第17話 生死の境界
「は?」
「えっ!? ど、どうされました!?」
「おあっ!? ……えっと気にしないで?」
思わず漏れた本心からの疑問に、近くで聞いていたマインちゃんが戸惑う。慌てて誤魔化したけどちょっとびっくりした。うん。そうじゃない。これは私も相当混乱しているな。
『ラプラス。それ本当なの?』
『肯定します。緊急事態ではありませんが異常事態ではあります。』
まじかー。
『ギルティスの涙』。それはとある魔獣の涙線から取れる結晶である。魔獣の体液や、魔力、体性組織から造られる石で、濃い蒼を持ち、宝石のような見た目をしている。しかし、これは一般市場にも裏市場にも出回ることが無い。断言してもいい。
はい。『ギルティスの涙』がとれる魔物について見てみましょー。
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名称 ギルティス
ランク S
特徴 黒みがかった蒼の毛皮を持つ六足獣の魔物。ハイエナのような顔をしているが体付きは熊科のそれである。基本的に夜行性で目立たない魔物であるが、発見した場合、刺激しないように立ち去ることが推奨される。特徴的なのは習得する魔法である。ギルティスは主に死霊術を用い、縄張りに侵入した外敵、自身が狩った獲物、見つけた死体を使役する。さらに死体を改造するため、まず人が太刀打ちできるものではない。群れで生活することはないため、幼若個体が親元から離れた時、巣立ちの時を狙うこと。
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はい。
超 危 険 な 魔 獣 じ ゃ ね ぇ か 。
しかも、『ギルティスの涙』が出来るのって歳食ってる個体限定なんだよね。ふうー。
そんな魔獣の??? そこそこレアな??? 素材が使われた???
バッカやろー!!!! 面倒事どころさ、絶対に戦争とかクーデターとか超! ヤバい案件でしかあり得ねぇんだよ!!! 何でかって? 後で『ギルティスの涙』の効果を教えてやるよ!!!
「マインちゃーん、ちょっとギルマスのところに行くね~。」
「えっ、えっ?」
「ちょ~~っと思い付いた心当たりが相当ヤバい案件でね~? ギルマスに相談するね~。あと見つけた痕跡について聞きたいから、調査した人集めてー。」
「は、はい!!」
廊下を歩きながら『ギルティスの涙』の効果、その危険性とか魔法を使って羊皮紙にまとめる。そして早歩きでギルマスの部屋に突撃。
「ギルマス!!! ちょっと緊急事態かも!!」バァン!!(扉が勢いよく開かれる音)
「ふおっ!?! リナか!? 驚かすな!?」
ポタポタ(ギルマスの持っている羽根ペンからインクが垂れる音)
「あ、インクが。」
「ぬわあぁぁ!!!??? 何じゃとぉぉぅ!!!??」
「あー、書類がー。大惨事じゃない。」
「誰の所為だ誰の!!!」
「ギルマス。」
「やかましいわ!!!」
「あ、そうじゃなくてさ! 結構ヤバいことになったかも!!」
「それを今言うか!?」
「最悪国家転覆とか起こるかもしんない!」
「何で今言った!????」
「で、どういうことか説明しなさい!!」
ギルマスの片付けを手伝って、インク塗れになった書類を魔法で復元した後、ギルマスに怒られた。昔、私にTPOを知れ! とブチ切れた友人の影が脳裏にチラついた。そっと目を逸らした。
はい。反省してます。後悔はしています。よし、そっと横に置いておこう。
「ギルマスー。なんか新種が出たんでしょう?」
「ああ。確かまだ詳細が分かっていないがな。」
「はいこれ資料。」
「ああ? 何だ?」
私はさっき書いた『ギルティスの涙』とギルティスの資料をギルマスに渡す。
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名称 ギルティスの涙
ランク S
特徴 魔獣ギルティスの魔力、体液などが固まってできた結晶。深い蒼で宝石のように見える。しかしギルティスの魔力が籠っているため、強力な死霊術の媒体になる。死体の改造、魂の召喚、死霊の支配にどの用途でも高い精度を発揮する。初心者でもおススメな一品。
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資料を読んだギルマスの顔が険しくなる。
「これの根拠は?」
「ない。けど多分これが使われた。」
「発見されたものがキメラ種ではないと?」
「使われてたら一発で分かる。ギルティスの魔力は知ってるから。それに私も追跡は得意だよ?」
ニッと笑ってみせる。正直私が無理矢理関わる必要はない。私はそもそも人類ではない以上人類の歴史に関わることは少ない方がいいから。けどまぁ、個神的にはメイシアが荒れるのは御免なんだ。だから信じてもらうしかない。……言わないけどね!!!
ギルマスは一つ溜息を付く。そして私を見る。
「事件解決にあたり、Sランク冒険者リナを担当者に定める。頼むぞ。」
「了解!!」
ギルマスから私が主導で事件解決するようにと指示が出されることになった。ということでまずは見つかった痕跡を確認することに。一応私以外にも、魔物に詳しいギルドの職員が見る事にはなっている。既に確認した一部の職員からは「新種の魔物の可能性がある」と報告が出ているらしい。
「そう言えばなんだが、本当にさっきの資料のアイテムが使われたのか? 証拠はどうやって確認する?」
歩きながらギルマスが聞いてきたので答える。
「ん~、痕跡を見ないとはっきりとしたことは言えないかな。『ギルティスの涙』が使われたらその身体に黒い歯型の模様が出るから分かりやすいんだけど。あとは心臓…核に黒い歯型の付いた魔石があれば『ギルティスの涙』が使われた、もしくはギルティスの操っている死体なんだけど。」
「……なんでそんなことまで知っているのか聞いてもいいか?」
「あ~~~……。それはちょっと黙秘します?」
「何で疑問形なんだ……。」
「それよりもさ、昨日からグレイと別行動になってるんだけど問題ないかな?」
これ以上聞かれたくなかったので話題を変えた。まぁ気になっていたことだし聞いておくべきだろうし? いつもグレイと別行動になるときは資料室に籠っていたしな。
「………あー、そうだな。…街を壊さなければ何も問題はないな。」
「いや流石に壊さないよ?」
「うんうん。そうだなー。壊したりはしないよなー。それとグレイには俺から連絡しておくぞー。」
「そうそう。街が壊れる事にはならないって! ……多分!」
「そこは断言して欲しかったんだがなぁ。」
「そ、それよりもさ! グレイは今何をしてるの?」
「おう。グレイは《禁忌の深淵》に行ったぞ。あそこに行ける奴は少ないからな。あの辺の素材が欲しいとなるとグレイに依頼するのが一番確実なのさ。」
「マジか。それ私何も言われなかったんだけど。」
「グレイも割と自由人だからな。パーティーメンバーも苦労しているんだ。」
「私はまだ会ってないけど。」
「まだ王都にいるんじゃないか? っと、この部屋か。ここに発見された痕跡が保管されているぞ。」
ギルドの解体場裏手にある大きな倉庫に到着。倉庫の管理人さんに挨拶しつつ中へ。
倉庫の中は状態保存の魔法が掛けられ、さらに気温まで細かく保たれているようだ。高さ7M程ある棚がずらりと並んでいる。
「おおー。壮観ですなー。」
「確かこっちに……ああ、ユアン、例のものは?」
「ん~? ちょっとお待ちくださいね~。」
管理人のユアンさんが倉庫の奥に入っていく。そして戻ってくるとその手には木箱が。大きさは成人男性の腕の長さくらいだな。その木箱を受け取り、開けてみるとこれまた人の腕くらいの大きさの羽根が保管されていた。うん。大体指先から二の腕くらいかな。
そして、その羽根は根元が白く、先の方が茶色になっている。が、途中に黒くなっている場所があった。
「ユアンさん。これ、変色したとかですかね?」
「いや? 確か俺が見た時からこんな感じでしたよ?」
一応ユアンさんに確認すると最初から黒いて斑点のようなものはあったようだ。証拠はこれで集まったね。
ギルマスが後ろで唸るなか、私はニヤリと嗤う。さてと、狩りの時間だ。




