第16話 お宝事変・『ギルティスの涙』
私はギルドによく魔物の生態をまとめた資料を送っている。今日もギルドの受付で羊皮紙を貰って、ギルド内に併設している資料室でこの前近くの川で見つけた『アルゴアリゲーター』の情報をまとめて書いていた。
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名称 アルゴアリゲーター
ランク C
特徴 淡水に生息する鰐の一種。一応魔物ではない。肉は淡白な味わいで、美味であるが皮と鱗は魔物より硬い。性格は非常に獰猛で、動物も魔物も人も襲う。戦闘の際は川辺につか寄り過ぎないこと。もし体の一部を噛まれたなら一瞬で川の中に引きずり込まれる。魔物ではないので魔法は使わない。
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「うっし、このままでいいか~。鑑定のコピペで問題ないっしょ。」
鑑定さんの説明、戦う際の注意、討伐のおススメ方法などをまとめて書いた物を提出しているんだけど、これが結構有難がられるんだよね。
メイシアのギルドはかなり人の出入りが激しく、私のことを一切知らない人がそこそこいる。で、私が無名のくせにSランク冒険者であることに対して何か文句を言ってくるので遊んであげている。だけどギルド的には私に目に見える功績を出して欲しいらしくて、ギルマスから何か目立つことをしてと無茶ぶりされた。
そこでグレイに「私の知ってる魔物の情報まとめたら功績になるかな?」と聞いたら「量にもよるが、魔物の情報は資料室にあるぞ。」って言われたので暇なら資料室に通っている。その結果、ここ一か月で30種以上の情報提供になった。一日一種くらい更新している。お陰様で私にも通り名が付きましたとも。グレイの『灰の王』みたいなやつ。
「すいませ~ん。『賢龍姫』様~、ちょっといいですか?」
うん。いまギルドの職員に呼ばれたけど、私の通り名は『賢龍姫』らしい。何で? コウゲイis誰? グレイに聞いたら昔いたドラゴンの名前らしい。なんでも一昔前にアールハイド王国を魔王の手から救ったドラゴンだとか。虹と共に現れ、王都を襲撃していた魔王軍を追い払い、勇者に力を与えた、神の代行者を名乗るドラゴンであるらしい。なにそれかっこいい。
しかし! その、ね? 残念なことに私もそのドラゴンについてちょっと心当たりがあるのだ。
はい。私の眷属ですね。正しくはアストラルが作った眷属である。本体がスリープモードに入ってシステムの調整と管理をしている間、分身たるアストラルは龍の里だけでなく世界各地の問題を解決していた。けれども人が解決できない場合は始祖人が、始祖人が直接動けない特殊な状態の時はアストラルの眷属が解決に動いたんだ。
アストラルの眷属は勿論、龍である。虹蜺、ウロボロス、ディズガイア、オズワルドの四体だ。詳細は省く。虹蜺が一番賢く有能なのでよく呼び出していろんなことを任せていたんだよなー。……虹蜺とオズワルドにしかはっきりとした自我は無いんだけど。この前念話で私の通り名がコウゲイだと言ったら物凄く恐縮された。
まぁいいや、それは今は置いておこう。
「何ですかー? ちょうど今は暇ですよー。」
「たたた助けてください!! 正体不明の魔物の出現情報なんですよ!」
おっと???
発見したのはCランク冒険者パーティーだったらしい。アリス森林地帯にマンマルイチゴの採集をしに行ったときに上空から鳥型の魔物らしきものに襲われたと報告があった。斥候役が接近に気付いたときには既に遅く、後衛が真っ先に狙われたんだとか。しかも動きが素早く、散々翻弄された挙句に採集していたマンマルイチゴを籠ごと踏みつぶしたと。羽を広げた大きさは2m越えで、顔は動物のような顔で牙も生えていたらしい。この辺りでは見られない魔物の報告に、報告を信じるものと、嘘で任務の失敗を誤魔化したと思ったものがいたらしいが、なんとこのパーティーを助けたのはAランクパーティーで、彼らもその生き物を確認したとのこと。
この報告を受け、ギルドは調査を開始。実際に戦ったAランクパーティーの意見を踏まえ、三つのAランクパーティーで調査をした。その結果は………。
「何も分からなかった?」
「はい……。痕跡を見つけることは出来たのですがどこにいるのか、どんな種類かまでは特定できなかったようです。しかし、別の場所、ステイナの森で似たような魔物に襲われたという報告がありました。恐らくですが、Aランクパーティー達の気配に気づき、別な所に移動したのではないでしょうか?」
「ふーん。でも最初のAランクパーティーは戦ったんでしょう? 感想はどうだったの?」
「えーっと、確か、『一撃が重い癖に素早くてなかなか攻撃が当たらない。知能は高いようだった。魔法は回避するし、狩猟用の毒も警戒された。』と言っていましたね。あ、魔法は使ってこなかったそうです。」
「身体的な特徴は?」
「犬や猫に近い顔、鋭い牙を持ち、身体や翼は猛禽の類に近かったと………。」
ギルド職員、受け付けによくいるマインちゃん(21歳)から情報を聞きつつ整理していく。ついでに私が受けた印象を、絵に起こしてみる。キメラにしか見えねぇ。猫(もしくは犬)っぽい顔に鷲の身体、ほぼ人と同じサイズの巨体。…うーん、化け物かな? 魔物だったわ。
え、これが素早く動くの? こっわ。人と同じくらいのキメラが素早く動くとか恐怖でしかない。こんなの居たっけ? しかも人の気配を覚えて隠れたりするの? やっば。
「………あいつか? でも生息地が離れすぎている気が……。」
「何か心当たりが!?」
「うっわビックリした!?」
「す、すいません…。えっと心当たりのある魔物は何ですか?」
「えーっと……キメラ種ではないんですけど、ジャックスライムじゃないかな~?」
「す、スライム????? あの?」
「うん。」
ジャックスライム。それは私個人的には苦手な魔物である。こいつはなんと喰った生物の身体的な特徴を再現するというふざけたスキル《食物複製》を持っている。ただし、再現される特徴はランダムだ。ある程度の法則性はあるが。その法則とは、【同時に再現するのは二種類。顔と体それぞれ食べたものの中からランダムに】だ。成熟すると《食物複製》でキメラっぽく変化し、一定以上年を取ると卵を産む。卵は孵化すると中からスライムが出てくるんだ。
そう。ジャックスライムは幼体時がスライムで、成体になるとキメラになる。なんでだよ。アストラルが生態系を調査していたときに発見して、スライムが身体特徴をコピーした!? マジで!? と思ったらまさかのキメラ化。スライム要素は消えた。なんなら成体になると《食物複製》は消えた。乗っ取りしたのではなく、そういう進化を遂げた種族だった。何かショックだった。
マインちゃんにジャックスライムのことを説明すると、「聞いたことがない種です。」と言われたから羊皮紙に情報を描きだしつつ、疑問点を話す。
「でもねー、ジャックスライムって実は重大な欠点があるんだよね。」
「欠点ですか?」
「そー。アイツら幼体の時に食べるのって基本死体なんだよ。骨とかね。だから死体が多くないと繁殖できないし、なんなら同じ地域で似たようなキメラ個体が見つかる。あとそんなに賢くない。」
「なるほど……。一体しか見つかっていないし、隠れたりすることはないと。」
「確か成体は荒れ地にいることが多いんだよね。幼体は森に居たりするけど。」
とんとん、とこめかみを指先で叩きつつ考察を続ける。すると近く居たラプラスから念話が届いた。
『上様、【ギルティスの涙】が使われました。』
「………………………………は?」
「面白かったら高評価お願いします!」




