第23話 「ギルティスの涙事件」 閉幕
鼻歌を歌いながらメイシアの市場を探索する。人々の間をすり抜けて適当に進んでいく。人々の喧騒を聞きながら当てもなく街中を彷徨う。今日の午後、ギルドに「ギルディスの涙事件」の呼び出しを受けた。ああ、あの件は正式に事件として王都にも報告されたらしい。で、詳しくは私も聞いていないんだけれど、私の処遇について話したいことがあるらしい。知らんけど。
私がこの事件を起こしたー、起こしてない―、的な話で論争していたし、恐らくその結果を教えてくれるのだろう。まぁ、私と敵対することはないだろう。サトリがなにかするみたいだったし。
今日の午後の予定は決まっているが、午前はやることが無い。グレイも帰って来ないし、宿でゴロゴロするのも飽きたし、暇潰しに街でブラブラすることにしたんだ。ちなみに今の期間、私は街の外に出ないようギルドに要請されている。ついでにどっかから来たのか調べてないけれど、監視要員がいる。多分暗殺者とかその辺りなんだろうね。まぁ、暇潰しに、後ろから「何してるの」って声を掛けたら慌てて逃げていったことがある。ちょっと面白かった。
あー、何か面白いことないかなー。
「おーいそこのお嬢さん? こんなところで何しているんだーい?」
「はい?」
気が付いたら雑踏を抜けて薄暗い路地に出ていた。そして目の前には複数のチンピラっぽい若者&いかついおっさん一人。全員私をみてうっすらとニヤニヤした笑みを浮かべている。
「え? 何? 変質者の集団?」
「「「違うわ!!!!?」」」
思わず口を滑らせたら総ツッコミを受けた。
「え? じゃあ何? チンピラ?」
「ああ!? 喧嘩売ってんのかこのクソガキ?!」
「なめてんじゃねーぞゴラァ!!!」
「てめぇ覚悟は出来てんだろうなぁ!? ああ!?」
……何だろう、この残念な小物臭。それに私は一応Sランク冒険者なんだが。街でもそこそこ有名なんだが? ……そういえば宿の近所のおばさんたちは私が冒険者ってことは信じてくれたけど、市場の人たちは信じてくれなかった気がする…。何でだろう?
「まぁ、待て待てお前ら。こんな上玉のお嬢ちゃんはケガさせねぇように捕まえねぇとなぁ? 見たところ龍人だしな? クククッ、こいつは高く売れるぜぇ?」
…ああ、駄目だこれ。こいつも小物だわ。おっさんたちを前に雑魚だと確信。っていうかまずいな。こいつら弱すぎて手加減できるか怪しいんだけど? 大丈夫かなこれ。いま私暴れたら絶対怒られるんだよね。困ったな。囲まれてビビったと思ったのか男たちは一層卑しい笑みを浮かべて迫ってくる。普通にキモイ。
「おいお前たち、そこで何をしている?」
もうこいつら灰にして証拠ごと消そうかなとか思い始めていたタイミングで、後ろから声が掛けられる。後ろを振り返ると剣士のような恰好の少年がこちらを睨んでいた。正しくはチンピラたちを、だけれど。明るい茶色の髪に意志の強そうな眼が印象的だ。あと顔がいいな。帯剣しているのは一本のごく普通の剣。着ている鎧は革鎧だろうか。随分と着慣れている感じがするな。きっと戦い慣れているのだろう。
「あぁ? 何だてめぇ?」
「恫喝か? 少女一人に集団で囲むとはクズだな。」
「何だと!? ガキの癖にいい度胸だな!!」
「じゃあそのガキを複数で囲んでるお前らは度胸が無いんだな。」
「何だと!?」
もう語彙が「何だと!?」しかないんじゃないかな? こいつら。罵り合いは売り言葉に買い言葉、どんどんヒートアップしていく。当事者である私を置き去りにして。……よし、こっそり逃げ出そう。
「あっ、コラ! 逃げるな!!」
「ヤベッ、見つかった!?」
「クソッ! もういい! そっちのガキも畳んじまえ!!」
おっさんが号令をかけてチンピラたちが襲い掛かってくる。どうしたものかなー、と考えていると近くに来ていた少年が、拳を構えて私を背に庇う。
迫ってきたチンピラAを往なして、カウンターで膝を叩き込んで撃沈させた。続いてチンピラBに足払いを掛けて転倒させる、ついでにチンピラCの攻撃を躱してボディに一撃を入れ、怯んだ隙に頭を掴んで、起き上がろうとしたチンピラBにぶつける。
「わぁ。ものすっごい鮮やかな手際―。」
「……なんだ。あんた、戦えたんだな。」
「んー? まぁねー。」
魔法で倒したおっさんの上に座りながら答える。と言っても魔法(物理)だけど。転移魔法で後ろに回って延髄に回し蹴りで気絶させました。
「…しかもかなり腕のいい魔法使いなんじゃないか? 近距離転移でもかなり高度の魔法だよな?」
「そうかな? 練習すれば誰でも出来るんじゃない?」
「ふーん、そうなのか。俺より小さいのに凄いんだな。」
「……あー、龍人って人より寿命が長くてさ? 見た目で判断しても君らよりも年寄りだからね? 小さいって言わないでもらえる?」
「そうなのか…? すまない。」
「いいけど。あっ、そうだ。私はリナ。よろー。」
「あー、俺は…ヴァイナだ。」
「ふーん。ま、いいや。覚えておくよー。」
「興味なさそうだな。」
「深入りされたい?」
「いや…。そうでもないな。」
「じゃ、いいんじゃない? また会ったらそん時は仲良くしましょ?」
「…ハハッ! いいなそれ! 面白そうだ!」
「じゃあ、また。」
「ああ、またどこかで。」
ニヤリと笑いながら提案すると、ヴァイナ君は心底楽しそうに笑って賛同してくれた。そのままお互いに振り返らず別の道を行く。私は裏路地を進み、ヴァイナ君は大通りに戻る。まさに一期一会…かな。いやぁ、面白い出会いだった。彼、隠していたけれど絶対上流階級だよ。着ていた革鎧、あれ多分ワイバーンの皮から出来ている。ワイバーンはBランクに相当する魔物だからそれくらいの実力か、それともワイバーンの皮を手に入れられるくらい裕福かのどちらかだろう。そこまでの実力は感じなかったので上流階級かな。
……ワイバーンの皮って確か金貨200枚くらいだよね? うん。やっぱ庶民とは考えにくいかな。
「何でもいいか。…そろそろギルド行こ。」
私はそのままギルドに行くことにした。……はい。勿論迷子になりました。ラプラスー! 道案内よろしくー!
ギルドに着いて受付に聞いたら、そのままギルマスの部屋に通された。そしてギルマスの部屋には何かの書類を書いているギルマスとソファーで寛ぐグレイがいた。
「え? 何でグレイがここに? いつ戻ったの?」
思わず顔を顰めて聞くとグレイは呆れた顔をし、ギルマスは溜息をつく。
「お前なぁ。ま~た面倒なことしたな?」
「うげっ、私は変なことしたつもりは無いんだけれど……。」
ソファーから立ち上がり、説教を始めそうなグレイ。えー、ちょっともう帰りたいんですけどー。私とグレイがぎゃーぎゃー騒いでいると見かねたギルマスがストップをかける。
「お前たち、もう少し静かに出来ないか? それに今日はリナに『ギルティスの涙事件』について話があるから呼んだんだ。」
真面目な顔をしてギルマスが話し始める。グレイも真面目に話を聞くことにしたが、私はニコニコと笑みを浮かべる。
「……リナ。お前さん、何で笑っている?」
「え? だってこの近くに戦力になるのってグレイだけじゃない? それにグレイは手ぶらじゃない。だから貴方は私と敵対することはしないんでしょう?」
「……そうだが…。…はぁ、全くあの方の仰っていた通りだな。」
「…? あの方?」
あの方って誰だ? ギルマスより立場が上…それに私のことを知っている人物にでも会ってきたのか? そんな奴いたっけ?
「リナ。今回の件はお前さんの報告したことが事実だろうと始祖人たるギィス様から連絡があってな。…なんでもギィス様はお前さんのことを知っているらしく、何か揉め事を起こしたらすぐに解決できるようにしていたらし」
「「はあぁぁぁあぁ!!?!??!」」
「うお!?」
ギルマスの台詞を遮るように私とグレイが同時に絶叫し、ギルマスは驚いて椅子から転げ落ち、その反動で書類の束が机から落ちていった。
「リナ!? お前何した!?」
「なにもしてない!! そりゃちょっと暴れたけど! でも始祖人が出るほどじゃなかった!! グレイでも解決できそうだったし!」
「じゃあなんで…ってまさか始祖人もお前を警戒して…。」
「そっ、そんな訳ない! と思いたい!」
「いやこれは完全に警戒してんだろ。やっぱ暴走癖でもあるんじゃ…。」
危険人物扱いされて、慌てて否定してみてもグレイの認識は変わらなかった。それどころか対応の早さに『私=危険人物』と始祖人に考えられているという考えが正しいと確信してしまった。
「む? ギィス様からの書簡には「止められなそうなら連絡しろ」とあったのだが。」
「ギィスくん!?!?!?!?! 本当に何してんの!!!?」
ギィスはハイエナの獣人で、危険には異常なほど素早く気付く。本人は力より技で戦うと言っていて、高い危機察知能力と器用な立ち回りで、戦場も政争も潜り抜けてきた、里の外で一番頼れるはずの人物だ。……まさか本当に私のことを爆弾扱いしたりしてないよね? してないよね???
「まぁ、そういうことで今回の件は、何処からか来た研究者の実験で生まれた怪物たちが暴れた結果、ということになった。」
「おっし、ギルマス。その事件の資料は?」
「ここだな。」
「うげぇ。グレイも見るの―?」
グレイに嘘は通じない気がするんだよなー。ほとんど嘘ではないけどさぁ、人狼族のアスタロトくんはサトリが作ったと言っても過言じゃないしなぁ。見られたくないんだけどなぁ。ってかグレイは何をとりに行っていたんだっけ。
「そう言えばグレイって《禁忌の深淵》で何取ってきたの?」
「ん? ああ、いろいろ倒してきたが、今回の目玉はこれだな。」
そういってポケットから取り出したのは深紅色の宝石のような魔石? だろうか。鮮やかな紅色で宝飾品として高値になるのは間違いではないだろう。…その魔力が私の知っているものでなければ。
「……ねぇ、グレイさん? これはどんな魔物から取れた?」
「コイツはなぁ、複数体の手下を持つ六本足の魔物からだな。手下が多分死体だったから死霊術でも使えたんじゃないか? サクッと倒したけど、あれが人里に出たらヤバいよな。」
はっはっはー、と笑っているグレイに対し、私とギルマスは思わず顔を見合わせる。そして―――
「「これは廃棄ね(な)。」」
「はぁ!?」
素っ頓狂な声を上げるグレイを見ながら、私とギルマスは憐れんだ目でグレイを見てしまうのだった。
「面白かったら高評価お願いします!」




