追放されたら『もう遅い』と言ってざまぁしてやる予定のおっさん冒険者
思いついたので書いてみました。
「おっさん!早くしろよ!」
「…分かってるって」
「ちょっと汗が飛び散ってるんですけど!近寄らないでくれる!?」
「…臭い」
ダンジョンからの帰り道、戦利品となるアイテムをたくさん持ちながら俺たち『栄光の道』は帰路に着いていた。
…まぁ他の3人はほぼ手ぶらで、荷物を持っているのは俺だけなんだが。
「どうすんのアレク?このままじゃ日が暮れちゃうよ?」
「…疲れた」
「チッ…。お、そうだ。おいおっさん!」
「…何だよ」
パーティリーダーである何かいいことを思いついたようにニヤリと笑う。
こういう場合は大概ろくなことが起きないため、嫌な予感しかしなかった。
「俺たちは先に帰るからよ!テメェは1人寂しく帰ってな!」
「アレクってば天才じゃん!そうと決まれば早く行こ!」
「…寝たい」
およそ仲間とは思えないようなセリフだが、メンバーの誰1人として反対の言葉は出なかった。
そのまま歩くペースを上げていき、やがて彼らの姿は見えなくなる。
「はぁ…」
あまりの対応に思わずため息が漏れるーーーが、正直悔しいと言う感情はあまりない。
いや、別にMってわけじゃないぞ?ただ、いつものこと過ぎてもう何も感じなくなっているだけだ。
ま、ここから街に戻るまでしばらくかかるんだ。ちょっとおじさんの話でも聞いていってくれ。
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まずは自己紹介から始めようか。
俺の名前はルード、ちょっとした『能力』と20年積み重ねた経験が取り柄の、個人では未だにBランク止まりのしがない冒険者だ。
で、さっきの奴らがパーティメンバーの『勇者』アレクと『狩人』リオン、そして『賢者』のモナ。
俺よりも1周り以上若いのに、すごい才能を秘めた冒険者で、個人でもSランクに到達するほどの腕前を持っている。
俺たちは4人で『栄光の道』と呼ばれる、この大陸全土で10組もいないSランク冒険者パーティの1つだった。
で、なんで俺がそんなすごい奴らと組むことになったかというと、シンプルにギルドマスターからの紹介によるものだ。
ちょうど1年前に彼ら3人がパーティを組んだ時の話だが、アタッカーとしては天才の彼らでも冒険者のイロハという点では、初心者も初心者、右も左もわかっていない状態だった。まぁ、当然だな。
ギルド的にはそんなことで優秀な人材を埋もれさすわけにもいかず、ならばとそれを補える人材を募集して、俺に白羽の矢が立った。
当時の俺は、ひとつ前に勤めていたパーティを辞めて―――あぁ、もちろん円満にだぞ?それから年も年だしそろそろ引退かなと考えていた時期だった。
そんな時に旧知の仲であるギルドマスターにどうしてもと頼まれ、最後の大仕事として引き受けることにしたのだ。
当時は天才って一体どんな奴らかなと思って、結構楽しみにしていた自分がいた、のだが。
ふたを開けてみると、とてつもなく傲慢で礼儀のなってないクソガキに、潔癖で人のことをすぐ性犯罪者にしたがるエルフのクソガキ、無口で何考えてるか分からないクソガキというクソガキのオンパレードでまぁ驚いた。
俺がBランクだということもあってか、もう最初から全員舐めた態度で、それぞれの第1声が「せいぜい足を引っ張るなよ」と「あんまり見ないでくれます?きもいんで」だったし、残りの一人にいたっては無視である。もうおじさんびっくりしすぎてなんも言えなかったわ。
そこからは想像通りかもしれないが、小間使いのように雑用をやらさせる日々が始まった。
モンスターの情報収集にアイテムの準備、遠征の際は馬車や宿の手配を。挙句の果てにはちょっとお腹がすいたからとお使いまで―――あげるときりがないがおはようからお休みまで馬車馬のごとく働かされた。
そんな俺の献身と、彼らの才能、そして俺の『能力』の影響も相まって瞬く間に成長していき、歴代最速の速さでSランクに到達できたのだ。…いや、してしまったといった方が正しいかもしれない。
そのせいで彼らはここまでその性格を直すことが出来ず、調子に乗ったまま不遜な態度を崩すことはなかった。最近は俺だけでなくギルド内でもその態度が目立ちつつある。
何度か窘めてはみたものの、俺の言うことなんか聞くそぶりも見せない。むしろ理不尽に逆切れされることの方が多かった。
そんな日々が続いて、もうすべてが嫌になった。当たり前だ、俺も聖人じゃない。
だから、必ず復讐してやろうと考えている。それもアイツらが一番悔しがる方法で―――。
「ん?」
そんなことを考えていると、そろそろ街に着くかという所で4人のゴブリンと少年3人のパーティが戦っているところに遭遇した。
初心者のパーティだろうか、戦士が何とか持ちこたえてはいるがかなりギリギリの様子だし、魔法使いの火力も足りていない。神官にいたっては魔力切れを起こしたのか倒れこんでいた。
さすがに負けることはないと思うが、このままでは大怪我をしてしまうかもしれない。そうなると寝心地が悪くなるなと考えて、声をかける。
「Bランク冒険者のルードだ!手助けは必要か?」
「ッ!?すみません!お願いします」
「OK。じゃあお前らは今から、俺の『パーティ』だ」
次の瞬間、初心者パーティの全員の動きが変わる。戦士はゴブリンに押し勝つようになったし、魔法使いはファイヤーボール一撃で敵を屠っている。魔力切れで辛そうにしていた神官は、急に治った体調に驚いているようだ。
そう、これが俺の能力『才能開花』である。効果は俺が『パーティ』だと認識した仲間の、能力を上げてることが出来た。
さらに、もともとの能力値―――まぁここでは才能と呼ぼうか。それが高ければ高いほど『才能開花』によって上がる倍率も上昇していく。
『栄光の道』が最速でSランクに上がれた理由はこの能力による影響が大きいと考えている。なんせあいつらは無駄に才能だけ高いからな。
「やった!倒せたぞ!」
「おぉ、お疲れ」
おれが声をかけると、3人の少年が駆け寄ってくる。
「ありがとうございました!助かりました!」
「あぁ、気にしないでくれ。同じ冒険者だ、助け合いも大事だろ?」
頭を下げてお礼をする彼らに温かい気持ちになる。あの3人組にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいなと思った。
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「てめぇ、遅ぇんだよ!」
「やっと来たの?もう待ちくたびれたんだけど」
「…お腹すいた」
1時間ほど歩いて、ようやく街に着き、冒険者ギルドに入った俺への第一声がこれである。本当に性格終わってなこいつら。
「別に先に初めてりゃ良かっただろ」
「はぁ?てめぇが持ってるアイテム換金して山分けしなきゃいけねぇだろうが!!!」
そんなこともわからねぇのか、と馬鹿にしたような眼で見てくるアレクに何度目か分からない溜息を吐く。
「ねぇどうでもいいけど早くしてくれない?待ってるんだけど」
「…お腹すいた」
まるで私たちは関係ないといった様子で興味なさげにしているリオンとモナ。言っておくけどお前らも同罪だぞ?
ただ、そこに文句を言っても話は一向に進まないし、どうせまた理不尽に逆切れされるに決まっていたので、諦めて受付カウンターへ向かう。
ギルド職員にに持ってきたアイテムを渡すと慣れた手つきで選別していく。
「確認致しました。こちら報酬の金貨10枚です」
選別が終わると、重量のある麻袋を手渡される。ありがとうと言って受け取ろうとすると、横から手が伸びてきて横取りされた。
「やっと来たかァ。おいお前ら!分配するぞ!」
「やっと~?もう待ちくたびれたんですけど」
「…待ってた」
テーブルに戻り、麻袋から金貨を取り出すと、アレクは笑いながら分配していく。
「じゃ、俺とリオンとモナの3人が3枚ずつで残り1枚がパーティの運営費でいくか」
「おい、俺の分は?」
俺の抗議の声にアレクは面倒くさそうな顔をすると、すぐににやにやと笑いだしてポケットから何かを取り出す。
「ちっ、分かったよ。ほら、これがお前の取り分1枚だ」
俺に向けて投げつけたソレを受け取ると、手の中には銀貨1枚が握られていた。
ちなみに銀貨100枚で金貨1枚である。本来分配されるはずの100分の1(そもそも金貨1枚なのもおかしいが)となり、宵越しの酒を飲めば消えてしまうような侘しい金額だった。
「何見てんの?ちょっと気持ち悪いんですけど」
「まさか、お前も参加してぇのか?じゃあ参加費として金貨1枚渡しな」
「…」
それに対して抗議の目を向けても、アレクは悪びれる様子もないし、リオンは嫌悪のこもった瞳を向ける。モナはいつも通り何も言わず、こちらを見ようともしなかった。
「はっ。遠慮させてもらう」
そう吐き捨ててギルドから出る。こんな奴らとは1秒でも長くいたくなかった。
正直、我慢の限界はとっくに天元突破している。今すぐにでも怒鳴り声をあげてパーティを抜け出したかった。ただそんなことしても意味がない。
俺の復讐は、辞めるだけではだめだ。俺それじゃ俺の気が済まない。むしろ、向こうから辞めろ言わして後悔させてやるくらいじゃないといけない。
そうすれば、『才能開花』の影響を失ったあいつらは、自分たちの未熟さを再確認するだろう。そして、戻ってきてくれと頼まれたときにこう言ってやるのだ。
―――『もう遅い』ってな。
「ククッ…」
仄暗い思いを抱えながら、夜の道を歩く。
起こりうるであろう未来に思いを馳せながら、これから酒でも飲むかと思って行きつけのバーへと向かうことにした。
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「…行ったか?」
「…うん行ったぽい。はぁもう嫌だよぉ~」
リードがいなくなった後、3人はため息をつきながら机の上に突っ伏しました。
先ほどとは打って変わって暗い雰囲気になった彼らに、筋骨隆々な壮年の男性が声をかけます。
「よぉ、お前ら。ずいぶん演技が板についてきたじゃねぇか」
「勘弁してくださいよ、ギルドマスター」
「そうだよ。私たちが普段どれだけ胃を痛めながらやっていると思ってるのさ!」
「…辛い」
3人が各々口にする不平不満を聞くと、ギルドマスターと呼ばれた男性は苦笑しました。
「まぁ、そういうなって。あいつの冒険者としての立ち回りは結構参考になるだろう?」
「だからこそですよ。なんで尊敬してる人を馬鹿にしなきゃならないなんて気が狂いそうです」
「今日だって、全員のフォロー入れてくれてたの知ってるし格好良かったのに…私臭いとか言っちゃった…」
「…いつまでやればいいの?」
はぁ、とため息をつく3人を気の毒に思うギルドマスターですが、ここでやめさせるわけにはいきません。この3人のためにも、そして―――ルードのためにも。
「悪いがずっとだ。こっちでも可能な限りフォローさせてもらうからよ」
「気が遠くなりますね…。あ、そうだ。これまた貯めておいてもらえますか」
アレクがそう言うと、先ほど分配した金貨3枚をギルドマスターに渡します。リオンとモナも同様に差し出しました。
「これはお前らのものでもあるだろうが。別に使っちゃってもいいと思うけどねぇ」
「そんな!ルードさんにあんな態度をとって私たちだけ贅沢なんてできないよ!」
「…胃が痛い」
その剣幕にギルドマスターはまたも苦笑します。事情を知っているからか、彼ら3人が嘘をついているようには思えなかったからです。
3人があのような態度を取ったのは、実は彼、ギルドマスターの指示によるものでした。理由は、ルードを辞めさせないためです。
以前から彼の口から引退という言葉が飛び出てくるようになり、その有能な能力や何よりもギルドマスター自身が彼のことが大好きなため、何とか引き留めようと考えていました。
ただ、思った以上に意志が固そうで、冒険者自体にやる気を感じていないとみたギルドマスターは説得よりもある『作戦』を思いつき、当時新人だった彼らに依頼したというのが事の始まりでした。
3人もルードと組めるなら…とその場では納得していましたが、御覧の通り今になっては本当にやめればよかったと後悔しているようみえます。
「そういう事です。僕らは金貨1枚で十分なので、もしルードさんが『栄光の道』を離れた時に全部渡してください」
「わかったよ。でも結構たまったんじゃないか?1000枚は軽く超えてそうだよな…」
この一年間、彼ら3人は最低限の報酬で活動しており、その多くはギルドの隠し金庫の中に収められていました。ギルドマスターは金庫に入ってあろう額を考え、とんでもないことになってそうだなと呟きます。
「さぁ、そこは気にしてませんよ。でもルードさんもお金たくさんあるんじゃないでしょうか?ほら『導き手』でしたっけ?」
「どうだかなぁ。あいつ無駄遣いは少ないけど、昔から自己評価低くて遠慮した部分もあるし…」
「あんな凄い能力持っているのに?」
「…不思議」
アレクが言っているようにルードはギルドからは『導き手』と呼ばれ、その能力も知れ渡っています。だというのに自己評価が低いという発言に対し、リオンとモナが疑問符を浮かべました。
「おう、ほぼ全てののパーティをSランクに押し上げた立役者の割に、『俺はサポートしかできないから』とか言いだすんだぜ?お前はSランクになれるって何回も説明してるんだがなぁ…」
そう言って遠い目をするギルドマスターに、3人は憐憫の目を向けます。
彼によるとルードがBランクなのも、別にギルド側からイジメを受けているわけではないようで、むしろ自分から拒否しているようでした。
「あいつなんか枯れてるからな。欲がないっていうか…。年取り始めてなおさらそうなってる傾向あるし。あ、でも最近は良く表情が動くようになった気がするから、作戦は成功しているかもしれん」
「ほぼ全部怒りですけどね…」
「後呆れもあるよ…」
「…諦めも」
「まぁまぁ、そんなこと言ったって一番長くやれているのはお前たちなんだから。あいつを辞めさせないためにも、自信持って頑張ってくれ」
じゃあよろしくな!と言って、3人の肩をたたいて離れていくマスターに、3人は今1度大きなため息を吐きます。
「えーとなんだっけ、ギルマスが考えた作戦名」
「…『卑屈な奴でも怒りのパワーを与えてやればそれを原動力にして頑張るんじゃね作戦』」
「それそれ。はぁ、もう引き受けるんじゃなかった…」
「はは、また胃薬買ってこなきゃだね…」
そのうちルードから本気で怒られて、この業界にいられなくなるんじゃないかと、3人は戦々恐々とします。
はてさて、この奇妙な関係はいつまで続くのでしょうか。それはだれにも分かりませんでした。
続きを考えるかは考え中です。
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