第36話 レッツダンジョン!! 其の5
「明けましておめでとうございます。」
「今年も拙作を応援していただけると泣いて喜びます!」
ダンジョン内では陽の光が無いため時間の把握は難しい。そのため、時計を各自で持って時間を見ながら見張りを行う。カプアさんと見張りを交代して数時間。特に何事も起こらず朝を迎えた。
時計が3の鐘を指した頃グレイが天幕から出てきて簡単なスープを作る。空間収納や見た目より沢山物が入る魔法のポーチに入れていた野菜や干し肉を中華鍋に似た中型の携帯用鍋で煮て、塩と調味料――王都に来る道中で聞いたが、粉末状に加工したコンソメらしい。親が製法を確立させたんだとか――で味を調える。ちなみに簡単そうだったので私も挑戦したら見事に失敗した。グレイは爆笑した。
美味しそうな匂いが漂い始めるとカプアさんやアシュレイちゃん、クリス君も天幕から起きてくる。
「今日はスープですか。」
「おう。多分下層では作れないと思うからな。下では携帯食料と日持ちする葡萄酒くらいだろ。今くらいしか美味いもん食えないからな。」
「あ~。あのワインは確かに不味いですからね…。」
他の冒険者パーティーがこちらを見ている気配を感じるので見張りを続行しているとグレイとカプアさんの会話が聞こえる。……カプアさんが嫌そうに顔を歪めたの初めて見たかもしれない。意識は周囲を警戒しつつ話に混ざる。
「そんなに不味いワインなの? 食料関係は任せてたけど…。」
「日持ちするワインはちょっと特殊でなー。アルコール度数は低いんだが……。」
「ただただ苦いと言いますか……エグイと言いますか……。」
「温めてホットワインにすればまだ何とか…っていうくらい不味い。」
「えぇ……?」
いやどんな味なの。この二人が思い出すのも嫌そうな顔するって相当不味いのでは? 私はちょっと遠慮しようかな…。ほら、皆私のことを子供扱いするし、酒は呑まない方向でさ…。
「大丈夫だぞリナー。クリスでも飲めるんだからお前も飲もうなー。」
「そもそも子供でも飲んで問題のないように造られていますからね。好き嫌いはいけませんよ?」
「なんでこういう時に限って二人揃ってイイ笑顔するのかなぁ~?」
そういうところそっくりで師弟だなって思うよ私は。二人に呆れて視線をずらすと、何処か憂いを帯びた表情で鍋から器にスープを装うアシュレイちゃんがいた。思いもよらぬ光景に私の動きが一瞬止まる。えっ、はっ? ど、どうしたの?
「あれ、みんなどうし――ってアシュレイさん! それ以上は器から溢れますよ!? ほら寝ぼけてないでちゃんと器見て!」
「はっ???」
「……あらあら? 確かに多く取ってましたわ? まだ少し頭が働いて無いのかしら?」
「えっ?」
「はぁー、もう大丈夫ですか? しっかりしてくださいね!」
「大丈夫よ~。」
………えっ、あっ!? もしかして朝に弱いだけ!? 寝ぼけてたってそういう!?
「で、あんたは何で止まってるの?」
「え、ちょ、クリス、え、アシュレイちゃんってあんなに朝に弱いの?」
アシュレイちゃんと話していたクリス君が私にも話しかけてきたので驚きもそのままに聞いてみると、知らなかったのか!? と驚いた顔をされた。え、だって王都に来るまでの旅ではそんな感じは一切見せなかったじゃない!
「確かに。……あー、アシュレイさんは陽が出てないといっつもこんな感じだよ。酷いときは話しかけても反応しないし。陽の光に当たればちゃんと起きられるみたいだけど。」
「そ、そうなんだ。」
超初耳なんだけど!? アシュレイちゃんそんなに朝に弱いの!?
仲間の知らない一面に驚いている間に、アシュレイちゃんはいつもよりゆっくりと食べ始め、段々と普段と同じくらいの速さになる。
「あっ! アシュレイお前! いつの間に食べ始めてたんだ!?」
「あらグレイさん~。今日も美味しいご飯ありがとうございます~。」
「いや毎回いきなり食べ出すのは止めろと言ってるんだが!? そっちはいい加減覚えてくれないのか!?」
「……あら? また先に頂いていたわ?」
「えっ、あれ意識してなかったの?」
「あれは遠征するとほぼ確実にみられる光景だよ。アシュレイさん、無意識でやってるみたい。」
「ふふふっ。あれはアシュレイ嬢の本能のようなものですよ。」
グレイが怒ってもマイペースにもぐもぐ食べ続けるアシュレイちゃん。あれはよくある光景、らしい。いつの間にかスープを確保してくれたカプアさんからスープを受け取りつつアシュレイちゃんが説教される様子を見ていた。あっ、スープめっちゃ美味しい。
「で、今日は何処まで潜る? ペース配分の参考にするから。」
朝食を食べ終わり、後片付けを終わらせて私はグレイに訊ねる。昨日は20階層分進んだんだ。今日もそのくらいのペースで進むのかもしれない。
「んー。取り敢えずだが、陣形を変えようと思う。ここから先は敵も強くなるからな。昨日の強行軍は難しいと思う。」
グレイの言葉が聞こえたのかクリス君は真顔で要望を出す。
「中衛を、増やして下さい。」
「お、おう。……えーと、アシュレイは前に出られる位置に居ろ。それと……リナ、後衛よりの中衛で行けるか? 下の階層では毒持ちが多くなる。なるべく火系統は使わないでくれ。」
「了解です~。」
「問題ないよ。」
……ああ、そういや昨日はクリス君が大忙しだったからね……。後衛にも前衛にも魔法を放って、矢を放って魔物の牽制をして、竜車での移動でも応戦して……。下の階層でも同じことをしろと言われたらクリス君が過労死しそうだ。
さて、私とアシュレイちゃんも前に出るのか。つまり、前衛がグレイ、カプアさん。前よりの中衛がアシュレイちゃん。中衛で私とクリス君。それで私が後衛でもあると。ん~、火系統は禁止か。まぁ揮発性かつ引火しやすいの毒とかあったら拙いもんね。恐らく爆発するだろうし。……王毒蛙の毒は誘爆性があるんだっけ。確かレアモンスターでこのダンジョンにいたはず。………。……ん?
「あれこれ私が忙しくなるのでは?」
「出来るだろ。」
「いや出来るけど……。」
「それに前衛だけで潰しきれば後衛の出番はない。」
「ワァ。……すっごい極論……。」
そんな先に潰せばノーダメですよね? みたいに言われても……。理論的にはそうだから頷くしかないけど脳筋過ぎない? 実際に出来そうな辺りグレイはSランク冒険者なんだなぁと実感する。……。よく考えたらカプアさんも前衛なんだから本当に前衛だけで倒しきれそうだ。
「竜車での移動は?」
「大広間や開けた所では使わない。通路だけ竜車を使う。移動中についてだが、罠はアシュレイとカプアで対応、魔物は俺とクリス、リナで対応する。ここまでで質問はあるか? ………よし、ないな。じゃあ行くぞ。」
応、と全員が答えて私たちは荷物を持って移動を開始する。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「いやいやいや多すぎでは???」
右手で持った刀を振るえば切り裂かれた『ポイズンゲッコー』が悲鳴を上げて劇毒を撒き散らす。霧状になった毒を同じく霧を混ぜた風で吹き飛ばせば『アルゴバット』に直撃し複数の金切り声が上がる。『アルゴバット』の声は重なって不協和音となり衝撃波となって襲い掛かる。
「うっるさい!! 何匹いんのよ!!」
「だー!! キリがねぇ!! 大量発生でもしてんのかよ!? 聞いてねぇぞ!!」
「はぁ!? それこそギルドに連絡入るでしょ!?」
アルゴバットの鳴き声に消されないように叫ぶと同じようにグレイが叫んだ。魔物の大量発生はダンジョン内で極稀に起こる現象だとされる。ダンジョン内の魔物の数は通常、一定数で固定されている。しかし、外部から侵入者がやって来て多くの魔物を倒すようになると魔物の生産速度が上昇するのだ。その速度は侵入者がどれだけ多くの魔物を倒すかによって変わる。
さて、ダンジョンが把握できるのはあくまで死んだ魔物の数である。死体を吸収する数が多ければ多くの魔物が死んだと判断されるのだ。そしてその数を参照してあらかじめ多くの魔物を生む。そう、事前に、魔物を多く生むのだ。もし、大量の魔物を長期間倒され続けたあと、いきなり全く倒されなかったら? その答えが大量発生だ。要するに供給が過多になっているのだ。
もちろんそうなった場合、ダンジョンの危険度は上がる。よって大量発生が起こるかどうかは冒険者ギルドにとって重要な情報であり、前兆がないか常に調べられている。そして大量発生が起こると大規模な討伐体が組まれることになる。
「でしたら考えられるのは私たちが最初に遭遇したということでしょう!! っ、クリス君!!」
「了解! 【ハンドレットクリスタル】!!」
数十体のポイズンゲッコーを瞬く間に切り伏せたカプアさんは一瞬でその場を離れ、直後にカプアさんのいた場所に向けて毒霧と毒液がブチ撒けられる。合図を受けたクリス君はワンドを掲げ、魔力の水晶を作る。水晶は無数の光条を放って、もう一度毒を放とうとしたポイズンゲッコーと『ベノムフロッグ』を灼き切っていく。
「う~、流石にちょっと面倒ね~。もう壁ごとまとめて打ち抜きましょうか?」
「ぐぎゅう!?」
毒持ちに有効打の少ないため、後方からチマチマ水魔法を放って攻撃していたアシュレイちゃんから不穏な言葉が聞こえる。同じく後方待機しているライのビビった鳴き声からすると結構本気で言ってるのかもしれない。
「リナ! 悪りぃがなんか広範囲の攻撃魔法とかないか!? できれば即効性のある奴!!」
グレイもアシュレイちゃんの呟きが聞こえたのか、アルゴバットを5匹ほど叩き切りながら指示を出す。えっと、一応地下遺跡かつ火系統禁止……水か!
「大量の水で押し流すとか!?」
「おし! やってくれ!!」
「OK!! 多分巻き込むから気を付けて!!」
イメージするのは洪水! 通路中にいる魔物どもを巻き込む以上、河の氾濫とかの勢いで押し流せば多分オッケー!
「全員何かに掴まっててね!! 5秒で撃つ!!」
さぁ、【無限】の極意を見せようか!! スキル起動【志士焚迅】。一瞬だけ私の身体は加速する!! さらに【静止世界】起動! 意識の加速スキルで世界が止まったように遅くなる! 【志士焚迅】で加速した私の腕は正確にゲッコーどもを切り伏せる。そして世界の速度が元通りとなって私の周りにいる敵は一時的に居なくなった! ならばその隙間で魔法を構築できる!! 魔法陣を呼び出して使う魔法は大津波!!
「行くよ!! 【大波乱】!!!」
私を中心に大波が発生する。それは辺り一帯の敵を飲み込み押し流す――!!
「あっ! クリスが流された!!」
「えっ!?」
「ク、クリス君~!!」
「救助救助!! ちょ、リナ!!」
「えっ私!?」
やっば結構流されとる~~~~~!!!!!!
「ええ、ええ。毒持ちに対して水で押し流すのは確かに有効ですよ。僕だって分かってますけどね! 流石に威力を調節してほしかったけどね!!」
「マジでごめん。ほんとごめん。」
仲間をずぶ濡れにしただけでなく、クリス君を魔物と一緒に押し流してしまったため物凄い怒られた。うん。流石にもうワンランク下の魔法で良かったと思う。
「竜車はどうだー。」
「もう少し乾燥させたいです~。」
「竜車自体に異常はないようですね。」
私とアシュレイちゃんで協力して温風を起こし全員を乾かすことになった。ついでに竜車の点検をカプアさんが行う。
「………なんでカプアさん濡れてないの……?」
「避けました。」
「「避けたぁ!?」」
発動させた本人が言うのもなんだけど、通路全体水没させたはずなんですけど!? 避ける避けない以前にまず逃げられないでしょう!? グレイだってびしょ濡れなんだよ!? ほら、クリス君だってめっちゃ驚いてる!! あり得なくない!? スキルか!? ちょっと鑑定していいかな!?
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名 カプア・ジャック
種族 猫人族
Lv.261
体力 2124
魔力 1821
武力 1702
耐久 1328
敏捷 1920
特殊スキル 幽鬼魂 アナタに敬意を送ろう
称号 僕はだぁれ? 黒の殺し屋 Aランク冒険者? 元暗殺者
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……明らかに変なスキル持ってるうぅぅぅー――――!!! 絶対それじゃん!! 明らかにそれじゃない!!! って二つとも怪しいな!? 絶対上位スキルじゃん!! 特殊スキルの派生進化スキルじゃない!! 【志士焚迅】、【静止世界】みたいな第一段階のスキルじゃないでしょ!? 第三段階とかだよ!?
「リナ嬢。無断で鑑定するのは頂けませんよ。マナーがなっていませんね?」
「ヒェッ、スイマセン……。」
「次からは気を付けてくださいね?」
「ハイ!」
教訓。ってか今日分かったこと。カプアさん下手すれば始祖人クラスの能力もってるわ。怒らせないようにしましょう!!




