第12話 Sランクの喧嘩…?
「貴様っ!! 退けと言っているのが聞こえないのかっ!!!」
「えっなにうるさっ。」
大音声で叫び散らかしている誰かに、思わず振り向いてしまった。振り向いた先には顔を真っ赤にした茶髪の青年がいた。高ランクの冒険者だろうか? 一目で見て業物であると解る剣の柄に手を掛け、端正な顔を怒りで歪め、彼は私に叫ぶ。
「貴様!! 餓鬼風情がAランクオーバーの専用掲示板の前を占領するんじゃない!! さっさと退けよ!!」
「は? 私はガキじゃないけれど? 喧嘩売ってんの?」
カチン、と来たので思わず言い返す。すると青年はこちらを見下しながら自慢を始めた。
「ふん! 俺はSランクパーティー『戦の王』のリーダー、Sランク冒険者の『先導の英雄』ヨハネス・カトゥンだぞ。貴様ごときが勝てるはずが無いわ! さっさと退け!」
……………えー。無いわ~。何か、こう、Sランクならもっと大人な対応しなよ。子供か。何ていうかもう、興醒めですが。
まず高ランク冒険者なのに見た目で判断するの? もっと戦力を見極められるようになった方が良くない? そしてSランクはギルドの最高ランクだったよね? トップがこんなんじゃ下も真似するよ? そして冒険者は荒くれ者というレッテルが貼られるわけだ。う~ん、そういう事考えられてるわけ? っていうかこれがお忍びの貴族とかだったらどうするつもり何だか……。
まぁいいや。こういうのはスルーしよ。
「あーはいはい、退きますよっと。」
「ちょっと!! そっちから突っかかってきたのに謝罪も無いの!? ふざけるのも大概にしてよ!!」
「ハァ?」
突っかかってきたのはそっちでしょう? ヨハンなんちゃらの後ろから出てきた勝気な少女? よう分からんけど10代後半の女性? が絡んでくる。やかましいわ。…ってかあと二人ほどヨハンの後ろに女がいるな。修道士っぽい少女(あわあわしてる)プラス魔法使いっぽい少女(こっちを睨んでる)。………何? 『戦の王』だっけ? ハーレム型のパーティーなの? 戦場舐めてるの?
そこに待ったをかけたのはグレイ。
「いや突っかかってきたのはお前たちの方だろ。」
「なっ!?」
「……『灰の王』?」
いやその通りだわ。なっ!? じゃないよほんと。どう考えてもお前らが先だろ。しかし、納得しなかったのかヨハンなんちゃらがグレイに食って掛かる。
「あぁ? なんでテメェが割って入ってくんだよ? コイツと俺たちの問題だろうが。」
「ああ、リナは俺のパーティーに所属しているからな。」
「「「「はぁ!?」」」」
オイコラ周囲の冒険者ども。何でそんなに驚いてんだよ。
『あんなにちっこいのにか?』 『いやあり得ないだろ!?』 『グレイさんの子供じゃね?』
『あー成程。』 『あの人って身内贔屓だっけ?』
OK。今コソコソ話していた奴、顔は覚えた。私の神様スペック舐めんじゃねぇぞ?
「はっ!! 『灰の王』の庇護下でしかいられねぇのに、喧嘩売ってんのだぁ? よくそんな大言壮語を言えたもんだなぁ!!」
大仰に煽ってくるヨハンなんちゃら。どうしても私を馬鹿にしたいようだ。今の台詞の所為でギルドにいた冒険者から失笑が聞こえてくる。うぜぇ。今『ちっこいのに元気だな』とか聞こえた。顔は覚えたぞ。
さて、どうしたものかな。ちょっと煽り返すか。
「あはっ! 小さい私よりも貧弱な人族が良くもまぁそんなこと言えたわねー!! 大した実力も知識もないお馬鹿ちゃんが!」
「…あぁ?」
「貴方みたいな子供でも理解できるように教えてあげますよ! 私優しいので!!」
ブチッ(ヨハンなんちゃらがキレる音)
「ハッ! 何だよクソガキ。てめぇが俺様よりも頭が良いとでも?」
「ええ勿論!! あと実力でも貴方では遠く及ばないのよー?」
にっこり微笑む私。頭に血管を浮かばせて剣に手を掛けるヨハンなんちゃら。二人の間に見えない火花が散る。空気が冷え込み、一触即発の雰囲気が漂う。
それらを遮るように咳払いが一つ。咳払いをしたグレイは私を冷たい目で見る。思わず顔が強張る。
「リナ。」
「はい。」
「俺は問題を起こさないようにと言わなかったか?」
「言ったね。」
「現在進行形で起きているのは?」
「…喧嘩?」
「分かっているな? 暴れるなよ? 問題起こしたら森に連れてく。」
「あっはっはっ!! 問題なんて起こすわけないじゃない!」
あっぶねーーー!!! 暴れる前だからセーフ!! そう! セーフ!! まだ私はここの美味しいご飯を食べたいの!! 観光したい! ご飯食べたい!!
「グレイ!! 貴様も俺達を馬鹿にするなら許さんぞ!!」
「別に馬鹿にしたわけでもないだろ。それとヨハン。お前は感情に身を任せ過ぎだ。Sランクなんだからもう少し慎みを持て。」
「…ふん!! 先輩面か? お前の連れが生意気なのだろうが!」
どっちがだよ。私からすればお前の方が生意気だわ。
「朝から揉め事か?」
「あ、ギルマス。」
ギルドのカウンターから声が響く。そこから疲れた表情のギルマスがやってくる。よく見ればちょっと引き攣った受付のお兄さんお姉さんたちが……。
「リナは謝っとけ。」
「ごめんね☆」
「………悪いと思うならば控えるように。」
グレイに忠告されたので謝った。ギルマスはこめかみを抑えた。お、お疲れさまでーす? 言ってみたら「誰の所為なんだか…」と言われた。
「ギルマス? 何の用だ。」
「ヨハンか…。あんまり騒ぎすぎるんじゃないぞ。」
「なっ!? そこの子供が―――」
「黙れ。」
ギルマスの静かな一喝が反論を封じる。そして騒がしかったギルドが静まり返る。静かになった後、ギルマスはゆっくりとヨハンなんちゃらを諭し始める。
「Sランク同士で喧嘩などするんじゃない。迷惑だ。その時間があるならば依頼でも受けろ。」
「は? Sランク同士?」
「そうだ。リナは歴としたSランク冒険者だ。」
「「「「「「「………は?」」」」」」」
ギルドのあちこちから疑問の声が上がる。私は不満顔になる。何故皆外見だけで強さを測る? そりゃあ私は美少女だし、強そうには見えないかもしれないけどさぁ……。
そんな中私に近づく誰かさん。
「すこしいいかな?」
「…何の用?」
「なに、お嬢さんの種族について聞きたくてな。」
声を掛けてきたのは赤い鱗の蜥蜴人。戦斧らしき両手斧を背負っている彼は丁寧な言葉で質問をしてくる。
「私の種族は龍人ですが?」
「……やはり、そうか。失礼した。」
「………あれ、もしかしてだけど龍神信仰の人?」
「まぁ、そのような所だ。」
蜥蜴人は数が多い種族ではないけれど、大体の部族が龍神…本体を信仰している種族だ。さらに上位種の竜も彼らにとっては信仰対象であり、龍の血を引く龍人も彼らにとって崇拝の対象なのだ。情報のソースはレネである。
………ちょっと後で彼には口止めをしておこう。多分、気付かれた。
「おいオルトラ、そいつの種族が何だって? 何も関係ないだろう。」
また切れかけたヨハンが声を掛けた。溜息を付いた蜥蜴人の彼……オルトラはヨハンの方に歩いていき、警告する。
「あの方に暴言を吐くのは止めておけヨハン。龍人は見た目によらない戦闘能力を持つ。見た目で判断すれば痛い目を見るのはお前だぞ。」
「はぁ? あんなちんちくりんに俺様が負けるとでも?」
「少なくともギルマスが認める実力は必ずある。争いを起こす必要は無いだろう。」
「……ふん! 認められるかよ! どうせお前の勘違いさ。」
蜥蜴人の名前はオルトラで、ヨハンの仲間みたいだ。『戦の王』のストッパーかな。けどまぁなんでそんなにヨハンなんちゃらは私に敵意むき出しなの? ちょっと意味が分からないんですけど。
「ふうむ。ではこうしよう。」
パン、と両手を打ち合わせたギルマスがとある提案をする。
「Sランクともなれば有意義な戦闘訓練はなかなか難しいだろう。ならば手合わせでお互いを高め合うことが出来るのではないか? 儂からの依頼として【ギルドの訓練場で手合わせをする】というものを発行する。リナ、ヨハン、二人ともこの依頼を受けないか?」
「面白かったら高評価お願いします!」




