第30話 辛辣! Sランク昇格試験!
「参加者が全員揃ったので、ちょっと早いけど始めて良いかなー?」
ギルドの訓練場にいる参加者に呼びかけをする。するとフェイガルが驚いたように私を見る。
「待ってくれ。君が今回の試験官なのか!?」
「そうだよ? 自己紹介でもしようか? Sランク昇格試験の試験官、リナです。よろしくね?」
フェイガルの確認に対し軽く答えつつ、自己紹介をする。すると、クウハとシャクティも驚いたように私を見つめる。何と言うかまるで信じ難いものを見たような、鳩が豆鉄砲を食ったような顔に流石に私も疑問に思う。そこまで変なことはしていないと思うのだが?
「あんたがあの賢龍姫? こんなにちっこいのにか?」
「ははは面白いことをいうね喧嘩なら買うぞゴラァ!!」
だから!! 私は!! 小さくない!!!
「ふう…。まぁいいや。それで、準備はいいかな? 始めていいかどうかだけを聞いてるんだけど。」
一切の威圧感を消して受験者たちに質問を。今回の試験はなるべくノンストップで行っていこうと思っているんだ。
「準備は出来ているけどな、試験官だっていう証明は出来るのか? 過去に本物の試験官を探すのが試験だったこともあると聞いているんだが。」
なにそれ初耳ですが。それじゃあフェイガルたちが慎重になるのも頷ける。でも私が試験官なのは事実だしなぁ。……いや。
「やっぱりタイミング良すぎない?」
「…? それはどういう――」
シャクティが質問をする前に、私が感知した人物が空から私目掛けて剣を振り下ろしながら降ってくる。
私も空間収納の刀と持っていた書類を入れ替えて迎撃する。刃と刃が大きな音を立てて激突し、襲撃者……グレイが私から1ⅿほど後ろに着地する。
「よぉしリナ。誰の指示だ?」
「ギルマスでしょ。」
ニヤリと笑いながら聞いてくるグレイに呆れながら即答する。っていうかギルマス二階の窓からこっちを見てるじゃない。そう指摘するとグレイはさらに笑みを深める。
「だよなぁ。お前なら分かるよなぁ。」
「で、グレイさんや。襲撃の理由は?」
「ギルマスが試験を見たいんだと。始めるのは少し待て。」
「それを伝えるのに襲撃する必要なくない?」
「ここまでやっておけば必要なことは分かるだろ。」
「あっれおかしいな…。私試験内容話したっけ……?」
「カプアがそう言ってた。」
えぇ……(困惑)。あの人マジでなんなの………。顔を顰めた私をよそに、受験者たちは気を引き締めたようだ。グレイが言外にコイツが試験官だと言ったことで私がSランク冒険者だと理解したんだろう。そしてグレイはさっさと訓練場の端っこまで歩いて行ってしまう。そして丁度入口にギルマスと数人の職員がやって来た。さてそれじゃあ始めましょうか。
「これより、Sランク昇格試験を開始します!」
そうして私はルールを宣言した。
「試験内容は――――間違い探しだ。」
「現在から5分カウントします。5分経過するまでに間違いを探しなさい。それでは始め!」
受験者、傍観者の困惑をよそに私は右隣にテーブルを作る。その上にあるのは砂時計。五分きっかりで砂の落ちきる時計は既に流れ始めている。
「な、なんの間違いを探せと!?」
「試験内容の詳細を聞きたいです…!」
「ノンノン。それも試験の内なんだよ。これ以上のヒントは与えないよ。」
余裕たっぷりな私に質問をする三人。それでも私は答えない。さてさて、どこまで思考を巡らせて来るのだろうか。実に楽しみである。……ま、彼らを受からせるつもりはないんですけどねっ。
「うっわ、えげつねぇ……。」
私の試験について当たりをつけたのだろう、グレイが思わずといった調子に顔を引き攣らせる。大丈夫だって! ちょっと考えれば分かるって!!
クウハ、フェイガルが必死に訓練場全体を調べる中、シャクティが何かに気付いたように顔を上げる。それは彼女にとって無視できない違和感だったのだろう、動きを止めて思考を巡らせているようだ。
「リナー。バレたんじゃないのか―?」
「外野は黙っていてもらえます―?」
ヤジを飛ばすグレイに文句を言って黙らせつつ、時計を眺める。そして無情にも砂時計の砂は落ちきり刻限であることを告げた。
「はいしゅーりょー。それじゃあ報告してもらおうか。」
後から聞いたが、この時私が浮かべた笑みは悪魔の如き笑顔だったそうだ。
クウハ、フェイガルの二人が『間違い』として私に伝えたのは訓練場の様子だった。武器の配置が普段と違う、訓練場の床が違う、といったものである。そして彼らの報告を聞いたあと、シャクティが私に自分の考えを伝える。それは『試験そのものが偽物である』というもんだった。
「なんだそれは!? そんなのありか!?」
「流石にそれはないんじゃないのか?」
クウハとフェイガルが否定するとシャクティは確信したように顔を上げる。
「ええと、まず試験官が言ったのはルール、でしたよね。それが既に不自然です。」
「ふむ? その心は?」
「試験の内容ではなくルールだけ、なんです。だとしたら試験の内容は間違い探しじゃない。そして、多分ですけど、砂時計で測った時間も5分じゃない。」
真剣におかしなことを言い始めるシャクティ。そんな彼女に私は笑みを深くすることで肯定する。ほかの二人はやはり気付けなかったようで困惑するばかりの様だ。
「かなり複雑な手段で隠蔽されているけど、恐らく時間操作の魔法陣が訓練場全体に描かれている、と思います。そして砂時計にも魔法陣があったのではないでしょうか。それが何の魔法陣かは分かりませんが…。」
「最後にどこが違うのか私達に聞いたのもおかしいです。だって今の形式では私たちはお互いの答えを聞くことが出来る。先に答えた正解と思える答えをそのまま言えるなら、先に答えを言った人が不利になってしまいます。」
「これらを持って、私はこの試験そのものが間違いである、と考えます。」
そう締めくくったシャクティは真剣な眼差しでリナを見つめる。それに対する私の答えは………
「60点。」
―――それではまだ足りない。
「……どういうことですか? まだ足りないとは?」
険しい顔をしてフェイガルは私を問い詰める。難しい顔をして考え込んだシャクティ、訳が分からないという顔をしているのはクウハ。
「うんとねー。試験はちゃんとやっていたんだよ。この訓練場には魔法陣が10個仕掛けてある。そのなかに一つだけ試験についての指示が書いてあったんだ。」
右手の人差し指を立て、指先で円を描いて魔法陣を描く。その魔法陣は【共有】。共有されるメッセージを音声にして流す。
『試験内容を説明します。試験は【伝言ゲーム】。試験官の前で合言葉を言いなさい。合言葉は【Sランクには向いていない】です。』
「「「……は?」」」
「これを言えたら試験合格でーす。でも言えなかったから全員不合格ね? それじゃあお帰り下さーい。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
身振り手振りで『お帰り下さい』とやっていると予想通りクウハとフェイガルが抗議をしてきた。さて、何て言ってくるかな。
「こんなのはどうしようもなくねぇか!? 魔法陣を探すだなんて魔法を使える奴にしか分からねぇじゃねぇか!!」
「そうだ!! それにかなり高度な隠蔽を施していたんだろう!? それじゃあ分からなくても当然ではないのか!?」
「わーさては何も考えてないな?」
「何だと!?」
「はぁ!?」
それじゃあなんでこんな試験をしたかについてお話ししましょうか?
「この試験で私が見たいのは『自分の常識をどれだけ捨てられるか』だもの。Sランクにもなれば全く情報のない魔物と戦うこともある。それこそ魔法を使ってきたり、罠を仕掛けてきたりね。それに対人戦だって考えなきゃ。ただ戦うんじゃなくてこういう痕跡から情報を読み取ることだって必要でしょ? だったらどれだけ柔軟に、臨機応変に動けるかって大切じゃない? 苦手なら苦手なりに情報共有だってすればよくない?」
「……え、まさか……情報の共有をしても良かったと?」
「私ダメって言ったっけ?」
にっこりと笑って言えば、シャクティは顔を引き攣らせる。仮にも試験官が言うのだ。嘘だなんて否定することはできないだろう。というか禁止していると思い込んだのは彼らだ。思い込みって怖いよね~。と軽く言えば三人ともすっごい顔をした。何と言うか、これは食べちゃダメだよと言われていた物を食べている人を見た時の顔というのか…。これ笑っていい奴? 駄目? 試験官だものねー、笑っちゃダメかー。
呆然とする三人を尻目にさっさと後片付け――魔法陣の撤去――を終わらせた私はそのままギルマスの執務室へと向かう。私が受験者に説明している間に戻っていたギルマス達に試験結果を伝えなくてはならないからね。ほとんど説明していたとはいえ、あの二人には色々聞かれそうだ。細かい部分を説明しろとせっつかれるであろうことが憂鬱であるが、反応を見るのは楽しみなんだよなぁ。
少し複雑な気分になりながら私はギルドの中を進んでいくのだった。
「面白かったなら高評価お願いします!!」




