第33話 レッツダンジョン!! 其の二
カプアさんは駆竜のライと一緒に王都の外に行って馬車(竜車?)の準備をして、グレイはクリス君と一緒にギルドでダンジョンに出発することを伝えに行ったので、私とアシュレイちゃんが一緒に王都の関門まで行く予定だった。しかしながら宿の前でアシュレイちゃんの装備…予備の戦棍の調整が終わらなかったらしく、今日出発前に受け取るらしい。
「本当にごめんなさいね~。これでも腕が良くて仕事の早い職人さんにお願いしたのだけれど~。」
「いやいや、大丈夫だって。流石に門までの道は分かってるし王都で絡まれることなんてないっしょ。」
「それならいいのだけれど~……。」
心の底から申し訳なさそうな顔をしたアシュレイちゃんに心配されるが、ぶっちゃけ【道標】を使えば門に着くのは簡単なのだ。道に迷うことはない。それにこんな朝っぱらから絡んでくるような暇人はそうそういないでしょ。
それでも心配そうにしているアシュレイちゃんに早く受け取って合流すればよくない? と告げれば、納得した様子でいくつかの魔法を発動させ、とても素早く鍛冶屋まで駆けていった。…えぇ……。あれいくつ魔法でアシストしてるのさ……。
あんなに心配してくれる優しいアシュレイちゃんも大概おかしいな、と現実逃避しながら王都をてくてく歩いていく。宿から関門までの道のりはそこまであるわけじゃない。しかしカプアさんが竜車とともに先行したのは朝の関門は非常に混み合うからだ。
門が見えてきた段階で思わず苦笑いが出た。人、人、人、人……。人だらけの長蛇の列…。あー、これどこかで見たことある奴だー。……通勤ラッシュ……。うん。忘れよう。しかし存外に冒険者以外の人も列に加わっている。王都は全体をぐるっと城壁で囲んでいる。一般市民は基本城壁の中で一日を終えるものだが、外に出る人もかなり多いようだ。冒険者や商人のように見えない人たちは何をしに行くのだろうか。
そんな長蛇の列に加わり、ぼんやりしていると視界に影が差す。私の周囲に誰かが集まってきたようだ。見上げてみるとニヤニヤした3人の男たちがいる。武装しているから冒険者の様なのだが……。え…? なんで私を見てそんなにニヤついてるの?
「よう嬢ちゃん。随分と良い剣もってるじゃねぇか。」
「は? なに急に? いやまぁ私の刀は確かに業物だけど…。」
「ほー。……折角の業物なのにちっこい嬢ちゃんじゃあもったいねぇよなあ!」
「ハハハッ! ガキはもうちょい練習用の剣でいいだろ! あんまり大人ぶっても剣が可哀そうだなぁ!」
なんだこいつら。つまり私の刀が欲しいと申すか? ええ……? こんな人目のある所で強奪紛いのことするかよ普通……。とはいってもこれからダンジョンに向かう身。無用な喧嘩は止めておくべき……。
「おお! その剣俺に譲ってくれるたぁ剛毅じゃねぇか!」
「は?」
「ハハハ! ついてるなぁお前! 良かったな!」
「いや私そんなこと言ってな」
「じゃあその剣貰おうかねぇ!」
私の正面にいた男が躊躇なく刀をもぎ取ろうとしてくる。その手を片手で払い、三人の包囲網から離れようとし、思わず動きを止めてしまう。その隙に男たちは包囲網を縮めてくる。
「おいおい、逃げようとしてんじゃねぇよ?」
「全く、無駄な抵抗をしやがって……?」
そして男たちもそれに気付いたようだ。私の視線の先……王都の大通りを土煙を上げながら笑顔で爆走して来る女性に。
「「「「ひえっ。」」」」
奇しくも私と男たちの声が重なる。笑顔で駆けてくる女性、アシュレイちゃんは笑顔である。例えその身に纏うオーラが怒気であっても、表情は笑顔である。もう一度言おう。表情は笑顔である。
「なぁにあれぇ……。」
「お、おいっ! あれって……。」
「ひっ! ま、【笑い鬼】じゃねぇか!?」
男たちが慌てて私の前から離れて逃げようとするも、【笑い鬼】ことアシュレイちゃんは掻き消え、私の横…男たちの目の前に転移してくる。おまわず硬直した私を見て、すぐさま私の身体をぺたぺた触り出す。
「リナちゃん! 怪我はない!?」
「ひょえ…。……あっ、怪我してない! 怪我してないから!?」
「ちょっと待ってね? 今すぐそこのおじさんたちをやっつけるからね?」
「ちょっ?! まっ…!」
「うふふ……覚悟して、くださいね…!」
「「「ひいぃぃ!!!」」」
「平和的手段―――!!! あんたらも逃げろー!?」
手に持った戦棍を力一杯振り上げて殴打しようとするアシュレイちゃんを後ろから羽交い絞めして止めつつ、関門の前で戦闘になるのを阻止する。私の叫びに反応したおっさんズは脱兎のごとく逃げ出し、逃がすものかと追いかけようとするアシュレイちゃん。私はなんとか説得して止めようと努力する。いやマジで朝から問題起こさないでー!!!
「ふっくく……、それでずっとアシュレイが不機嫌なのですか。」
「いや笑い事じゃないんですけどー?」
騒ぎを聞きつけてやって来たカプアさんが見たのは、むすっとしたまま私の頭を撫で続けるアシュレイちゃんだった。撫でられている私が非常に不服な顔していたらしく、見た途端に噴き出していた。発作の様に小さく笑い出すカプアさんに事情を説明したらさらに笑われた。そしてその間アシュレイちゃんはずっと私の頭を撫で続けていた。
「それでアシュレイ嬢、いつまでそうしているのですか?」
じっとカプアさんにアイコンタクトで助けて! と救難信号を出していたらやっと助けてくれた。アシュレイちゃん、もう5分くらい頭を撫でてるからね。しかも門の目の前で。通行人が微笑ましそうに見てくるのが割とキツイ。私なんでこんなに辱められてるんですか???
「これからダンジョンに向かうのですからさっさと門を通りましょう? ほら、リナ嬢を解放なさい。」
「……まだグレイもクリス君も来てないですよね~。それじゃあその間にさっきのおじさんたちを狩りに行ってきますね~。」
「お止めなさい。」
「へいストップ?」
思わず真顔になった。やべぇ、このままアシュレイちゃんを野に解き放ってはならねぇ……!! 即座にカプアさんとアイコンタクト。
「アシュレイちゃんアシュレイちゃん。竜車行こう。そこなら私も座ってられるし。」
「そうですね。ライもリナ嬢に慣れる必要がありますし、竜車に行きましょう。」
「う~ん、それじゃあそうしましょうか~。」
ほっ、と弛緩した空気が私とカプアさんの間に流れたのもつかの間、アシュレイちゃんは「顔はちゃ~んと覚えましたしね~」と笑って言った。思わず顔が引き攣った。すまん名前も知らない暴漢たち。君らをアシュレイちゃんが制裁するルートは確定したようだ……!!
そっと心の中で暴漢たちに黙禱を捧げつつ、関門を通って王都の外に出る。ライと竜車は王都を囲む城壁沿いに置いてきたということで城壁に沿って移動していく。そこまで離れてはいなかったのですぐに合流できた。ということでまずは挨拶から。
「へーいライ君元気―?」
「キュウウゥゥゥ………。」
「待ってガチビビりじゃない。ちょっと涙目にならないでよ私何もしてないって。」
一応魔力を抑えて、漏れ出る魔力の波長も変えてみたんだけどあまり効果がなかったようだ。ライ君と眼があった瞬間怯えられた。流石に傷つくんですが…。
これからも結構な頻度で顔を合わせるであろうライに、ここまでビビられるとこれからの仕事に支障をきたす。どうにかして仲良くならねば……!
作戦1。美味しい食べ物で手懐ける。
「ほうら美味しい果物だよー。」
「……。」
空間収納の中にあったもぎたての正体不明な林檎みたいな果物を出す。これ本当によく分からないんだよね。なんかいつの間にか空間収納に仕舞ってあるし、こんなの採集した記憶が無いんだけど。一応食べたことあるけど凄く美味しかった。これならいけるでしょう、とその果物を手に載せて顔に近づけると、殺される!! みたいな目で見られた。そっと器を出してそれに入れて地面に置いてみた。後ずさりで逃げられた。
「これもダメか……。」
さて困った。力を見せつけても無意味だし…。万策尽きたか? 一個目だけど。
「おやあの果実……。」
「林檎みたいね~。あれがどうかしたの~?」
「あれは知識の実では?」
「うっそでしょ。」
何か後ろから不吉な言葉が聞こえた気がするが無視する。う~ん、侮られることはよくあるし、ビビられるのもよくあるんだけど、ビビってる相手と仲良くなったことってないもんなぁ。どういうアプローチが正しいのか分からない。……もう面倒だから竜の言葉で話すか? 出来る出来ないで言えば出来るしなぁ。しかしなんて言えば仲良くなれるのだろうか?
「………あ。」
あったわ。最強の一言。いや、しかし、うん。状況証拠だし? つ、使えるのかなぁこれ? よっしゃ分からないなら話して調べるか。
『へいへーい。ライ君聞こえてるぅ?』
『ひいぃぃぃ!?!?!????? 喋ったああぁぁぁ!?!?!?!???!!!』
傍目には私がぎゅあぎゅあ言い始めた割と頭のオカシイ状況だけど、私の言葉はちゃんとライに届いたらしい。ものすっごく驚かれたけど。
『ライ君はご両親の魔力って感じたことある―?』
『ひうっ! あ、あります! お父ちゃんのもお母ちゃんのも! ……え、この後殺される…!? ひ、一口で食べられちゃう!?』
殺さないです。あと食べたりもしない。私を何だと思ってるんだ。
『君のお父さんの魔力ってこんな感じじゃない?』
ビビってるライの胴体に手を当て、私の記憶にあるその魔力を真似て流してみる。
『あっ! お父ちゃんのまりょくみたいで……。えぇ!? ま、まさかお父ちゃんも食べられた!?』
「違うわ!?」
速攻で否定した。風評被害も甚だしいな!? 流石に食ってないしあいつはただの眷属だっての!?
「あわわ、リナちゃんが荒ぶってる……。」
「ふむ、昔聞いたことがあるような発音でしたね……。竜の言葉、でしょうか。」
「えぇ!?」
外野が騒ぎ出した気がするが放置する。それよりも今すぐにライの勘違いを正さないと!
『お、お父ちゃんも食べられるだなんて……! し、死んじゃうっ! 食べられちゃう!?』
『だああぁぁ!! 食わないし殺さないし殺しても無いわ!!』
『ひぐっ!?』
なんか変な声で鳴いてるけどガン無視じゃあ!!
『私は君のお父さんを知ってるの!! ついでにお父さんを従えてる!!』
『うええええええええええええ!?!?! おとうちゃん生きてるの!?!』
『そこから!?』
ええい! 念話を繋いでやらぁ!!
『いるか!? 虹蜺!!』
『はっ! お呼びでしょうか!』
『あっ!? おとうちゃんの声だ!』
『はっ???』
『後は任せた。』
『ちょっ』
『おとうちゃーん!!』
はい。うん。分かってる。どういうことかって話だよね。いや実はね、カプアさんがライ君を幼体で拾ったと聞いたとき、真っ先に思い出したことがあったんですよ。ちょうど20年くらい前に虹蜺に子供が出来てたよな、と。
アストラルの記憶なんだけど、ある日虹蜺から念話が飛んできて、たまたま見つけた竜がすごく好みで一目惚れしてしまったと報告を受けたんだ。それで私は生態系に影響が出ないなら別に問題ないよ、と言ったんだ。その後虹蜺から駆竜の子供が出来たと報告されて戸惑ったことがある。最終的に中途半端に子育てを放棄せざるを得ない状況になったとは聞いた。具体的には飢饉。餌が少なくなると駆竜は食べ物を雌と子供に譲る習性があり、飢饉になると高確率で雄は死ぬ。それで駆竜に化けていた虹蜺は飢えて死んだ演技までしてから私の下に戻って来ていた。
さて、駆竜、親のいない幼体と来てまさかとは思っていたが本当に子供だったとは。そっと虹蜺に念話でライ君が私に怯えないように言っておくよう指示する。さて、これでライが私に怯えることはないでしょう!
「おや、終わったようですね。」
「ライ君も落ち着いてきましたね~。それじゃあ…リナちゃんお菓子食べましょ~。」
「いや……え? 何してるんですか????」
後ろを振り向いたらピクニックシートらしきものを敷いてその上でお菓子を用意し始めたアシュレイちゃんがいた。は??? これからダンジョン……。………。………………。
じょうしきってなんだろうね(現実逃避)。
「《遺灰》の面子はクリス君以外頭がおかしい。」
「頑張れクリス君! 負けるなクリス君!」 「彼の胃に安泰は来るのか!?」
「次回! クリス、胃潰瘍になる!」 「次週をお楽しみに!!」
「勿論嘘です。」




