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抵抗勢力 10

「早朝の約束なのに、どうしてこんなにも早く出なくちゃいけないの?」と、サーシャは眠そうに目を擦っていた。


「悪い、ちょっと気になる事があってな」


 隣を歩くクリスの表情をミツヤはチラリと横目で見た。


「確かに気になりますよね。どうして僕達が勇者の武具を取りに来たのを知っていたのでしょうか。しかも、ここに着いて直ぐに訪ねて来るのも不自然ですよね」


「そうなんだよな。スライブはレジスタンスに協力を依頼したが、俺達の素性まで教えるはずが無い。何かに巻き込まれている様な気がする・・・」と、クリスは組んだ両手を後頭部に当てた。


「どうしてシルクさんは単独行動なの。姿を隠してても安全じゃないと思いますが、今は一緒に行動した方が良いんじゃないんですか?」


 足を止めて話すサーシャは、前を歩く二人が離れて行くのに気が付いて慌てて後を追った。


「別行動の方が何かと都合がいいんだよ。どうもミレーヌの話しからすると、俺達三人だけしか居ないと思っている見たいだからな。相手の隙を突くためにも存在を隠したままの方が臨機応変に対応できるだろ」


 三人で話をしながら小一時間ほど歩くと王家の谷に到着した。


 月明かりの差す渓谷の突き当りには、入り口が見える。それはまるで大きな口を開けたゴーレムの様にも見えるが、確かに神殿の入り口だ。


 巨大な岩石を掘削し築かれた神殿、初めて訪れるミツヤとサーシャには神殿と言うより何かこじんまりとした建造物にしか見えなかった。


「思ってたより小さいですね」と、サーシャは魔法で光らせた杖を神殿の入り口に向けた。


「本当にここですか? 装飾もほとんど無いし、洞窟の入り口みたいな雰囲気ですよ」と、不安そうにクリスの前に立つミツヤが振り返る。


「誰にも知られたくない物ほど地味なんだよ。馬鹿デカくて装飾を施した神殿だとここには宝物がありますよって、お知らせしている様なもんだろ」


 そう話すとクリスは先に神殿の中へ入って行った。


 遅れまいとミツヤとサーシャは彼の後に続く。


「それにしても中は不自然なくらいに何も無いですね」


 ミツヤの話す通り神殿の中には、部屋の入り口など何も見当たらない。二人並んで歩くのが精一杯の狭い通路を百メートルほど進むと行き止まりになっていた。


「突き当りの壁には、何か書かれていますね」と、サーシャは光る杖の先で壁を照らした。


「なんて書いているのか分かるか?」


「ええ、古代文字の様ですが、選ばれし者・・・、この壁を通り・・・、我らを守護する・・・、女神ディアナと出会わんと書かれてますね」


「どうやらミツヤだけがこの壁を通れるみたいだな」


「僕だけですか・・・」と、ミツヤが壁に手を当てると壁の中に吸い込まれた。


「わわわわ、ミツヤさんが消えてしまいましたよ。どうしますか、クリスさん?」


「ここでミツヤの帰りを待つか」と、クリスは何気なく壁に手を当てるとミツヤと同じ様に吸い込まれてしまう。


「きゃっ、クリスさん」と、慌てたサーシャがクリスの腕を掴む。


「うわっ、なんだこれ、俺も吸い込まれてしまうのか」と、クリスと彼の腕にしがみつくサーシャも壁の中に吸い込まれてしまった。


 壁を通り抜けるとそこは、昼間の様に明るく草花の生い茂る空間が広がっていた。


 上を見上げると澄み渡る空がそこにあった。


「どこだ、ここは? どう考えても神殿の中じゃないよな」


「外に出たんですかね?さっきまで暗かったのに」と、サーシャはクリスの腕にしがみついたままだった。


「あっ、居た!」と、クリスは前方を指さした。


 女神ディアナとミツヤが何やら話をしている所だった。


「あちゃー、あの人も選ばれし者だから入って来ちゃったよ」と、女神ディアナが頭を抱える。


「よお、邪魔するつもりは無かったんだが。俺達も壁の中に吸い込まれてしまった」と、気まずそうにクリスは、彼らに近づき苦笑いする。


「はあー、別にいいですけど。これと言った堅苦しい儀式や試練なんかは無いですから」


「えっ、そうなのか。カレンの時は女神アテーナと戦ったが」


「勇者だと分かっているのにわざわざ試練とか必要ないでしょ。本当は、実力を確かめる振りをして困惑する相手を見て楽しんでるだけなのよ」


「そうなのか・・・、それでミツヤは何をすれば良いんだ?」


不思議そうに自分の右手を見るミツヤが呟いた、「それが、女神ディアナと出会った瞬間にこれが指にはまったんです」


 ミツヤの右手薬指には青く輝くリングがあった。


 まじまじと見つめるサーシャは、「あれ、聞いていた話と違うわね。女神ディアナから貰えるのは武具では無くてステータスの向上とか付与的なものなのかしら」


「ふふふ、見た目はリングだけど立派な武具よ」と、嬉しそうに女神は話した。


「何言ってんだか、これのどこが武具だよ」と、クリスが口を挟む。


首を傾げる三人を後目に女神ディアナが、声を高々に上げる。


「さあ、私の加護する勇者よ。右手を上げ『装着』と唱えなさい」


 女神ディアナに言われるがままミツヤは右手を上げ小声で装着と唱えた。


 突然現れた青い光がミツヤを包み込んだ。


 視界を奪われそうになったのでクリスとサーシャは、咄嗟に目を背けた。


 二人が再びミツヤの方を見るとそこには重厚な青い鎧を纏った戦士が立っていた。


「フルアーマーだと、そんな重いもの身に付けて動けるのか?」と、思った事がクリスの口から洩れた。


「見た目は重そうだけど、実は鳥の羽より軽いのよ」と、女神ディアナは得意げに答えた。


 女神と言う者は、何かしら人を驚かせるのが好きなようだ。


「はい、確かに軽いですよ。まるで何も身に付けていないように思えます」


 フルアーマーとは思えないスピードでミツヤは動き回っていた。


 着心地と性能を確かめるミツヤを見るクリスとサーシャは、互いに目を合わせニヤッと笑った。


「じゃあ、これならどうかしら」と、サーシャはミツヤ目がけて光の矢を放った。


「よそ見してると怪我するぞ」と、矢の後ろから剣を構えたクリスが走り出した。


「ふ、二人とも何するんですか・・・」


 不意を突かれたミツヤは、二人の攻撃をもろに受けてしまった。


「カーン」と、弾かれた光の矢が宙を舞い甲高い音が空間に鳴り響いた。


「なーんだ、傷一つ付かないじゃないか」と、剣を振り抜いたクリスは残念そうな顔をする。


「リング、軽装備、フルアーマーと三段階の変形態に物理耐性、魔法耐性、なーんでもありの武具なのよ。私の自慢の一品なんだから」


「ああ、ビックリした。驚かさないでくださいよ」と、ミツヤはフルアーマーの装着を解除し疾風の胸当てに籠手と脛当ての軽装備に変更した。


「はい、これでお終いよ。後は、私の民を護る為に自分の信じる道を進んでね」


 そう話した女神ディアナが光の中に消えると三人は壁の外に立っていた。


「何か、簡単に手に入りましたけど・・・良かったんですよね」


「女神が決めたやり方なんだから良いんじゃないのか」と、クリスはミツヤの肩に手を置いた。


「勇者の武具は手に入れたのですから、此処から出ましょう」と、サーシャは歩き出した。


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