呪殺令嬢
※ざまあはちょっとだけグロいので残酷な描写ありは保険ですわ。苦手な方はゴーホームお願いいたしますの。
「ジュディ・オックスフォード公爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する! またフラウ・ミルキーウェイ男爵令嬢を貶め! 数々の嫌がらせのみならず命をも狙った罪でこの王国から追放する!」
ちょーん。
と言うわけで私、オックスフォード公爵家長女ジュディは、とても良くある感じで婚約者であったファールス王国の第一王子ディック・ファールスから無実の罪を着せられてしまい、生まれ育った愛着ある王国を着の身着のまま追放されてしまいましたわ。
「いや、全然冤罪じゃありませんから。ガッツリあの男爵令嬢を苛め倒して、踏みつけた挙げ句なんなら顔に唾まで吐きかけてましたよね?」
「当たり前ですわああああああっ!」
何もかも失った私に、それでもついてきてくれた執事のセージ・アベノーが入れてきた突っ込みに即座にぶちギレましたわ。
「人の男に所構わず粉かけてくるスベタに嫌がらせして何が悪いと言うんですのおおお!?」
あ、の、淫、乱、がああああああっ! ド許せぬ。入学してこっち、あの無駄に膨らんだ胸の駄肉をことある毎にディック王子に押し付けやがってくれたあのクソビ○チいいいぃぃぃ! もぐ。何処をとは言いませんけどね!
「あー、ディック王子も年頃の男の子でしたからねえ……」
「黙らっしゃい!」
私のとても清楚で慎ましい胸部を見て憐れむんじゃありません! お前ももぐわよ!
まったく、あの売女も唾で済ませたのが間違いでしたわ! ワンちゃんの落とし物でも顔に擦り込んでやれば良かったですわ!
「ディック王子もディック王子ですわあああ! 私という婚約者がいながら、あんなパープリンな脳味噌花畑女にホイホイたらしこまれて! 王子の頭も空っぽですわあああ!」
王子の立太子パーティーで婚約破棄をやらかしてくれた挙げ句、こんなドレスのままか弱い婦女子を国境外の森に放り出すとか! 死ねと言ってますわよねえ!? もぐ。絶対に。何処をとは言いませんけど。
「完全に自分に酔っておられましたねえ」
「お母様より産まれて十五年……! これ程の屈辱は初めてですわああああ!」
まったくデキル執事のセージが最低限の物を揃えつつ追いかけてくれなければどうなっていたことか……この忠義。絶対に忘れなくてよ。
「それでこれからどうしましょうか。いくらお嬢様が才気煥発な才媛と言えども、流石に身一つでは復讐もままなりませんし、旦那様奥方様の支援も表立ってはなかなかできませんから……」
「必ず目に物を見せてやりますわ! ……お前と私が居れば時間はかかろうとも不可能ではありません!」
「お嬢様!」
目を輝かせるセージ。ふふ。無一文が何だと言うの? 例えドレス一枚どころか裸で追放されたとしても、貴方が側に居てくれるなら私には恐いものなど何もありはしませんのに!
「それはそれとして、どうにか今すぐあのクソ」
「お嬢様」
「んんっ! 失礼! ク○どもにちょっとでもやり返せないかしら」
セージに怒られてしまいましたわ。流石にク○はお下品でしたわね。○ソは。クソはクソですが、これが貴族的な婉曲表現ですのよ?
「やり返すと言っても……ははは、なんなら呪いでもかけてみますか? お嬢様は魔力も強いしもしかしたら」
「それですわあああ!」
「ええええ……マジですか……」
マジ、マジ。大マジですわ。さあ、やるわよセージ!
「……という訳で、何とか用意を整えてみましたが」
「ふーん? これがセージの故郷の東方呪術? 面白いのね」
「有り合わせですけどね」
お父様お母様が、セージにこれだけでもと渡してくれた馬に載せれるだけの手荷物と、周りの自然物しかありませんでしたがそれなりに揃うものですわね。
「それにしても純白のドレスなんて……ふふふ。お母様ったら……」
ドレープも美しいAラインのシルエット。身体をくるりと一回転翻せば、スカートのフリルがふわりと花弁のように広がりますわ。なんて素敵!
「いつかお嬢様が今度こそちゃんとした男に嫁入りする時にと……こんなことに使ってしまって申し訳ありません」
「良いのですわ! 服は着るためにあるのです! いつか遠い日ではなく、今の私に合わせて作られた衣装ですもの。どう? 似合うかしら?」
セージのエキゾチックな黒い瞳に称賛の光が浮かぶ。
「……これ以上なく。女神と見紛うばかりです」
「ふふふ! ですわよねですわよね! オーホッホッホ!」
古式ゆかしい白装束に身を包んだ私はさぞ美しいでしょう! セージだけに眼福を許しますわ!
「それで金輪……が無いのでこちらの燭台を頭に着けていただき」
「悪魔の角のようね! 呪いに相応しいわ!」
「鋭い。故郷では鬼と言いますが、そう言う妖物になりきるための言わばコスプレです」
「なるほど!」
理解しましたわ! 「類似」は呪術において重要ですものね。私自慢の金のお髪に燭台をくくりつけましたわ。私、二本角ですのね。とても強そうですわ!
「そうしましたらこちらの藁で作った人形に五寸釘……も無いので蹄鉄用の短い釘ですが、これを打ち付けてください。指にはお気をつけて」
「わかりましたわ! あら? 人形が二つあるのね?」
「勿論、色ボケ王子とアーパー令嬢の分でございます」
「良くってよ良くってよ! 流石セージはわかっていますわね!」
当然二人ともきっちり呪いますわ!
「仮眠も取りましたし、もうすぐ月の位置から見て午前三時……丑の刻になります。釘を打っている所は人に見られてはなりませんので、背を向けておきますが何かありましたらお呼びください」
「セージ」
「はい」
「本当にありがとう。こんな馬鹿な八つ当たりにも付き合ってくれて。これを終えたら私、きっちりと前を向いて生きていけそうですわ!」
「勿体ないお言葉です」
「これからも頼りにしていますわ! では丑の刻参り! やりますわよおおお!」
「アワーオブザオックスが適当かと」
細けえことは構いませんのよ!
「では先ずディック王子から……そう言えばディックってスラングでチ○ポって意味ですわよね? あの色ボケ王子に相応しい名前ですわ!」
きっと生まれたときから浮気者になるのが定められていましたのね!
「せめて男性器と言いませんか」
「あんな男、おチ○ポ野郎で充分ですわあああ! うおおおお食らえこの腐れマラがああああっ!」
カーン! 夜の静寂を破る高い鎚音が森に木霊いたしました。一発では終わらなくてよおおおっ!
「恨み晴らさでおくべきか! 怨み晴らさでおくべきか! ウラミ! ハラサデ! オク! ベキカアアアアアアアッ!」
カーン!
「GEEEAAAAAAAAAAAAth!!!」
カーン!
カーン!
カーン! …………。
「ふうっ! 良い汗かきましたわ!」
「お疲れ様ですお嬢様」
哀れディック王子を模した藁人形へ、股間にまんべんなく刺した無数の釘が球状になるまで怒りを叩きつけてやりましたわ!
ああ、何て爽快な気分。額に浮かぶ汗すら爽やかですわ。頭の燭台に蝋燭ぶっ刺して火ぃ着けてますからとても熱いですけど、私の怒りの炎はこんなものじゃありませんことよ! 私は、炎よりも爛々と輝く血走った碧眼をもう一つの人形へと向けましたわ。
「さあて……次はこっちのオッパイオバケの番ですわあ……んぎぎぎぎぎ!」
「単純に大きな胸への嫉妬になっていませんか?」
「ドやかましいですわ!」
あのウシ乳がああああっ! あら、丑の刻参りですから呪うにはピッタリかもしれませんわね? ともかくも股間が悲惨な王子人形の横に並べて……。
「ああああああっ! オッパイか! オッパイなのですか! あの無駄な脂肪の何が良いと言うんですの! どいつもこいつもあのデカイだけの胸に目を奪われてええええっ!」
カーン!
「お嬢様、落ち着いてください。フラウ男爵令嬢と言うより巨乳への呪いになっています」
「これが落ち着いていられますかですわあああ! あんな歳を取ったら垂れるだけの駄肉にいいいいい! きいいいいいいっ!」
私は、歯を食い縛り目を血走らせて怒りを金槌に籠めますわ!
カーン! 全力で叩きつけた腕が痺れますわ! でも今はその痛みすら怒りを促す着火材ですのよ!
「もげろ! 潰れろ! 取れろ! 爆ぜろですわあああ! くまかかかかかかっ!」
カーン!
「USHYAAAAAAAAAAA!」
カーン!
カーン!
カーン! ……………………。
「はあっ……はあっ……はあっ……今日はっ……はあっ……これくらいで……はあっ……許して差し上げますわ……」
私達の呪いは明け方近く空が白む頃まで続きましたわ。疲労困憊ですが、やりきった満足感でいっぱいですわ。私、今、生きていますわ……!
「冷たい飲み物とタオルを用意しておきました」
「気が利きますわね! 流石セージ! あーっ! 一仕事終えたあとの水は美味しいですわあああっ!」
セージが魔法で冷やしてくれたタオルも火照った肌に心地好いこと! 本当にセージはデキル男!
「あとは七日七晩続けますので残り六回です」
「わかりましたわ! 一回でもこんなに気分が晴れるなんて! 呪って正解でしたわ!」
「お嬢様がご機嫌であれば、私も嬉しく思います」
「呪いを教えてくれたセージの分までしっかり呪いますわね!」
「ありがとうございます。さ、疲れたでしょう。こちらに横になってください」
「ハンモック! 子供の頃に冒険小説で読んで以来憧れでしたのよ! セージ! お前はなんて素晴らしいの!」
ヒャッホーイ! セージがいるならあの冒険小説のように無人島でも何の問題もなく暮らせますわね!
「以前にそうおっしゃっていたので作り方を調べておきました」
「素敵ですわあああっ! 私の生涯のパートナーはやはりセージにすべきですわね!」
「え?」
「ふふふ! セージ? 私、追放されましたからもう平民なのよ? 結婚も何のしがらみもなくできますの。私は、今度こそク○男ではなく世界で一番頼もしい男に夫になって欲しいのですわあああ!」
「ええええっ!」
ふふふふふふふふふ! セージったら何て可愛い顔をしますの! 絶対に逃がしませんから覚悟なさいね!
一方その頃。王城では……。
「きゃああああああ!?」
「うわああああああ!?」
「いやああああああ!?」
阿鼻叫喚の地獄絵図が誕生していた。人が円状に避けて囲った中心に居るのは。
「ひっ……ぎっ……あがあ……な、何が……痛いいたひぃ……」
「胸……わたしのぉ……むねえ……ぎいいっ……」
ディック王子とフラウ男爵令嬢が血塗れでのたうち回っていた。
ディック王子は、股間のイチモツが生きたまま腐り果ててまるで釘を刺されたかのような激痛に襲われていた。
フラウ男爵令嬢は、その豊満な……豊満だった胸の成れの果て、グズグズの肉塊を抱えて血泡を吹いていた。念入りに何度も何度も抉られた乳房は原形を留めていなかった。
誰も触れていなかった。誰の姿も見えなかった。何が起こっているかわからなかった。だが夜を徹して行われたパーティーの会場で、衆人環視のただ中にありながら二人は凶事に巻き込まれていた。今夜より七日七晩彼らの苦痛は繰り返され、そして──。
──そして。私とセージは今や呪殺ギルドのギルドマスターと副ギルドマスターですわ。
「こちらが今週の依頼になります」
セージが差し出す書類の束はかなり分厚い。今週も大忙しですのね。
「ふう……商売繁盛はありがたいけど、夜更かしは美容の天敵なのよね……悩ましいですわあ……寝て、呪ってからまた寝ていますけれど、すっかりショートスリーパーですわね」
「少しでも睡眠の質を上げるよう、今日はこちらを用意してみました」
「あら! ハンモック! 懐かしいですわね! 本当にセージは最高ですわあああ!」
「愛する妻のためですから」
「私も愛していますわ! セージ! 愛しい人!」
ギルドが軌道に乗ってから私とセージは結婚して夫婦になりましたわ。今ではすっかりおしどり夫婦ですの。
王国を追放されたあの日。ほんの気晴らしに行っただけの呪いが本当に届いていたのを知ったのは一ヶ月後のことでしたわ。王都では箝口令が敷かれていたようですけれど、人の口に戸は立てられませんわね。
試しに全てを黙認した王と王妃も呪ってみたところ、これもまたまた大当たり。王当たり。王だけに。オホホホ! ナイスジョークですわ! 貴族は韻を踏むのが大好きでしてよ? 平民になった今でも止められませんわあ。
呪いが本物であると確信した私達は、呪術士達を束ねてギルドを作りましたわ。そして権力で身を守り誰も手を出せないような悪を呪う事業を立ち上げましたの。
人からはとやかく言われるろくでもない仕事ではありますが、世の中には権力に笠を着て立場が低いものを虐げるク○達は沢山おりますのよ? もちろん念入りに下調べした上で呪わさせていただいておりますわ。そもそもこの呪い、本当に極悪人が相手でないとちゃんと発動しませんのよ? うちを悪用する人間にはそちらに呪いが行ってしまいます。それでも文字通り寝る間を惜しんで働くほど充実しておりますわ。昼間に呪えないか試したけど駄目だったのですわ。それだけが悩みですの。
そうそう。今ではお父様やお母様からも度々依頼がありましてよ? まったく世の中ク○だらけですわね。
「人を呪わば穴二つ……でも私達二人一緒なら、穴も一つで済みますわね?」
「地獄の果てまで御供します」
「ええ。着いていらっしゃい!」
未来永劫、離さなくてよ! セージ!
ディック・ファールス→ディックもファールス(ファルス)もどっちも男性器の隠語ですわ!
フラウ・ミルキーウェイ→フラウ(フラワー)は頭お花畑。ミルキーウェイはウシ乳からですわ!
セージ・アベノー→言わずと知れた最強の陰陽師からですわ!
ジュディ・オックスフォード→ジュディは呪いのジュから、オックスフォードは丑の刻参りのウシ→オックスですわ! 自己紹介は気恥ずかしいですわね!