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完結 私は先輩に何を求める?  作者: くと
3学期
26/33

心配事

 紅葉も過ぎ、通学路の木々はその葉を地面に落としている。そんな時期に差し掛かった。



「あれ?」

「どうしたの?」


 いつもみたいにかおりと通学路を歩いていると、前を歩く生徒のポケットから何かが落ちるのが見えた。本人も気づくだろうと思ったけど、どうやらイヤホンで音楽を聴いているようでそのまま歩いている。地面に落ちているものをに目をやるとそれは生徒手帳だった。


「あの、これ落としましたよ」


 仕方がないので生徒手帳を拾い上げて落とし主に話しかける。


「…」


 音楽に没頭しているのか気づく素振りを見せない。


「あの」

「ん?」


 肩を叩いてようやく気が付いた。


「え…」

 

 その顔には覚えがあった。文化祭の日に春先輩に告白した生徒だ。ちょっと動揺したけどもう過ぎたことだし気にすることは無い。うん、落ち着こう。

「えっと、何かな?」

「いや、あの、これ」


 生徒手帳を差し出すと、状況が把握できなかったのか少しの間私を見た後ポケットを確認した。


「あ、ほんとだ。ありがとう」

「いいえ、それでは」

「あ、ちょっと待って」


生徒手帳を手渡してその場を離れようとしたのだけど、どうやら何か用があるみたいだ。


「君、名前は?」

「は?」


 仮にも同じ学校の先輩である人に対して失礼な言葉が出てしまった気がする。でも急に名前聞かれたんだから仕方がない。


「俺、大森和也。君は?」


 そんな私の反応を気にしていないのか話を先に進める。正直めんどうだ。でも、さすがにこれ以上失礼な態度をとるのもまずい気がする。


「高田です」

「そっかありがとう。高田さん。それじゃあ」


 そう言ってまたイヤホンを付けて先へと歩いて行った。


「今のって春先輩に告白した人だよね?」

「多分そうだね」


 話を終えると後ろにいたかおりが話しかけてきた。


「名前聞かれてたね」

「なんなんだろうね」


正直、面倒だった。


「また話しかけてきたりして」

「それはないでしょ」


ありえないとは思うけど、もしそうだったらめんどくさすぎる。




「あ、高田さん」


 放課後、部室へ向かおうと準備をしていると教室の入り口から私を呼ぶ声が聞こえる。声の聞こえた方へ顔を向けると森?先輩が立っていた。ほんとうにまた話しかけてきたよ。無視するわけにはいかないし、面倒くさい。


「なんでしょうか」


 こっちに手を振って来るけど、早く部室に行きたい。


「朝のお礼がしたいんだけど」

「気にしなくて良いですよ」


 というかむしろ、いらない。


「そんなこと言わずに」

「急いでいるので、失礼します」


もう本当に面倒なので無理やり話を切り上げて廊下へと足を進める。


「ねえねえ、高田さん」

「ん?」


 教室を出て少し歩いたところでまた声をかけられる。振り返ると同じクラスの普段はあまり話すことのない女子生徒が居た。


「今のって大森先輩だよね?」


そうだ、森じゃなくて大森だった。


「知ってるの?」


同じ部活に所属してたりするのだろうか、それとも有名な人なのだろうか。


「もちろん、かっこいいよね」


凄く目を輝かせながら気持ち強めに話しかけてくる。


「そうなんだ」

「どこで知り合ったの?」

「いや、私あんまり知らないんだけど」

「そうなの?」

「うん、たまたまあの人の落とし物を拾っただけ」


それを聞くと、途端に興味なさそうな表情になる。すごくわかりやすい。


「そうなんだ、ごめんね引き留めちゃって」

「いいよ。それじゃ」


これでやっと部室に行ける。


「サキー」

「何」

「え、なんか怒ってる?」


いけない、いけない。ついつい冷たい声がでてしまった。


「ごめん、どうしたの?」

「いや、また声をかけられてたから何があったのかなって」

「あー、朝のお礼がしたいってさ。断ったけど」

「わざわざ?大げさだね」


ほんとそうだ。その場でお礼を言うだけで済む程度のものだと思うのに。


「やっぱりなんかあるんじゃない?」


 確かに何か別の理由があると考えればお礼がしたいと言ってきたことにも納得がいくのかもしれない。問題はその理由。わざわざ私に接近する理由は何なのだろうか。


「もしかして…」

「なにか心当たりがあるの?」

「春先輩が目的かも」


 ぱっと思いついたのは春先輩のことだ。さっきの人は春先輩に告白したことがある。もし、まだ好きなら何とかしてもう一度近づきたいと考えるかもしれない。


「どういうこと?」


 とりあえず思いついたことを話してみた


「それとサキに話しかけるのには関係があるの?」

「どこかで私が春先輩と仲のいい後輩だってことを知って、私をきっかけにまた春先輩に近づこうとしてるのかも」


 私に話しかけてきた理由としてはやっぱり春先輩というのが納得がいく。


「うーん、なんかまわりくどいきがするけど」

「じゃあ他にどんな理由があるの」

「それは…」


 かおりは腑に落ちないみたいだけど、自分としては警戒すべきだと思う。


「とりあえず気を付けなよ」

「わかってる」

「春先輩のこともそうだけど、サキ自身もね」

「まあ、そうだね」


 私をきっかけに春先輩と近づこうとしているんだから、私自身も気をつけてないといけない。






 部活はいつものようにお喋りをして、お菓子を食べて、勉強をしてそんなふうにしてまたお開きとなった。

 家について扉を開ける。家の中は真っ暗で、ただいま。と言っても返答がなかった。どうやらお母さんは出かけているみたいだ。

 自分の部屋に鞄を置いて着替えを済ませ、リビングでごろごろ。


「ん?」


スマホをいじっているとかおりからメッセージが届いた。


(すまんな。)


 なんだこれ。まるで意味が分からない。何か謝らないといけないようなことでもしたんだろうか。だとしても、すまんな。は謝る気あるのだろうか。


「ただいまー」


かおりに返信しようとしているときにお母さんが帰ってきた。


「おかえりー」


身体を起こしてお母さんの方を見る。その手には何かの紙袋が提げていた。


「お菓子買ってきたからお茶にしよう」


そう言って台所で準備を始めるお母さん。別に何もおかしくないいつもの光景。だけど、いつにもまして機嫌がいいというか、にやにやしてるというか、

 リビングの机に置かれた紙袋を見ると、学校の最寄り駅に店がある和菓子の店の名前が書いてある。


「学校に用事でもあったの?」

「それについてはお菓子食べながら話すから」


相変わらずにやにやしながらこっちに話しかけてくる。なんかもう不気味だ。


「ほれ、準備できたから食べよ」

「はーい」


紙袋の中は団子だった。うん、普通においしい。


「なんか学校に用事あったの?」

「ちょっとPTAの会合があって」

「あー」


 高校でもそういうのはあるなんて大変なんだなと思う。前にPTAの会合は面倒って言ってたし面白いものではないのだろう。だというのにこの上機嫌は何故なのか。


「そんなことはおいといてさ」

「ん?」


すこし間をおいて、楽しそうというかからかうような笑みを私に向けてくる。


「咲にも、春が来たんだね」

「うぇ?」


なんか変な声が出てしまった。春という言葉を聞いて、春先輩のことを言われたのかと思ってびっくりした。でも、普通に考えて「春が来た」という言葉の意味は春先輩のことじゃない。


「…」


いや、どっちみち意味変わらないんじゃないだろうか。春が来たって、要は恋をしたとか恋人が出来たとかそういう意味なわけで……あれ?ばれてる?


「なんのこと?」


 とりあえず、話の意図を聞いてみよう。もしかしたら全く見当違いのことを言い出すかもしれない。その時は笑ってやろう。


「いやー帰る途中でかおりちゃんに会ったんだけど」

「うん」

「咲に彼女いるの?って聞いたら、はい!てさ」

「うん?」


ばれてるじゃん。てか、かおりも何しゃべってくれているんだ。


「あ、かおりちゃんに聞く前からわかってたから、確認のために聞いただけ」

「え、なんで」


なんでわかっていたのか。今まで家でそんな話なんてしたこと無かったのに。


「もしかして、この前に春先輩が遊びに来た時?」

「あー、うん」

「見たの?」


すっと目をそらされる。もうそれが答えだ。


「何を見たの」

「みてないよ、きこえただけだよ」

「何を?」

「私が好きなのは春先輩だけ。って」


ばっちり聞かれてるじゃん。なんでよりによってそんな恥ずかしいとこを聞かれたのか。


「お熱いねー」

「うるさい」


 かおりに言われても軽く流せるけど、親からからかわれるのは予想以上にダメージが来る。というか全然気にしてない雰囲気だけど、何も思うことは無いのだろうか。


「いいの?」

「何が?」

「その…女の人と、恋人になったこと」

「べつに良いんじゃない」


随分んとあっさりした反応だ。かおりもそうだけど私の周りには特に気にする人はいないみたいだ。親ならもしかして反対するかもと思った私の心配は何だのか。


「そんなあっさり認められるなんて思わなかった」

「別に咲がそれでいいなら私はいいって」


そういうものなのか、少なくともお母さんは良いらしい。


「まあ、お父さんはどう思うか分からないけど、ほっといたらいいって。というか面白いからばれるまで黙っとこう」


自分の知らないところで雑に扱われているお父さんが少し不憫に思える。


「で、どういうとこが好きなの?」

「なんで言わなきゃいけないの」

「えー、恋バナしようぜー。華ちゃん可愛いし優しそうだもんねー」


春先輩のことを褒められるのは嬉しいけど、なんかだんだん面倒くさい絡みをしてくるようになってきた。


「じゃあさ、どこまでいったの?」

「どこまでって?」

「キスはしたのかってこと」

「え、いや何言ってんの」


軽いノリで何てこと聞いてくるんだこの人は、というかあの時、お母さんが来なければもしかしたらできたかもしれないのに。


「まだだけど…」

「けどー?なーにー?」

「うるさい」



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