空かみぞくのアーヤとルーヤ
体が軽くなったら(ダイエット的にもこの際良し!)嬉しいですねぇ。
誤字を報告してくださった方、ありがとうございました!
ここは、ある国に広がる森のおく。きりたったがけに、高い塔がたっていました。五十かいもあるような塔で、そこにはアーヤとルーヤという姉弟が住んでいます。この塔を訪れるものは、ときおり姉弟のためにパンやチーズやリンゴ、洋服などを荷馬車で運んでくるハンスじいさんだけ。
というのも、空いろのかみで(そんなかみいろは町の人には一人もいなかったのです)、一度も切ったことのない、くるぶしまでの長さをおどろく者がおおぜいいたからです。そのかみは、風もふいていないのに、ふきあげられたように頭のまわりに広がっていました。町の人々は、そんな二人を「きみょうだ」とうわさし、ちかよってこなくなったのです。
「ねぇ、ねえさま」
「なあに?ルーヤ」
「かみをきりたいの。ぼく、いつか見た本にのっていた騎士さまのようなかみ型にしたい」
「だめよ。お父さもお母さまも、かみをきってはいけないと話していたでしょう?」
その証拠にこの塔には、ハサミやナイフといったかみをきるものは一つもありませんでした。
「どうして?どうしてかみをきってはいけないの?」
「それは……」
そういうと、アーヤはぴょんとジャンプしました。かみが何かに持ち上げられるような感じがして、空中でバレリーナのようにくるくるまわることができました。
「私たちがこんなに体がかろやかにうごくのは、きっとこのかみのおかげだからよ。」
トントントン。
塔の入り口のドアノッカーがなりました。
「きっとハンスじいさんだ!」
ルーヤが扉を開けると、ハンスじいさんがニコニコしながら
「今日はミルクをもってきましたよ」
とミルクのびんをテーブルに置いてくれました。
「ねぇ、ハンスじいさん。お父さまとお母さまはいつ帰ってくるの?」
「ルーヤぼっちゃん。だんなさまとおくさまに会いたいのですかい?」
「あいたいにきまってるよ」
「アーヤじょうちゃんは?」
「あいたいにきまってる」
「じゃあ、本を読んでみたらどうでしょう?本は思わぬヒントをくれるといいますから」
ハンスじいさんがかえったあと、アーヤははしごをもってきて、かろやかにトーントーンとのぼって一番上のたなから本を取り出し、ぴょんととびおりました。スカートがめくれましたが、そんなのおかまいなし。
お母さまが
「どうしても父と母にあいたいときにひらきなさい」
と言っていた本があったのをハンスじいさんのおかげで思い出したからです。ぱっぱっとほこりを払って、アーヤとルーヤは読み始めました。
『空かみぞくは 空色のかみをしていて 空を飛べる』
「空かみぞくって?」
「たぶん私たちのなかま」
「ぼくたち空を飛べるの?」
「今までのことをかんがえると、十分ありえるわ」
「どうやったら飛べるの?」
『空を飛ぶには 塔の橋の先までいき 谷の主の加護をもらうこと』
「谷の主?そんなことはじめてきいたわ」
「ねえさま。『かご』ってなあに?」
「まもってもらうことよ」
「とにかく塔の上にいってみようよ」
「まって。あと一行何か かいてある」
『空を飛んだら 南へむかうべし』
「南?南にいけば母さまたちに会えるの?」
「たぶん、そうだわ。塔の上に行けばきっとわかる」
二人は、パンとリンゴとミルクを少し用意して、ふだんは近よることもない塔の上に続く階段の扉を開きました。ランプに火をつけると、アーヤはおもわず顔をゆがめます。
「すごくかびくさい」
「うわぁ、姉さま。かみの毛にくもの巣がついたぁ」
「きゃっ、ねずみ!」
五十かい分くらいある階段ですが、空いろのかみの力のおかげで、とーんとーんと元気よくのぼっていけます。とちゅうさすがにつかれて、いちど休憩をはさみましたが、子供のあしではむすかしい階段を二人はのぼりきりました。
「やったー!おくじょうだ!」
「じゃぁ、このとびらをあけるよ!」
ビュー。二人の体を押しもどす強い風がふきました。扉からまっすぐに木でつくられた橋がかけられていますが、とちゅうで終わっていて、しかも手すりはなく、とてもわたれそうにありません。
目を下に向けると、とおく真下に、谷川がながれています。
「ねえさま。ここでなにをするの?何かするなんてむりだよ」
「でも、お父さまとお母さまに会うにはやるしかない」
言葉はいさましくとも、アーヤも顔が真っ青で、ぶるぶるふるえています。
「橋があるということはわたれということよね」
「こわいよ、ねえさま」
「お父さまとお母さまに会うためよ」
とアーヤは自分たちを励まして、ルーヤは半分なきながらも、二人はそろりそろりちょっとずつ、橋に足をかけました。
ビュービュビューン。もう一度先ほどより強い風がふいて、アーヤとルーヤは体ごと持ち上げられ、ルーヤが足を踏みはずしてしまいました。
「うわぁーー」
「ルーヤ!」
(お父さま、お母さま、力をかして!)
アーヤはむがむちゅうで橋をわたって谷底へルーヤをおいかけて、飛びおりました。
アーヤが怖くても目を見開いて、ルーヤをとらえたその時です!
ビュービュービュビューン。ズゴゴゴゴオオオオオ。谷底から大男の顔がぬんとあらわれたではありませんか!そして、大きく息を吹きかけたのです。
ブオウオン、ブオオオン、フーーーー。
「きゃーーー」
アーヤは空中高くまいあがりました。目を開けると、空いろのかみから風がふいて、ひゅるるんひゅるるん浮いています。見ると、ルーヤも空中にいます。
「ルーヤ!良かった」
「ねえさま!僕たちとんでいるよ!」
「ほんとね。とんでいるわ!」
アーヤとルーヤは確かめるように、何度も塔のまわりを行ったり来たりしました。
「じゆうにすきなところへいけるね」
「ルーヤ、このままお父さまとお母さまのところへいきましょう!」
「うん!」
「「みなみへ!」」
アーヤとルーヤは思い切り笑って、南をめざしたのでした。
おわり
お読みくださり、ありがとうございました!
連載にしようか短編にしようか迷ったのですが、いつ続きが書けるか分からないので、短編にしました。
あとから連載に直せたらよいのになぁなんて、ちょっと思いました。
でも、いつも快適に使用させていただいて、運営様には感謝です!