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アルフェリア 2

 町を歩くクリスは、意外にも人気者だ。

 商売をする人達はクリスに声を掛けると、何かと売り物をただで渡してくる。


 通りを過ぎる頃には、両手で抱えきれないほどの野菜や肉などの食料が手に入るのだ。今日はセリナの所で泊まるかなと、町外れの孤児院へ向かった。


「おーい、お土産持って来たよ」


 クリスの声を聞いた子供たちが彼の元へ集まって来る。


「すごーい、クリス兄さん。こんなに沢山の食料をどうしたの?」


「町の人がくれたんだよ。セリナは?」


「セリナ姉さんは、奥のキッチンに居るよ」


 集まる子供たちの頭を撫でると、クリスはキッチンへ向かった。


 キッチンでは、薄緑の長い髪を後ろで束ねた小柄なセリナが夕食の準備をしている。クリスの姿を見た四歳年上の彼女は、少女の様な笑みを浮かべた。


「やっと来てくれたのね、クリス。私の事、忘れたかと思ってた」


「ごめんな、色々と野暮用があってね。これ、町の人がくれたから」と、手に入れた食料をテーブルの上に置いた。


「一緒に夕飯食べてね。今晩は、此処で泊まるわよね」


「もちろん、そのつもりだよ。いつも通り、居間のソファで寝る。それと、これは子供たちの為に使ってくれ」


 クリスから手渡された巾着袋の中身を見ると、お金が入っていた。


「こんなに、どうしたの? いつもより、多いわよ」


「害獣の死体を見つけてね。素材を売ったら結構な金額になったよ」


「いつも、有り難う。クリスには助けてもらってばかりね」


「良いよ。好きでやっている事だから、気にしないの」


 クリスは、気が向くとこの孤児院で寝泊まりしている。訪れる時には、必ずお金や食料を差し入れるのだ。


 孤児院で育ったセリナは、そんな気さくで優しいクリスを愛おしく思っていた。


 彼女は周りから清楚な女性として見られ、男性からの評判も良い。しかし、見た目で判断されるのは、気に入らなかった。その点クリスは、自分を一人の女性として見てくれているし、分け隔てなく皆と同じ態度を取ってくれる。そんな些細なことが嬉しかったのだ。

 

 クリスが居間のソファで寝ていると、いつもと同じ時間帯にセリナが部屋に入って来た。手に持つロウソクを灯したランプに照らされる彼女は、仰向けで寝るクリスの上に乗ってきた。


「子供たちは大丈夫なのか?」


「うん、みんな寝たわよ。だから、私の思いを満たして欲しい」


「俺の前だとセリナは、何時も自分に正直だね」


「当たり前でしょ、クリスにしか本当の私の姿を見せてないもの」


 火照りで顔を赤らめたセリナは、クリスに口づけをする。


「服を着たままなら、目を覚ました子供が来ても誤魔化せるでしょ」


「セリナがそれで満足できるなら、良いよ」


 クリスが右手でセリナの頬に触れ、そのまま彼女の顔を引き寄せ再び唇を合わせた。


 清楚な雰囲気の彼女でも、一人の女性として成熟した体は人肌の温もりを欲しがるのだ。


「こんな関係で、セリナは良いのか?」


 セリナは、人差し指をクリスの唇に当てた。


「言わないで。これで良いの、私が望んでいる事だから。クリスは気にしないで、私達の関係は友達以上で恋人未満でしょ」


 言葉とは裏腹にセリナの本心は違う。


 出来る事ならクリスの恋人になりたい、そのまま彼の伴侶になりたいと思っている。でも、自由に生きるクリスを束縛したくないと思う気持ちが邪魔をする。


 クリスもきっと結婚など望んでいない、そう自分に言い聞かせていた。


 メイン通りにある二階建ての重厚な石造りの建物は、この町のギルド会館だ。


 クリスが扉を開けると、大勢の冒険者と商人達がカウンターで職員と話したり、掲示板に貼られた仕事を見ていたり、部屋にあるテーブルを仲間と囲んで談笑している。


「お早う、リリ。今日の制服姿も良いね。短めのスカートが似合っているよ」


「お早うございます、クリス様。恥ずかしいので、あまり足を見ないでください」


 ギルドで働く女性は、紺色のブレザーを制服として着ている。男性は普段着やら好きな格好をしているのに。


 クリスが受付嬢のリリと話をしていると、怪我をした獣人族の女性冒険者がギルド会館に飛び込んできた。血の付いた革の鎧の表面には、獣の爪痕が残る。


「仲間が、やられました。誰か、応援をお願いします」


 彼女の近くに居た熟練専従者のトルカが仲間の魔術師を呼び、彼女の怪我を治療し始めた。


「少し落ち着きなさい、深呼吸をしてから詳しい内容を話してくれないか」


「は、はい。私は、疾風の戦団に所属するポポルと言います。仲間と一緒に名もなき森の害獣駆除をしていたのですが、奥に入り過ぎて魔獣に襲われてしまいました。仲間は、まだ戦っています。獣人で足の速い私が、応援をお願いしに来ました。」


「そうか、応援に参加する者は居ないか?」


 その場にいた全員が戦う相手は魔獣だと聞いて、しり込みしてしまった。


「誰も居ないのか、そうだよな。ポポル、すまないが応援は無理だ。魔獣に出会った場合、戦うのではなく普通は逃げるのだが。今すぐ、戦いを止めて逃げるように伝えてくれ」


「駄目なの。逃げられないの・・・」


「何故だ? 逃げられない理由は何だ」


 彼女の所属する疾風の戦団が犯したミスは、偶然魔獣に遭遇したのでは無く、自分達の力を過信するあまり洞窟で見つけた魔獣にちょっかいを掛けてしまった事だった。その際に仲間の剣士と魔術師が洞窟内に取り残されてしまい、逃げられなくなってしまったのだ。


 正直に話せないのは、自業自得とばかりに誰にも相手してもらえないからだ。


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