第20話 死屍累々の決着
「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
カルナ洞窟に絶叫が響き渡る。
「なっ!?」 「ガラクテ!?」
運悪くそれと出会ったのは『暴風の旅団』だった。それはまず、一番近くにいた団員を喰い破った。ガラクテと呼ばれた男は右肩から腕まで食い千切られた。
「うわああああぁぁぁぁぁ!!!??!?! こ、来な」
次に近かった団員は爪で引き裂かれた。命乞いは空に消えていった。
「なっ、なんなんだ!?」 「くそっ!! 二人ともやられた!?」
仲間があっさりと殺されたと団長のウェルザが判断するのは早かった。そして――それの正体を察し、ウェルザは戦慄したのだ。
「お前たち!! 一人でもいいから生き残れ!! そいつは――人狼族だ!!」
人狼族。それは獣人の突然変異による特殊個体だと言われている。彼らは国が世間から隔離していた。それは彼らが魔物に近い性質であり、夜に狂暴化し人を襲うことがあり、戦闘能力が異常に高かったためだ。
忠誠心が高く、戦闘能力が高い人狼族は、戦争の為に保護されていた。しかし、現代では致命的な欠陥が見つかっている。彼らは『死』の属性を持っていたのだ。『死』の属性によって死んだ場合、それに近しいものが生まれることがある。つまり、彼らが殺したものは不死者に変質することがある。
この事実が判明したとき、多くの人狼族は殺処分されることになった。故に彼らの恐怖を語るものは、もう既に昔話のみになりつつある。それに対処法もある。人狼族によって生まれた不死者は知能が低く、聖水で簡単に浄化できるのだ。
しかし。それはあくまで通常の話。最悪はとある魔物が――その核が引き起こした。
「リリシー!! 今の悲鳴は!?」
「分かりません! しかし…カルナ洞窟の方面から聞こえました!」
『リテリュアル』の3名は草原を駆ける。リナから行くように指定されていたのはカルナ洞窟の北西。しかし、彼女たちは悲鳴を聞いて進路を転換した。正確にはしようとした。
「!! っ上! 避けて!」
ミストリテが飛ばした警告に従い、リリシー、イライザはそれぞれ横に跳ぶ。
『GYAAAAAOOOOUUU!!!!』
二人がいた所に空から何かが突進する。
「なんっ!?」
「イライザ!! 上を!」
「何なんだい!!?」
地面に激突した相手に剣を向けていたイライザはリリシーの声を聞き上を向く。そこには――――
『GYAA!! GYAA!!』 『GOGOGOGOUUU……!!』 『KYAKYAKYAKYA!!!!』
10匹の飛行型のキメラがいた。
「……多くないかい?」
「……ミストリテ。」
「…あれ、全部死体だ。精霊たちもそう言っている…。」
「うっそでしょ。」
「素が出てるぞ、リリシー。」
「今は関係なくないですか?」
それぞれが武器を構える。絶望的に見えるこの状況でも、その表情に迷いはない。
「明らかに拙い状況ですが……私たちは諦めません! 行きますよ!!」
「「了解!」」
「多すぎだろう!!??」
「き、キリがないっす!!!」
「クッソ!! こりゃあ随分と数が多いのう!! 撤退戦に移行するぞ!」
『ステライト』のメンバーが相対するのは山羊や牛をベースにしたと見られるキメラの群れだ。一体一体が高い身体能力を持ち、さらに連携もしてくる。そのうえ厄介なのは上に陣取るキメラ。
「また来ます! 回避を!!」
「ふっざけんな!? すぐ避けられるかよ!?」
上空から石礫が放たれる。それは他のキメラごと穿ち、『ステライト』のメンバーを執拗に狙ってくる。
「ああもう! あんのクソ鳥ぜってー許さねぇ!!!」
「オルサイさんそんなこと言ってる場合じゃねぇっすよ!? まぁじでヤバいですって!!?」
「ミルワ! 相殺できそうか!?」
「む、無理ですぅ! 他のキメラが邪魔で結界がうまく機能しません!」
「いやはや! 流石に一方的に攻撃されるのは拙いな!」
空から魔法で狙撃しているのは目撃されていたキメラ。そのキメラは『ステライト』のことを覚えていたらしく、執拗に狙ってきていた。弾幕の様に降り注ぐ礫を戦槌で払いながらボルディは戦況を分析する。
(ミルワが魔法を当てりゃ何とかなりそうではあるな。しかし、他の小物どもの数が多すぎる。小物と言えどミルワじゃ重症になりかねん。守りながら攻撃……難しいかのぅ、こちらを分断するように動いておる。)
ボルディは溜息を一つ付く。そして眦を吊り上げた。
「お主らぁ!! 儂が弾く!! 付いてこい!!」
それから……反撃が始まった。
「はぁ……。仕方ありません。切り札とはいえ出し渋れませんし……。ああでもやっぱり…。」
「いつまで言ってんだい? もう終わったんだから気にすることはないだろ。」
「うぅ~~……。そうですが~…。」
全身黒コゲたキメラの遺体を見ながらリリシーは落ち込み、イライザは呆れる。
「はぁ~………。仕方ないですよね~…。……ギルドに補填をお願いしたいです…。」
「「それは無理だと思う。」」
「ですよね~……。」
「はぁ!!? 取り逃がしただぁ!!?」
ダァン、と近くにあったテーブルに拳を打ち付ける音が響く。それ程までにこの男にとってこの結果は信じられなかったのだ。
万全を期すために切り札を切ったのだ。捜索に来た冒険者は男の切り札を倒せない。そう確信していたのだが…。
分断のために放ったキメラは皆殺し。挙句撤退も素早く追撃に失敗してしまう。そして一番問題なのは切り札を見たパーティーを全滅させられなかったという点だ。
「ふざけるなアスタロト! お前が取り逃がしただと!? 普通の冒険者が逃げ切れるわけではないだろう!?」
男の切り札、それは人狼族の肉体をベースにしたキメラ。名を『アスタロト』という。元々が高い身体能力を持ち、そこにいくつかの相性のいい魔物を掛け合わせた、男の研究の最高傑作。こいつから逃げ切ることが出来るのはSランクの冒険者くらいだと、男は結論を出していた。
「すまない。事実だ創造主。追跡中に気配も匂いも消えた。ただ、なにやら魔力の残滓は感じた。恐らく転移系の魔道具だと思う。不自然に足跡が消えていたから。」
「なっ!? て、転移装置か!?」
男は歯を食いしばりながら考える。何も疑われるようなことはしていないはずだ。転移装置を持ち出せるのは国家に関わりがある物だけ。まだ国が動く事態ではなかったはずだ。いつから? どの時点から計画にほころびが出来た? どうして問題が発生した?
「強いて言うなら最初から、じゃない?」
「は?」
ガキィン!! と硬質な音が響く。顔を上げれば壁に寄りかかった少女が、アスタロトの攻撃を片手に持った剣だけで止めていた。
「っ!! 全軍! そいつを殺せ!!」
男は即座に持てる戦力を全て切った。こいつはここで殺さなくてはならない。その直感に従ったのだ。
男の号令に従い、地面が揺れる。地面から、壁から、天井から、無数の不死者が少女に襲い掛かる。その反動か、隠れ家が崩れ落ちる。騎乗用のキメラに乗って脱出していた男が見たのは……恐怖そのものだった。
「っ!! 全軍! そいつを殺せ!!」
はいこちら現場のリナです。ちょちょいと【探索】して見つけた犯人さんですが、顔を合わせただけで私を殺そうとしてきた。
いきなり転移魔法で隠れ家っぽい所に転移したので、ちょっとイタズラしたら攻撃された挙句に大量の動く死体を押し付けられた件について。しかも隠れ家崩れてきてるんだが?
あ、人狼君も逃げた。強そうだから遊びたかったんだが…。まぁ崩れそうな場所で普通は戦わないか。
ということでまずは邪魔な魔物を消そう。
「光と炎でー。発動【陽炎魔法】! 【小さな恒星】!」
魔法が発動した瞬間、私を中心に隠れ家を飲み込む大きさの魔方陣が描かれる。そしてその中に小さな太陽が生まれた。勿論太陽のように見える大爆発である。
「あ。やっべ、何も考えずに魔法使ったわ。」
使った後に我に返ったけれど、これ大分拙いね。私を中心に半径100mの地面が融解したんだが。しゅ、修繕魔法とかあったっけ……?
「な…、なんっ!!? あ、あり得ない!!!」
「あれ、巻き込まれてなかったの? 巻き込むつもりだったのに。」
後ろから聞こえた声に振り返ってみると、キメラに乗った男が真っ青な顔で私を見ていた。ガクガクと震えている男は上等な服を着ており、白衣まで羽織っていた。どうみてもマッドサイエンティストですありがとうございます。
「う、嘘だ!! 夢だ。そうこれは夢なんだ!! こ、こんな魔法があるはずが!」
「じゃあ腕折ってみる? 痛かったら夢じゃないでしょう?」
「ひぃっ!!」
現実逃避を始めた男が逃げる前に機動力を奪いましょう。キメラの生き残りが私を狙ってくるけれど、そもそも私の速度に付いてこれるはずもない。走って近づいて剣で切る。それでおしまい。逃げようとした騎乗用キメラ(仮)は二枚に卸した。乗っていた男は何が起きたのか分かる前に地面に落ちる。私は男の前に立ち、剣を大上段に構える。
「うわあぁ! く、来るなぁ!! 私は」
「はいさよなら。」
一刀両断。最後の言葉を言う前に叩き切る。
こうしてギルドを騒がせた男は名乗る間もなく死んだのだった。
「面白かったら高評価お願いします!」




