107.玉兎の恋
結局、今日は1日警察の取り調べで1日が潰れてしまった。あの後、病院で目覚めた椿さんの証言も取れたようである。椿さんは、取り敢えず何処も異常はなかったらしいが、念のため1日入院することになった。ダンジョン産様々である。そして、俺と玄羅は、帰宅する。玄羅、俺の順に玄関を潜ろうとするがいきなり玄羅が立ち止まり俺は玄羅にぶつかってしまう。
「じいさん!どうしたんだよ?」
「いやっ、なに。」
玄羅の目線の先をそこには玉兎さんが正座をして頭を下げていた。つまり、土下座している状態であった。そして、玉兎さんの後ろには、朔夜や宗吾さん達が困った顔をして居た。
「師匠、実はですね。玉兄ってば帰ってくるなりいきなり玄関に正座しちゃってそこから梃子でも動こうとしないです。私が帰って来て、玄関を潜ると玉兄が居たからビックリしました。それに、何を聞いても答えてくれないんです!」
と、朔夜が話す。
「朔夜の言う通りよ。私の時も全く同じだったわ!」
朔夜の姉のさくらの時も同じだったようである。
「私の時もそうだったな。」
宗吾さんもそう言う。そして、じいさんが問う。
「それで、玉兎。どうしたんだ?」
そう聞くと玉兎さんが、
「神月さん。今回の事で自分の無力さを痛感しました。好きな人一人も守れずに、あんな思いをするのは嫌なんです。だから、俺を強くしてください!」
「う~ん。……………………、いいですよ。ただし、条件があります。」
「条件ですか?」
「まず、手に入れた力はダンジョンの探索に使うこと。一般人には危害を加えないこと。ただし、緊急時には認めます。例えば、今回みたいに大切な人に危険が及んだ場合や自分に危険が迫った場合は力の行使を認めるけど、手加減はする事。要は、国の法律に引っ掛からないようにしろって事だね。」
「わかりました。」
「それと最後の1つ。ある意味これが一番重要。」
玉兎さんから「ゴクッ」と唾を飲み込む音が聞こえてきそうである。
「最後は、自分の力に溺れない事。その為にはいつも初心を忘れずにいること。」
「それで、良いんですか?」
玉兎さんからは何かホッとした空気が流れてくる。
「そうですけど、どうかしました?」
「いえ、最後のが一番重要って事だったのでどんな無理難題を突きつけてくるのかと思ったらそんな簡単な事ですか。それなら、大丈夫です。」
っと、玉兎さんが言うと、玄羅が玉兎さんを引っぱたく。
「なっ何するんだよ!」
玉兎さんは、叩いた玄羅に抗議をする。すると、玄羅が
「そんな軽い考えでは止めておけ。そう言う奴に限って直ぐに力に溺れて自滅していくのが落だ。」
珍しく玄羅が怒りの表情を浮かべ、そのまま家の奥へと消えていった。それを全員が見送ると残った全員の視線が俺に集中する。これは何か言わねばと思い思考する。
「まっ、取り敢えず俺が鍛えるかどうかは後にして、探索者の資格だけでも取っておいたらいいんじゃないですか?」
っと、無難に落としどころを作ったので俺も玄羅に習い楚々くさと家の俺に割り当てられた部屋に行く。それで、何とかこの場は収まった?のかと思ったが、俺の行く先々に玉兎さんが居るのである。しかもその都度、土下座をして「お願いします。弟子にしてください。」ととにかくしつこい。それを、食事の席で玄羅に伝えるが、玄羅は大人しい。俺は、てっきり雷が落ちるもんだと思っていた。すると、玄羅が俺の方に向かって頭を下げる。
「神月。すまんが玉兎の面等を見てやってくれないか?」
っと、俺に言ってくる。
「えっ、まぁ、俺は、いいけど…………。」
「マジですか?ヤッター!ラッキー!」
と、玉兎さんは大喜びをしている。
「但し、神月の言うことは絶対に聞くこと。これが絶対条件だ!」
これが、玄羅が出した条件である。
「じゃあ、俺からももう幾つか言っておくことがあるけどいいかな?」
「はい。」
玉兎さんは、いい返事をする。
「基本的に他人にダンジョンで得た力の行使の禁止。これは、法律にもひっかかります。但し、相手から襲いかかられてきたら出来るだけ無傷で無力化してください。あと、万が一の時は許可します。そして、初心を忘れずにしてください。決して自惚れることがないように!」
「わかりました!」
と、大喜びしているところに1つ爆弾を落としておくとする。
「それと、言い忘れましたけど、もし、それらが守れなかった場合は玉兎さんには地獄を見て貰いますからよく肝に命じていたくださいね。」
俺は、にこやかに玉兎さんには言う。
「……………………えっ???」
さっきまでとても喜んでいた玉兎さんは俺が言ったことに固まっている。
「神月よ。地獄とは例えばどんなものなんだ?」
玄羅が俺に質問してくる。当然、玉兎さんは必死に聞こうとしている。それは、ここにいる他の天上院家の家族も興味津々である。
「そうだな。例えば、モンスターのの群れや中に放り込むとか!」
「ちょっと待て!それは、下手をしたらと言うかレベルが足りなかった場合、死ぬぞ!だが、逆に玉兎の方が強ければ只の経験値にしかならんのではないか?」
「どっちの場合も大丈夫。要は、両方死なせなければいいだけの話でしょ!」
「えーっと、師匠。どう言うことですか?」
ここまで黙っていた朔夜が質問をする。
「要は、回復魔法を玉兎さんを放り入れた群れ全体に掛けてやれば玉兎さんは常時回復し続けるし反対に群れのモンスターも回復するとう言う寸法なんだよ。」
「えーっと、それで意味はあるんですか?」
「回復すると言っても受けた傷の痛みはあるからね。それに、俺のMPが尽きるまでやらせるからね。」
「では、師匠のMPが尽きたら終了と言うことですか?」
「まぁそうなるね。」
「…………ほっ。」
胸を撫で下ろし、少し安心したようである。俺のMPが尽きたら終わり。それは、そこまで耐え抜けば終わりという一縷の望みがあるということである。
「玉兎さん。安心しているところ悪いんだけど、俺は、そんなに甘くないですよ!」
「えっ?」
「MPなんてMPポーションを飲めばいくらでも継続は可能ですよ!」
「…………、そんなぁ~!…………でも、大丈夫です。俺は神月さんの言ったことを守りますから。」
「期待してますよ。じゃあ、探索者になれたら俺の所に訪ねて来てくださいね。因みに明日には帰る予定なので!」
「「「「「「「えっ?」」」」」」」
ここにいる全員が不思議そうに俺の顔を見る。
「えっと、明日帰ります!」
再度、俺は、帰ることを伝えるも皆突然の事で頭がついて言っていないみたいだったが、玄羅が
「急に帰るなんてどうした?もしかして家の居心地が悪かったのか?」
玄羅の発言に全員の目線が俺に集中する。
「いや、ここでの生活はとっても有意義だったけど、いつまでもこの生活はできないし。」
「いえいえ、貴方が望むならいつまで居られても構いませんよ。」
っと、飛鳥さんがそう言ってくれるが、
「その言葉は嬉しいんですが、俺がいつも行っている地元のダンジョン支部の副支部長から用が済んだんなら早く戻ってくるように、東京」に来てから毎日のように電話がかかってくるんですよ。」
ダンジョンのスタンピードがあったことは直ぐに全国の支部に通達があった。その際に、東京駅ダンジョンで数日前から起きていたモンスターの目が赤くなると言う異常がスタンピードの兆候と考えられたので、それが、各支部に起きていなか確認も含めて連絡が行っていた。そして、名前は出さなかったがある探索者が今回のスタンピードを収めたことも伝わっていた。その事が伝わると、翌日に副支部長の四ノ宮さんから、「スタンピードを収めた探索者はお前だろ?」っと電話があったのだ。俺は、シラを切ろうとするが、「そんなことを出来るのはお前しかいない。誰にも言わないから話せ!」と半ば脅されたような感じになり認めさせられる。そして、それから毎日、いつ帰って来るのか電話がかかってくるのである。
「そりゃまた何でだ?」
玄羅が俺に問う。
「爺さんと朔夜と一緒に探索してたときに収穫した野菜を覚えてないか?」
「ええ、覚えています。この前、食べさせて貰ったあの食材ですよね?」
「そう、その食材。実は、結構な値段を付けているのに飛ぶように売れるんだってさ!」
「まぁ~仕方ないでしょうね。あんなに美味しくて目に見えて美白、いえ、若返ったような肌になるんでしたら幾らお金を出しても欲しい逸品です。」
「お義母様の言う通りです。私も同じ意見です。」
と、飛鳥さんと結衣さんは力説している。
「確かに、翌日の肌の張りが全く違ったわね!」
さくらさんも同意見のようである。
「今言われた通りなので早く戻ってきて収穫してきてくれと言われてるんですよ。」
「えっ?でも、それは師匠じゃなくてもいいんじゃないですか?」
朔夜の問いに答える。
「それが、俺じゃないと駄目らしいんだよ。他の探索者だと収穫してから時間が立ちすぎていて少し傷んでいたり、持ち帰りの際に潰れてたり傷がついていたりして駄目なんだそうだ。それにほら、俺の場合は、階層をスキップすることが出来るし、そもそも収穫しても直ぐにアイテム袋の中に入れたりするから潰れたり傷がつくことはないだろ。だから、早く帰ってきて欲しいらしいんだよ。それに、いつまでもここにお世話になってるわけにはいかないからな。」
「師匠。家ならいつまで居られても構いませんよ!」
「朔夜。止めておきなさい。確かに家にはいつまで居られても構いませんが、無理に引き留めるわけにもいきませんからね。」
と、朔夜に飛鳥さんが言い聞かす。
「そうか、それなら儂らも明日には戻るか?のう、さくら!」
「そうねぇ。久しぶりに都会の空気に触れれたからそろそろ帰るのも良いわねぇ。」
「よしっ、神月。儂らも明日帰るぞ!」
「えっ~と、何か一緒に帰る流れになってる?」
「んっ?そうだが?何か不都合でもあるのか?」
「折角東京に来たんだから色々と有名なお土産とかを出来たら色々と買って帰りたいから別々で良いぞ。それに帰りは久しぶりに新幹線に乗ってみたいしな。」
「そうか。それは残念じゃな。…………だが、直ぐにダンジョンの攻略に行くんだから直ぐにあえそうじゃな。」
「まぁ、そうだな。」
天上院家の人達にはもう少しいて欲しいと言われたが、このままここにいたら元の生活に戻るのが大変になる。それに、東京に来てまだ東京観光をしていなかってことを思出し、翌日は朔夜と遙に東京の名所を案内して貰いながお土産を買い漁った。それと、椿さんの退院も見届けることにする。椿さんの側には玉兎さんが居たので早々と退散して観光に戻る。そして、観光を終えた俺は家に置いてきた猫や犬達が心配なのもあるので翌日、また、色々とお土産を買い漁り新幹線に乗り家に帰るのである。