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アルフェリア 3

騒ぎを聞きつけたギルド館長スライブが建物の奥から姿を現した。


細身で背が180センチと高く眼鏡の奥の鋭い瞳と彼の着る黒色の詰襟シャツ姿は、冷酷なイメージを彷彿させるアラサーの男性だ。


「何の騒ぎだ? 問題でもおこったのか」と、クリスの前に立つ受付嬢のリリに尋ねた。


「スライブ館長、彼女のグループが魔獣に襲われたようです」


「魔獣に? 名もなき森の奥の魔獣の事か?」


「そのようです、今も交戦中だから応援が欲しいと話しています」


「なら、クリス。お前が行ってこい」


「はぁー、ブロンズの三ツ星の俺が受けて良い仕事じゃないだろ」


「館長命令だ、お前しか居ないだろ」


 スライブとクリスの話しに中堅クラスの剣士ランドが割り込んできた。


「館長、ウィムジーにその仕事は無理でしょう」


「なら、シルバーの二つ星のお前が応援に行けるのか?」


 ランドの顔から血の気が引いて行く。魔獣を相手にするには、通常、騎士団や冒険者など最低でも五十人近い兵力が必要だ。それをせいぜい五、六人の冒険者達が助けに行った所で相手になるどころか、逆に巻き添えを食って命を落とすのが関の山だ。


「正直に言うと、無理です。俺には出来ない仕事ですよ」


「馬鹿正直だな、ランド。そんなんだから、その年になっても結婚できず、女に騙されるんだよ。人が好過ぎるよ」


「茶化すなよ、ウィムジー。だから、お前が行っても足しにならないと言っているんだ」


「ランドの言う通りだよ。それでも行けと言うのか、館長」


「ああ。元でも王国騎士は、窮地に立たされる仲間を見捨てないだろ」


「こんな所で、それを持ち出してくるのか。反則だな」


 ブロンズの三ツ星が元王国騎士だと言う館長の発言に、周りに居た者たちがざわめき始める。幼少から騎士になるために体術や剣術を習い、戦場で戦っていたのなら弱くてもランドと同じシルバークラスの実力者だからだ。しかも、館長が指名するほどなの実力は、どれ程のものなのか周囲で関心が高まる。


「なんだ、ウィムジーは、元騎士なのか? どこの国だ?」と、熟練冒険者のトルカが目を細めた。


「クリスは、元フリント王国の騎士だ。最前線で戦っていた」と、館長が答えてしまった。


「おしゃべりが過ぎるぜ、館長。ギルドでの個人情報の管理はどうなっているんだよ」


「お前、最前線で戦っていたのか。なのに、なぜ生きている? フリントとグランベルノの戦いで起こった最前線の消滅は、有名だぞ。その生き残りというのか?」


「はい、はい。トルカ、人の詮索はそこまでにしてくれ。俺は、何千もの兵士が消滅した最前線の生き残りだよ。まあ、運が良かっただけかな」


 受付カウンターにもたれながら話すクリスを全員が信じ慣れない目で見つめた。


 いい加減観念しろよとばかりにスライブは、クリスにしつこく食い下がる。


「そういう事だ、救出に行ってくれるか?」


「嫌だね、今回はお断りする」


「どうしてだ、理由を知りたい」


「みんな、薄々分かっているのだろう。そいつは、嘘を付いている。まず、一つは森の奥に魔獣が居ることはみんな知っているだろ。害獣駆除の仕事でもそこまで森の奥には行かないはず。二つ目は、凶暴化しない限り目の悪い奴らは、そう簡単に襲ってこない。多分、獣人のお嬢さんのパーティーは、興味本位から魔獣にちょっかいを出したんだろうね」


「それは、本当か?」と、スライブは険しい表情でポポルを睨みつけた。


 視線だけでも凄い威圧にポポルは、身震いする。これ以上、嘘を付くと本当に助けて貰えなくなるのを理解したようだ。


「ごめんなさい。本当です、私達はブロンズの四つ星です。早くシルバーになりたかったの。魔獣が寝床にしている洞窟を発見したから、寝ている魔獣を退治しようとしました」


「ほらみろ、生半可な実力で命を粗末にしたんだよ。自分達が蒔いた種は、自分達で刈り取りな。関係の無い仲間を危険に晒すな」、クリスは戒めも込めて厳しい言葉をポポルにぶつけた。


「そういう事だ、失敗は誰にでもある。それでも、仲間を助けに行くのがギルドだ。クリス、分かったなら、手遅れになる前に早く行け」


 スライブの決断にクリスは、ズッコケそうになった。魔獣を倒すのは簡単だが、倒してしまうと後々、周囲が五月蠅くなる。魔獣を倒さず、残された冒険者達を連れて帰ってくれば良いかとクリスは考えた。


「それじゃあ、これが最後になるかも知れないから、リリ元気でな」と、クリスは彼女の手を握りしめた。


「そんな、不吉な事は言わないの。デートしてあげるから必ず帰って来てね」


 可愛い子からの誘いは大歓迎だ、「本当に戻ったらデートだからな。約束だぞ」


 場所の案内をするために一緒に出発しようとするポポルが、照れくさそうに口を開いた。


「あのー、仲間を助けてくれたら。私は、何でもしてあげますよ」


クリスは笑顔で彼女の頭を撫でながら、「君は好みじゃないから、遠慮しておく」


その言葉に周囲の男達は、ブーイングをクリスに浴びせた。彼は口では酷い事を言ったのかもしれないが、若い女性が知り合って直ぐの男に簡単に体を差し出すような真似をさせたくなかったのだ。


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