6話 ドラゴンさん、人になる(前編)
「………Mずるい。僕だって事実上親なのに……。お父さんって言われたことないのに…。」
「主様、父親扱いされたいのかにゃ?」
「いや全然。」
「『なら言うな。』」
「二人とも辛辣ぅ~。」
「ところでこの子、名前ちゃんと聞いていませんでしたが、リナでしたか? 魂の形と記憶に関して聞きたいことが出来たのですが?」
はい、リナちゃんです。お膝の上で頭をなでなでされております。最高神同士の喧嘩が終わり一安心したけど……何か不穏なオーラが頭上から漂っている気がします。修羅場が続く……(戦慄)?
「それの出生のこと? 下界から持ってきただけだけど。」
「……リナちゃん、すみませんが自分の元々持っていた名前は分かりますか?」
『え、確か莉奈だったと思いますけど?』
「………………やりやがったなこの駄神。」
「ナンノコトカナー。」
『え、何したのR。』
「主様、まさか……」
「そのまさかでしょうね…………。はぁ…。後始末を誰がやると思って」
「M」(即答)
「宜しい。戦争ですね!」(即答)
「『やめて?』」
え~。マジでなにしたよ、この駄神サマ。Mさんマジギレしてるんですけど。そんなにヤバいことなら滅茶苦茶気になるじゃない。私も知りたい。……そうだね。ここはMさんに魔法の言葉でおねだりしましょ。
『えっと、お母様? Rは何をやらかしたの?』
下から目線のぶりっ子た~いむ。Mに こうかは ばつぐんだ!!一瞬で慈愛の笑みを浮かべてMは私の方を向いてくれた。そして大切そうに私の頭を撫でながら一言。
「リナは知らない方が幸せですよ?」
『なにそれこわい。』
魔法の言葉でも教えてもらえませんでした。残念。
「いや~、Mはリナをこの場所、僕の部屋に持ってきた方法に文句があるみたいなんだよねー。」
『私を誘拐した話?』
「うん。」
「よくわかりましたRその頭と胴を切り離しましょうか? たったいま。」
「M様? 落ち着いてくださいにゃ? 今紅茶とクッキーを用意しましたのにゃ。これでもどうぞですにゃ。」
『クッキー! たべる!』
「っ!? リナちゃんがっ!! か、可愛すぎますっ……!」
「落ち着け~?」
チャキッと音を立てて刀を握り直したMさんを止めて、そのまま皆でおやつタイムに突入。だがしかし、私はクッキーを頬張りながら視線でRに説明を求める。ここで誤魔化されてたまるか。絶対大切なことだろ。クッキーを食べつつも視線はRに固定する。
「リナ。貴女は大丈夫ですか?」
私を抱っこしているMが心配そうにそう聞いてくる。もちろん。私は自分の死因くらいでそんなにショックを受けたりしない。大分特殊な考え方だけど、私は死ぬことは楽しみだったくらいだ。ははっ、頭おかしいね。なんてこったい。けどまぁ、事実として今はそこそこ楽しんでいるしね。
さあ吐きなよ、R。アンタはどんな風に私を殺してここまで連れてきたんだ? 神の誘拐なんて殺したのと同義だろう?
挑発的な私の視線に、Rは笑みを浮かべる。私も嗤う。Mは困ったような顔をして、猫丸は無表情で。そして、Rは答えた。
「君を連れて来ようとしたんだけどね? ほんとは勝手に神を創ることはできないんだ。だから誤魔化す必要があった。それかそれなりの理由が欲しかった。理由は簡単に作れるけど、どうせならちゃんとした手順を踏もうと思ってね? 君に無理やり役目をあげた。」
『役目?』
「うん。世界に対する役目。その役目がある人間に対しては、神は恩恵や力を与えられる。だから僕は君に過剰な力と権利を与えた。その結果、君の身体と魂は、【器】は耐えきれず爆散した。」
『…え?』
「その後の記憶や魂の一部と僕が与えた神格によって今の君は創られている。」
『え?……え?じゃあ―――――――――もしかして私の部屋エグイことになってない?』
「いや、多分突っ込むところそこじゃないにゃ。」
冷静にツッコんだ筈の猫丸の声は誰にも届かなかった。そしてそのままRの独白は続く。
「そしてMに邪魔されないように変死したように偽装したり、名で支配しておけば僕の眷属として神格を持っていても問題ないから名前も変えたりした。下界でも、君の記憶の中でも、君は《莉奈》という名前だったという事に書き換えた。」
「あなたは! 何で! そうやって私に面倒事を押し付けるのですか!」
『え、私改名されてたの? ていうか私大学の寮にいたはずなんだけど…? 色々大変なことになってない?』
「取り敢えず落ち着いて話し合いで済ませてほしいのにゃ~。」
「という感じだよ♪」
『え、だから私の部屋ドウナッタノ。』
「R!! 覚悟しなさい!! いつも私の仕事ばかり増やして!!」
「……。…………もう駄目にゃ~。収拾がつかないのにゃ………。」
どの世界にも苦労人は存在するものである。
「シリアスになると思ったか!」「残念!そんなことにはなりません!」
「てかリナちゃんかなりあれじゃない?」「言うな。分かってる。」「サイコだね~」
「「「「ちょっ、おま」」」」