第29話 ドラゴンさんはSランク試験の試験官
「遅くなってすみませんでしたー!!」(スライディング土下座)
私は王都で取った個室の宿の、私に割り当てられた部屋の中で結界を張る。そして空間収納から取り出したベッドの上にダイブする。部屋のベッド? すいませんね自作した物の方が快適なもので…。部屋に張った結界は魔力感知妨害、気配遮断、静音、消臭効果付きのかなり上等なものだ。今はちょっと一人で考えたい気分なんだよね。
状況の整理からやっていこう。昼に王都のギルマスから指名依頼をされた。指名依頼は実質強制参加の指令だ。拒否することは出来ない。依頼されたのは二日後にあるSランク昇格試験の試験官。元々試験官を行うはずだった冒険者が所用で遅れてくることになったらしく、延期の予定だったらしい。しかし、実力不明のSランク冒険者…私がいるからやってみろ、ということらしい。
要するに私の実力を見せろってことよね。さらにSランクに近いAランク冒険者の実力もかなり詳細に測れるだろうって見込みなんじゃないかな。
さて、そうするとどういう試験が適切なのかが気になる所である。一応聞いてみたんだけど、試験の内容は試験官に一任されるらしく、これといった決まりが無いらしい。ただ、試験官自身と直接的な手合わせは禁止されている。これに関してはグレイから聞いた方が速いとのことだった。……多分だけど、グレイが試験官をやった時に手合わせで瞬殺したとかじゃないだろうか。ギルマスの前でものすっごい不服そうな顔をしていたし、カプアさんとアシュレイちゃんが納得してたし。
あ、試験官は毎回Sランク冒険者を呼んで行っているらしい。でも、Sランク冒険者は基本的に自由人であり、連絡が取れることの方が少ない。連絡の取れるグレイの方がSランク冒険者としてはいじょ………ごほん、珍しい部類に入るのだとか。
そもそもの話、Sランク昇格試験は人工の英雄を作るシステムだと考えていい。Sランクへの昇格方法は基本的に「偉業を達成すること」である。私みたいに情報を提供するほかに、大量の魔物を撃破する、戦争で功績を上げる、魔王戦で大きく貢献する、危険地帯を踏破する、といった具合だ。しかし、平和な世の中が続けば偉業を為すことは難しくなる。危険地帯に行くのだってSランクなら許されるのであって、Aランクじゃ許可が下りない。まぁ下手なAランクが危険な魔物に手を出してそいつが活性化しても困るわけだしね。いらんことすんなって話よ。
そんな事情がありつつもSランクはギルドの顔でもあるのだ。一人もいない、ではギルドが困る。ジレンマを抱えたギルド上部は、人工的に試練を生み出すことを考えた。それがSランク昇格試験だ。
うーん、私の実力を見せつつ、Aランクの子たちの実力が推し量れる試験ねぇ。なんとなーくプランはあるんだけどなぁ。
一つは模擬戦に近い形式でやること。もう一つは実地試験的な何か。しかしながら実地試験は準備時間的に厳しいと言わざるを得ない。そもそも試験官だって準備があるのだ。実地試験となれば装備、道具、食料といったものの他に、特殊な場所…瘴気が蔓延している…とかだったらそこを攻略するための準備だって必要だろう。
詰まるところ模擬戦の様に訓練場を使うのがベスト。元々の試験もギルドの訓練場を使う予定だったらしいし、私もそうするべきだろう。だとすれば……。
あらかたの試験の方向性を固め終わり、結界を解除すると窓から夕焼けが見えた…。待ってもうこんな時間!? あっヤバい! 九の鐘が鳴ってる! ってことは18時か!?
慌てて部屋から出て、一階のレストランへ向かう。かなりいい宿らしくて、ここの食事は豪華だとグレイが言っていた。そしてパーティーの親睦を深めるために九の鐘が鳴ったら宴会でもしよう、ということになっていた。発案はアシュレイちゃん。
レストランに入って皆を探すと奥の個室テーブルに案内される。
「遅れた! ごめん!」
「よっしやっと来たな。」
「はぁ~い。それでは~新しい仲間に乾杯しましょ~。」
よっしゃ間に合った! 取り敢えずカンパーイ! え、遅れた理由? あっははは、ちょっと考え事を。
「試験内容ですか。実戦に近い状況を整えてみてはいかがでしょうか?」
「わぁびっくりしたー。え本当に思考を呼んでるわけじゃないの??」
「カプアはそういう奴だからなー。」
「カプアさんってほぼSランクなのにな…。」
「カプアさんはねぇ~、長生きしてるから分かっちゃうのよね~。」
「ふふふ……。年の功、ですよ。」
えぇ……? 年の功だけじゃないでしょ絶対。スキルの補正入ってるよ…。
「で、アンタはどうするつもりなんだよ。二日後とか正気じゃないぞ。」
葡萄の果汁を飲みながらクリス君が聞いてくる。私は同じく葡萄ジュースの入った私用のグラスを弄びながら答える。
「まあ、明日準備すればいけそう、かなぁ。ただ、どうしても突貫工事感が否めないんだよねぇ。」
「貴女も大概おかしいことを言いますよね。」
「腐ってもSランクか……。」
「えっ、今の流れでおかしい所なんてなくない?」
「まぁお前ならできるよな。」
同意してくれたのはグレイだけで、他の面子は苦笑に近い表情だ。そんなに異常だろうか。
「でもカプアさんも出来そうじゃない? 試験官代理。」
「「「それはそう。」」」
「おやおや、この老骨にそこまでの働きを求めますか。」
「カプアさん駄目よ~? この前最前線で大暴れしてたじゃな~い。」
「老骨とかいってもまだまだ現役でしょ。一人でオーガの群れを殲滅してたじゃないか。」
え、何それ凄い。
「カプアはSランクへの昇格を蹴ってるからな。王都のギルマスも頭を抱えてやがるぞ。」
「年寄りが上に居ても意味がないでしょう。」
カプアさんはワインを呷って不敵に笑う。……いやぁ本当にかっこいい御爺様ですこと。ここまで強者ムーブを保てるのは尊敬しますわ……。
「ってかなぜ私にワインじゃなくてジュース? 私だって酒は呑めるが?」
「外面を考えた結果、満場一致だったな。」
「ここはジュースも美味しいんだぞ?」
「見た目が子供ですからね。仕方ないと諦めてください。」
「おねーさん的には~、ワインじゃなくてジュースの方がいいと思うの~。」
酷くね? 私の扱いクリス君と同等じゃない。
はい、おはようございます。昇格試験の日がやって参りました。宴会したとはいえど、睡眠をとらなくてもいい身体、二徹して準備をしてやりましたよコンチクショウ。よくよく考えたら天界で授業してた時もこんな感じだったわ。だんだん楽しくなってきたあと虚無になるんだよなー。
四の鐘が鳴る前にギルドに着いて訓練場に行く。最後の仕上げを終えて開始の時間まで待つか。
「さて、一人目かな。」
そうして待っていると一人目が入ってくる。魔法使い風の人族の少女…ぱっちりと開いた黒い瞳は大人しそうな雰囲気を持ちつつも意志の強そうな眼だ。魔女のような帽子の下には黒い長髪が覗く。装備はローブに革製の軽鎧かな。手には長杖、腰には大振りなナイフと予備の武器らしき短杖を吊るしたホルスターがある。
「……Sランク試験を受けに来ました。試験官はあなたでしょうか。」
「そだよー。お名前をどうぞ? 出席確認ってことで記録してるから。」
「シャクティ・ブランです。よろしくお願いします。」
「シャクティちゃんねー。試験は四の鐘が鳴ったら始めるよ。」
ぺこりと一礼をした彼女はそのまま訓練場の隅まで歩いていく。うーん、かなり控えめなのかな。
待ち時間が暇だったので魔法で火球を作ってぐるぐる回していると二人目がやってくる。
「……ん? 昇格試験の試験官ってあんたか?」
かなりごっつくてマッチョな牛人族の男が話しかけてくる。ホルスタイン柄の。物凄いゴリマッチョな二足歩行するホルスタインの男がにこやかに話しかける。肩にでっかい大剣を担ぎながら。しかも装備はほぼ着ていない。まるで闘技場の剣闘士のような鎧だ。マントを着ていたらスパルタの戦士のようだ。ホルスタイン柄だけど。笑わなかった私を褒めて!
「初めまして? 自己紹介は全員来てからですが、お名前をどうぞ? 誰が来ているか把握したいので。」
「おう。クウハだ。よろしくな!」
クウハさんは挨拶をした後、まだ開始まで時間があると聞くと壁際に座って大剣のチェックを始めた。見た目によらず、マメな性格の様だ。
さて、この昇格試験にエントリーしているのはあと一人、か。
「うわ、俺が最後だったか。」
そういいながら訓練場に足を踏み入れるのは戦士風な人族の青年。くすんだ金髪で、目を引くのは燃えるようなその右目だろうか。左目は茶色だ。オッドアイ、いや魔眼かな。使い込まれただろう一振りの長剣を腰に下げている。待った、あれ魔剣か? あっれ、君どっかの主人公ですか???
「あー、ラストの参加者かな。一応名前だけ確認していいかな?」
「ああ、Sランク昇格試験の参加者、フェイガル・ブレボーだ。」
「おっけー。これで参加者は揃ったね。」
さてと、それじゃあ試験を始めていきますかー。




