第11話 宿屋とギルドと冒険と
「滑り込みセーフ!!」
念願のお金が手に入ったので少し、いや、本来ならばかなり早いが宿を取ることにした。が、グレイから
「リナはこっちな。」
と言われ、ギルドの隣の建物に連れていかれた。ギルドは赤い屋根でこの建物は緑の屋根だ。そして建物の造りも中世ヨーロッパを彷彿とさせる、瓜二つの構造である。なんだろう? ロマネスクとかだっけ。
「もしかしてギルド経営の宿?」
「おう。俺もここに泊まっているし、お前もここにしておけ。これならよほどのことじゃ迷子にならねぇしな。」
「おーけー。名前は『緑の鳥』ねー。」
「分かりやすいだろ? 英雄から取ってる名前だから結構有名なんだよ。」
「……ソウナンダー。」
やっべ。そんな英雄とか居ましたっけ? なんて言ったら絶対拙い。でも知らん。誰だよ緑の鳥って。
そんな思いが顔に出ていたのかグレイがさらっと説明してくれた。
「……『緑の鳥』はエルフ族の始祖人、『フォーミュラ・エルザード』の従える精霊だな。割と常識だぞ。」
「……オッケー。覚えた。」
フォーミュラ君かー。ちょっとナルシストなエルフ族の彼ね。今は里にいるけれど昔は外に出てたんだっけな。……あの子が外に行こうとしなくなったのって確か390年くらい前だっけ。…これ関連かしら?
「ま、こんな感じに始祖人の偉業にあやかって名前を付ける店はそこそこあるからなー。」
「へー、そっかー。」
絶対身バレしないようにしよ。
『緑の鳥』のドアを開けるとカランコロンとベルが鳴る。
「いらっしゃいませー!!」
元気よく挨拶してきたのは15歳ほどの少女。内装も派手過ぎず地味過ぎず、接客も明るい少女がするとかここの店なかなかやるな…。
「おーっすルリちゃん。一人部屋空いてるかー?」
「あっ! グレイさん!! 隠し子ですか!? 一緒のお部屋にします!?」
「「赤の他人です。」」
「それと俺に子供はいねぇ。」 「私は子供じゃないからね!」
「フワッ!? 間違えました!? ええと、ごめんなさーい!! それと一人部屋は空いてますよー!!」
まさかここでそれを言われるとは……。ギルドで言われなかったから油断してたよ。宿屋の少女は強キャラ(?)だったか……。
「リナは荷物ねぇけど部屋見て来いよ。俺は荷物置いてくるから合流したら飯なー。」
「分かったー。あ、ねぇねぇルリちゃん? かな? ここのご飯は美味しい?」
「はいな!! ウチは美味しいご飯で有名なんですよー!!」
おっとそれは楽しみだ。わくわくしながら待っちゃうぞ?
「あ!! お部屋はグレイさんのお部屋のお隣ですからよろしくですー!!」
「「隣かよ!!」」
今の会話の流れ完全に無駄になったじゃん!!
『緑の鳥』は一階が食事処と浴場、二階が宿泊スペースに分かれているらしい。で、浴場は九の鐘とともに解放される。……この世界にも時計があるにはあるけれど、十二鍾制と言う仕組みで使われている。一日12回の鐘が鳴るんだとか。魔力で動く時計がかなり正確に時間を測れるので実際に12回も鐘を鳴らすわけではないけどね。昔は鳴らしていたんだと。ちなみに九の鐘=18時。何というか、慣れるのに時間が掛かりそうではある。
で、現在時刻は六の鐘、つまり12時である。ランチタイムである。よって私も何か食べたい時間なんだ。すっごく美味しそうな匂いがするからという訳ではない。ないったらない。……さっさと部屋の確認しよう。
「後ろから無言の圧を掛けるな。というか勝手に俺の部屋に入ってくるな。」
「いや私は部屋の確認したし。グレイはまだ終わんないのかなーって。」
ほら、私には空間収納という便利魔法があるじゃない? つまり荷物は部屋に置いておく必要がない。よって部屋の場所の把握と鍵さえ持っていれば問題はない。あ、内装はログハウスの中みたいなお部屋でした。さらっとルリちゃんとグレイは説明したけれど、この部屋一番グレードが高いんだと。一部屋一か月で200,000マニー。つまり金貨二枚。……普通の冒険者の収入っておいくらなの? グレイさんはブルジョワジーなんでしょうかい? 見た目おっさんなのに。見た目おっさんなのに!!
「どうかしたか?」
「ナンデモナイヨ。」
「全く……先に下で食べていてもいいんだが。」
「注文形式とテーブルマナーが違うかもしれないのに? グレイさんや、私という爆弾から目を離すのかい?」
「よしそこで待ってろ。」
「手のひらくるっくるじゃん。」
「掌はな、回転させる為にあるんだ。」
「なにそれ初耳。」
「弟の名言。」
「迷言じゃん。てか弟いたんだ……。」
「あいつ王都に働きに出たからなー。多分会わないぞ。」
「ふーん。」
「うし、取り敢えずはこれでいいか。じゃ行くぞ。」
「おっしゃ!!」
ご飯だー!! もうね、いい匂いが漂っててヤバいんだよね!!
食堂に降りてこの街で初のお食事タイムである。グレイと一緒にルリちゃんに『緑の鳥』おススメのメニューを注文する。グレイ曰く「この宿の一番美味いメニューなんだ。」もうね、ワクワクしちゃうよね!!
ルンルン気分で待っているとやって来ました。《ローミニュのフラット》、カリカリ、サクサクな衣は狐色で、ソースは味噌ダレ? ってこれ……
「カツ? 味噌カツかな?」
「……そっちじゃフラットって一般的じゃないのか?」
「名前が違うだけ…かな? 揚げ物って珍しいんじゃない?」
「ああ、ここはアブラギが結構生えているからな。」
「アブラギ?」
「実を絞ると油が取れる木。揚げ物はここら辺じゃないと出来ないんだよなー。油をたくさん使える場所はあんまり無いからな。」
「成程ねー。」
ここら辺の特産品なのねー。めっちゃ美味いのにね。外はサクサク、中は噛めば噛むほどにジューシーな肉汁が溢れてくる。さらに味噌ダレとのマッチングはかなり合っている。これは驚いたんだけど、普通にお米があった。二度見した。玄米だったけど。でもこれはご飯と合う料理だよ、うん。惜しむべきはナイフとフォークで食べてることくらいか。……うーん、マイ箸用意しようかしら……。
あと味噌汁が出てきた。感動で言葉が出ませんでした。びっくり。語彙が溶けた。ふう。
「グレイ、私この街大好きだわ。」
「俺もだよ。…ここの飯になれると何処も物足りなくなっちまうからなぁ……。」
「何……だと……!!」
「えへへ…気に入った貰えてうれしーのです!!」
やばい、ルリちゃん可愛い……。もう暫くこの街に住む……。ご飯代は絶対稼ごう。それとお風呂はそこそこ広く、男女別だったし、多種族への配慮もあって素晴らしかった。巨人族用の風呂まであるとは…。
メイシアの二日目。朝からハンバーグが出てきてビックリのリナです。オーロラソース美味しい(語彙の消失)。今日から冒険者としての活動をすることになりました。ご飯のためにお金を稼ごう。
「金はあるけどね。……面白そうな依頼がない…!!」
「お前は何を悩んでいるんだ…?」
グレイに呆れられながら依頼表ボードを見る。ここにある依頼表から好きなのを取って、受付に持って行って依頼を開始するらしい。で、その時のルールが幾つかあって、
1,依頼には受理から一定期間内で達成しないと失敗扱い
2,同時に何個も受けられる。
3,冒険者は基本的に自己責任。しかしギルドで暴力沙汰はNG。
4,依頼後に別パーティーが介入すると失敗扱い。受けたパーティー、介入したパーティーどちらもペナルティ
みたいなのがある。あとは暗黙の了解が幾つかあるらしい。詳しくは知らない。でも私が今回受けるのは記念すべき一回目の依頼…!!! どうせなら面白そうな依頼がいい…!!
「オイ!! そこの餓鬼!! そこを退け!!」
一回目の依頼は私が選んでいいとグレイが昨日の夜に言っていたので、何か面白そうなのを探そう。幸いなことに私はSランク冒険者。高難易度の依頼は他の依頼とは別な場所に貼ってあるためじっくり考えていても問題ない。
「貴様!! 聞こえていないのか!!」
グリフォン、マッドジェットラット、アブゾーブシャーク…? また珍しい魔物がいるなぁ。…けれどどれも食指が動かない。
「貴様っ!! 退けと言っているのが聞こえないのかっ!!!」
「えっなにうるさっ。」
大音声で叫び散らかしている誰かに、思わず振り向いてしまった。振り向いた先には顔を真っ赤にした茶髪の青年がいた。
いや誰?




