110.同窓会2
電話を切ると、宴会場の入り口から今度は2匹のオークが入ってくる。今、オークの相手をするのが面倒だったが、
「おいっ、神月。次が来たぞ早く何とかしろ!」
と、同じ探索者である。白川から言われる。すると、他の同級生にも同じようなことを言われる。なんか、ちょっとムカつく。上から目線で強制されると人はやる気を失うと思うのは俺だけなんだろか?っと思うので、
「白川!お前も探索者なんだろ?さっき、自慢してたじゃないか?だったらお前が何とかしろよ!」
「えっ、いや、ほらあれだよ…………。」
「いや、あれとか言われても意味分かんないし!早くしないと来るぞ!奴等は待ってくれないからな!」
「…………まだ、オークなんて戦ったこと無いんだよ!ゴブリン系統のモンスターを先輩達と倒しているだけだ!だから、神月。頼む!」
と、白川が頭を下げてくる。
「最初からそう言えばいいのに!…………行け、哮天犬。」
俺がそういうと、アイテムボックスから哮天犬が飛び出して来てオーク2体に対して突っ込んでいく。普通なら体が大きなオークよりも体が小さな哮天犬の方が吹き飛びそうな気がするが、結果は真逆でオークが吹き飛ばされる。しかも、2匹まとめてである。哮天犬が突進した直ぐ後ろにオークが列なって居たので一緒に吹き飛び壁に激突したのである。激突した2体のオークは体をピクピクさせていたが直ぐに魔石とドロップ品を残して消えていった。そして、哮天犬は嬉しそうに俺の元に戻ってくるのである。
「よーし、よくやったな!」
「わんわん!」
俺は哮天犬をモフモフしてやると哮天犬も満更ではないようである。だが、こんなところで遊んでいるわけにはいかない。
「サイガ。その犬は一体何なんだ?探索者じゃない俺が見てもあんなモンスターを吹き飛ばせるなんて思わないぞ。」
「それは、企業秘密だと言うことで。」
「お前なぁ~それじゃあ納得できないだろ。…………だけど、秘密って言うなら仕方ないな。」
どうやら、高森は納得してくれたようである。だけど、他の同級生の中には納得出来ないといった顔をしている人も何人かいるみたいである。
「さてっと、俺はそろそろ用事があるから行くぞ!」
「ちょっと待ちなさいよ。」
俺が、会場を出ていこうとすると引き留められる。その引き留めたのは、吉村未可子である。吉村未可子は、優等生であり学級委員などをやっており俺達の学年では成績はトップである。外見は昔はぽっちゃりであったが今では少しぽっちゃりで昔からしたら痩せてように思う。
「えっ?…………えっと、用事があるから行こうと思うんだけど、何か問題があるか?」
「大有りに決まってるじゃない!この状況を見てみなさいよ!」
吉村が指差した方を見ると同級生達がおり、女性達は不安そうな表情をしており、男達はどうしたらいいか分からず困惑している感じの表情をしている。
「見たけどそれがなにか?」
「サイガ!あんたさっきのモンスターを簡単に倒せるんでしょ?」
「まぁ、あの程度ならな。」
普通のオーク程度なら簡単に倒すことが出来る。
「じゃあ、尚更私たちの事を守りなさいよ。」
「何度も言うようだけど用事があるんだって!多分、市役所か学校辺りが避難所になってるはずだからそこに行けばいいじゃないか?」
「あんた、避難所が何処にあるのか知ってるの?」
「そう言えば…………知らないな。」
他の同級生も知らないようである。元々ここは地元というわけではないので皆あまり詳しくないようである。
「はぁ~、わかったよ。…………但し1つだけ条件がある。」
「「「何?」」」
全員に緊張が走る。俺の言うことに耳をすましている。
「簡単な事。多分、今から怖い思いをすると思うけど文句を言わないこと。それとこれから見ることは極力他言無用。まぁ、俺の名前を出さなければいいよ!」
「それだけなの?」
全員がキョトンとしている。「えっ!?それだけ?」って顔をしている。
「それだけ!何か問題がある?」
「いえ特には。…………皆もいいわね?」
他の同級生からは、「守ってくれるんならな。」「そのくらいなら問題ないわね。」と言う声が聞こえてくる。どうやら全員が賛成のようである。
「じゃあ、行こう「あーーーー!やっと見つけたっす!!」か?」
「はっ?」
俺は聞き覚えのある言い方と声が聞こえてくる。
「やっと見つけたっす!!」
1人の女の子が俺の方を指差して大声でそう言う。
「はしたないですよ。」
大声を出した方の女の子をもう1人の女の子がたしなめる。女の子2人の正体は朔夜と遙であった。
時間が少し遡り前日の5月1日の夕方の教室である。ここは朔夜と遙の通う学校である。
「遙、明日はどうしましょうか?」
「どうとはどう言うことっすか?」
「明日からゴールデンウィークだけど、例年ならどこかに旅行ってことだと思うんですけど私達ダンジョンに夢中で休みの事なんて考えてなかったでしょ?」
「そう言われればそうっすね!本当ならゴールデンウィークもダンジョンに行く予定だったんすけどね。」
「ですよね。師匠が同窓会があるから無理って言われた時はショックでしたね。」
「私達が2人でダンジョンに行くよりも師匠と行った方が色々な刺激があって楽しいっす。あと、何よりもご飯が美味しいのと、あのダンジョンの中でゆっくりまったりできるテントを持ってる事がいいっす!」
「確かにそうですね!」
「それに、階層を一気に移動できる指輪も羨ましいっす!」
「それは、言えますね。…………私達でダンジョンに行くと目的の階層までの行きと帰りの時間を考慮しないといけないのに師匠の場合はその辺りを全く気にしなくていいのがいいんですよね。」
どうやら、朔夜も遙も俺とダンジョンに行く方が普段(俺がいない時)よりも楽だと思っているようである。それに、俺やグラム達が居ることで2人、いや、玄羅を入れて3人。まぁ、じいさんは戦いに餓えている獣と言うか喜びを感じていると言うか所謂、戦闘狂と言うやつだ。
「それで、話しは戻るっすけど、結局どうするっすか?」
「1つだけ気になっていることがあります。」
「何すか?」
「師匠の事です!」
「朔夜は師匠が好きっすね!」
「それは、遙もでしょう?」
「そうっすけど、恋愛感情の好きじゃないっす!」
「そこに関しては私も同じです。って、そう言うことではなくてですね…………。」
「わかってるっす!それで?」
「師匠の同窓会の会場は知っていますか?」
「確か、下関って言ってたっす!」
「そうです。そして、そこにはダンジョンがあります。しかも、同窓会の会場の近くに!」
「それが、どうしたっす?」
「師匠は私達と同じで探索者です!もし、私達が師匠の立場ならどう考えますか?」
「?????」
「自分が未だに行ったことのないダンジョンの近くに用事があって行く、そして、その用事が終わったなら見たこともないダンジョンに入ってみたいと思いませんか?」
「!!!思うっす!!!つまり、こういうことっすか?師匠は同窓会に託けて行ったことのないダンジョンに行こうとしてるって事っすか??」
「恐らく!!もし、私達が師匠の立場ならそうしませんか?」
「するっす!!じゃあ、どうするっすか??」
「もちろん決まってるじゃないですか!現場を押さえて私達も師匠に便乗します!」
「それいいっす!…………でも、師匠がいつダンジョンに行く分からないっす!」
「師匠の身になって考えれば自ずと答えは出てきます!」
「師匠の身にっすか?」
「そうですね!まず、同窓会の当日はないでしょう!移動にも少し時間がかかるでしょうし同窓会が始まる時間が決まっていますから時間を気にしながら探索は師匠の好みではないでしょう。恐らくホテルにでも泊まって次の日の朝が一番怪しいですね!」
「何でホテルに泊まるって分かるっすか?」
「師匠はお酒は嗜まないようですけど食べる方は好きなようです。お腹一杯になった後に動こうと思いますか?」
「思わないっす!それよりも動きたくないっす!」
「師匠も当然そう考えるでしょうね!」
「わかったっす!だから、ホテルでゆっくり休んで英気を養って翌日にダンジョンに行くってことっすね!」
「そういうことです!」
「じゃあ、早いとこ行くっす!」
2人が自分の席を立ち上がり下校をしようとすると、一条愛理が朔夜と遙に話しかける。
「2人で何の相談をしてるの?」
「ちょっと愛理!」
美堂霞が愛理を諌める。
「霞、別にいいですよ!」
「それで、何の相談をしてたの?」
愛理は、朔夜と遙が相談していたことを聞き耳を立てていたようである。
「明日からの話をしてたっす!正確には今日っすけど!」
「そうなんだ!明日から休みだもんね。何処に行くの?2人の事だから海外かな?アメリカ?オーストラリア?フランス?いいな~私も行きたいな~!」
っと、1人で自分の世界に没入していっている。
「愛理、戻って来い!」
霞が愛理の肩を叩くと愛理は現実に戻ってくる。
「「ハハハハハハ(汗)」」
そして、愛理は机をバンッと両手で叩き2人に迫る。
「私達は何処にも行きませんよ!」
朔夜が答える。
「それは、嘘です!さっき何処かに行くって聞こえました!ねぇ、霞ちゃん!」
「ああ、人の話を盗み聞きする気はなかったが偶然にも聞こえて来たな。」
「はぁ~、聞かれてたっすか!愛理のさっきの質問に正確に答えるなら何処の国にも行く気はないっす!」
遙の言葉に朔夜も頷く。
「えっ?でも、何処かに行くって行ってたよね?…………まさか、国内なの?」
「そうっす!」
「えっ?…………天下の天上院グループの娘の朔夜が国内旅行なの?」
これには霞も驚きで目が点になっていた。
「確かに、私の家は天上院グループですが私1人では流石に家族が許可してくれません。例え遙と一緒でもね。」
「そうっす!うちの親も許可しないっす。」
「ですけど、国内であれば家族もそれほど心配しないので!」
「そうなんだ。それで、国内に良いところがあるの?」
「もちろんっす!と、いいたいところなんすけど、今回はちょっと事情が違うっす!」
「どう言うことだ?」
愛理と霞に今回の目的の説明を行う。
「なんだ!それじゃあただの僻みじゃないか!」
「霞!そんな言い方可哀想だよ!」
愛理と霞は、朔夜と遙の説明に笑いを堪えながら感想を話す。
「う~ん、ちょっと違うっす!師匠を放置しておくと勝手に自分達だけ強くなってしまうっす!それは、絶対に許せないっす!」
と、遙は燃えていた。
「そうですね。師匠に恥じないためにも少しでも強くならないといけないですからね。そのチャンスを不意にするつもりはありません。」
朔夜も強くなることに執着しているようである。
「ハハハハハハ、ここに、鬼がいるよ…………その師匠が気の毒だよ。」
「確かにね。」
愛理の突っ込みに霞が同意する。
「……………………あっ、そうだ。私達もゴールデンウィークは予定がないから2人に同行してもいいかな?」
「ちょと、愛理流石にそれは、迷惑だって!」
突然の愛理の提案であったが、それを霞が諌める。
「えっ?別にいいっすよ!ねぇ、朔夜?」
「ええ、いいですよ。ただ、御二人は探索者のライセンスは持ってないですよね?」
「うん!」
「ああ!」
「てしたら、私達がダンジョンに行っている間は別行動と言う形になりますけどそれでもよろしいですか?」
「うん!勿論!!やったね霞。言ってみるもんだね!」
「だけど、私達泊まるホテルも旅費すらも無いんだぞ!」
「そっ、そうだったね。」
「お金がないって事っすか?」
「そうだな。私は、趣味の魚釣りの道工を買ったらあっという間にお金は飛んでいった!」
「私は、ショッピングして服やアクセサリーを買いすぎて金欠なんだよね。…………はぁ~残念。折角、朔夜と遙と旅行に行けると思ったのに!」
愛理と霞は残念がっている。
「なら、2人の旅費は私らが持つっす!いいっすよね朔夜?」
「いいですよ。人数が多い方が楽しそうですからね!」
「えっ?いいの?でも、悪いよ!」
「そうだな。」
愛理と霞は遠慮しているが、
「大丈夫っす!お金なら沢山あるっす!」
「そうですね!」
「いや、お金を持ってるのは朔夜と遙の親であって2人じゃないだろ!私達の事は置いておいて楽しんできてくれ!」
「ちょっと待つっす!確かに私達の両親は金持ちっすけど、さっき言ったお金は別物っす!私達がダンジョンで稼いだ正当な報酬っす!」
「えっ?でも、ダンジョンってそんなに稼げるものなの?藤原君たちはそんなに稼げて無いみたいなこと言ってたんだけど!」
「それは、アイツらが雑魚なだけっす!私達とは違うっす!」
っと、遙は胸を張る。
「そうなんだね。じゃあ、お言葉に甘えようかな。ねぇ、霞ちゃん!」
「そうだな。朔夜と遙が迷惑じゃなければ行くか!」
「じゃあ、決まりっす!」
「では、明日の10時に東京駅で待ち合わせしましょう。ホテルなどは私の方で手配しておきます。」
こうして、愛理と霞も一緒に行くことになった。