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再建

 神殿の外では兵を率いたミレーヌが三人が戻ってくるのを待っていた。


 用意周到と言うべきなのか渓谷の上には、弓兵と魔法使いを配置しているのが気配で分かる。


クリス達の前に歩み出たミレーヌは、「さあ、手に入れた王家の印を渡してください」


「あー、そんな物は無かったよ。初めから神殿には王家の印はないんじゃないのか」と、クリスが面倒くさそうに話した。


「確かに女神ディアナと出会いましたが、王家の印については何も聞きませんでしたよ」とミツヤも話した。


「そんなの嘘です。確かに神殿には王家の印があるのです。あなた方は、私に印を渡さないつもりなのですか」、ミレーヌの目は真剣そのものだった。


「無い物は、無いんだよ。どうして王家の印が必要なんだ、あなたが王女だっていう事は印が無くても証明できるだろう。なんなら俺が証人になろうか」


「必要なの・・・クリス、あれが無いと国の再建ができないの・・・」


「再建?どう言う事だ、そもそも神殿の中には一つも部屋が無かったぞ。それに勇者しか先には進めないようになっていた」


「そんな事、知らないわよ。印と引き換えに国を返すと言われたから・・・」と、下を向くミレーヌは小刻みに震えながら唇を噛みしめていた。


「グランベルノとの取引か?」と、クリスは険しい表情になる。


「そうよ!属国でも、小さくても良いの。国さえ再建できたら民を救えるからあいつらの望む物を渡すのよ」


 涙目だがミレーヌの瞳からクリスは強く揺るぎない意志を感じ取った。


「あいつらが本当に欲しいのは勇者の武具なんじゃないのか。どこから王家の印の話しが出て来たか知らないが、勇者に逃げられたあいつらが考えそうな事だな」


「勇者なんかどうでも良いの。私達の国を助けてくれた訳じゃないし、始めからフリントには勇者は居ないのだから」と、ミレーヌは地面を見つめた。


「やけくそだなミレーヌ。勇者がこの状況をどう思っているのか聞いてみたらどうだ。なあ、ミツヤどう思う?」


 クリスの問いかけにミツヤは悲しそうな目をした。


「僕のせいで苦しんでいるのなら何とかしてあげたいと思います」


「やっぱりミツヤは、人が良いな」と、小声で呟いたクリスはミレーヌの方へ歩きながら「ほら、ミレーヌ。勇者は、フリントの人々を助けたいと言ってるぜ」


 顔を上げたミレーヌは、睨みつけるようにクリスを見つめた。


「そんなの出来る訳無いでしょ。今の勢力では、フリントに居座る兵すら追い出せないのに」


「ミレーヌ、数じゃないんだ。ちゃんと策を練れば少人数であってもダンディルグの兵を追い出す事ぐらい出来るんだよ。それにミツヤは、一人でここを奪還してしまうほどの力を持っている。君は、俺達にどうして欲しいんだ」


「た、助けて欲しい。クリスだってフリントに戻って来たいでしょ」


「いや、俺は別に未練は無いから」と、クリスは真顔で答えた。


「えっ?」、ミレーヌは呆気にとられた。


「別にフリントが再建されても戻る気は無いし」


「あなたは、悔しくないの。敵討ちをしたいと思わないの。あの平和だったフリントに帰りたくないの」


「俺の家は、ダンディルグにあるし。敵討ちならその内俺一人でやるつもりだったから」


「どうして魔族の国にあなたの居場所があるの?それに一人で敵討ちって、先の戦いで頭がおかしくなったの?」


 その言葉を聞いたサーシャが嬉しそうに話し出した。


「それは、ですね。クリスは魔族の勇者より強くて、しかもその勇者を娶ったからですよ」


 ミレーヌは笑い出した、「どうして、いくら四隊の精鋭でも勇者に勝てる訳無いでしょ」


 頬を掻くクリスは、「話せば長くなるんだが、訳あって今の俺は勇者より強いらしい」


「じゃあ、どうして私達の国は滅んだのよ。あの時、最前線であなたは戦っていたんじゃないの。どうして私達を救えなかったのよ」と、ミレーヌは自分の目の前に立つクリスの胸元を叩き顔を埋めた。


「すまない、あの戦いの前に力があったらフリントは救えたのかも知れないな」と、クリスはまだ星が微かに見える空を見上げた。


 暗闇に包まれていた渓谷に光が差し始める。


 切っ掛けはどうであれやるべき事は明確になった。


 新たな仲間と一緒に国を取り戻す。そう、フリント王国を再建するのだ。


 全てが呆気なく終わった。


 その場にいた者すべてが理解に苦しむほど簡単に敵兵をフリントから追い出してしまったのだ。


 クリスとミツヤの二人は、瞬く間にフリント国内に居た敵兵を追い詰めた。


 勝ち目がないと分かると敵兵達は一目散に城外へと逃げ出す。しかし、外では待ち構えていたサーシャが背を向ける敵兵達を容赦なく広域魔法で一網打尽にした。


 敵の居ない城に兵を率いて入ったミレーヌが目にしたのは、血の滴る玉座に座る死体だった。


 フリントの支配を任されていたグランベルノ王の側近が首を切られ絶命していたのだ。


 それは、戦闘開始と同時に城に潜入していたシルクの仕業だった。


 四人の戦いに圧倒されたレジスタンス達は、残兵を討つぐらいしか仕事をさせてもらえなかった。


 たった半日ほどで彼らは、ダンディルグ王国からフリント王国を奪い返してしまったのだ。


「此処で自分の居場所を作れば良い。なあに、サーシャが一緒に居てくれるから大丈夫だよ」


 そう話すとクリスは、ミツヤとサーシャを残しフリントを去ってしまった。


 本来なら王女としてミレーヌが国を治めるはずだったのに、彼女は再会したクリスに触発されてしまったのか自由になる夢を叶えるために国を飛び出してしまった。


 成り行きとは言え無理矢理玉座に座らされたミツヤは、何をどうしたら良いのか全く分からなかった。


 いきなり国造りを任されても、直ぐに着手出来るほど現実はそう甘くないのだ。


 休む暇もなく忙しい日々だけが過ぎていく。


 考えるよりまずは行動だとサーシャがミツヤの背中を押しながら四苦八苦していると、ダンディルグとアルフェリアから知識人達が駆け付けて来た。


 どうやら先を見通していたクリスは、ミツヤの為にダンディルグ国王ラングスとスライブに協力を依頼していたのだ。


 数か月が経とうとしていた頃には、グランベルノ軍の軍事力が半減し、恐怖におののく王は部屋に閉じこもったままになっているとの情報が入った。


 それを聞いたミツヤは、派手に暴れるクリスの姿を想像し爽快な気持ちになった。


 傍に居たサーシャは、お腹を抱えて爆笑していた。

 

 国政が落ち着きフリントが新たな国としての門出を迎えるまでに約一年間かかった。


 その間に有能な人材は、身分に関係無く積極的に登用したので勇者ミツヤに対する民衆からの信頼は更に厚くなっていた。


 最近送られてきたクリスからの手紙によると、カレンと共に黒騎士と平和的な話し合いをする為にカルラシアを訪れていると書かれていた。


 全て上手く行くから安心しろ、手紙の中の言葉にミツヤは胸が熱くなり無性に彼に会いたくなる。


 まだまだ何が起こるか分からない世界だ。


 きっとまた新たな目的のためにクリスと一緒に冒険の旅をする事になるだろう、そんな気がしてならなかった。


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