第35話 レッツダンジョン!! 其の四
ズドォン…と音を立てて最後まで立っていた巨大なゴーレム種が崩れていく。カプアさんはそれを一瞥し、ライにハンドサインを出して近くに呼ぶ。それに合わせて私たちはそれぞれの武器を仕舞って一度集まった。
ここは20階層、大広間。大広間にはいわゆるボスと呼ばれる強敵が存在し、近くにいる魔物を従えつつ侵入者を攻撃してくるのだ。といっても《遺灰》の面々の前ではほかの雑魚モブと何ら変わらないのだが。
「っと、これで20階層攻略完了かな? そろそろ休憩しない?」
倒された魔物の遺体がダンジョンに吸収されていくのを横目で見つつ、私は球形の提案をする。ダンジョンは魔物を生む。生むのは専用のルームが存在し、そこで魔物が生産される。魔物が死ぬとダンジョンは吸収を開始するのだ。傍から見れば死骸がゆっくりと壁や地面に沈んでいくように見える。つまり魔物の素材が欲しい場合は吸収される前に剥ぎ取る必要がある。ちなみにダンジョンは再生するのでハンマーとかで壁を壊しても1時間ほどで修復される。そして大破壊を行うと魔物たちが寄ってきて破壊を行った者を狙うようになるのだ。魔物と沢山戦いたいなら壁や床を壊し、魔物が寄ってきたところを叩き潰し、魔物が生産されるルームを見つけるまでそれを繰り返すのが一番効率が良かったりする。
カプアさんは懐から時計を取り出して時間を確認したらしく、私の意見に賛同した。
「リナ嬢の言う通り、そろそろ九の鐘になりますね。休憩できる場所を探しましょうか。」
「……つっっかれた………………。」
死にそうな顔をしたクリスがぼそっと呟く。クリス君今回すっごく働いていたからね……。前と後ろに魔法撃って、弓を構えて追い払ったり、短剣で喉を切り裂いたり、近距離、中距離、遠距離に攻撃当ててたし。さりげなく7時間ぶっ通しで戦ってたし。いやまぁダンジョンに入ってからもう7時間くらい経ってるんだよねー。その間ずっと動き続けたら疲れるのも当然だろう。
「そう考えたら私含めて4人くらい化け物なのでは?」
「何をいまさら。涼しい顔で俺達についてこれてる段階で十分お前も化け物だよ。」
「うおっ。」
思わず漏れ出た独り言にグレイが反応したのですごくびっくりした。急に話しかけられたらびっくりするじゃーん。そこんとこどうなの? ん? なんかグレイがジェスチャーしてるな。後ろを見ろ? そんくらい口で言えばいいのにと思いつつ振り向いてみた。
「うふふふふふふっ。このゴーレムさん、いい身体じゃな~い。一体どんな武器がつくれるのかしら?」
後ろを見たことを激しく後悔した。そしてグレイがジェスチャーを使ったことも納得した。ハハハ、お嬢様な見た目で、ローブを着た魔法使いのアシュレイちゃんが鈍器なんて持つわけないじゃないですかヤダー。今アシュレイちゃんが持っているメイスに付いた赤い液体の正体は考えないものとする。
大広間に突入するときに作戦は無いから各自暴れろとは言っていた。グレイが。でもさぁ、アシュレイちゃんはマジでヤバかった。詠唱短縮で発動できる下位の魔法、【ファイアーランス】とか【アイスショット】とかを使いつつ、自分の筋力を強化して戦棍でぶん殴るんだもの。ドガッッッ!!! とかバゴッッ!! とかはまだ打撃音として理解できるんだけど、ズドガゴギャアァンッッ!!!! みたいな音が響き渡って慌ててみたら金属鎧……多分皮膚の一部が金属化出来るスキル持ち……を着た5ⅿくらいの猪が頭を地面にめり込ませていた。頭蓋骨の一部が露出してたから頭部を複雑骨折したんだと思う。正直に言ってドン引きした。
私? 私は普通に刀で全部斬ったよ。人型とか獣型問わず、頭から股まで真っ二つにすれば大体は倒せるし。それとグレイは半分くらいぶった斬って、もう半分は燃やしていた。グレイの炎はスキルと魔法の合わせ技らしく、ちょっと離れた奴とかは燃やして後は近づいて剣で斬り飛ばしていた。
あ、カプアさんは杖が仕込み杖らしくて、素早く接近して斬り刻んでいた。散歩でもするかのような気軽さで近づいているようにしか見えないのにかなり素早く接近して、居合切りから繋いで連撃を与えて納刀、という流れを敵の数だけ繰り返していた。えっ本当にお爺ちゃんなの? 年齢詐欺してるんじゃないの? 明らかに年寄りの動きじゃないですよねぇ? ものっすごいキレッキレだったんですけど。
「そういえばダンジョンの安全領域って何階層だっけ? 21階層?」
「あー、アシュレイはスルーするのかー。…そうだな。確か21階層だな。そこまで行ったら休憩だ。交代で見張りをしながら3鍾休憩する。」
3鍾……6時間か。それを5人でローテーションすると、見張りの時間は……どのくらいだ? あー、72分か。でもまぁ正確に測れるわけでもないし大体でいいか。
ちなみに私は睡眠しなくてもいいが、それはグレイにも言ってない。流石にそこまでいくともう人間ですらないからね。人に混ざって暮らすことがしたいのに、そんな化け物ムーブは流石にNG。私も皆と同じように仮眠させてもらうよ。
「それじゃあ使えそうな素材拾って――」
「あ、全部拾ったよ。」
「………。やっぱお前の魔力量絶対おかしいな?」
その認識は酷くない?
安全領域はダンジョンで魔物が発生しない特殊階層。魔物の生まれる部屋が無い階層である。魔物は生まれた階層から移動しないため安全領域階層には魔物が存在しない。まぁエリア自体もそこまで広くないから何の意味もない階層って訳でもない。罠とかは普通にある。そして罠は移動する。なんなら生える。見張りが必要なのはこのためだ。罠が天幕の近くに来たり出来たりしないように開発された魔道具を維持する人員が必須なのである。
「罠の解除、終わりましたよ。」
21階層に入ってすぐの通路で壁に手を当てていたカプアさんが罠を発見。即座に解除した。いや万能過ぎでは? あったのは矢が飛んでくる仕掛けだったらしい。あれは矢が飛んでくる穴を潰せば一時的に無効化できる。対処するのは簡単だけど見つけるのは難しいんだよねぇ。
「マジでカプアさん何者? 只のシーカーではないよね?」
「あー、カプアの過去は俺も良く知らないんだよな。本人が誤魔化すからあんまり聞かねぇ方がいいぞ?」
「ふーん。」
ボソッと呟いた独り言を聞いていたグレイが教えてくれた。そっとカプアさんを窺うとカプアさんはニッコリと微笑む。……確かに誤魔化されそうだ。私も言いたくないこととか沢山あるし、聞かないでおこう。
安全領域には数パーティーの冒険者たちがいた。冒険者が複数いる場合は離れすぎず、近すぎない位置に天幕を張ることが推奨される。魔道具が複数あればそれだけ罠は近づかない。が、人間関係的なものを考慮して近くに天幕は張らないようにギルドでは教えている。何か昔それで問題が起きたんだって。
ちなみに魔道具の開発には始祖人が関わっている。もとい、レネが関わっている。その魔道具は罠に干渉する。罠はダンジョンコアによって管理されているんだけど、その位置調整座標に干渉して罠が発生しないようにしている特殊な結界を張るものだ。
天幕を設置し、グレイの作った晩御飯を食べて、ライの寝床(毛布)を敷いて今日の探索は終了となった。アシュレイちゃんが皆に【洗浄】を掛けて汚れを落としたので、私は割り当てられた天幕にて見張りの出番になるまで仮眠を取ることにする。それじゃ、おやすみなさい。




