獣伝4 巳 龍と獣は自由過ぎる生き物たち
「またまた閑話ですのー!!」「次回こそは新章なのです。」
コポコポ、と試験管に入った液体が音を立てている。それを見ながら白衣を着た少年は溜息をつく。手に持っていた紙に材料、配合の割合、結果などを記していく。書き終わり、紙を机の上に置くと、それを見計らったようにその部屋のドアがノックされる。
「ラミ、いるか? 上様から連絡が来た。」
「ええ、今なら丁度手が空いていますよ、レネ。」
白衣の少年、ラミがこめかみを抑えながら答えると険しい顔をした少女、いや幼女、レネが入ってくる。そして部屋を見渡すと困ったような表情をする。
「済まない、実験中だったか?」
「いえ、終わったので問題はありません。……また上様が何かをしたのでしょう?」
「…ああ、また新しく眷属が出来たから教育をお願いしたいらしい。」
レネから答えを聞いたラミは意外そうな顔をする。
「新しい眷属ですか? どなたでしょう?」
「《酉》だ。……それはもう強引に連れ帰ってきた。」
「ええ………。その、何と言いましょうか、お相手さんは?」
「連れてきたのは『ハーピィークイーン』だ。今は上様が現状について説明なさっている。」
レネが溜息交じりに答えれば、ラミは思わず天を仰ぐ。理由は簡単、リナが面倒事を持ち込んだ気配を察したからだ。自由奔放な主という点にさえ目を瞑ればリナはとても良い主なのだが、全てのプラス要素を打ち消すほど自由過ぎるのだ。
一応、自身の行動には責任を持ってくれてはいる。だが、見ているこちらがハラハラするようなことばかり起こす。そしてラミ達を頼るときはとてもとても面倒なことが多い。ラミはこの短い間に学習した。
「…因みにですが、クイーンの配下にはハーピィーがどれほどいたのでしょうか? あまり生態系を弄りたくはないと仰られていましたが。」
「58体だな。しかも全員をこちらに連れてくるようだ。そして新しくハーピィーの群れを創って元の場所に放つらしい。」
「上様……。」
ラミがあまりの自由っぷりに衝撃を受けていてもレネからの凶報は止まらない。
「しかもこちらに呼んだ群れは改造して龍種にするらしいぞ。」
「…すみません。聞き間違いでしょうか? 今改造すると聞こえたのですが。」
「ひいてはお前の薬品で変えられるならやってみて欲しいらしい。」
「うん。聞き間違いではないようですね。もう少し上様には自重をしていただきたいのですが?」
「………無理だと思うが?」
そっと拳を震わせるラミに一応、といった体でレネは言っておく。それを聞いて「そうですよね」と諦めたように笑うラミを見て大変そうだなとレネは思う。
実はレネ及びラプラス達が「上様のために!!」と言って暴走することがあり、それを止めていることもラミの負担となっているのだが、レネは気付いてはいない。
「ああ、そう言えば新しい薬品の材料になりそうなものが出来たと上様が仰っていたが。」
「ではそれで手を打ちましょう。」
哀愁漂う後姿を見せていたラミだが、その一言で元気を取り戻す。レネが咄嗟に距離を取るくらいに。
ラミは色々と薬を調合したり、成分を抽出したり、物を造ったりするのが好きなのだ。そして、ラミの部屋は怪しいキノコやおどろおどろしい液体、乾燥した毒草、溶液に浸かった蟲などが置かれており、魔女の研究室かと思うくらいに魔改造が行われている。大好きな趣味に没頭してよいと言われたマッドなサイエンティスト以上の妖しさがあり、その怪しさはこの部屋の出入りはラミが許可を出したものだけ、というルールが設けられるくらいだ。
「お、おう。それでだが、今回は上様と協力して事に当たって欲しいそうだ。」
「分かりました。準備だけしておけます。」
「それでは頼んだぞ。」
そう言ってレネは部屋から出ていく。それを見送ったラミは準備を始める。
思い起こすのは上様と初めて会った時のこと。何時からラミが自我を持っていたのか本人すら知らないが、あの一瞬のことは全て記憶している。
『二人ともこれからよろしくね!』
笑顔で話しかけてくれたリナを前に、ラミは先に生まれていた姉弟と一緒にこの方に仕えるという事を理解した。そしてそれが生まれた役目であるという事も。
Mの下で勉強し、懸命に努力する間にリナ、上様の過去について教えてもらった。同時に彼女が背負う、過酷な運命についても。
リナ本人は全く気にしていないが、彼女は全てを失っているのだ。持っていた物も、評価も、未来も、夢すらも。それを奪われても、なんてことが無いように笑って自分だけの世界を創った。
「リナちゃんはとても強い子です。本来ならとっくに心が折れて消滅するはずですし、良くても廃人になるだけでした。」
溜息交じりにMがレネとラミに教えたことは衝撃だった。朧気に覚えている主はとてもそんな様子はなかったから。それどころか近くにいるだけで安心感すらあった。
「リナちゃんは正真正銘の上位の神です。格で言えば、猫丸や狐花と同じくらいでしょうか?」
後半はあまり記憶に残らなかったが、二人にとって『主を支えなくては』と思う原因はこの発言だったのだ。
「《神の資質は会えばわかる》、でしたか……。」
何故か懐かしい言葉を思い出し、ラミは苦笑する。Rがリナを評価する際に言った言葉。今ならそれが分かる気がした。……ただ、リナ本人に言っても理解されなそうな点が残念なのだが。
「それでは、参りましょうか。……そろそろ私の助手も欲しいですし。」
独り言を呟きながらラミは主が待つ部屋へと向かう。今までのことと、これからのことに思いを馳せながら。
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