁が破壊されており地上へと出る穴が開いていた。支部の中にはオークが所せましと居た。そして、隅の方にオークが群がってもっている武器を振り下ろしていた。
グラム、ウル、朔夜、遙がオークとの戦闘を開始しようとするので俺は「待った。」をかける。
「どうしたんですか?」
朔夜が聞いてくる。
「いやっ、俺、最後尾を守ってたんだけど、一匹も来なかったんだよね。」
「そうなんすね。お疲れっす!」
「それは良いんだけど、俺以外の皆、経験値獲得して俺だけ収穫がないんだよね。だから、ここに居るオークは俺にくれない?」
「私は、別に良いですけど、1人でこの数の相手は大丈夫ですか?」
「大丈夫。ちょっとした手があるから大丈夫だ。」
俺は、全員の前に出てオークに対する。オークは俺達に気がつき俺達に襲いかかってくる。俺は、アイテムボックスから金鞭を取り出す。金鞭は、二股に分かれた双鞭である。アイテムボックスについてはこの場合、隠しきれないので皆の前で使った。同級生が黙っていてくれることを祈るだけである。俺は、金鞭を振りかぶり、
「薙ぎ払え、金鞭!」
「「「きっ金鞭!?」」」
同級生から疑問の声が聞かれる。まぁ、その理由は理解できる。金鞭とは、封神演義に登場する宝貝の1つである。さっき、哮天犬と読んだときも反応していたが、今回の反応の方が大きい。それは、今は置いておく。
俺は、金鞭でオークを薙ぎ払う。特にオークが固まっている所を最初に薙ぎ払う。金鞭は、俺が振るうとオークが十数体が一気に吹き飛ぶ。だが、金鞭を受けても何とか耐えている個体が数体いる。どうやらそいつらは普通のオークではなく、オークの上位個体であるハイオークのようである。まぁ、耐えていると言っても殆ど瀕死の状態で何とか立っていると言う状態である。そのハイオークよりも余裕そうな個体もいた。こいつはオークジェネラルのようである。オークジェネラルはそれなりのダメージを受けている。あと2、3撃加えれば楽に倒すことが出来る。なので、俺は、支部に居るモンスターを速攻で排除をする。
支部にはドロップ品を落として綺麗さっぱり居なくなった。
「グラム、ドロップ品の回収頼むな。あと、ウルと遙、朔夜はダンジョンからまだまだ出てくるモンスターの方を頼む。それから、オークの中には上位種もいるみたいだから遙と朔夜は無理せずにウルが対応してくれよ。」
「任せるのです!」
「わかりました。」
「わかったすけど師匠はどうするっすか?」
「俺か、俺は少しお話かな?」
俺は顎で示す。その先には結界が張られており、そこには支部の職員や自衛隊の隊員もいるようである。どうやらオークの集団に対しなす術もなく防御に回ったのであろう。もし、俺たちが来なければいずれはオーク達に殺されていたであろう。そんな奴らも目の前のオークがいなくなり安全が確保されたと判断したのか結界を解除した。そしたら、その集団の中から一人の人物がこちらに歩いてくる。年齢は40代後半から50代前半くらいだろう。身長は160センチに届かない位でスキンヘッドでとても太っている男がドンドンと音がなっているかのようである。すると、その男は俺の方を指差して
「貴様は何者だ?まるでパーティーにでも出ていたような格好をして、しかも後ろにもぞろぞろと!それに、何故モンスターを連れている?お前とあの娘達が持っている武器はなんだ?」
俺をはじめとして、全員がポカンとしている。俺はいち早く自分を取り戻し、
「いやっ、質問が多いけど、その前に人に名前を聞くならまずは自分から名乗るのが礼儀なんじゃないのか?こういうの一回言ってみたかったんだよね!」
最後のセリフは、色々なドラマやアニメ、物語などで一度は聞いたことがある台詞である。なので、機会があれば言ってみたいと思っていた。
「なっ、なんだと~!きっ、貴様、この私に対してそんな口を利いて良いと思ってるのか?」
「いやっ、だって俺はあんたが誰だか知らないからな!」
俺がそう言うと男は顔を真っ赤にしてまるで茹で蛸の様な様相に変わる。すると、白川が俺の所に来て耳打ちをする。
「神月、いいか。あの人はここの支部の支部長だ。絶対に逆らったらいけない相手だからな。」
そう言うと、白川は他の同級生の元に帰っていった。
「知らんのか?なら教えてやろう。俺はこの支部の支部長の大海原彰だ。」
俺は、大海原が支部長と名乗ったのを聞いて、思いっきり「はぁ~~。」とため息を吐いてしまった。それもそのはず、コイツのせいで今の現状があるのだから。しかも、この大海原は一切反省をしている気配がない。だが、俺にとっては大金を稼げるのでいいのだが、それを抜きにしても嫌な奴である。
そんな、大海原は俺の大きなため息に対し怒りを露にする。
「貴様、俺に対してその態度は何だ?俺はここで一番偉いんだ!お前の探索者の資格なんてすぐに取り消すことが出来るんだぞ!」
何か、世界が自分のために回ってる感じの言い方はムカつく。特に、自分が権力という力を振りかざしていることに更にムカつく。
「そうですか。じゃあ、出来るなら俺らはここで帰られせてもらいますのであとは責任もって処理してくださいね!」
俺が皆に帰ることを伝える。
「ご主人、本当にいいの?」
「いいんじゃないか?あのおっさんが全部責任をとるんじゃないか?」
俺がそう言うと支部長の大海原は顔を真っ赤にする。
そして、
「お前ら、さっさとどうにかしろ!!!」
大海原が怒鳴った後ろには探索者と自衛隊の隊服を着た数十人が居たが、
「無理ですよ!さっきですら手も足も出なかったんですから!」
「「「そうだ!」」」
どうやら支部の職員のようである。そして、自衛隊の貫禄のある隊員からも、
「残念だが、自衛隊でもあの数の相手は出来かねぬ!」
と、言われてしまい、支部長の大海原は地団駄を踏む。そして、俺に向かって来て、俺の胸倉を掴んだ瞬間、
「神月っ~!今、着いたぞ!儂の分は残しているだろうな~?」
大声をあげながら玄羅が支部に突入してくる。全員が、鳩に豆鉄砲をくらったような感じになってしまった。そして、玄羅の後ろには2人の人物が付いてきていた。
「ちょっと、逸る気持ちがあるのはわかるけど少しは後ろの事も考えてもらえるか?」
「それは、すまんかったの!」
この声の持ち主は、いつも世話になっているダンジョン支部の副支部長の四宮真季である。そして、もう一人が、
「やぁやぁ、遅くなって申し訳ないね!」
と、飄々と支部に入ってくるこの人は、俺がいつも行くダンジョンの支部の支部長の御手洗渉である。そして、御手洗は、大海原が俺の胸倉を掴んでいるのを見ると、鋭い目付きになり、
「貴方がここの支部の支部長の大海原さんですね?」
「そっ、そうだ!そういう貴様は何者だ?」
「おっと、これは失礼。僕は、山口3支部の支部長をしている御手洗渉だよ。」
「同じく、副支部長の四宮真季だ。」
「それで、神月さんを掴んでいるその手は何かな?」
「教育だ!この探索者には指導が必要だ。」
「何を訳のわからないことを言っているのか!真季ちゃん、拘束を!」
「わかった!」
「あっ、それと、神月さん。モンスターの方はよろしくお願いしますね!」
「ええ、わかりました。」
それからの四宮さんの行動は速かった。あっという間に支部長の大海原を組み伏せ、ロープでグルグル巻きにしたのである。俺の方は、グラム達と朔夜、遙に指示を出す。俺も行った方がいいのかと考えるが、今までも何とか対処が出来ており、1人戦闘狂の爺さんが到着早々にモンスターに突っ込んで行ったので大丈夫だと思い、御手洗さん達のお手並みを拝見する。
「おまえら~こんなことしてタダで済むと思っているのか?」
支部長の大海原が大声を張り上げる。
「…………それを言うならこちらの台詞です。スタンピードの兆候は知らされていたはず、そして、兆候があった際には速やかに国に報告するように指示が来ていた。にも関わらず国に報告せずに独自で解決をしようとしたのでしょう。……恐らく、この前のスタンピードの利益を独り占めにでもしようとしたのでしょう。見たところによると、どこぞの自衛隊もトップ辺りも協力しているようですけどね。」
「凄いですね。よくそんなことまで分かりますね。」
俺は御手洗さんの推理に感心する。
「簡単ですよ。何故、今、ここに自衛隊員がいるのかを考えればね。今の状態になっていると報告を受けてからこの場所に来ているということなら外に自衛隊が展開していないといけないはずですが、その気配は全くもって無かった。それに、私たちもモンスターに襲われましたしね。それは、玄羅さんの方に対処して貰ったので何の問題もありませんでした。だが、実際にこの場には、自衛隊員が居るという矛盾。しかも、武器を所持した隊員と言うのは尚更、おかしいですよね?
だけど、彼らには、恐らく上の指示の元、任務として勤めていたのだと思いますよ。っと、言うのが私の推理です。」
「その方の言う通りです。」
声の主の方に全員が視線を向ける。すると、1人の自衛官が前に出てきて敬礼をする。その自衛官は、身長が190位ありそうな筋骨隆々の男性である。隊服を着ていても筋肉の隆盛がよくわかる。そして、武器は、ガントレットの様なものをしている。恐らくは、超接近戦のようである。
「失礼しました。私は、山口駐屯地の榊原佐助曹長です。」
「それは、僕の予想が正しいと言うことでいいのかな?」
御手洗さんが答える。
「その通りです。こちらの支部の支部長と駐屯地のトップが私利私欲の為に今回の事を計画したようです。」
「それを知っていて貴様らは何故こんなところにいる?」
榊原さんが今回の計画を知っていたと言うと、副支部長の四宮さんがキレ始めた。
「上の命令は絶対なので、こうしてこの場にいる次第です。」
「自衛隊員、正しいと思えることはしたくないのか?」
四宮さんが、榊原さんに問う。
「勿論したいです!人々を守りたい、役に立ちたいと思い自衛隊に入隊したんです。私利私欲の道具にされるために入隊した訳じゃありません。」
榊原さんのその言葉に他の自衛隊員も頷いていたり、今まで暗い顔をしていた隊員も顔は晴れやかになっていた。
「…………そうか。よく言った!今からここに居る探索者の神月サイガが指揮を取る。これは決定事項だ。防衛大臣三枝真実子、ダンジョン庁長官御堂蒼真の連名である。承認として私と御手洗、そして、あそこで戦闘をしている天上院グループの顧問、天上院玄羅だ。」
それを聞いて皆が俺の方を見るが俺は全く聞いていない。それに、やる気もない。
「えっ?断りますよ。」
「無理だ!」
「横暴だっ!!」
っと、駄々を捏ねる。