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アルフェリア 1

 フリント王国が滅亡しグランベルノ王国の領土となってから二年が過ぎようとしていた。


 捕らえられた王族や有力な貴族たちは処刑されてしまったが、兵士達は身分をはく奪され平民に落とされただけで済んだ。


 庶民の暮らしは、思い重税に悩まされる以外は何も変わらなかった。


 元居た国への関心が徐々に薄れるクリス・アラートは、戦場から南東へ進み遠く離れた自由都市国家アルフェリアで生活をしていた。


 彼はギルドに所属する冒険者となり、そこで必要最低限の仕事をこなしながら気ままな暮らしを満喫しているのだ。


 ギルドとは冒険者や専従者、行商人が所属する組織である。

 全ての国や都市にギルドは存在し、ネットワークを構築する巨大組織だ。


 様々な仕事が世界中から集まってくるのだが、戦争や殺人に加担する事だけはご法度なのである。なぜなら、人族、魔族、獣人族に関係無く全ての国にギルドが存在しているので、特定の種族や国に関与してしまうと組織が成り立たなくなるからだ。


 ギルドに所属する者達についてだが、大きくは三つに分類されている。


 冒険者、様々な国や街を訪れながら旅をする者。

 専従者、特定の国や街に留まり住民として生活する者。

 行商人、ギルドに持ち込まれる素材やアイテムなどを商品として商売する者。


 ギルドに所属する彼等は分類に関係無く全員ブロンズから始まりランクが上がると、シルバー、ゴールドとなる。


 ランクを上げるには、ギルドからの依頼や紹介される仕事を達成し、蓄積された貢献度により与えられる星を集めなければならない。


 それぞれ星を五つ集めれば昇格する仕組みになっているのである。


 平均的にはブロンズの三ツ星の者が多く、ゴールドクラスの者は勇者を除けば、この世界には十人しかいない。シルバークラスになれば、冒険者なら強者、商売人なら豪商として周りから一目置かれるようになる。

 

 創造神から与えられた力を使えば簡単にゴールドクラスになれるのに、元王国騎士のクリスはブロンズの三ツ星と、ごく平均的な立場で満足していた。可もなく不可も無く、簡単な仕事から超難解な仕事まで、気に入った仕事を引き受けられるからだ。


 下手にシルバーやゴールドクラスになると、国やギルドから仕事を押し付けられ面倒なことになる。それを避ける為でもあった。


 生活費やまとまったお金が欲しい時には、ふらっと名もなき森に出かけ運よく魔獣の死体を見つけたと言って素材を売れば良いのだ。


 昼間から酒場でくだらない話で盛り上がっていたり、町で子供と遊んでいたり、自堕落な生活をしているのかと思えば誰かの手伝いをしていたりと、町の人からは変わり者、気まぐれ者として見られていた。


 そんな彼は、街の住人達から親しみを込めてウィムジーと呼ばれるようになっていた。


 誰にも束縛されない自由気ままな暮らしを元騎士のクリスは手に入れた。


「おい、おい。また、昼間っから酒場に居て良いのか?」


 カウンター越しに立つ店主のプルートは、ベーコンと卵を乗せたパンとサラダが盛り付けられたワンプレートをクリスの前に置いた。


「良いんだ。金はあるから今日は、休みなんだよ」


「あれだな。酒を飲んでいないだけマシか」


「はあ、俺はアル中じゃないんだ。いつも昼間っから酒を飲む訳ないだろ」


「まあ、此処はお前の台所見たいなものだからな。好きな時に来て、好きな物を食べる」


「分かっているなら、静かに食わせろよ」


 カウンターの椅子に座るクリスの身なりは、どう見ても軽装だ。革の胸当て、黒革のグローブ、小さめのショルダーバッグ、白い鞘に納められた神剣、使い古しのショートナイフ。


 金にも困らず自由気ままに生活する彼をよく思わない連中は多い。しかも、この軽装備から弱いと決めつける輩も居るので、彼は良く知らない冒険者や傭兵などに何時も絡まれていた。


 今日もそんな彼に新参者の冒険者が絡んできた。


「あんた、噂のウィムジーだな。何でそんな装備で戦えるんだよ。何かインチキしてるんじゃないのか?」


「はい、はい。食事中だから邪魔しないの」と、クリスは左手で追い払う仕草をした。


「舐めているのか? 俺を知らないのか?」


「誰だ、こいつ。プルート知っているのか?」と、フォークをプルートに向けた。


「確か、今売り出し中のアルなんとかだよ」


「アルフだ。疾風の戦団のリーダーだよ」


 食事をしながらクリスは、アルフを横目で見る。


 十六、七歳に見える彼は、鋼の胸当てに立派な装飾が施された柄の剣を持つ剣士のようだ。単純に威勢が良い訳では無く、それなりの経験と実力の持ち主に見える。


「アル何とか君さあ。ここは食事や酒を楽しむ場所だから何か頼むか、用が無ければ帰ってくれないか」


「何だと、ふざけるなよ!」と、馬鹿にされ怒りで顔を赤くしたアルフはクリスの肩を掴んだ。


 はあとため息を付いたクリスは、アルフの腕を掴んだ。


 そのまま掴んだ腕を捻ると、アルフは宙で一回転して床に転がった。何が起こったのか分からず、彼はキョトンとしている。


「ほら、痛い目に会う前に帰りなよ」


「何をした? お前、魔法が使えるのか?」


「これを魔法と言うなら、お前は実力不足だよ」


 周りの席に座って食事をしていた客達は、クリスの言葉を聞いて笑い出した。


 恥ずかしくなったアルフは、何も考えず腰に携える剣を抜いてしまった。


「俺と勝負しろ。剣ならお前など簡単に倒せる!」


「お前、馬鹿だろ。店内でそんな物騒な物を出すなよ。物を壊したら弁償してもらうぞ」と、プルートは心配そうにアルフを見つめた。


「そうだぞ、プルートの言う通り。こんな所で剣を抜くなよ」


 アルフにも一応は、剣士としての自覚はあった。一度抜いた剣を分かりましたと、鞘に納めることは出来ない。こうなってしまうと、クリスと戦うしか収拾がつかなくなってしまったのだ。


「もう、後戻りは出来ないよ」と、アルフはクリスに剣を突き刺そうとした。


「馬鹿だな、本当に」


 クリスがアルフの剣を避けると、カウンターに剣が突き刺さる。

 クリスは、手にするフォークでアルフの右手の甲を突き刺した。

 アルフは、突き刺さったフォークを抜こうとして手にする剣から手を離してしまう。


 アルフが手放した剣の柄をクリスは持つと、カウンターから引き抜き、そのままアルフの喉元に切っ先を突き付けた。


「やっぱり、お前は馬鹿だろう。剣士なら何があっても剣を手放すなよ」


 勝負ありと言わんばかりに、客達が手を叩いて歓声を上げる。流石に分が悪くなったアルフは、クリスから自分の剣を奪い取るとそのまま店の外へと出て行った。


 毎回毎回、凝りもせず喧嘩を売ってくる奴が多いなと、クリスは困った顔を見せた。食事を終えると、カウンターに金を置いてクリスも店を出て行った。


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