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北の要塞 4

 要塞を守るダンディルグ王国の兵士達は、黙ってやられる訳にはいかない。


 侵入して来た敵に立ち向かおうと、一斉に襲い掛かる。


 それなのに、たった二人の女を排除する事が出来ないのだ。


 血しぶきの中で舞を舞う妖艶な女達を止められない。


 やっとの思いで彼女達を包囲した兵士達が槍で突き刺そうとした瞬間、二人は宙を舞っていた。


 不意を突かれた兵士達は、互いの槍を体に突き同士討ちしてしまった。


「あっ、ははは。馬鹿じゃないの」と、シュビとニナが声を揃えて高笑いした。


「だ、黙れ! みんな、あの女どもを早く捕えろ」と、上官の掛け声を合図に剣を手にした兵士達が突入する。


「シュビ、ここの男達は、私に頂戴!」


 死の恐怖を消し去る訓練を施されたニナは、瞬き一つせず剣を避け兵士達に近づく。


 ダンスをしているかの様に、軽やかに男達の懐へ順番に潜り込んだ。


 そっと胸元に彼女が手を添えると、ため息を漏らしながら鎧の隙間から鋭いナイフを入れた。


 まるで死のダンス、彼女に触れられた兵士達が静かに崩れ落ち呻き声を上げ息絶えて行く。


 美しい処刑人を前に、呆然とした兵士達は動きを止めた。


 恐怖心から動けなくなったのではない、現実離れした光景が信じられず、思考が停止してしまったのだった。


「うぉぉぉぉぉ・・・!」、遠くから雄叫びが聞こえて来る。


 半分以上開いた門の向こうから、百人ほどの敵兵らしき人影が迫って来る。


 難民に紛れていた敵兵が、その姿を現したのだ。


 まさにルストニア将軍とクリスが懸念していた事が、現実となった。


 難民に紛れ身を隠していた敵兵が、要塞に攻撃を仕掛けて来たのだ。


「もう、こうなっては仕方が無い。突撃して門を早く閉じるぞ。全員、準備は良いか」


 檄を飛ばす上官の声に、兵士達はたじろんでしまった。


 命を投げ捨ててでも、百人近い敵兵が要塞内になだれ込むのを阻止しなければならない。


 要塞を守る兵士なら誰でも分かっている。しかし、壁の外に出て戦うのは、自分自身が犠牲になり要塞を守ると言う事なのだ。


 突然現れた敵の襲来に覚悟を決めるには、あまりにも時間が短すぎたのだった。


 どうすれば良いのか、お互いに顔を見合わせ動かない兵士達の後ろからカレンが声を上げた。


「無謀な突入は駄目よ! ここは、私達に任せて」


 兵士達が左右に割れると、カレンとクリスの二人がシュビとニナの前に姿を見せた。


「こんなにやられたのか。酷い有様だな」


「呑気な事を言ってる場合じゃないみたいよ、壁の外からも敵兵が攻めて来た見たいだし」


「そうだな、じゃあ、処刑人の相手は、元死神に任せてくれ。カレンは、門を閉じてくれるか」


「分かった。相手が女だからって油断しないでね」


 門へ向かって走り出したカレンをシュビが追いかけようとしたので、クリスはシュビの前に立ち行く手を塞いだ。


「おっと、お前達の相手は、俺だからな」と、シュビの顔面を殴りつけた。


「チッ、やるわね。女だからって容赦しないのね、気に入ったわ」と、シュビは口元から流れる血を拭う。


「お前、女じゃないんだろ。殺し合いが大好きないかれた野郎なんだろ。だから手加減なんかする訳無いだろ」


 攻撃の手を休めるつもりの無いクリスは、地面に跪くシュビの脳天目がけて踵落としをした。


 バシッ、横から割り込んできたニナが両腕でクリスの踵落としを防いだ。


 何食わぬ顔で痺れる腕を振りながら、艶かしい目を輝かせる。


「あら、私もご一緒させてくれないの。寂しいですわ」


「忘れてた、もう一人いたな。まあ、一人でも二人でも一緒だけどな」


 クリスの懐に滑る様に入ったニナは、両手をクリスの胸に添えた。


 そして上目遣いで見つめると、舌で自分の唇を舐めた。


 殺気を漂わせている癖に、可憐な女性が愛する男性の胸に飛び込んできた様な仕草を見せる。


「ふふふ、私が手ほどきしてあげますわ」と、クリスの唇に人差し指を当てたニナは彼の首に手をまわした。


「俺とダンスでも踊る気なのか? ちょっと、遠慮したいんだけど」、彼女と死のダンスを踊りきれなかった男達の屍がクリスの目に入る。


「失礼な殿方ね。死ぬ間際まで、男性は女性をエスコートするものですよ」


 お互いの体を寄せ合い二度回転した後、ニナは太もものレッグホルダーからナイフを取り出した。


 甘い香りを漂わす綺麗な女性とのダンスは、悪くないがあまり気乗りしない。


 騎士だった頃も女性とのダンスは苦手だったなあと、思い出し笑いをするクリスの脇の下に、ニナはナイフを忍び込ませようとした。


 あばら骨を避け、確実に肺を潰して息が出来ず悶えるクリスの姿を想像しながら。


「あーあ、良い雰囲気が台無しじゃないか、悪い女だな」と、クリスはナイフを手にする腕を掴んだ。


「・・・ッ、あら、バレてましたの。本当に残念ですわ!」


 いちいち鼻に付く女だと、クリスは掴んだ手に力を入れた。


 ミシミシと腕の骨がきしむほどの馬鹿力に、ニナは顔を歪ませたが、直ぐに平常心を装った。


 痛みを克服する訓練を受けているから平気だと言いたげだ。


 平然とする彼女は、そのまま骨を砕かれるとは思っていなかった。


 メキメキ・・・、あっ、ああああ、だ、ダメ・・・、バッキ!


 ニナの利き腕の骨は、クリスに握りつぶされてしまった。


 クリスの苦悶する顔を想像していた彼女の方が、苦痛で顔を歪めた。


 クリスから離れようとした彼女は、握り潰された腕を掴まれながら引き寄せられる。


 そんな簡単にニナを逃がすつもりのないクリスは、彼女の腰に手をまわした。


「おいおい、お嬢さん。ダンスは、まだ終わりじゃないぞ。これからが、本番じゃないか。一緒に楽しもうぜ」


「ヒッ・・・、は、離して頂戴」


 逃げようにもニナの足の甲をクリスが踏みつけていたので動けない。


「ほら、順番を間違えるから足を踏んづけてしまったじゃないか」


「デリカシーの無い男ですわね。しつこい男は、・・・グッ」


 ニナの耳にグシャと、踏みつけられる足が潰れる音が聞こえた。


 この化け物め、それはニナの素直な感想。


 何人もの兵士達と死のダンスを踊っていた処刑人とは思えない言葉を彼女は漏らした。


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