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カルラシア 2

 王の謁見から一週間をちょうど過ぎた頃にミツヤは、再び王に呼び出され新たな命令を受けた。それは、グランベルノ王国から北の山岳地帯にある、カルラシア王国の救援に向かえと言う命令だった。


 カルラシア王国とグランベルノ王国は安全保障条約を結んでおり、どちらかが他国の攻撃を受けた際には、軍事力を持って助け合う約束をしていたのだ。


 山から与えられる資源を糧に林業と狩猟を産業とするカルラシア王国は、今魔族の謀略によって支配されつつあると、ミツヤは聞かされた。


 本当なら正気に戻ったミツヤは、疑いながら命令を受けなければならなかったのに。魔族と聞いて王の話を鵜呑みにしてしまった。彼にとって魔族は、絶対悪だと潜在意識に刷り込まれていたのだ。


 いつも行動を共にする仲間の騎士ケン・ハーロットと双子の魔法使いエレスとリミア、そして第四王女のリリアを従えるミツヤは、カルラシア王国の城壁前で立ち止まった。


 地面に突き刺さる無数の矢と破壊された外壁扉は、戦闘の激しさを物語っていた。


 破壊され扉を失った城門からは、中と外とを自由に往来出来るようになっていた。


 城門から中を覗き見ると、グランベルノ王国の兵士達ばかりが忙しそうに動き回っていた。


 住民は誰も居ないのだろうか? みんな逃げて無事なんだろうか?


 そんな事を考えながら中に足を踏み入れたミツヤは、破壊された建物や瓦礫の山に目を細めた。


「もう、戦いは終わったのか?」


「城下街は、先日占拠したと聞きました。しかし、肝心の城のは、まだ攻略出来ていないそうです」と、兵士達を指揮する騎士団長から情報を得たケンが答えた。


「幾ら激しい戦闘だったとしても、こんなになるまで街を破壊する必要はあったのか? それより魔族は、何処に居るんだ」、苛立ちを隠せないミツヤは親指の爪を噛んだ。


「ミツヤ様、魔族達は私達が思っている以上にずる賢くて姑息なのです。きっと街で暗躍していた魔族達と、戦闘があったのでしょう」と、眉一つ動かさない真顔のリリアがミツヤの後ろから話した。


 振り返りリリアの顔を見たミツヤは、嘘を平気でついて見せる彼女を恐ろしく感じた。

 ホワイトウィッチの正体は、真っ黒な自分を純白で覆い隠す魔女に思える。


「そうか、街が破壊されたのは残念だが、仕方が無いのか」


 わざと納得したように見せると、安心したのかリリアは、能面の様な笑みを浮かべた。


「そうです、戦況を確認するために奥の城へ向かいましょう」と、リリアは向かう方向を指さしながら歩きだした。


 街の大通りを歩いていると、兵士達の粗暴が目に付く。


 主を無くした家から金目の物を嬉しそうに運び出す兵士、捉えた町の人達に縄をかけどこかへ連れて行く兵士達など。彼らの姿にミツヤは、思わず目を背けたくなった。


「キャアー・・・、いやー、止めてください。・・・誰か、誰か助けてー」


 若い女性の甲高い叫び声が、聞こえた。


 考えるより先に体が動いたミツヤは、声のする家の中に飛び込んだ。


 三人の兵士が乱暴しようと、嫌がる女性の服をはぎ取っていた。


 ミツヤと一緒について来たエレスとリミアは、お互いに目を手で覆い隠す。


 抵抗する半裸の女性は、泣きながら助けを求めていた。


 獲物に群がる獣と化した兵士達を睨みつけるミツヤは、ギシギシと歯を食いしばった。


「お前達、何をしているのだ。戦いの最中だと言うのに、女性に乱暴しているのか!」


「戦利品をどうしようが、戦った兵士の特権じゃないか。お前に指図される覚えはねえよ」


 怒りで額の血管が浮き出たミツヤは、聖剣に手をかける。しかし、後ろからケンに肩を掴まれ聖剣を抜くのを止められた。


「お前達は、何処の所属だ。彼は、我らの勇者ミツヤ殿だぞ。お前達の素行を上司に報告させてもらうが、どうする」


「うっ、勇者様だったのか・・・。も、申し訳ない。俺達は、仕事に戻ります」


 女性を残し、いそいそと尻込みする兵士達は家を出て行った。


「もう、大丈夫ですよ。早く、安全な場所へ逃げなさい」


 ミツヤは半裸の女性に手を差し伸べた、「ありがとう、でも・・・逃げる所なんて・・・ない」


 言葉に詰まる彼女は、後から来た兵士達に連れて行かれてしまった。


「ケン、どうなっているんだ! 彼女は、何処に連れて行かれた。それにどうして兵士達は住民を奴隷の様に扱っているんだ」、振り返りったミツヤはケンの胸ぐらを掴み声を荒げた。


「ミツヤ殿、戦争に負けた国の市民は、戦利品として我が国の奴隷になるのです」


「何を言ってるんだ? どうして・・・、僕達はカルラシアを魔族の手から解放するために来たんじゃないのか? この国と戦争をしているとは、聞いていないぞ!」


 正直に話したい、しかし、ケンはその思いに蓋をした。


 何も知らないミツヤに話す言葉が見つからず、彼は困った顔をした。


「ミツヤ様、魔族に魅了され取り入った市民を連れて行っただけです。お願いですから取り乱さないでください」


 リリアは、冷静にその場限りの嘘を付きミツヤの怒りを鎮めようとする。


 嘘を付けば、更にその嘘を正当化するための嘘を付かなければならない。そんな事も分からないのかと、口には出せないミツヤはリリアを睨みつけた。


「取り乱して、悪かった。先に進もう」


 嘘でその場を取り繕うリリアとケンへの信頼は、このやり取りで崩れ落ちてしまった。


 やはり、彼らに加担するのは間違いなのかと、仲間を失った様な気持ちになるミツヤは、やるせなくなった。


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