ダンディルグ王国 2
ギルドから紹介してもらった宿屋は、値段の張る高級宿だった。
滞在する間の費用は全てギルドで見てくれる事になっていた。気が引けたクリスは後日モーガンに宿泊代を払うと話したが、遠慮するなと断られてしまった。客人として扱ってくれるのなら、此処は素直に甘える事にした
初日から2、3日かけて街の探索をしたら色々な事が分かった。
城の側や周辺の地区は、貴族や城で要職に就く人たちと騎士達が暮らしている。
城を取り囲んで生活する庶民の暮らしは豊かで、この国にスラム街は無かった。
みんな毎月一定額の税金を納めており、国の財政とするだけで無く、生活に困った時にはその税金で援助が受けられると聞いた。
初めて聞く税金の使い方にクリスは、良い制度だと感心した。
流石に一週間を過ぎると何もする事が無くなり、クリスは街をブラブラするのにも飽きてきた。そんな矢先に、ギルドから呼び出しがあった。
「呼ばれたけど、何かあったのか?」と、クリスは受付でミルフィーナに聞いた。
「ええ、モーガン館長からクリス様に仕事の依頼です」
「そうか、・・・で仕事の内容は?」、ミルフィーナが答えようとすると、後ろからモーガンが彼女の肩を叩いた。
「私が説明するよ、ミルフィーナ」
「モーガンさん、仕事って何ですか?」
「魔獣討伐を手伝って欲しいのだ」
「魔獣討伐って、三日前にこの国の勇者と騎士団、それに冒険者達が加わって街の中を行進して行った彼らの応援ですか?」
「そうだ、魔の森の近くにある村や町を襲っている魔獣の討伐だ」
モーガンが話してくれた内容はこうだ。
ここから東へ早馬なら半日ほどで辿り着ける魔の森は、通常の森とは異なり魔獣の巣窟となっている。
普段は森に入ってまで、魔獣討伐をするような危険な行動は取らない。しかし、たまに森から出て来て町や村を襲う魔獣が居るので、その時は国を挙げて討伐に向かうのだ。
今回もいつもと同じ様に獣型の魔獣を想定していたのだが、討伐に向かった彼らが遭遇したのは人型だったらしい。そのため強力な魔獣の相手をする羽目になり、森と村との間にある草原で、人型の魔獣と三日三晩一進一退を続けていると報告があったのだ。
「人型の魔獣を見た事はありませんが、急いで何とかしないと。被害が大きくなりますよ」
「君の馬を潰すわけには行かないから、こちらで早馬を用意している。直ぐにでも出発してくれると助かるのじゃが」
二つ返事で仕事を引き受けたクリスは、早馬に乗り急いで魔の森へ向かった。
人型の魔獣の脅威はスライブから聞いていたので、移動時に身体強化をして無駄に体力の消耗をしない方が良いと感じていた。
村に入ると、家々は破壊され壊滅的な状況になっていた。
村人は避難して誰も居なかったが、負傷した兵士達や冒険者達が手当てを受けていた。
前線から逃げて来た冒険者達が、集まり何やら話し合いをしている。
彼らは以前、村の中でワイルドボアと戦い、旅の途中のクリスにこっぴどく怒られた冒険者パーティーだった。
「俺達は戦力にならない、どうする? このまま、逃げるか?」と、グラスが仲間に聞いた。
「一緒に戦う仲間を見捨てる訳には、いかないだろう」、ジャックが悔しそうな顔を見せた。
「・・・、・・・」、ロックは身の丈程ある盾を地面に付き刺し黙っていた。
「とりあえず、私は死にたくない! あんな化け物を相手できるだけの実力は無いから」
ララが話し終わると、後ろから馬に乗るクリスが話しかけてた。
「お前達は、山の麓の村で会った冒険者達じゃないか。ここで待機しているのか?」
「うぉ、く、クリスさんですか。その節は、ご迷惑をお掛けしました」と、グラスは伏し目がちに答えた。
「もしかして、逃げて来たのか?」
クリスの問いかけに気まずそうにジャックは、「俺達は・・・、かなわない相手に恐れをなして逃げ出しました」
「情けないと思っているよ。俺達の実力では、攻撃も防御も何も出来なかった。一緒に戦う仲間を残し、怖くなって逃げ出してしまったんだ」と、グラスは唇を噛みしめながら話した。
「そうかそうか、逃げて来たか」
「馬鹿にしても良いから、何も言わずに見逃して欲しいの」と、ララは泣き出してしまった。
「お前達の事を俺は非難しないよ。むしろ賢明な判断だと思う。死ぬと分かっていて敵に立ち向かうのは、無謀なだけだからな。命があれば、作戦を練って何度でも挑戦できるだろ」
クリスの言葉に彼らは、救われるような気持になった。そんな彼等に今出来ることだけをやらないかと、クリスは問いかけた。
「だけど、無理にとは言わないが、前線で怪我をしている者や身動きが出来ない者を助けてやらないか?」
「俺達が、助ける?」、グラス達は声を揃えた。
「ああ、仲間を安全な場所に連れて来るんだよ。もし、お前達が怪我をした仲間を前線から救い出したら皆から感謝され、称賛される。冒険者同士、助け合うと言う事は、戦闘をするだけじゃないんだよ」
グラス、ジャック、ロック、ララは、お互いの顔を見合わせると、それなら自分達でも出来ると答えた。
「クリスさんは、今から前線に行くんですか? シルバーの俺達でも歯が立たなかったのに、もしかして伝説のゴールドホルダーですか?」、引き締まった表情になったグラスが聞いた。
「ふっ、ははは。俺はゴールドじゃないよ。ブロンズの三ツ星だよ」
「嘘でしょ? ブロンズが、ワイルドボアを瞬殺できるはずが無い」
「見た目やカードの色に惑わされるな。この世界には、冒険者以外でも強い奴はゴロゴロいるんだよ。騎士は、どうだ。彼らはカードを持っていないが、もしギルドに登録したら何色になる。最低でもシルバークラスだよな。そうなると、団長や隊長、英雄と呼ばれる彼らの色は一体何色になるんだろう。考えると恐ろしくならないか?」と、クリスは思いついた言葉で彼らを言いくるめてしまった。
グラスとジャックは目を見開いて、「その通りですよね。俺達の考えが間違っていましたよ」
何て素直で純粋な奴らなんだ。簡単に納得してくれた彼等をクリスは褒めたくなった。
「じゃあ、後ろは任せるから頼んだぞ」
クリスは、激しい戦いを繰り広げている前線へと移動した。




