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「全員止まれ」

あと少しで死体を入れた袋の場所という所で山口が静止の声を掛ける。

「川崎、ネズミの入った袋を脇に置いとけ」

その言葉に従い袋を壁際に置く。いまいち状況は呑み込めていないが、三人の顔を見て良くないことが起きたということは分かった。

「どうしますか?」

「外に出るにはあそこを通るしかない。それにもしあれが変異体なら放置はできんだろう」

 変異体という言葉に川崎はギョッとした。そして、目を凝らして先を見ると大きな岩の様な影が道を塞いでいるのに気付いた。気付くと同時に全身から汗が吹き出し、呼吸が苦しくなる。

「色々と疑問に思うことはあるがまずは目の前の対処だ。幸いまだ向こうはこっちに気づいてない。川崎は目を閉じて呼吸を整えろ。おそらくあれは“ジャイアント”だ。変異体としては楽な部類だから安心しろ」

山口はそう言いながら自分の装備を確認する。手に持ったアサルトライフルのマガジンがショルダーホルスターに2つ、ヒップホルスターにハンドガンが一丁、そしてレッグホルスターにナイフが一本。横に目をやると斎藤と後藤も装備を確認している。二人の確認が終わるのを待って川崎に声をかける。

「基本的に俺たち三人でジャイアントを始末する。川崎は周囲の警戒と自分の身を守ることだけ考えろ。いいな?」

 頷くのを確認すると銃を構えて歩を進める。川崎との距離が三メートル程空いたところで立ち止まった。真後ろには斎藤と後藤がピッタリと付いて着ている。

「目標まで直線で約十五メートル。ここで仕掛けるぞ」

 二人が頷きアサルトライフルのトリガーに指を掛けた。

「撃て!」

その言葉で三人が一斉に発砲する。絶え間なく続くマズルフラッシュが三人の影を壁に大きく映し出す。銃声が反響し下水道に木霊した。

マガジンが空になり静寂が訪れる。山口は素早くマガジンを交換するとアサルトライフルを構え直す。とはいえ、今までの経験上、幾ら頑丈なジャイアントとはいえ、不意打ちでこれだけの銃弾を浴びせれば動けたとしてもそれは虫の息だ。川崎には刺激の強い体験だったかもしれないがハンターならばいずれは出会う存在、むしろ良い経験になっただろう。さて、ジャイアントの死体をどうしようかと悩んだところで信じられない光景が飛び込んできた。

ジャイアントが立ち上がる。その様はまさに巨人と言っていいだろう。下水道の天井まで3メートルはあるはずなのだが、頭がすれすれになる程の巨体が露わになる。背中に無数の弾丸を浴びたため、動くたびにボタボタと無数の血が地面に落ちた。だが、その傷を気にした様子もなくこちらに顔を向ける。その顔は人間とよく似ているが一切の表情がなくまるで能面のようだ。山口達を確認するとそちらに歩き始めた。

山口の率直な感想は『あり得ない』だった。それはジャイアントが立ち上がったことに対してではなく、正面から見えたジャイアントの体に傷が一切ないことに対してだ。それは弾が貫通していないということだ。だからこそあり得ない。

だが、今はその疑問を押し殺し引き金を引く。

「撃て!撃って撃って撃ちまくれ!」

 再び下水道に閃光と爆音が響き渡る。無数の弾丸がジャイアントに当たる。体に穴が開き血を吹き出しながらもジャイアントの歩みは止まらない。その様子に嫌な汗が背中を伝う。マガジンをリロードし即座に射撃を継続する。ジャイアントはもはや元の姿が分からないほど血まみれになっている。だが、止まらない。

 ジャイアントの歩みよりも先に銃撃が止まる。弾の無くなったアサルトライフルを無造作に地面に放ると山口はハンドガンとナイフを構えた。距離はもはや三メートルもない。

「クソッタレ」

悪態を吐くと山口は自らジャイアントに向け走り出した。丸太の様な腕が横薙ぎに振るわれるが、それを屈んで避けると通り抜け様に足を切りつける。事前の銃撃によって肉が削げていたのか、想定よりもナイフが深く入っていく。骨まで達するかと思ったところでガキリとナイフから不思議な感触が伝わった。

山口は反転しジャイアントに向き直ると同時にナイフを見た。刃先が欠けている。なぜという疑問の前にジャイアントの拳が飛んでくる。どうにか身を捻って躱すと距離をとるために地面を蹴った。斎藤と後藤がジャイアントの背に向け発砲するが、一切意に介さずジャイアントは山口を追う。

山口はその姿に目を見開いた。目の前のジャイアントは相変わらず血まみれだが、よく見れば傷がもう治ってきている。何度目かのあり得ないという思いを飲み込んでハンドガンを構える。アサルトライフルの弾が貫通していないこととナイフの破損状況から考えて、このジャイアントは骨を金属で補強されているのではないかと推測する。その理由は分からないがもしそうだとすれば目を狙うしかない。突っ込んでくるジャイアントの目に狙いを定め引き金を引いた。

 その瞬間、ジャイアントは地面に落ちている自分の血で滑り体制を崩した。放たれた弾丸が虚しく空を切る。

「そりゃないぜ」

体制を崩したジャイアントはそのまま山口に突っ込むと山口を壁に叩きつけた。肺の空気が無理矢理押し出され息が詰まる。地面に倒れた体を起こそうとするが上手く足に力が入らない。倒れたままでいる山口の足をジャイアントが掴むと斎藤達に向かって歩き出した。

「クソッ!ふざけんな!」

ナイフを構えた斎藤にジャイアントが山口をハンマーの様に叩きつけた。肉と肉がぶつかる音が響く。続けざまに山口を振り回し弾かれた後藤が下水に落ちる。

「ああぁああああっぁああああ!」

 その光景に川崎は叫び声を挙げなら銃の引き金を引いた。まともに狙えていないせいで弾丸が散らばり一部が天井の蛍光灯を撃ち抜く。唯でさえ暗い下水道に闇が降りる。マガジンが空になるが手元が見えず交換ができない。何かを引き摺る音が近づいてくる。強い衝撃を体に感じると川崎は気を失った。

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