第28話 私はSランク冒険者
カランコロンとドアベルの音を鳴らしつつギルドに入る。今がお昼時であるせいか中は閑散としていた。それでも何人かはギルドの中にいる。やはり王都は人が多いんだな。……わぁ一斉にこっちを見て来たよ。これ軽いホラーじゃない?
グレイ達は注目を浴びても動じず受付のカウンターに進んでいく。グレイ達に向くのは賞賛のような、驚愕のような視線だ。クリス君さえも尊敬に近い視線を浴びている。けれど私に向いているのは…観察、疑問、あとは嫉妬? え、何故? いやまぁガン無視するんだけど。あ、受付の人結構美人さんだ。
グレイが受付のおねーさんと何か話している間、暇なので依頼の掲示板でも見ていようか。なんかみんなから離れると絡まれそうだから本当に見るだけだけど。ふむふむ。『戦禍獅子の討伐』、『グランドウルフの群れの討伐』、『土竜の素材募集』……ふーん、初心者用の簡単なのは街のお手伝い系依頼か。さっきの依頼との落差が凄いな。でもメイシアの方がヤバい依頼は多かった気がする。
掲示板を適当に見ているとグレイに声を掛けられた。
「おーいリナー? お前のギルドカードを受付の人に見せろー。」
「はいはーい。」
空間収納から取り出したギルドカードを受付のおねーさんに渡す。…が、おねーさんは受け取る前に顔を引き攣らせて、「少々お待ちください!」といって裏に引っ込んでしまった。
「何故?」
「知らんがな。」 「何故でしょうかね。」 「何でですかね~。」
「え、適当じゃない?」
「当事者じゃなけりゃそんなもんだろ。」
「なんでクリス君はそういう冷たいこと言っちゃうかなぁ!?」
私が嫌いなのか!? 実は嫌いだろう!? ほらお姉さんは怒らないから正直に言ってみな!? 私の何が気に食わないのかな!?
「僕と少ししか背が変わらないのに年上の顔しないでくれる?」
「あれぇ!? 思ってたよりしょぼい理由だった!?」
「お静かになさい二人とも。他の方々に迷惑ですよ。」
ぎゃあぎゃあ騒いでいたらカプアさんに怒られました。はい、反省します…。でもクリス君が睨んでくるので睨み返しますね。あ゛ぁ゛んやんのかゴラァ?
「ひぇ……お、お待たせしました…! ええと、《遺灰》の皆さん全員で執務室までお越しください。ギルドマスターがお待ちです。」
「おう。了解した。ほらそこの馬鹿二人―。睨み合いしてないで行くぞ~。」
ごつんと大きな音が二つ鳴る。クリス君と一緒に殴られました。酷くない? あっちから睨んできたんじゃん!! 私悪くない!! そういう思いを込めた熱い視線をグレイに送る。
しかし現実は厳しいものだった。私の訴えは黙殺されたし、カプアさんからも窘められた。ギルド職員を威圧しないでくださいと黒い笑顔で言われた。……まってやっぱりこの人貴族出身じゃない? あんなに腹黒そうなのは貴族くらいじゃない(ど偏見)?
「私は貴族じゃないですよ?」
「なぜバレたし……。」
「顔に出ていましたから。」
「……マジで?」
「諦めろリナ。この人は表情から考えていることをよく当ててくる。」
……えぇ……? 本当に何なのこの人? ちなみにクリス君はグレイに殴られたのがショックだったようで思い切り固まっていた。はっは―! ざまぁ!!
「………!!!」(責任転嫁したような無言の怒り)
「……♪」(ざまぁという感情をありったけ込めたような嘲笑った視線)
「お前は反省しろ。」
「痛った!?」
「……フン!!」(馬鹿にしたような眼)
こ、こいつ!!!
アホなやり取りを止めて、受付のおねーさんに案内されつつギルドの中を物色する。特に面白そうなものはなさそうだったので、空間収納の中に入れていたメモをチェックしながら歩いていると執務室に着いたらしい。受付のおねーさんが扉を開く。
「ギルドマスター! 《遺灰》の皆さんが到着しました!」
「どうぞ。……ふむ、そちらのお嬢さんが例の《賢龍姫》さんですか。」
執務室の中にいた人族の男――ギルドマスターが書類から顔を上げる。着ているギルドの制服もスーツの様で、仕事ができるリーマンみたいな印象だ。彫りの深い顔立ちに手入れのされた黒髪。その眼は鷹の様に鋭くこちらを見る。今の今まで書類仕事をしていたらしく、羽根ペンとインク壺を片付けながらこちらに尋ねる。
「はいはい、どうも? リナさんですよーっと。」
「お前なぁ…。《遺灰》、召喚に応じて来たぞ。で、それがリナだ。」
「あれもしかして今のタイミングで私が挨拶するべきだった?」
「そうだな。もう関係ないが。」
出オチかな?
「成程。それでは早速ですが――」
「あ、そっちが聞きたいことはここに書いておいたから。これ見てから考えてね?」
「は?」
非常に軽い感じで超重要な情報を書いておいたメモを渡す。怪訝な顔をしつつもメモを受け取るギルマス。何故か片手で顔を覆うグレイ。興味津々なアシュレイちゃんにニコニコと表情を崩さないカプアさんとこちらを睨みつけるクリス君。クリス君…いや本当に君はブレないなぁ!? ……よっしゃ私もニコニコ顔を崩さないでおこう。
あ、メモを読んでいたギルマスの顔がめっちゃ険しくなった。え、こっわ。新人が見たら回れ右して全力で逃げそう。
「………なんだこれは?」
「そういう能力を持っていると思ってくれていいよ~。」
メモに描いてあるのは、私宛にギィスが手紙を出したこと、Sランク冒険者として登録されていることの理由、数十種もの魔物の情報提供の根拠、もといその情報をどうやって入手したのか、【復元】の魔法陣と効果についてと深淵魔法についての情報を持っていることなどを簡単に説明する魔法陣だ。
それは深淵魔法【共有】。感覚や情報を他者と共有する魔法である。この魔法は発動すると共有するものを選ぶことが出来る。今回は渡したい情報を選んで登録、保存した記録として開いて魔法陣を見た相手に伝わる様にした。だから直接渡す必要があったんだ。あ、勿論割と誤魔化した場所とかあるよ。サトリのこととか私の出身とか諸々。ていうかほぼ創った情報だったりする。そしてもう一つの仕掛けもある。
「消えた……!?」
「いやぁ、それは流石に残せないからねぇ。」
一回見られたら消えるようにしておいたのだ。この辺はまた特殊な魔法…てかインクが特殊なやつを使った。開いてから一定時間でインクが消えるようにするのはすごく大変だったらしい。炙り出しとかも出来ないようになっている、【巳】の傑作なんだ。錬金系統の魔法でこんなものも創れるって凄くない?
「……リナ。正直に言え。何をやらかした……!!」
「ひえっ。」
何やら考え込んでいるギルマスをにこやかな笑みを浮かべながら見ていると、外でやったら通報されそうな形相のグレイが肩を揺さぶってきた。ちょっと! その顔でこっち見んな! こわい! 超こわい!!
「た、確かにやらかしたとは思うけど!! まってちゃんと理由があるんだってば!!」
「……なんだ、言い訳を聞いてやろう。」
小声で言い返せば同じく小声で聞き返される。言い訳て。ちゃんとした理由があるんだってば。だから肩を掴んで揺らすな! ガクガクすな! やめろ頭がシェイクされる!!
「……グレイなら、こういうことが出来る出身地不明の怪物を近くに置こうと思う?」
「…これ幸いと囲い込むんじゃないのか?」
「いや? まだやらかしたと私が思ってないと思わせたらいいんだよ?」
「……お前何を見据えた?」
「国家に囲い込まれない様にはしたいかな。」
そういうとグレイは苦虫を噛み潰したような顔をする。理解はしてくれたようだ。多くを語らずとも理解してくれるグレイは流石である。クリス君はきっと分かってくれないだろう。
「……なんか馬鹿にされた気がする。」
「キノセイダヨ。」
あっぶね。バレかけた。もしかして私ってば考えてることが顔に出やすい?
「……ちょうどいいですね。」
うん? ギルマスがなんか言ったような?
「リナ・アストラル。Sランク冒険者の貴女に指名依頼をします。Sランク昇格試験の試験官を担当してください。」
「「「は?」」」
「あらら~?」 「おやおや。」
奇しくも私、グレイ、クリス君がハモり、アシュレイちゃんとカプアさんが楽しそうに声を上げたのだった。
「クリス君の一人称を変更しました。」
「正しくは『僕』に統一しました。」




