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アルフェリア 7

 昼から外壁近くの広場で、クリスは子供達を相手にチャンバラごっこをしていた。


 外壁とは、アルフェリアを守る高さ10メートルの壁の事だ。中立を宣言する自由都市国家であっても、自国を守るための防衛は必要だ。都市全体を外壁と堀で強固に守られた都市の中は、住民が安心して暮らせる環境なのである。


 一番年上の男児ケルクは、剣に見立てた木の棒を手にクリスに挑む。その姿を見るケルクの弟マロスは、兄の勇ましい姿に声を上げた。男児の遊びに興味が無いのか、マロスの傍でしゃがみ込む姉妹のルルとミミは、花摘みをしていた。


「うぉりゃー、今日こそクリスに勝つ」、ケルクは身を屈めてクリスの方へ突っ込んできた。


「そんなへっぴり腰じゃあ、何時まで経っても勝てないぞ」、ケルクの振り下ろした棒を避けたクリスは、軽く彼の背中を押した。


 ズッシャーと、地面に滑りながらケルクは転んだ。


「にいちゃん、がんばれ! ブロンズのウィムジーにまけるな!」と、マロスが声援を送る。


「おいおい、まるでブロンズが弱いみたいじゃないか」


「ベビーシッターをするウィムジーが、つよいわけないよ。ギルドでつよいひとは、みんなガイジュウクジョにいくよ」、真顔で答えるマロスにクリスは、誰が入れ知恵したんだよと思った。


「まだ、ちびっ子なのにハッキリと言ってくれるじゃないか」


 クリスはギルドの掲示板で何となく選んだベビーシッターの仕事をしていた。


 露店や商店で働く親たちの代わりに、夕刻まで子供達の面倒を見る。男の子は、生意気だが、女の子は大人しくしてくれるので可愛い。無邪気な子供と遊んでいると自然に童心に帰られる。


 転んでいたケルクは、立ち上がると涙目で棒を構える。膝の擦り傷から血がにじんでいた。


「まだ、負けてない。よそ見するなよ、クリス」


「ケルク、年上のお兄さんを呼び捨てにするのは良くないぞ」


「うるさい、うぉりゃー」と、棒を真っすぐに構えて走り出した。


「う、う、うわぁ・・・やるなケルク。って、冗談だよ」、クリスは最小限の動きでクリスの棒を避けると脇に挟んで止めた。


「何でだよ、どうして避けるんだよ」


「それは、お前の剣筋がまだまだ未熟だからだよ」


 クリスは、棒を引き抜こうと必死に力を入れるケルクの頭にチョップした。


「これで、俺の勝ちだよ」


「ちぇっ、つまんないよ。大人げないぞ、たまには俺にも勝たせてよ」


「そんな気持ちでいると、何時かルルとミミに負けてしまうぞ」


 ケルクは、摘んだ花で冠を作りお互いの頭に乗せ合う姉妹の方を見た。


「女に負けるわけないだろう。なに言っているんだよ、クリス」


「この間、森で会った魔族の勇者は女の子だったぞ」


「うそだー、勇者は男に決まっているのに」


 はぁ、どこからその結論に達するんだろう。


 クリスは、大した実力も無い大人達の受け売りに踊らされる子供達が可哀そうに思えた。


 広場に向かって人影が近づいて来る。


「おーい、クリス」、息を切らせながらやって来たのは、アルフだった。


 右手の怪我も治りしっかりと剣を握れるようになった彼は、クリスに剣技を教えて欲しいとしつこく付き纏っていた。


「子供だけでなく、俺にも教えてくれよ」


「今日は、仲間と一緒に害獣駆除じゃないのか?」


「午前中で終わらせてきたよ。だから、夕方まで剣技を教えてください」


「俺なんかじゃなくて、ランドに教えて貰えよ。あのおっさん、一応シルバーなんだから。剣士として、それなりに強いぜ」


「冒険者は、駄目だ。訓練を受け、実戦経験のある騎士から教わりたいんだよ」


「仕方ないな、ちょっとだけだぞ」と、クリスはケルクから木の棒を貰った。


「そんな棒で相手するのか? その立派な白い鞘に収まる剣を抜きなよ」


「物騒な事を言うね! この剣を抜くときは、敵を倒す時だけだよ」


「何なんだよ、それ。自分ルールなのか?」


「何でも良いだろ、これが俺のやり方だから」


 アルフは、剣を構えて間合いを取る。


 クリスが手にする棒は短い、アルフは自分の方が有利だと感じ素早く棒を横に振り抜いた。


「大振りだな、動きが鈍いからもっと動作を小さくしろ」


 棒を右左に振り回しながら前に進むアルフに対して、クリスは後ろに下がりながら剣を避けた。


「ちっきしょー、どうして当たらないんだよ」


「そんな振り回すだけだと、獣は倒せても人は倒せないぞ」


 ならばと攻撃方法を変えるために、アルフは足を止めた。もう一度、クリスとの間合いを取り直す。呼吸を整えた彼は、息を止めた。


 はっと息を吐きクリス目がけて棒を突いたのに、アルフの目の前からクリスの姿が消えてしまった。


「惜しいな、攻撃としてはさっきよりマシだが」


 不意に耳元から聞こえるクリスの声に、アルフは、自分の目の前からどうやって隣に移動して来たのか不思議でたまらない。


 クリスはクルリと回転してアルフの突きを回避したのだ。そのまま突っ込んできたアルフに体当たりする。


 ドンと横からの衝撃でアルフは、勢いよく地面に転がった。


 仰向けの状態で視界には青空が広がる。空を遮る様にアルフの顔を覗き込んできたクリスは、棒の先端を彼の胸に置いた。


「はい、これで俺の勝ちだ。お前の攻撃は、単純すぎるな」


「ちくしょー、剣技を習うどころじゃないよ。全然、当たらない」


「悔しがるな、お前は剣に頼りすぎている。もっと、全身を上手く使えるようにならないとな」、クリスは寝転がるアルフに手を差し伸べた。


 見物していた子供達が声を上げる、「うわぁー、ウィムジーにまけちゃったよ。あのお兄ちゃん、弱いね」


 腹を抱えて笑うクリスを横目にアルフは、顔を真っ赤にして子供達に向かって叫んだ、「クリスは、弱くないよ。元騎士だから強いんだよ」


 変な情報を子供達に吹き込むなよと言わんばかりに、クリスはアルフの背中を軽く叩いた。


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