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「・・・つまり、場合によっては第五シェルターの様な事故が起きる可能性があると?」
「断言はできませんが、最悪を想定しておくべきでしょう」
第五シェルターの事故というのは、十四年前に起きたシェルター内部でのエピデミックだ。一部スラム化した地区でSウイルスの発症者が発生。その報告を聞いた第五シェルターを統治する軍の大将は発生場所がスラムということもあり対処をハンターギルドに一任した。ギルドも事態を軽く考え黄腕章のハンターを四名派遣するのみだった。ハンターがスラムに到着した時にはそこは発症者で溢れ返っていた。とても四人で対処などできず瞬く間にシェルター内部に発症者が散らばり感染者が増加した。ワクチンで治療するにはその数は余りにも多すぎた。そして、感染者の数が多いということは変異体が発生する確率も上がるということだ。軍は第五シェルター内の発症者の駆逐は不可能と判断すると外部に感染者や変異体を出さないためにシェルター内に閉じ込めた。こうして、日本にある七つのシェルターのうちの一つが無くなった。この事故以来シェルターではスラムの徹底排除と十五歳まで無償での教育を実施し、その後は何かしらの職に就くように定めている。
「五年前の暴動といい碌なことが起きませんね」
供に来ていた軍服の女性がそう言うと赤瀬は苦々しげに親指を噛んだ。祖母からは止めるように言われているが癖というのはなかなか直すことができないものだ。
「私はその頃まだ軍にはいなかったので詳しくは知らないのだが、たしか発症者共生派とかいうカルト集団の暴動だったか?」
「その通りです。主導者は自称研究者の蝿鈴という男ですね。なんでも自分は神の声が聞こえ発症者とは分かり合うことができると風潮していたそうです。捕えた信者からは実際に蝿鈴の言葉に発症者達が従うのを目にしたと言っている者もいますね」
「ハッ!それでシェルターに大量の発症者を引き連れてやってきたわけだ。俺はその場にいたがよ。あいつら全身に血を塗りたくってたぜ。唯の頭がおかしい連中だよ」
長谷田の説明に細谷が吐き捨てるように言った。おそらくその血は感染者のものだろう。それを浴びることで身体からSウイルスの臭いをさせ自分たちが発症者に襲われないようにしていたのではないかと推測されている。
「どいつもこいつも目が逝っちまってた。もちろんあんな狂ったやつら一人もシェルターに入れる訳にはいかねぇからな。全員ぶっ殺す気だったんだがよ」
「事の経緯を調べるためにも皆殺しには出来なかった。ただ、蝿鈴を取り逃したのは痛かったな・・・」
「今回のことに発症者共生派が係わっている可能性もあるかな?」
シェルターに恨みを持つ主導者が捕まっていないという状況で起こった事態だ。様々な可能性を想定しておいた方がいいだろう。
「その可能性は低いと思います。そもそも共生派というのは極少数で、先の暴動の際にそのほとんどが死んだか捕まりましたから。あれ以来、共生派と思わしき者はすぐに軍に報告が来るようにもなっています」
「何にしてもまずは現場を調べる他ないか・・・。それでは軍からは虎の子の機械鎧兵を出そう。念のために下水道への出入り口にも部隊を派遣しておく」
赤瀬の言葉に長谷田が頷くと細谷が立ち上がった。
「ギルド側からは俺だけで十分だろ。そもそも下水道の中は狭いからな。大人数で押しかけて身動き取れませんじゃ話になんねぇぜ」
「ふむ・・・。そういうことで準備をしよう。君、部隊への連絡を頼むよ」
赤瀬の言葉を受け軍服の女性は啓礼すると部屋を出て行った。
「では、私たちは一足早く現場に向かうとするか」
そういうと赤瀬が立ち上がり部屋を出る。その後に長谷田と細谷が続いた。