第31話 天を仰いで
「ま、間に合った…。」
「あ、今回は前半と後半で視点が違います。」
イスム・ビシューはアールハイド王国王都アアルのギルドマスターである。出身はマナリア公国であり、名のある生まれでもないにも関わらず、実力でギルドマスターという地位まで登り詰めた人物である。そんな傑物である彼であるが、彼の目から見てもその人物は間違いなく化け物であった。
「―――とまぁ、私の試験で合格者は居ませんでした。…いやぁ、まさか最後まで私が隠していた魔法に気付かないとはねー。」
「ありゃ仕方ねぇよ。俺だって最初は気付かないくらい隠蔽してたじゃねぇかよ。」
「でも気付いたんでしょ。」
「まぁあからさまに怪しかったしなぁ。」
(多重の魔法陣を同時設置、それらすべてを隠蔽、さらに魔法陣を使わない魔法を起動する直前の状態で維持。そしてそれだけのことを当たり前の様に完璧に制御していた…。)
化け物のような実力を持つ少女がいる。その噂を聞いたとき、初めは疑心暗鬼だった。未知な魔物の生態に関する情報を持ち、馬鹿みたいな規模と火力の魔法を扱い、近距離にも対応できる。そんなことが出来るものが人類にいるのか? 一人で出来る訳が無いだろう? そう思っていた。しかし、実際にこの目で見てみると噂は決して誇張ではなかった。というか噂以上の実力だった。
通常、魔法陣を作るには触媒を用いることが多い。その為か、冒険者が使う魔法は詠唱系の魔法が主流で、魔法陣を使う魔法は敬遠される。しかし、化け物の様な少女…リナは魔法陣を自身の魔力のみで創り上げた。なるほど、確かに効率的であり、実に理にかなった方法だ。それが異常な難易度でなければ、であるが。魔法陣を己の魔力だけで創り上げるというのは、自分の血液だけで絵を描くのと同じくらい難しい。小さな絵なら自身の血のみで描けることもあるだろう。しかし、訓練場のコロシアム一帯に魔法陣を張り巡らせるという行為は、自身の血のみで地上絵を描くに等しいことであり、一般の冒険者がリナと同じことをすればあっという間に魔力が尽きて倒れるだろう。
さらに、魔法陣は精密に描かなくてはならないのだ。それこそミリ単位の誤差で魔法の精度が左右されることなんてザラにある。実際に魔法陣が起動したわけではなかったが、いつでも起動できるようにはなっていたようだった。つまり、書き間違いも、形のブレもなく、完璧な陣を作成したということだ。
(俺も魔法陣を使うことはあるが、あんな芸当は真似できない。というか基礎魔力量が異常な量なのか? ……しかし深淵魔法も使える……。やはり、【龍の楽園】からきた人物か。)
リナの試験内容は3つのテストによって構成されていた。一つ目、リナが試験官であると認識し、その実力をどの程度把握できるのか。二つ目、隠された魔法に反応できるのか。三つ目、11番目に隠した召喚魔法から出てくる魔物にどう対処するのか。これらからSランク冒険者への適性を見ていたのだ。正直に言ってイスムですらいつから召喚魔法が準備されていたのか気付けなかった。Aランクの受験者が対応できるとは思えない鬼畜な試験内容である。
ギャーギャーと騒がしいリナたちの様子を見つつ、とある人物のことを思い出す。確か、彼に会い、リナという人物が王都に来ると言った時、明らかにおかしな反応を見せていた。王都にいる始祖人、ギィスが関わりを持とうとする謎の少女……。であれば、始祖人に関わりのある人物であるに違いないだろう。リナの報告を聞きつつ、これから依頼したいことなどを考えて―――
「そういやリナが召喚しようとしてた魔物って何だったんだ?」
「魔導士の土人形。Sランクの魔物で申請してた奴。」
イスムの思考はフリーズした。
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「マジク……? なんて?」
「魔導士の土人形。まだ報告例がなかったから新種登録しておこうかなーって思ったんだけどさ。よく考えたらアレほとんど住処…ダンジョンから出てこないしさー。本当に居るんだってこと証明するためにいい機会だなって…。」
「おいなんだそれ。Aランクの奴らで倒せるのか?」
「無理だと思う。アイツ自分のこと複製するし、馬鹿みたいに魔法連射して来るし、時間かけると最終的に分裂しまくって軍隊みたいになるし。核壊しても修復しちゃうから、核を消し飛ばさないといけないのに核すら増殖するし、身体は異常に頑丈だから物理型のクウハとフェイガルはまず戦力にならない。魔法に対する抵抗力も高いからシャクティも使う魔法によっては無効化されるだろうしね。あとあいつは空飛んで攻撃して来るし、最悪核を飛ばして逃げ出すっていう。」
「なんだそれちょっと戦ってみたいんだが?」
何でそんなにワクワクしてるの? 戦闘民族か???
ギルマスの部屋にて試験について報告してそのまま帰ろうと思っていたら、なぜかいたグレイに色々質問された。大体はまぁ受験者の三人にも話した内容だったけど、やっぱりグレイは気付いていたようだ。
「魔法陣は10個でも掛けていた魔法は10個じゃないとは。とんでもないひっかけ問題じゃねぇか。」
「合格させる気がない試験でしたねぇ……。」
あまりの酷評に思わず苦笑いしつつ、いつの間にかドア前にいた猫人…カプアさんに質問をする。
「何でいるんですか。」
「今更では?」
「いや思わず自然に流すところでしたけれど。今日は各自別行動でしたよね??」
「別行動で試験を見させて頂きましたよ。貴女も気付いていたでしょう?」
「いやまぁそうですけど…。」
あまりにも神出鬼没じゃない? いつ来たか私も分からなかったんですけど? いつの間にかいてびっくりしたんですが? カプアさんがいつ来たのか、そっとグレイにアイコンタクトで聞いてみる。いつの間に来てたわけ? いや、俺もいつの間にかいたことしか分からん。マ~ジ~で~?
「そうだ、その魔導士の土人形ってまだ呼べるか? 一回戦いたいんだが。」
「いいけど…。ギルマスから許可を…ってギルマス?」
なんか固まってる? こう…凝固? したみたいになってるんですが? ええと、声を掛けつつ目の前で手を振ってみる。
「はっ!?」
「あっ、気付いた。」
「おっしゃ。ギルマス、訓練場借りるぞー。」
「え? あ、ああ。許可しよう。」
「行くぞリナ。」
そういってグレイは執務室の窓に行き、窓から訓練場へ飛び降りていく。私も同じように窓から跳躍して訓練場へ。
訓練場は試験が終わった直後であったためか、誰もいない。ああ、Sランク冒険者昇格試験に落ちた三人はギルド職員に追い出されたようだ。誰もいないならまぁ、別に問題にはならないだろう。
剣を構えたグレイを見つつ、準備はいいか聞こうとしてグレイが私服であることを思い出す。
「えっ、グレイそのままで大丈夫? 防具はいらない?」
「一発も当たらなければ問題ねぇな。」
「初見では?」
「いいか? 全部回避すれば損傷無しだ。」
「わぁ見事なフラグ。」
謎に自信満々なグレイを横目で見つつ、私は召喚魔法を起動する。グレイの目の前に光の柱が現れ、その中から異質な魔力を纏い、明らかに防具を付けたずんぐりむっくりな巨人が現れる。それは3mもある巨人であり、金属のような光沢を光らせ、敵対生物を認識次第攻撃を開始する怪物であり、世界のどこかにあるダンジョンにて門番の役割を持つ戦士である。
樽のような体形にちょこんとついた顔には埴輪のような穴の目と口があり、目の前にいるグレイを認識し、魔法を腕に装填し。
「オラアァァ!!!!!!」
『NNGOGAGO!?』
一刀のもとに斬り捨てられた。こう、頭から縦に真っ二つに。
「魔導士の土人形うぅぅぅぅ!!?!?」
『GAGOOGGO!?』
「お、本当に動くぞ。灼くか!」
ズガゴオォン!!!!
『GA…!?』
「ま、魔導士の土人形うぅぅぅぅ!!?!?」
光り輝く灼炎を剣に灯したグレイは、そのまま肩に担いでさらに炎の勢いを強めていく。その炎の輝きの余波で地面が日照りに晒されたようにひび割れた時、魔導士の土人形の核を目掛けて思いっきり剣を振り下ろす。爆炎は地面を抉り溶かし、憐れな魔導士の土人形は一切の抵抗をする前に溶解したのだった……。
「いや火力えっぐ!!!?」
「コイツ、確かに普通のゴーレム種より硬いし、魔法にも抵抗力があるなぁ。よくこんなの見つけたな。俺も戦ったことなかったぞ。」
「オイコラ待てや!! グレイも大概バケモンじゃん!!」
「はっ! 俺は常識を持っているからリナとはちげぇンだよ!」
ドヤ顔で私を見てくるグレイ。腹立つなぁその顔! くっそ、確かに私には常識がないけど、こんな大破壊が出来る怪物に怪物扱いされてたと思うとなんか、こう、お前も同族じゃん!! って叫びたい。
「グレイ。……常識人は訓練場の床を溶かしたりしません。」
「…………。」
「………。」
カプアさんが笑顔で指摘したことにグレイはそっと目を逸らし、何事もなかったかのように私を見て。
「これ元に戻せるか?」
「よく私に常識ないとか言えたよね。」
グレイもやっぱり常識とか捨てていると思うんだ。
「面白かったら高評価お願いします!」




