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ハンターギルドの一室で長谷田は書類に目を通していた。書類にはハンター個人毎の仕事の達成状況などが記されている。ハンターはその階級を七色で分けられており、紫・青・赤・黄・白・黒の腕章がそれぞれ支給される。紫が一番階級が高く、重要な仕事も請け負うことができる。逆に黒は新人で請け負える仕事は落とし物の捜索といった簡単なものだ。仕事の達成状況が勘案され階級は上がっていく。とはいえ、紫や青といった腕章を着けている者はほとんどいない。なので、黄がベテラン、赤はエースと言ってもいいだろう。
今、目を通しているのは黒腕章の新人の書類だった。ハンターになってから一年間の仕事の達成状況を見て特に問題行動などは見受けられない。今回、ベテラン達について下水道の見回りの仕事を請け負っているが、それが終われば白腕章へ昇格をさせようと思ったところでコンコンとドアをノックする音がした。短く「入れ」と返答すると険しい顔をした事務員が入ってきた。
「何があった?」
「帰還予定時刻から二時間経ちましたが、下水道の見回りに行った者達が戻ってきません。赤腕章のハンターも同行しているので不測の事態ではないかと思われます」
長谷田は少し思案すると口を開いた。
「今、ギルドに青腕章以上の者がいれば呼んで来てくれ。あと万一のために軍に連絡を頼む」
その言葉を聞くと事務員は慌ただしく部屋を出て行った。机に広げられた書類に目をやり何事もなければいいがと長谷田は思った。
しばらくして、茶髪の青年がドアを開け放ち入ってきた。腕には青色の腕章が着けられている。その姿を見て長谷田は目頭を押さえ声を絞り出した。
「・・・細谷しかいなかったのか?」
「おい!せっかく来てやったのになんて態度だ!俺が来たことにもっと喜べよ!?」
細谷が抗議を始めると開けっ放しのドアから遅れて事務員が入ってきた。
「すみません。他の方々は出払ってて・・・」
「いや、君のせいじゃない。細谷、暴れるのを止めろ。これから軍の方が来る」
長谷田の言葉に細谷は怪訝そうな表情をした。
「はぁ?軍?俺がいれば必要ないっしょ。変異体が出てもこいつでぶった切って終わりなんすから」
そう言いながら腰にぶら下げた刀を抜くとくるくると回す。通常の刀と違った白い刃が照明を反射しキラリと光る。そして床に落ちた。「やべぇ」と言いながら細谷は床に突き刺さった刀を引き抜こうとしゃがんだところでコンコンと開けっ放しのドアがノックされた。
「入っても問題ないかな?」
そう言って軍服を着た女性が顔を覗かせていた。
「お呼びじゃないぜ」
その細谷の言葉を無視して女性は部屋の中に入る。その後ろを同じく軍服を着た女性が続いた。
「急な連絡でしたが、まさか赤坂中佐が来ていただけるとは」
「ギルド長からの緊急連絡だ。大将もただ事ではないと慌てていたよ。しかし、手が空いていたのが私だけでね。こんな小娘ですまないが話を聞かせてくれ」
長谷田の言葉に赤坂は自分を小娘だと言うが、今の世の中、重要視されるのはその個人の能力だ。この第三シェルターを維持する軍において中佐という地位は決して簡単になれるものではない。
「それでは事の経緯を説明します。細谷も黙って聞いてろよ?」
その言葉にムッとしながらも騒がないことを確認すると長谷田は話し始めた。