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アルフェリア 11

 夜も更けて来ると、少し小腹が空いた。


 夜食でも食べるかと、クリスはショルダーバッグから肉と野菜を出し、削った木を串にして食材に刺した。焚火の前には、串が四本並んだ。


 かすかな音、誰かの腹の音が鳴るのが聞こえる。普通なら絶対に聞こえない音でも、身体強化のおかげではっきりと聞こえてくる。


「おーい、そこに居るんだろ。腹が減っているなら、一緒に食べないか?」と、木の上に向かってクリスが声を掛けた。しかし、返事は帰ってこなかった。


 地面の小石を拾って、木の上目がけてクリスは小石を投げた。まさか、当たらないだろうと思っていると、ドサッと上から人が落ちて来た。


「いたたたた、見つかってしまいました」と、黒い布を顔に巻いた黒色の半袖シャツに黒色の短パンをはく人が姿を現した。


「君は、間者かな。ずっと勇者達を監視していたよな」


「間者ではありません。私は王女の護衛をしている者です」と、顔の布を取ると女性だった。


 ボーイッシュな短めの茶髪に頭の上にある小さな耳と緑の瞳は獣人族猫科特有の瞳孔をしている。


「俺は、案内人のクリス。君は?」


「私は、シルクです。見つかった事は、絶対に王女には内密にして欲しいのですが」


「ふっ、内緒にしておいてあげるよ。一緒に夜食を食べないか?」


「良いのですか。それより、よく私の存在に気が付きましたね」


 クリスは、串の肉をかじりながらシルクのお腹を指さした。


「聞こえたんだよ、君のお腹が鳴る音が」


「ふぇ、わ、私のお腹の音ですか? は、恥ずかしいですね」


「しょうがないよ。生理現象だから、止められないよな」


「そうですか、不覚でした」と、シルクは悩まし気に自分のお腹を見た。


「ははは、食べたら君も少し仮眠を取ると良いよ」


「そんなに甘えられません。これでもグランベルノ王国の特殊部隊の一員ですから」


「特殊部隊ね、なんか名前は凄いよね」


「名前だけではありませんよ。機密事項の多い精鋭部隊なんですから」と、シルクは誇らしげな態度を取った。


「でも、女性なんだから。少しは気にした方が良いよ。せっかくの美人も台無しだから」


「美人だなんて、褒めても何もありませんよ」と、シルクは体をよじり恥じらう仕草をする。


「休んだ方が良いと言ったのは、君の目の下のクマが酷い事になっているからだよ」と、クリスは自分の目の下を指さした。


「そ、そ、そんなに酷いですか?」


「ああ、結構、目立つよ」


「はぁー、実は、気になっていたんです。やっぱり、あなたのお言葉に甘えさせてもらいます」


「うん、正直で良い。食べたら、直ぐ休みな」


「・・・ありがとう」


 ガサッと物音がしたのでシルクは、ご馳走様と言い残し、木の上にジャンプした。


 音がする方を見返ると、ケンが起きて来た。


「そろそろ交代しようか。俺は十分に休んだから」


「助かります。焚火の前に夜食の串が残っているので、良かったら召し上がってください」


 クリスは、ケンと見張りを交代するとテントの横の木にもたれながら仮眠を取った。


 野宿した場所から二時間ほど森の奥へ進み、魔獣が寝床にしていた洞窟の前に到着した。


 疾風の戦団を助けるために魔獣を痛めつけたので、クリスはまだここに魔獣が居るかどうか疑心暗鬼だ。


「ここが、魔獣の寝床だが、居るかどうかは分からない」


「道案内、有り難うございました。ここからは、僕たちに任せてください」


 ミツヤは、仲間を引き連れ洞窟の前で立ち止まった。


 ミツヤに指示されてエレスがファイヤーボールを洞窟に投げ込んだ。


 ボンとファイヤーボールが洞窟の中で何かに当たったのか、火が弾ける音が聞こえた。


「ウッギャー・・・、フウフウ」と、四つ足の魔獣が洞窟の中から出て来た。


 この間見た魔獣と同じなのか? 姿が明らかに違う。ダークブラウンだったはずの毛は、黒光りしている。それと、額に目がある。


「気を付けろ! 何か変だ」と、クリスはミツヤ達に向かって叫んだ。


 クリスの声が聞こえているのか、いないのか。彼らは全く動じることなく魔獣との戦闘を始めてしまった。


ミツヤは、仲間達に指示を出しながら魔獣との間合いを詰める。


「エレスとリミアは、後方から魔法攻撃。ケンは僕の盾になってください。リリアは怪我をしたら直ぐに回復魔法を頼む」


 ミツヤの指示通りにエレスとリミアが同時に火と水の魔法を放った。


「ファイヤーアロー」、「ウォーターカッター」


 盾を前に構えたケンが、魔獣の前に立ちはだかり攻撃を受ける体勢を整えると、後ろでミツヤが聖剣を構えて待機した。


 クリスの不安は的中する。


 エレスとリミアの魔法は、魔獣に直撃したが傷一つ与えていなかった。


「フウ、フウ、フウ・・・」と、息を荒げる魔獣は口から舌を出し、鋭い牙をむき出した。


 ケンは魔獣の攻撃を察知したのか、彼の踏ん張る足が地面にめり込んだ。


「ガッ、ガッ、グギャー」と、魔獣はケンに体当たりした。


 圧倒的な力を防ぐことが出来ず、盾ごとケンは吹っ飛ばされてリリアの横に転がった。


「ケ、ケ、ケン! 大丈夫?」、リリアは横たわるケンの体を揺すったが気を失っていた。


「駄目だな、完全に意識が飛んでいるよ。体の損傷も酷いな。直ぐにヒールを」、クリスはケンの容態が良くないのを見て分かった。


 魔獣の大きな体を受け止めた彼の両腕は、骨が砕けていたのだ。


 魔獣の体当たりをジャンプして避けたミツヤは、魔獣の背中に乗り聖剣を突き刺した。しかし、刺した剣が固い毛に弾かれる。必死に何度も突き刺すが、擦り傷程度のダメージしか与えられなかった。


「う、うわぁぁぁ」と、魔獣の背から振り落とされたミツヤは宙で一回転して着地した。


 魔獣は、狙いを変える。体を低く身構えた魔獣は大きくジャンプすると、魔法攻撃をするエレスとリミアの前に着地し大きな口を開けた。


「嫌ぁぁぁぁ、ファイヤー、ファイヤー、ファイヤー」と、エレスが叫ぶ。


「く、く、来るなー、ウォーターウォール」と、リミアは足を震わせながら水の防壁を出した。


 魔獣は水を嫌うのか、水の防壁の前で動きを止めた。


「だ、駄目、魔力が尽きてしまう、どうしようリミア・・・」と、エレスは気を失った。


「リミア!! 私が守るから、えーい」、リミアは手を前に伸ばしながら渾身の力を振り絞り水の防壁を前へ動かした。


 迫りくる水の防壁に、「グッ、グルルルル」と、魔獣は後ずさりする。


 油断した魔獣の後ろからミツヤは、魔獣の後ろ足を切りつけた。


 再び勇者を意識した魔獣は、その場から離れると魔力を使い切ったリミアも意識を失い倒れた。


 常人より遥かに身体能力の高い勇者は、魔獣の攻撃を躱しながら聖剣で応戦していたが、彼の荒っぽい剣技は隙も多く徐々に劣勢に転じてしまった。


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