第34話 レッツダンジョン!! 其の三
「何やってるんだお前ら……。」
「あ~グレイさん~。ずいぶん遅かったですね~。」
「ダンジョンに行く前にお菓子食べるのって主流なの?」
「真顔で言うなよ。そんなわけねぇだろ。」
アシュレイちゃんが用意したお菓子を食べていると呆れた顔のグレイとクリス君が合流する。そしてアシュレイちゃんってやっぱり常識人に見せかけた狂人説が浮上。これから命を懸けてダンジョンに行くんですよね? と聞いてみたい。
真面目な表情に切り替えたグレイが手を叩く。
「うし、ほらさっさと行くぞー。三日くらいで攻略するつもりなんだからなー。」
「いやそれは流石に無理では?」
普通に考えて三日は無理でしょう。ダンジョン内の総面積がどれだけあると思ってるんだこいつ。しかしながら胡乱げな視線をしていたのは私だけだった。
「んふっふ、私も張り切っちゃいますね~。」
「えぇ、えぇ。それでは気合を入れていきましょう。」
「じゃ、行こ。僕も準備は出来てるよ。」
にっこり笑いながら長杖型戦棍を握り締めるアシュレイ、杖を剣のように軽く振るカプアさん、鞄を背負ったクリス君。三者三様に答える。えっ、どういうこと? 分かってないの私だけ? 説明を求めてグレイを見ると、グレイはニヤリと笑って教えてくれた。
「なぁリナ。お前の空間収納って、竜車も入るよな?」
「……あっ。」
地下拡張型迷宮『カトリーナ』。その入り口は冒険者ギルドと王国騎士団によって管理されており、さらに蓋をするように結界魔法で覆われている。その近くに馬車や竜車、騎乗獣用の獣舎が存在しており、ダンジョンを訪れる一部の者はそこに従魔や、騎獣を預けることが出来る。ダンジョン内に騎獣を連れていくものはいない。何故ならダンジョン1階層の通路は狭く、横幅は人三人分ほどしかないからだ。
しかし、10階層以下からは勝手が違う。洞窟の様だった1~9階層とはことなり、10階層からは古代遺跡のような内装となり、横幅も高さも5倍以上になるのだ。つまりは。
「竜車を仕舞ってライが通れるなら下の階層で竜車に乗れるって訳さ。」
「…盲点だった。理論的に考えれば確かに可能だわ。」
「まあ普通はそこまで空間収納の容量はないのですけどね~。」
「流石人外。」
「風評被害ィ……。」
入口の前で竜車を仕舞う私に軽口を叩く仲間たち。それよりも私は周囲からの視線が怖いんですけど? めちゃめちゃ見られてるじゃない。
「そう言えば陣形はどうするのです? いつものように私が先導しますか?」
「うん? ああ、今回は俺が最速で行く。道案内は頼む。」
「了解しました。ではグレイを先頭に、私、クリス、ライ、アシュレイ嬢、リナ嬢の並びで行きましょう。」
「おっけー。私が殿ねー。後ろに魔法ぶっ放すのはアリ?」
「ダンジョンが壊れないならいいぞ。」
簡単なミーティングを終えて私たちはダンジョン内に飛び込む。ダンジョンの入り口は大穴。1~9階層まではこの抜け穴を通って降りていく。出るときはどうするのかって? そりゃあ先人たちが用意したロープをよじ登るに決まってるじゃない。このロープ、騎士団がしっかりと管理しているらしいよ。ロープを切って囮を階層に取り残す事故が時々起こるらしいけど。おぉ怖い怖い。
まぁ私たちはジャンプすれば脱出できるけど。だって高さが2ⅿとちょっとくらいなんだもん。ジャンプで届くでしょ。
さて、この面子での戦闘はほぼ初めてとも言っていい。折角だから初戦闘は気を引き締めていきたい。初陣こそ派手にしたいものね。そう思っていた時期が私にもありました。
さっきのミーティングの時点で気付くべきだった。先頭にグレイを配置。そして最速で行くということはどういうことか? 答えはこういうことだ。
「右から3体来ますね。」
「分かった。」
カプアさんが魔物の接近を察知して警告する。グレイがそれに応じ、駆け抜けながらその手に極炎を灯した腕を軽く振る。それだけで近づいて来ていた犬型の魔物たちが一瞬で融ける。燃えたとかではなく融けた。はい、正面から人型の小鬼? のような魔物が来ます。グレイは掌を前に突き出しそこから白い炎が凄まじい速さで飛んで行き、小鬼を一瞬で焼き尽くす。おや残ったのは灰だけですね? そっと後ろを振り返れば灰、灰、灰………。
「もしかして《遺灰》って……。」
「もしかしなくてもグレイさんの所為ね~。」
前を走るアシュレイちゃんが振り返らずに教えてくれる。
「私たちがパーティーを組んでいるのはちょっとした事情があるのだけど~、その事情がグレイさんに関わっているのよ~。グレイさんが《灰の王》って呼ばれるようになってから組んだパーティーでもあるのよ~? だからそれにちなんで名前を付けたのよ~。」
曰く、グレイが戦った後には灰しか残らないことから《灰の王》と呼ばれるようになったのだとか。数年前にあった魔物のスタンピードでグレイが対処した区では焼け野原に灰が降り積もり、冬のような光景が見られただとか、近くで共闘していたカプアさんとアシュレイちゃんも同類のように扱われたとか。
「やっぱグレイも大概おかしいじゃん……。」
「うっせーぞ後ろォ!!」
戦闘を駆け抜けるグレイから怒号が飛んでくるが、アシュレイちゃんは無視である。うん。やっぱりこの人たちみんな頭おかしいのでは?
11階層以下は横幅に余裕が出来るため竜車を出し、そこに乗り込む。御者席にカプアさんとクリス君、竜車の中にグレイとアシュレイちゃん。私は竜車の上に陣取る。
「それでは皆さん、準備は良いですか?」
「大丈夫よ~。」
「問題ないです。」
「いいぞ。」
「いけるよ。」
カプアさんが最終確認をして、全員の用意が整った段階で竜車が出発する。
「ライ君超元気じゃん。やっぱり駆竜は走るの好きだからかな?」
「そうなのか?」
私のつぶやきが聞こえてたのか、竜車の右窓から身を乗り出したグレイが聞いてきた。まだしばらく暇だから少し説明でもしようか。
「駆竜種って基本的に馬みたいなもんなんだよね。主食もそうだけど性質もかなり近いんだ。ただ、馬よりタフで運動量が多い方がストレスを感じないみたい。」
「ほーん。そうなのか。」
「あんまり調べてない感じなの? 世話をしていたら分かりそうだけど。」
「ライに竜車を牽かせるようになったのって2年前からだからなぁ。」
「なるほど? あと私いつの間にか成り行きで竜車の上に配置されたんだけど。」
「魔法で遠隔攻撃担当で。」
「普通突入前に一言あるべきでは?」
「いいから手伝えーーー!!!」
クリス君の絶叫が響いた。それはそうとダンジョン攻略のための人員配置って実はついさっき、竜車を空間収納から出したときに初めて聞いたんだよね。グレイよ、前もって言ってくれても良くない? 私が言われたのって何処に配置されてもいいように準備してくれ、だからね? 雑すぎでしょ酷くない? 竜車を発見して追いかけて来た蜥蜴の魔物を凍らせつつ辺りを見渡す。うーん、10階層より魔物の量がおおいですねー。横道から接近してきた浮遊する魔法石がアシュレイちゃんの風魔法【小竜巻】で吹き飛ばされるのを見つつ前方の索敵を行う。あら、前方に小悪魔の群れが……。
ところで今私たちがいる竜車って、アシュレイちゃんによって結界が張られているんだよね。前方の方面、両側面限定で張られているし、隙間が開いているからそこから魔法やら矢やら飛ばしているけど。あ、御者席ではさっきから奮闘しているクリス君が弓を構えて仁王立ちしてます。魔法を矢に付与して狙撃している。風の魔法で威力と精度を上げたり、光魔法で光の矢を作って撃ったり、割と忙しそうである。アシュレイちゃんがバフしたり、付与魔法を使ったりとアシストしてるからスムーズに魔物の撃退が出来てるんだけどね。っていうかあれ、他人の身体能力上げてない? 属性付与の魔法はともかく、能力向上って能力強化よりヤバいことしてるんだけど。【強化】系の魔法は普通に魔力で特定の能力にブーストするんだけど、【向上】系はそれに加えて継続時間が長いのと素の性能が少し上がりやすくなるっていう効果なんだよねー。普通に上位互換です。
ここで大事なのは「駆竜が牽く竜車」が「結界で守られている」ことなんだよ。分かりやすく言うと竜車を牽くライにも結界が張られているということだ。そしてライの速度は少なくとも時速50㎞はある。さて、
Q,時速50㎞の車が人の子供くらいの体型の小悪魔とぶつかったらどうなりますか?
A,ただの交通事故。
ああ、非情かな。ぶつかるならばとライはさらに加速する。それは最早タックルというか突撃というか、撥ね飛ばすという立派な攻撃だ。しかもアシュレイちゃんがしっかりとライに脚力向上を掛ける。憐れなインプは空中を舞い、しっかりとクリス君にとどめを刺されるのだった。……今しれっとぶっ飛ばされた敵の喉に当ててなかった? あれれクリス君凄くない? 私も出来るけど。出来るけど!
さて、私もバンバン魔法を………。…………。………………。
「………ねぇ! グレイ!」
「何だ! 何かあったのか!」
「これ絶対普通の攻略方法じゃないよね!? もっと地に足着けて戦ったりしないの!?」
「効率優先だ!!」
効率うぅぅぅー――――!!!! いやまぁそうだけど!! 確かに突っ切った方が速いのは分かるけどぉー!!! 私はもっと普通のダンジョン攻略がしたかったよ!!
「効率優先だ!」(竜車に左手で掴まり右手で火をぶっ放しながら)
「グレイってこんなキャラだっけ……」




