第21話 誇りと命
私は足元の死体を見ながら思う。やっちまったな、と。
いやね? 本当は生け捕りが良かったんだとは思ったんだけどね? うっかり真っ二つにしちゃたんだよね。しかも頭からこう、かち割ったから色々グロいし。どうしようか。一応もう犯人やっつけたよー、で話を終わらせようかしら。流石に死体を治して運ぶのは抵抗があるし……。生首を持っていくことはもう絵面がヤバすぎる。頭カチ割れてますし……。ああとは…死霊術は駄目か。やったら騒ぎにしかならない。……もういっそリッチとかにして魔物の暴走事件にしてやろうか?
あ、男が持っていた杖は回収して破壊しておいた。これでキメラたちをコントロールしていたからね。壊したらキメラ達一斉に逃げ出したよ。ただ、『ギルディスの涙』を壊すと死属性の魔力が溢れるのでまだ壊さないでおく。……そういや周りの環境、だいぶ破壊しちゃったな。治しておこう。幸い、今私の近くには一体のキメラ以外いないし。
ギルド的にはキメラをすべて討伐するつもりでいるのだろうが、『ギルディスの涙』で生まれたキメラは討伐する必要はない。彼らはあくまで死体から生まれた「生きていない」個体であり、新たな種として定着することはない。また、活動するにしても死霊術で身体を維持することが前提になっていて、基本的にはそのまま放置するだけで勝手に死んでしまうんだ。死体が死ぬとはこれ如何に。
ということで今回出現したキメラで生き残れそうな個体は、私を後ろから見つめている人狼君しかいないんだ。人狼族は元々死属性の魔力を持っているからね。てかずっと見られているのは何なのだろうか? あとさっさと逃げないのは何で?? 私あんたの主を真っ二つにしましたが?? 恐怖を感じないように作られていても私には近づかないと思ったんですが。やべー奴には近づかないようにプログラムするのは基本でしょうに。
だから興味が湧いた。それだけ。
「ねぇそこの人狼君? 私に何か用かしら?」
「………。」
「黙られると困るなー。私の仕事は終わったわけだし、帰りたいんだけど?」
「……。……俺を始末しないのか?」
「え? 死にたいの? ならやってあげようか?」
「………。」
「………いや、だからさ? 黙ってないで何か言いなって。私は君の感情とか思考とかわかんないもん。」
「……何故、ソイツは殺して、俺たちは殺さない?」
「…ん~~、気分? それにキメラ達はこのままだと身体を維持できなくて死んじゃうし。術者が維持する前提で創られた命なんて簡単に壊れるしね。」
「今、俺と話しているのは何故だ?」
「気分。それだけ。」
「……。」
「………。」
「……そうか。」
「…あ、私はリナだよ。よろしくねー。」
「…………アスタロト。」
私は土魔法で椅子を造ってそこに座る。アスタロトくんは近くにあった木に寄りかかる様にして地面に座った。
「やっべ。忘れてた。ちょっと待って。」
「何だ?」
「もとに戻すの。」
魔力を練り上げ、掌に集める。アスタロトくんは私の魔力量に驚いたようだった。私は驚愕の視線を受けながら、カルナ洞窟を元に戻す。
「再生しろ。【神の祝福:復活】!!」
緑が溢れ、融解した土地が豊かに……ならない。うん。カルナ洞窟って、もともと荒廃した場所だからね。しょうがないね。…くっそなんかもっとこう、ド派手にやりたかった! まぁでも、ちゃんと元通りにはなった。
「な……!?」
「うっし、終わり! これで本当に私の仕事はお終い!」
「……えぇ…? 何と言うか……凄いな?」
「はいはい、私の話は置いといて! 私は君のことが聞きたいの!」
呆然としているアスタロトくんをごまか…げふんげふん、話が逸れていたので元の話に戻す。
「……俺のことなんてどうでもいいだろう?」
「私は聞きたいの! ほらほら君のことを話してよ!!」
私はアスタロトくんに笑いかけた。彼は毒気を抜かれたような顔をして、ぽつりぽつりと昔のことを話し始めた。
俺はオードリオル帝皇国の端の人狼族の集落で生まれ育った。平和だったよ。森に囲まれていたからほとんど外とは交流は無かった。俺たちは狩りで食い物を用意して静かに暮らしていたんだ。外との交流なんて時々帝皇国の使者が騎士と一緒に来るくらいでな、そいつらから外の状況は知ることが出来ていたし、不便だとも思わなかった。けれど帝皇国の連中はある日突然俺たちの集落を襲ったんだ。それで集落の仲間はほとんど死んだ。生き残ったのは俺を含めて10人くらいかな。でも俺が今生きているか知っているのは2人くらいさ。皆バラバラに逃げていったから。
俺とその二人は幼馴染で、いつでも一緒だった。そいつらと一緒に逃げていたんだ。けれど俺たちは化け物に襲われた。なんとか生き延びた先にいたのが俺の創造主だった。マスターは俺達を治す代わりに実験台にしようとした。魔法の実験を受けるか死ぬか。俺が選んだのは、俺がマスターの手駒になり実験を受けること、その代わりに二人を実験台にしないことだった。二人は俺が実験を受けている間に逃げだした。その時に帝皇国の追手に見つかったらしく、マスターの拠点まで追手がやって来た。
マスターはお尋ね者で帝皇国から逃げ出した。そして二人が逃げたことがマスターにバレて俺は殺された。でも俺はキメラになった。ほとんど自我はなかったけれど。……今こうして話しているが、さっきまでこんなことは出来なかったんだ。
それでその後は色々な所を転々として、今に至るわけだ。
………大体の話は理解した。そしてアスタロトくんの今の状況も。だから、私は仕事をしなくてはならない。私の胸にあるこの感情が、どれだけ不快であったとしても。
「そっか。……今気づいちゃったけどさ。私、君を殺さなきゃいけないや。」
「……。」
「君に、そのつもりがなくとも今の君は行ってはいけない領域まで行っている。だから、その前に殺そうと思う。」
アスタロトくんはこのまま放っておいても生き残るだろう。それ程までに彼の力は強い。壊れる前提で創られた人形が自身の力で修復できるのだから。そして、それは不死に限りなく近い。今はまだ、不死ではない。けれどいずれは不死になるように出来ている。
だってアスタロトくんの身体の中には最も【最悪】な化け物の因子が入っている。
私の説明不足な話を聞いても、アスタロトくんは黙ったままだった。だから思わず私は聞いてしまう。
「………文句とかないの?」
「……ないな。」
「死ぬんだよ?」
「もう死んでるだろ。」
「……いや……そういうことじゃないんだけれどなぁ。…恨み言とかあるなら聞くよ?」
「…いや、特にない。」
「……。」
そういう所が、多分イラつくんだと思う。
「……話を変えるよ。どう死にたい?」
「……どう、とかあるのか?」
「斬る、潰す、燃やす……、まぁ色々方法はあるかな。」
「……灰に出来るか?」
「もちろん。」
「じゃあそれで。」
淡々と、他人事の様に答えるアスタロト。その顔は妙にさっぱりとしていた。その顔が、私の心のどこかを締める。理由? そんなの知らない。ただ、無性にイラついて、只々悔しかった。
「……またね。」
だからこれは八つ当たり。
「【龍炎】。」
アスタロトくんに向けて全力の魔法を放つ。私が喚びだしたのは静かな劫火。龍を象ったその焔は、アスタロトくんだけを飲み込み、その身全てを灼き尽くす。そしてあっさりと灰にする。その間アスタロトくんは何も言わなかった。本当に、何も。
「……【輪廻転生】、【神の祝福】。」
せめて、来世は長生きできるようにしてやろう。望んでなくとも私がそうしてあげよう。これは、私の偽善。私の我儘。どうせ、文句は言わないのだろうから。
「……あーあ、神様ってやっぱり辛いわ。」
夜が近づく中、私は暫く空を見上げていた。




