もめんください
母親と娘が夕食の準備をしていた。
娘はまだ幼く、舌足らずなところがあったが、まっすぐな子に育っていた。
ある時、母親が娘にいった。
「今日は少し、お姉さんになってもらいます! 」
「おねえさん? 」
うんうん、と母親はうなずき、財布から小銭をいくらか渡した。
「これで、お豆腐を買ってきてほしいの」
外からと~ふ~と気の抜けたラッパの音が聞こえてくる。
「わかった。じゃあ行ってくる! 」
娘は勢いよく扉を開けていってしまった。
「あ、まだ何買うか言ってないじゃん! 」
娘の行動力があるところはいいところでもあったが、早とちりをするという悪いところでもあった。
「まったくもう……ちゃんと買えるかしら」
追いかけようとも思ったが、夕食の準備で手が離せなかったので、娘を待つことにした。
「ただいま! 」
しばらくして娘が帰ってきた。
「あ、話を聞かずに出て行った悪い子が帰ってきたわね~」
むに~っとほっぺを引っ張る。
「うぃへ~ごめんなざい~」
「もめん豆腐を買ってきてほしかったんだけど、ちゃんと買えた? 」
どすっとビニール袋を差し出してにこっと笑う。どうやらちゃんと買えたようだ。
「すごいわね、よくもめん豆腐ってわかったわね。たくさん豆腐があって迷わなかった? 」
娘ははてなマークを頭に浮かべていた。
「うーん、よくわかんなかった! 」
でも……と娘は続けた。
「なんか、ごめんくださいって言ったら買えたよ! 」