第6話 ドラゴンさん、一般常識を学ぶ
「そもそも【龍の楽園】は始祖人達の故郷って言われている場所だ。始祖人が守り、神が住まうとされている土地だよ。実際に確かめた奴がいる訳じゃねぇけどな。」
グレイはそう言って話し始めた。世間の一般論くらいは聞いておくべきだろうと思い、私は話を聞くことにする。……料理を始める前からこの辺りに張ってあるグレイの魔力障壁に歪みは無いし、安全ではあるしね。
私がこっそり見渡したことに気付いたグレイは少し驚いたようだったが、そのまま話を続ける。
「《禁忌の深淵》は龍の楽園を囲んでいる地帯全域を示すんだ。この辺りに来る奴は物好きか自殺願望者か、あとは高ランクの冒険者とかだな。」
「グレイは物好きか?」
「違うわ。俺はSランク冒険者だぞ。」
「おお!! マジ?! ほぉ~!!」
「オイ待て、何を企んでやがる! その顔は何なんだ!」
Sランク冒険者とか転生者が喜びそうなワードが聞こえましたわよ~! これは幸先がとてもいいね!! 思わずニコニコしていたら、グレイに物凄く嫌そうな顔をされた。
「ったく……。で、嬢ちゃんは何処の国出身なんだよ。ここに一人で来れるし、俺が張った障壁にも気付きやがるし…。」
「国名は言わないけど、私は一般人だよ。ほら、私の服はただの町娘じゃない?」
「んなわけあるか。一般人はこのくらい知ってるし、町娘は自分のことをただの町娘とか言わん。……帝国の者か?」
「じゃあそこ出身ってことで。」
「は?」
「え?」
グレイの気配が急に変わった。フレンドリーなものから戦闘態勢へと変わる。しかし流石に本当のことは言えないし、出身地とか決めてないから適当に言ってやったら何故か硬直した。んー? 帝国って……。
「あれ、帝国ってアールグレイとかいう奴でしょう?」
「違ぇから!? オードリオル帝皇国だよ!! 文字数しかあってねぇよ!!」
「あー、それそれ! じゃあ私そこから来たってことで!」
「ぜってぇ違うだろ!?」
「何故にそこまで否定するのさ? 本当かもしれないじゃーん。」
怒涛の勢いで否定された。不満だったので文句を言ったら思いっきり睨まれた。おやおやー。一般人をそんなに睨むもんじゃないですよー(棒)。
「嬢ちゃん。さては碌に国について知らねぇと見た。五大国についてどのくらい言える?」
「え? 10か国くらいなかったっけ? 5個?」
「………ほう、そう来たか。成程、そっちか。……ってかマジで何も知らねぇじゃねぇかよ。」
あれ? 確か10か国くらいだった筈なんだけど。流石にもう少し情報を仕入れてから旅に出るべきだったかも?
グレイは身体から力を抜き、呆れたように私を見ながら話を再開する。
「オードリオル帝皇国、マナリア公国、グリジオン獣王国、アールハイド王国、聖サンドリア教皇国。これがこの大陸にある国だよ。合わせて五大国。で、後は別の大陸に何個かあるらしいけどな? 別大陸の存在は世間には隠されているだよな。」
「……あらら?」
「この時点で嬢ちゃんは海を渡ってきたか、どっかの国の重要人物だってことが確定したな。」
「あらまぁ。」
「……いやなんでそんなにあっさりした反応なんだよ。」
そっと目を逸らす。思ったより頭がいいなと思ったなんて口が裂けても言えない。正直グレイはこう、頭を使うタイプには見えなかったんで……。アレだよね。貴方は腕っ節だけで上り詰めたパターンなんですよね。だから急に知的になられるとあっれー? ってなるんすわ。イメージと違い過ぎてね。
「何だかとても失礼なことを考えてねぇか…?」
ぎくっ。
「………えっとー。まぁ、ね? 私も色々思うことがあるのよ。うん。」
「…面倒事か? なら聞かん。」
あらやだ。そういう時に突っ込んで聞いてこない人は個人的に気が合いそうなんですが。ええ人やー。ではきっと私の質問にも答えてくれるでしょう。
「ねぇねぇ、この辺りで大暴れしても問題のなさそうな場所って何処にあるの?」
「は? 何でだ?」
「え? 私が力の調節を覚えるためだけど?」
「いやどういうことだよ?」
「うし、この辺なら多少は問題ねぇはずだぞ。」
「おお! サンキュー!」
「で、さっきの話は本当か? すぐには信じられんが……。」
「まー見ててってー。」
グレイに伝えたのは、私が《龍達の深淵》で特訓していた結果強くなり過ぎた元冒険者であるということ。勿論嘘であるが丁度いいものを思い付かなかったのでこれでゴリ押した。そして力の加減の練習のためにこの辺りにいたが、周りを大破壊しそうでなるべく戦闘は避けていたという設定で行った。あまり信じてくれた訳ではないようだったけれど、条件付きで同行してくれることに。その条件は戦闘を見せること。そんなことで良いのかなとも思ったけれど、特に問題があるわけではないし了承して暴れられる場所に連れて行ってもらった。
連れていかれたのは森の隅の方にある空き地。と言ってもかなり広い。グレイ曰くここはとある魔獣の住処で、この魔獣は森を拓いて巣を作るのだそう。なにそれ凄い。私も見たい。
「危なくなったら助けようか?」
「いらなーい。私は頑丈だからー。」
ワクワクしながら突入。グレイの助けは借りず一人で暴れてやりますよ! グレイはグレイで周りを魔力障壁で覆ってくれるみたいなので暴れ放題。実は私も結界張ってから戦えばよかったという事にさっき気付いた。何故気付かないんだよ私。
空き地に突入して気付いた。草の丈が全て10㎝程度に整えられている。確かにこれは不自然だな。整えた存在が居ると考えて問題ないだろう。そして私の様にこの場所に足を踏み入れたものに襲い掛かると。っていうか地面からいきなり飛び出してきた。私の真下から出てきたけれど、横っ飛びで回避する。出てきたのは……え? ナニコレ? 口がデカくて、目が小さいドクトカゲ? どちらかというと地面の中に住んでいるサンショウウオだろうか? ゲームでこういうの居たなー。と思いながら凶悪性の違いに眉をひそめる。
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名称 ユッタリア
ランク S
特徴 地中に住む特殊な魔物。しかしながら彼らの主食は肉であり、そのために罠を張り狩りを行う。自分たちの巣の上にある植物に体液を擦り付け、特殊スキル《共鳴察知》を利用する。一瞬で地中から襲い掛かり飲み込み、体内にある毒で獲物をしとめる。火に弱い。
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ハンミョウみたいなやつだな。見た所《猛毒生成》と《共鳴察知》のコンボってところか。《共鳴察知》は本来自分に近しい存在と感覚を共有するというものだった筈。自分の体表から分泌される粘液を草に付けてスキルを使ったのだろう。なかなか面白い生態をしている。観察の候補にしておこう。ま、今回は戦闘訓練だし、サッサと倒してしまおう。火が弱点のようだから焼くか。
しかし、そこまで判断した直後にユッタリアは地中に潜り出す。あっという間に潜っていくので私は慌ててしまった。そう。慌ててしまったのだ。別に他の相手を見つけてしまえばよかったのに。
「!! 《フレア》!!」
「!? バッカ!! 何やってんだ!?」
焦った所為か私の放った火炎弾は着弾と同時に巨大な火柱と化した。グレイの張っていた障壁も軋み出し、辺りの気温も上昇する。私はそれを理解すると同時に魔力を流し、適量を探してコントロールを開始する。そして10秒ほどでコントロールに成功した。
「成程。こんなもんかー。」
「なーにがこんなもんだよ!? 焼け野原じゃねぇか!!?」
「キコエナイナー。」
周りを見ると私が魔法を放った場所を中心に焼け野原となっていた。障壁の端っこで自身に防護魔法を掛け身を守っていたグレイからの非難の声に私は思わずそっと目を逸らし耳を塞ぐ。
………加減。大事。




