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カルラシア 1

 アルフェリアを旅立ったクリスがオイゲンと一緒にゴーレムを倒した日、人間族の勇者ミツヤ・タカハシは、グランベルノ王へ魔獣討伐の報告と素材の献上をしていた。


「よくぞ戻られた、勇者殿。顔を上げられよ」


 洗脳から解放されていたミツヤは、王に疑われない様に無表情を心掛けながら、ゆっくりと顔を上げた。


「無事、魔獣を討伐してきました。素材は、全て王への献上品となります」、騎士達がミツヤの後ろから解体処理された魔獣の素材を運んで来た。


「よろしい、勇者が手に入れた物は、全て我が物となるからの」


「はい、おっしゃる通り全ては、王の物です」


 グランベルノ王は灰色の顎髭を触りながら、何かを探る様にミツヤをじっと見つめる。威圧感のある目にミツヤは、たじろいでしまいそうになり顔を伏せた。王は、ミツヤの挙動の全てを見逃すまいと、目を離さない。


「して、今回の討伐の褒美だが、何か望む物はあるか?」


「いいえ、王の命令こそが我が褒美となります。次なる命令を頂ければ幸いかと思います」


 くっと、ミツヤは自分で発した言葉に虫唾が走った。

 まともな思考となった今、洗脳されたふりをして答えるのは、いささか苦痛になる。


 王は、ミツヤの態度と言葉から洗脳が解けていないと安心したのか口元が緩んだ。


「そうか、そうか。なら、次なる命令を考えておこう」


「ありがたき幸せ。では、私は少々疲れましたので、自分の部屋で休ませていただきます」


「休息は、大事だからのう」、王は側近に耳打ちをする、「勇者を部屋に連れて行き、念の為いつもの薬を飲ませるのだ」


 部屋までご一緒すると話す王の側近の一人デルナンド侯爵に連れられてミツヤは王の間を出た。


 ミツヤの隣で話すデルナンド侯爵の戯言は、考え事をする彼の耳には入ってこないかったが、

ミツヤの後ろを歩く第一王子アランと第二王子ギルガーの会話が不意に気になった。


 話しをする兄弟は、ミツヤに話を聞かれても洗脳されているから大丈夫だと思っている。


「しかし、わが父ながら王の考えは、底知れないな。あの腹黒さは、俺も見習いたいね」


「言葉に気を付けた方が良いぞ」と、ギルガーはアランの肩に手を置いた。


「気にすること無いね、ギルガー。俺達の話を盗み聞きして、王に告げ口しても何の得にもならないから。何を言われても俺は否定するだけで良いし。告げ口した奴は、国家反逆罪で斬首になるだけだろ」


「ふぅ・・・、そうだったな、アラン。王族の言葉は最上位だからな」、何か言いたげなギルガーは、途中で言葉を飲み込んだ。


「ほら、前を見て見ろよ。異世界から召喚された勇者は、従順な王の下僕と化している。上手く完璧な操り人形に仕立て上げたよな」と、アランは蔑む目で笑い飛ばした。


「ああ、・・・。彼には気の毒だが、この国の繁栄のためには、逆らわれると厄介だからな」


「王の命令には絶対服従だし、思考力と感情を抑制されている限り何もしてこないよ」


 アランとギルガーは、前を歩くミツヤの姿が目に入っているにも関わらず、悪びれる事無く笑い声を漏らしながら会話を続けていた。


「今日は、あいつの監視役のリリアの姿を見なかったが、ギルガー、何か知っているか?」


「さあな、俺達と顔を合わせるのが単に嫌だから同行しなかっただけじゃないのか」


「見た目と違って気が強くて腹黒い妹は、何かと問題を起こしてくれるからな。早く政略結婚させて、城から追い出さないと」


 話しながら途中で違う方向へ歩いて行った彼らの声が、徐々に遠くなり聞こえなくなった。


「勇者殿、勇者殿・・・。具合が悪そうにお見受けしますが、大丈夫ですか」、背の低いデルナンド侯爵がミツヤの顔を覗き込んだ。


 目に入って来た侯爵の姿にミツヤは、顔を背けた。


 個人的に侯爵の風貌が嫌いなのだ。嫌らしい目つきでにやけた表情を浮かべる侯爵の容姿は、吐き気がするほど気持ち悪い。


「大丈夫ですよ、デルナンド侯爵。少し、疲れているだけです」、ミツヤは、今になって初めて悪意と謀略に渦巻く城内の雰囲気を感じ取っていた。


「そうですか、お部屋に着きましたので、いつもの薬をご用意いたします」


 デルナンド侯爵は、ミツヤと一緒に部屋に入ってきた。


「侯爵、薬はテーブルに置いといてください。後で必ず飲みますから」と、ベッドの上にミツヤは腰を下ろした。


「そうは、行きません。そのご様子、早く薬を飲んで頂きたく思いますし、私は確認しないと心配でなりません」


「分かった、直ぐに飲むから。薬を飲んだ後は、休みたいので一人にさせてください」


「お望みのままに」


 デルナンド侯爵から手渡された薬を口に含み、コップの水で流し込んだ。


「これで、安心かな。では、休ませてもらいますね」と、作り笑いをして見せた。


「はい、ごゆっくりとお休みくださいませ」


 デルナンド侯爵が部屋のドアを閉めたのを確認したミツヤは、舌の裏に隠していた薬を手のひらの上に吐き出した。


 水では簡単に溶けそうにない赤い錠剤が二つ。


 何となく直感でこの薬は、洗脳を維持するための物だと分かる。

 きっと幻覚や催眠作用があるのだろうと、ミツヤは考えた。


 ベッドに寝転がったミツヤは、指でつまんだ赤い錠剤を仰向けで眺めた。


 この薬をクリスさんに見せれば、何か分かるかも知れない。

 しかし、どうやってこの国から脱出する?

 それにこれから先、何をして生きて行けば良いんだろう?


 今すぐに答えが出そうに無い問題に頭を悩ませながら、ミツヤは目を閉じた。



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