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鉱山都市 2

 オイゲンに案内された店は、ドワーフ達で混雑していた。この都市で一番美味い料理を出す評判の店だと、宿屋の主人も話していたから間違いないだろう。


「まずは、酒で乾杯だな。良き出会いに」と、クリスとオイゲンは鋼製のジョッキで乾杯した。


 料理の注文をオイゲンに任せたクリスは、酒を飲みながら話し始めた。


「なあ、オイゲン。勇者ならもちろん女神からの加護を得ているんだろ?」


「儂は、生命の女神モイラ様から加護と武器を与えられた。生まれた時に勇者選定されるから、女神には会った事は無いがな」


「そうだよな、勇者は生まれた時から決まってるんだよな」


「クリスは、どの女神から加護を得たんだ? 慈愛の女神か?」


「まあ、そんなとこだな」と、薄笑いを浮かべ会話を流した。


「勇者としてドワーフ族を危機から守る役割を与えられたのだが、そう毎回、危機がある訳では無い。独り身の時は何とでもなったが、家庭を持つと安定した収入が必要になってな。親父の工房を継いで、こうして店をやっている」


「大変だな。勇者としての役割と家族を守る役割の二つを果たさないといけないんだ」


 話をするクリスとオイゲンのテーブルの上に豪快な料理が運ばれてきた。


「な、なんだこれは?」


「美味いぞ、ドワーフの作った調理器具と料理人とのコラボで作られた最高の作品だ」


 テーブルに並ぶ料理は、全て大皿に盛られている。料理から立ち上がる香りでクリスは、思わず口の中に溢れ出た唾液を飲み込んだ。


 乾燥地で栽培される赤豆の煮ものに、トウモロコシの粉で作ったパン。

 大鳥おおとりをぶつ切りにした豪快な揚げ物。

 ビッグボアの香草焼き。

 肉の厚みが30センチのビッグホーンのステーキ。


「肉を取り分けるのにナイフが必要だな」


「そんな物、必要ないぞ。騙されたと思ってフォークで切って見ろよ」


 ステーキにフォークが触れると、簡単に切れてしまった。


「なんて、柔らかいんだ。どうやったら、こんな風になるんだ!」


「調理器具に秘密がある。高圧力に耐える鍋で下処理した肉を料理しているんだ」と、肉を口に頬張るオイゲンは誇らしげに語る。


 そう彼らは、圧力鍋を使って肉を柔らかくしていたのだ。

 

 二人で料理を堪能していると、爆発音と共に店が大きく揺れた。


 周囲の客達がどよめくと、再び振動が起こり店はガタガタと激しく揺れた。


 何が起こったのか気になったクリスが店の外に出ると、採掘場から炎と黒煙が昇るのが見える。採掘場は、都市の一番奥にある山の中腹部にあり街中からだと良く見える。


「何があったんだろうな?」と、クリスは後から出て来たオイゲンに聞いた。


「まずいな、ゴーレムが出て来たのかも知れない」


「ゴーレム? 岩の塊のバケモンか?」


「魔法で作られたゴーレムとは違う。ここの採掘場から出てくるゴーレムは、表面が滑らかな鋼の様な物で出来た奴が出てくる」


「えっ、そんなゴーレムは見た事も聞いた事も無いぞ」


「そりゃ、そうだろう。アーティファクトで、強力なバケモンだし。いつも逃げられないように、全てここで退治するからな」


「古の産物か、どうする? オイゲン」


「これは、ドワーフの勇者の仕事だな。そうだ、クリス、都市に被害が出る前に倒したいから手伝ってくれるか?」


「もちろん、協力するよ」


 二人は、身体強化の魔法を自分自身にかけ採掘場に向かって猛スピードで走り出した。


 巨大な採掘場の入り口で高さ5メートルを超すゴーレムと、ギルドから派遣された冒険者達が前衛と後衛に分かれて戦っていた。


 後ろから魔術師達が魔法攻撃を放つと、前衛を任された冒険者達は、タイミングを見計らって剣や槍でゴーレムを追撃していた。


 オイゲンがアーティファクトだと話すゴーレムは、全身がシルバー色をしており、放たれてくる魔法の光を反射し、綺麗な輝きを見せる。ゴーレムの顔にある丸く光る玉が、上下左右に忙しく動いていた。


「顔にある光る玉は、奴の目だ。恐ろしい力で攻撃してくるから、まともに受けるなよ」、聖なるハンマーを肩に担ぎ、鋼の鎧を着るオイゲンは、前衛で戦う冒険者達の後ろでクリスと並びゴーレムを眺めていた。


「分かった、あいつに弱点はあるのか?」


「頭だ。とにかく頭を叩き潰さないと、動きを止めない」


「作戦はあるのか?」


「儂が奴を足止めするから、クリスは頭を集中的に攻撃してくれ」


 オイゲンは聖なるハンマーをクルクルと回しながら走り出し、ゴーレムの足の側面をハンマーで打ち付けた。


 グワァーンと、金属同士のぶつかる鈍い音が響く。

 ハンマーで打ちつけた所が、少しだけ凹んだように見えた。


 クリスは真正面からゴーレムに向かって突入し、足元でスライディングをしながら股の間を通り抜けた。ゴーレムの後ろに回ると、ツルツル滑る足元に苦戦しながら背中を駆け上った。


 ゴーレムの頭上にクリスは神剣を振り下ろしたが、キィーンと甲高い音と共に神剣は弾かれてしまった。


「防御魔法か? 何か防壁の様なもので守られているのか」と、痺れる手を振った。


「頭は特に重要だから、奴は魔法で防御しているのだよ。堅くて簡単に破壊できないぞ」


「それじゃあ、どうすれば良いんだよ。いつもどんな戦い方をしているんだ?」


「消耗戦だよ。時間は掛かるが、奴の力が衰えるまで攻撃し続ける」


「くぅー、タフだね。どっちが先に倒れるか、我慢比べみたいだな」


 クリスとオイゲンはお互い目で合図すると、もう一度同じ方法でゴーレムを攻撃した。


 三回ほど連続攻撃をしてみたが、最初の攻撃の時と同じ結果になった。


「デカいし、堅いし、先に動きを止めた方が効率は良く無いか?」


「どうやってあいつの動きを止めるんだ?」


「頭以外に防御壁は、無いよな」と、クリスは地面に足を擦りつけて踏ん張った。


「その通りだ、頭から下の防御力は高くない」


 更に防御力の弱い所は無いかクリスは考える。足と腕を切り落とすならどうする、それなら関節部分を攻撃すれば切断できるかも知れない。


 クリスは、鞘に納めた神剣の柄に手をかけて、大地を蹴り走り出した。

 ゴーレムの左膝を狙い、神剣を素早く抜刀した。

 想像していたより関節部分の強度は弱かったのか、神剣を弾かれずに振り抜くことが出来た。

 左足を切断されたゴーレムは、バランスを崩し、倒れない様に両手を地面に付けた。


「関節部分が奴の弱点だ! 集中攻撃をするのだ!」、オイゲンの指示で後方の魔術師達は、一斉にゴーレムの肩と肘に魔法を放った。


 爆音と共にゴーレムの周りから砂煙が上がった。

 肘に力が入らないのか、ゴーレムは腕をガタガタと振るわせ始めた。

 後方からの魔法攻撃が止むとクリスは、右肘を狙い神剣を振り抜く。

 右腕を失ったゴーレムは、ドスンと地面にうつ伏せに倒れた。


 前衛で戦っていた冒険者達は、身動きできないゴーレムに群がると、左肩を剣と槍で何度も何度も突いて左腕を切断した。


「オイゲン、あいつの首を切り落とすから、援護してくれ」


「承知した。目から熱線を出して攻撃してくるタイプかも知れないから気を付けろよ」


 クリスはゴーレムの前に群がる冒険者達を飛び越え、神剣をかざしながら宙を舞う。

 ゴーレムは危険を察知したのか、顔を180度回転させ宙に浮くクリスの方を向いた。

 目を上下に何度か動かした後に、クリスに狙いを定め熱線を放った。

 真っ赤な熱線は、クリスの胸に当たった。


 一瞬の出来事だったので油断していた。首筋から冷汗が流れ落ち、驚きで思わず彼の鼓動は乱れそうになる。


 ゴーレムの背中に着地したクリスは胸当てを恐る恐る触ると、何ともなかった。

 オイゲンから譲り受けた胸当ては、ゴーレムの放った熱線を吸収したのだった。

 クリスは、呼吸を整えゴーレムの首に神剣を振り下ろした。

 ドスンと、ゴーレムの頭が地面に転がった。 


 勝利を確信した冒険者達の士気が上がり、わぁーと湧き上がる歓声が木霊した。


 後方の魔術師達は、小高い丘を駆け下り近くから攻撃を始める。

 負けじと前衛で奮闘していた冒険者達は、ゴーレムの頭を囲み滅多打ちにした。


「ここの冒険者達は、威勢が良いな」


「そりゃそうだろ、ゴーレム討伐の報酬は破格だからな」と、オイゲンは鼻先を指で擦る。


「そろそろ、終わりにするか。オイゲンのハンマーであいつの頭を潰そうぜ」


 任せろと言わんばかりに、群がる冒険者達を払いのけ、オイゲンは何度も顔面にハンマーを撃ち込んだ。


 滑らかだった表面が、見る見るうちにデコボコになる。


最後はプシューと、白い煙が上がりゴーレムの目の光が消えた。


「倒したな、オイゲン」


「クリスが手伝ってくれたおかげだ。短時間で倒せたぞ」


「しかし、いい汗かいたよな!」と、クリスは腕で額の汗を拭った。


「汗をかくと喉が渇く。それに腹も減らないか?」と、オイゲンはクリスの胸元に拳を当てた。


「それじゃあ、店に戻って仕切り直すか?」


「それは、良い。気分爽快だし、今夜は派手に騒ごうか」


 意見がまとまった二人は、意気投合し肩を組みながら歩きだした。彼らの健闘を称える冒険者達も後に続いて付いて行く。


 店に戻ったクリスとオイゲン、それに一緒に戦った冒険者達は、夜明けまで互いの健闘をたたえ合い酒を酌み交わした。


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